サンジ★サンジ


その1




俺の名は、サンジ。

艶のある黒い毛と蒼と金のオッドアイを持つ、立派な雄猫だ。

1年前、仔猫の時に、危うく車に轢かれそうになったのを、ここの店の息子に助けられた。

それ以来、店の外で、飼って貰っている。

何故、外かって?

そりゃ、ここが、メシ屋だからだ。

店の衛生上、内には入れねえ事になっているため、俺はいつも、店の裏口のところか、玄関

先でいつもごろごろとして店が閉まるまで、時間を潰すのが日課だ。

ここの店は、これでも、評判がかなり良い。

玄関先で、マスコットのようにいる愛想のいい俺のおかげと、味に厳しいコックが作る料理が

素晴らしいと雑誌に載ったくらいだ。

だから、いつも客が、外まで並んでいる。

でも、最近は、もう1つ日課が増えた。

それは、散歩だ。

俺もそろそろお年頃。

人間で言えば18歳、青春真っ盛りって訳だ。

自分のテリトリーくらいは、把握しとかなきゃ、雄猫の名折れだ。

この前は、茶トラの【ギン】と言う奴が、いきなり俺に喧嘩をふっかけてきたから、思いっきし、

返り討ちにしてやった。

それからというもの、近所の猫達が、俺をボス呼ばわりし始めて、ギンの奴も、近所で猫同

士の諍いがあると、決まって俺を呼びにやって来る。

俺は、元々、縄張りだとか権力ってもんに、全く興味はねえし、店の前で、人間の女の子

に、頭撫でられたり、『きゃあv 可愛い〜。』って、言われてゴロゴロしている方が好きなの

だ。

しかし、ギンが呼びに来れば、やはり仕方なく出ていかねえといけねえなって気にもなってく

る。

俺ってば、飼い主に似て、お人好しなんだろうな。

ああ、言い忘れていたが、俺の飼い主は、【ゼフ】と言って、知る人ゾ知る料理人。

この店のオーナーシェフ、つまり、俺を助けてくれた息子の父親だ。

息子は、どうしたのかって?!

それは、俺にもわからねえ。

俺が、物心ついたときには、もういなかったし、大方、1人暮らしで大学にでも行ってるんじゃ

ねえのかな。

家に帰ると、学生服着た息子の写真らしいのが、飾ってあったな。

金髪で、細っこい奴みたいでよ、前髪がやたら長くて、顔の半分は見えねえんだ。

瞳は俺みたいに蒼くって・・・

ゼフがいつ戻ってきても良いようにって、部屋もきちんと掃除してるし、そろそろ、戻ってくん

のかもな・・・

俺、ちゃんと、ありがとうって伝えられるかな・・・

何で、俺が人間の言葉がわかるのかって?!

何だ? さっきから、質問責めだな。

まあ、いいか。

何でか?ってことだったな。

そりゃ、俺が、人間の言葉がわかる猫だからだ。

だからと言って、話が出来るかって言うと、そうじゃねえ。

猫同士だと、にゃーにゃー、話が出来るんだがなあ。

人間の言葉ってえのは、頭の中に直に聞こえてくんだよ。

だから、あっちの言ってることは、わかんだけど、こっちから伝える術はねえってことだ。

何で、人間の言葉がわかるのかって?!

そりゃ、俺が聞きたいね。

物心が付く頃から、そうだったし、オリャ、最近まで、他の猫も皆そうだと思ってたくらいだか

らなあ。


・・・っで、今日も猫同士が近所で喧嘩始めたと、ギンが呼びにきやがった。

またいつものことと、俺もちょっと、油断してた。

まさか、あんなところに、野良犬がいたなんてな。

猫同士の諍いを何とか丸く収めて、店に帰ろうとしたら、急に路地裏から、でかい野良犬が

出てきやがった。

俺達は、すぐに追いかけられて・・・

ギンの奴、あわてて道に飛び出しちまった。

すぐ目の前に、バイクが迫っていた。


(アブねえ!)


そう思ったときには、思わず身体が動いていた。

びっくりして動けないギンに体当たりを食らわして・・・・

俺は、目の前が、真っ暗になった・・・・


どれくらい気い失ってたのか。

俺は、気がつくと知らない奴の腕に抱かれていた。

手足は・・・・大丈夫だ。

怪我はなさそうだ。

俺は、さっと身をよじるようにして暴れた。


「怪我は、してねえみたいだな。」


そいつはそう言うと、俺を地面に降ろしてくれた。

ぷーんと鼻を突く鉄のにおい・・・・俺のじゃねえ・・・・これは??

俺は、あわててそいつの姿を見た。

緑色の短髪に金のピアス。

白いTシャツは、泥で汚れていて、ズボンも所々、破けている。

どうやら、俺は、こいつに助けられたらしい。

道の端には、バイクが横倒しのままになっている。


(こいつのバイクか?)


俺は、急に、そいつにすまねえという気持ちになった。

だって、そうだろ?!

勝手に飛び出した馬鹿猫のために、こいつは、怪我までして、俺を助けてくれた。

俺は、すまねえ、ありがとうの気持ちを込めて、そいつの傷を舐めてやった。


「んなことしなくてもいいだぜ? これは、俺が勝手に転んだんだ。 まだまだだな、

俺も。」

そう言って、そいつは笑顔で、俺の頭を撫でてくれた。

何か、そう言って笑った顔が格好良くて、俺は、ドキンとした。

何だろ、この気持ち・・・・

人間の女の子達に触られるときに感じるドキドキとちょっと違う。

心臓が、違う生き物になったみてえだ。


「ニャア〜(もっと、触ってくれよ〜。)」

俺はそいつの腕にすり寄って、鳴いた。



「おい、ゾロじゃねえか。 なにやってんだ? そんなとこで。」

聞き慣れた声がした。

ゼフの声だ。


「あ、おやっさん。 今日から大学、夏休みに入ったから、こっち帰ってきたんだ。 

もうすぐ、1年経つしな・・・」

そう言ったゾロの顔は、ちょっぴり寂しそうだ。

「ああ、そうか。 ・・・で、なんでそんなことになってんだ? おっ! サンジ。

・・・まさか、てめえ、また道に飛び出しやがったんじゃ・・・」

ゼフが俺を見つけて、睨み付けている。


(やべぇ・・・)

俺は、こそこそとゾロの後ろに隠れた。

「えっ?! サンジって・・・まさか・・・こいつが・・・」

そう言って、ゾロは俺をもう一度抱きかかえた。

じっと、俺の顔を睨み付けるゾロ・・・・・

俺は、少し恥ずかしくなって、しゅんと下を向いてしまった。

「どらっ、おい、ちゃんとこっち向けって。」

顎の下に人差し指を入れられて、またゾロの顔と向き合った。

(なにしやがんだ!)

俺は、フーッと威嚇した。

ゾロは、フッと優しい瞳をして俺を見ると、

「そうか・・・てめえが、サンジだとはな・・・」

と、妙に納得したようにウンウンと一人頷いて、クシャクシャと俺の頭を撫で回した。

俺は、何か意味わかんねえでむかついたんで、猫パンチ10連打をお見舞いしてやった。


「痛てえ、この野郎。」

ゾロは、そう言いながらも、俺を放そうとしなかった。









 
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