「なあ、サンジ、頼む! この通り!!」講義が済んだ教室で、エースが、なにやらサンジに頼み事をしている。
エースって言う奴は、昔、家の隣に住んでた幼なじみだってサンジがそう言ってた。
俺達の1つ上の2年生。
でも、凄く気さくな野郎で、全然年上のような気がしない。
4月に、サンジを大学で偶然見かけて以来、ちょくちょくこうして、サンジの元に遊びに来る。
「なっ、1回だけで良いから。 サンジが俺の知り合いだっていったら、女の子達が、
きゃあきゃあ、騒ぐんだ。 頼む! この通り!!」
おい、おい、そんな土下座してまで、頼むことなのか?
事情は、わからんが、あそこまで頼まれて、サンジが断りきれる訳ねえ。
あいつは、友達とかには、情が厚い奴だからな・・・
「・・・わかったよ。 但し、1回きりだかんな。」
「ありがとっvサンジ! 恩に着るぜ!!」
そう言って、エースは、教室から出ていった。
一体、何の頼み事だろう・・・
俺は、サンジの側に行った。
「サンジ、どうしたんだ? 何、エースに頼まれてたんだ?」
「ああ、ゾロ。 実はさ、今度の土曜日、エース、コンパやるんだって。 っで、人数足
りねえから、俺に参加してくれってさ。 土曜日って、家のレストラン、忙しいからっ
て、始め、断ったんだけどさあ、断りきれなくて・・・おい、ゾロ? どうしたんだ、ボー
っとして??」
なに、コンパだと?!
ダメだ!
そんな不純異性交遊の巣窟のようなとこに、俺のサンジを行かせるわけには、いかねえ!
だいたい、コンパの女共の目当ては、どう見てもサンジだろうが。
もし、行くんだったら、絶対、俺も、ついていく!!
「ああ、すまん。 なあ、そのコンパ、俺も一緒に行って良いか?」
俺は、平静を装って、サンジにそう言った。
「ふ〜ん。 珍しいな。 ゾロ、そういうの、嫌いじゃなかったっけ? まっ、女の子に
は、興味有るもんな。 いいぜ。 俺、エースに言っといてやるよ。 ゾロ、これから、
部活だろ? がんばれよな。 うわっ! もうこんな時間! やばい、親父にどやされ
る!! じゃあな、ゾロ!」
サンジは、俺にそう言って、教室を出ていった。
やばい・・・やばすぎる・・・・
俺は、一番、肝心なことを見失っていた。
高校の時ならいざ知らず、大学といえば、コンパのメッカ。
当然、色々な奴と友達になったりするわけで・・・
友達なら、別に何人増えようが、良い。
だが、サンジも、男だ。
コンパとかで、もし、好みの女がいたら、付き合うって事も、充分に考えられる。
そうなったら、俺の出る幕はねえ・・・
俺は、今まで、同性のサンジに対する視線には、充分神経をとがらせていたが、女の視線
には、全く気にしていなかった。
サンジの奴、ナミ以外の女には、見向きもしなかったしな。
まあ、ナミには、ちゃんと彼氏がすぐ側にいたし、気心の知れた仲というか、俺の気持ちも知
ってるし。
そうなると、今度のコンパは、気をつけねえと、どっかの女に、サンジが・・・俺のサンジ
が・・・
その日の部活・・・俺は、いつにも増して、迫力があった・・・らしい。
そして、土曜日の夜。
「サンジ、わりい。 待たせた。」
「遅せえよ、ゾロ。 ほらっ、早く行かねえと、エース、待ってるゾ。」
俺達は、慌てて電車に飛び乗った。
「はあ、はあ。 この電車だと、ぎりぎり、間に合うな。 おっ、ゾロ。 良い格好してん
じゃん。結構、乗り気なんだな。 良いことだ。 お前、剣道ばっかで、全然、女の子
に興味持ってなかったもんな。 今だから言うけど、お前、中学・高校って、結構女の
子から、人気あったんだぜ。 お前、知らなかっただろ?」
サンジは、俺にそう言って、笑った。
人気があったのは、てめえの方だ。
・・・それも、男女問わずときたもんだ。
・・・さすがに、野郎の方は、俺がサンジの側にしょっちゅういたから、ちょっかいかけてくる奴
はいなかったがな・・・
俺、知ってんだぜ、てめえが、何回か、女から告白されてたの。
でも、こいつ、何で、今まで付き合わなかったんだろ?
選り取りみどりだろうに・・・
はっ、まさか・・・
すでに、意中の人がいるなんて事・・・
いや、それはねえな・・・
そんなんだったら、俺にそう言ってるはずだ・・・でも・・・
俺は、急に不安になった。
もし、これからコンパで会う女達の中に、サンジと付き合う奴がいるかも知れねえ。
俺は、それで、良いのか?
このまま、サンジが、誰かと付き合うのを、ずっと、側で見てるのか?
俺は、それに、耐えられるだろうか・・・
もうすぐ、夏休みだ・・・
もし、拒まれても、夏休みの間は、会わなくて済む。
その間に、気持ちの整理すればいいじゃねえか。
別に、家が近い訳じゃない。
言うなら、今しかねえ・・・
俺は、覚悟を決めると、エースが待つ駅の一つ手前で、サンジの手を引っ張って、強引に電
車を降りた。
見知らぬ駅を出て、ただやみくもにドンドンと真っ直ぐに歩いていく。
サンジが、俺の行動に驚いて、何か喋っているが、心臓の音がバクバクしてうるさくて、俺の
耳には届かねえ。
いつのまにか、俺達は、小さな公園に来ていた。
辺りは、真っ暗で、さすがに、誰もいない。
「ゾロって!! おい! 痛てえよ! 聞いてんのか! いい加減にしねえと・・・」
「サンジっ!」
俺は、後ろを振り向いて、いきなり、サンジの身体を抱きしめた。
「!!!!!」
俺の勝手な行動に、いい加減キレそうだったサンジは、今度は、見事に、俺の腕の中で、固
まった。
「・・・いきなり、ごめんな。 でも、言っておかねえと、俺、後悔するの、嫌だから・・・
・・・サンジ、ずっと、お前が好きだった。」
俺は、更にギュッとサンジの身体を抱きしめた。
「・・・ゾロ? ちょっと、待ってくれよ・・・ 何言ってんだ・・・ 俺、男だぞ? からかっ
てるのか? だとしたら、俺、怒るぜ・・・ 取り消せよ、そんな冗談、忘れてやるか
ら。」
サンジはそう言って、俺の腕からするりと抜けると、持っていたタバコに火を付けた。
手が微かに震えてて、動揺しているようだ。
無理もねえな。
野郎から言われて、動揺しねえ奴なんていねえし・・・
でも、俺は、決めたんだ。
もう、自分の気持ちに嘘は付けない。
これ以上、隠してつきあえない。
それで・・・それで、これまでの関係が終わろうとも・・・
「サンジ・・・俺、真剣に、お前のこと、好きなんだ。 お前は、どう思う?
・・・やはり、気持ち悪いか?」
俺は、サンジの腕を掴んで、瞳を真っ直ぐに見て、そう言った。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ・・・いきなり、そんなこと、言われても・・・俺、俺どういっ
て良いのか、わかんねえよ・・・ゾロのこと、そんな風に思ったこと無かったし・・・
俺、凄く、混乱してて・・・ ・・・そんなの、わかんねえよ!!」
サンジは、俺の腕を振りきって、そのまま、走り去った。
「やっぱり・・・か・・・・まあ、こんなことだろうと薄々わかってたんだ。 俺達の関係
も、もう、終わりだよなあ・・・」
俺は、夜空を見上げて、そう呟いた。
しかし、俺に対するサンジの態度は、以前とあまり変わらなかった。
さすがに、二人っきりに、なることは、避けてたようだが・・・
それでも、無視されて、相手にされなくなるよりは、全然マシだ。
サンジは、優しいから、俺に気を使ってるんだろうな。
ごめんな、サンジ。
お前に言わなきゃ良かった・・・
そのままの状態で、大学は、夏休みに入った。
俺は、自分の気持ちに整理をつけるため、剣道部の合宿に出かけた。
その初日の夜・・・
合宿先の俺に、1本の電話が入った。
サンジの親父のゼフからだった。
「・・・・・サンジが、事故にあった。 ・・・今のうちに、別れをしてやってくれ。
病院の場所は・・・」
俺は、その後、どうやって病院に行ったのか、覚えていない。
気がつくと、サンジは、病院のベッドに寝かされてて・・・
見た感じ、大した傷もないのに・・・
ゼフは、がっくりと肩を落として、俺に、言った。
「・・・今日が、山場だそうだ・・・もう、今の医療では、何もすることがねえんだと・・・
・・・これ以上、意識が戻らねえと・・・ 絶望だ・・・そうだ・・・」
・・・絶望?
医者が、そう言ったのか?
・・・なんでだ?
こいつ、ただ、眠ってるだけじゃねえか?
どっきりカメラか何かか?
馬鹿野郎・・・俺は、こんな事に、騙されねえゾ。
「おい! 起きろよ、サンジ・・・ 起きろ!! てめえ、ふざけんな!! 起きろ!!」
俺の大声に、近くにいた医者とか看護婦とかが、部屋に入ってきて・・・
俺は、部屋の外に追い出された。
なんで、こうなっちまったんだ?
何が、悪かったのか?
俺が、俺が、サンジを好きになったからか?
俺が・・・俺が・・・
俺は、病院から出ていくと、そのまま、サンジんちのレストランに行った。
そこに行けば、サンジに会えるような気がして・・・
そこに、サンジが待ってるような気がして・・・
ば〜か、騙されてやんの・・・って、笑って俺を出迎えて・・・
こんなとこで何やってんだって・・・
馬鹿だなあ、そんなこと、あるわけねえじゃんって・・・
・・・そう笑って・・・・・・笑った顔で・・・・・
・・・でも・・・いつも、この時間、店は、行列が出来てるはずなのに・・・
ガヤガヤ、うるさいくらいなのに・・・
シーンとして・・・・シーンとして・・・・
「ッ・・・クッ。」
ダメだ・・・泣くな・・・泣いたら・・・認めっちまう・・・
俺は、唇をグッと噛みしめた。
口の中に、鉄の味が広がる。
「・・・ここに、いたか・・・」
後ろから、ゼフの声がした。
「・・・あいつの顔・・・綺麗だっただろ・・・別に何処も怪我らしい怪我してねえんだ
ぜ・・・ ただ、ちょっと、当たり所が、悪かった・・・そうだ・・・ お前が、サンジの一番
の相棒だったから・・・ 今のうちにと思ってな・・・ ・・・仔猫を・・・こいつを・・・助け
ようとしたらしい・・・ ・・・救急車に運ばれるまで、こいつを抱きしめて、放さなかった
そうだ・・・」
そう言って、ゼフは、サンジのシャツにくるまって眠る仔猫を俺に見せた。
「・・・馬鹿だよな・・・」
ゼフは、そう呟くと、そのまま仔猫と一緒に、電気のついてない店の中に入っていった。
暫く経っても、店の電気はつくことがなかった。
それから、夏休みが終わって・・・
俺は、大学の寮に入った。
家には、サンジの想い出が、多すぎて・・・そんなとこに、俺一人・・・いられねえ・・・
新しい年になって・・・
・・・俺は、2年生になって・・・
・・・でも、俺の隣にサンジの姿はなかった。
サンジの時間は、あの病院の中で、ずっと止まっている。
あの日以来、俺は、サンジんちの店には、顔を出していない。
あの場所に行く勇気が、まだ俺にはない。
・・・それでも、月に1度は、サンジがいる病院に話をしに行く。
サンジの瞳は閉じられたまま、俺を見ることはない。
そして、また、あの夏がやってきた。
おれの隣からサンジを奪ったあの夏が・・・
「・・・もう、1年経つんだな・・・おやっさん、どうしてるかな・・・」
俺は、意を決して、サンジんちの店に向かった。
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