LOVE A PAIN


その2







一方、ゴーイングメリー号では、ゾロが鍛錬に余念がない。

リトルガーデンで思わぬ失態を演じ、サンジに心配を掛けた事を考えれば、足の怪我など構

わず鍛錬をしたかったのだが、怪我の心配をするサンジの手前、鍛錬も軽度のものに自粛

せざるを得なかった。

サンジが居ない今、ゾロは鍛錬できなかった分を取り戻すべく修行に励むことにした。

船番は、その絶好の口実だったのだ。




ゾロ・・・・・・。




船の甲板で精神統一をしていたゾロの耳に、サンジの声が聞こえた。

ヒクッとゾロの眉が上がる。

サンジは、確かにナミをおぶって街に向かった筈・・・・?

空耳だと解っていても、その声のせいでゾロは精神集中ができなくなってしまった。

仕方なく、ゾロは雑念を振り払うように川に潜る事にした。

氷のように冷たい川の水はとても清らかで、ゾロはその声のことも忘れて、川に住む生き物

達を観察した。

暫くして、さすがに身体の限界を感じ、途中、トナカイのソリに引かれた異色なばあさんに逢

ったが、大して気にも留めず、サンジ達がいるであろう街に向かう。




・・・・・・・・・・ゾロ・・・わりい・・・。




街に向かう途中で、ゾロはまたサンジの声を聞く。

ゾロの胸中に意味もなく不安が巻き起こる。

「・・・・嫌な予感がする。」

ゾロはそう呟いて、街への道を急いだ。
















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ふと気が付くと、サンジは雪の中に立っていた。

瞳の前には、見覚えのある後ろ姿・・・。

「ゾロッ!!」

サンジはその後ろ姿にそう声を掛け、急いで駆け寄ろうとした。

しかしどういうわけか、雪に埋もれた足が重くて、なかなかゾロに近づけない。

それでも、サンジはゾロの傍に向かう。

「ゾロ、こんなとこでなにしてんだよ・・・?」

サンジは、そう言ってゾロににっこりと笑いかけた。

しかし、覗き込んだゾロの瞳に自分の姿は映ってはいない。

声さえも、届いていないかのようだった。

ゾロの視線は、ずっと足元の雪の上から離れない・・・。

「・・・・・・・馬鹿が・・・・。」

ゾロは、呻くようにそう呟くと、その場にがっくりと膝を崩した。

ゾロの両腿に当てられた拳がブルブルと震えていた。

ポタリとゾロの手の甲にに雫が落ちる。

それが、ゾロの瞳から流れた涙だとサンジが気が付いたのは、暫く経ってからだった。

「おい! ゾロ、なに泣いてんだよ?! 可笑しいぞ、てめえ・・・? おいって!」

サンジは慌ててゾロの肩を掴もうと、手を伸ばす。

しかし、サンジの手は、すうっとゾロの身体を突き抜けて・・・・むなしく空を掴んだ。

「えっ??!」

サンジは、自分の両手をじっと見つめる。

降ってきた雪が触れぬまま、サンジの手のひらを素通りする。

「・・・・・・・・何故?」

サンジには、自分の状態が理解できなかった。

ふと、サンジはゾロの視線の先にあるものに瞳を向けた。

するとそこには、雪の中に埋もれ、顔だけ見える自分の姿・・・。

「な・・・・・に?? ・・・・・・・・嘘だろ・・・? なんで??」

サンジは、呆然と血の気のない自分の顔を見つめた。

「・・・っかやろう・・・。」

ゾロの小刻みに震える背中と喉の奥から振り絞るような低い声が、サンジの胸に深く突き刺

さる。

「違う!! 俺は、ここにいる!!ゾロ!! 俺は、ここにいる!!」

サンジは、必死に瞳の前のゾロに向かって絶叫した。

しかし、瞳の前のゾロはその声に反応することなく、雪に埋まったサンジの唇に口付け、

その前髪を一房、刀で斬り取り、その場を去っていく。

「ゾローーーーーッ!!」

必死に叫ぶサンジの声だけが、白い世界にむなしくこだました。












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「・・・・・・・・夢・・・か・・・。 良かった。」

サンジはそう呟いて、内ポケットからタバコを取り出そうと俯せで寝かされていた身体を起こ

す。

頬に一筋の涙が流れていた。

呟いた声が微かに震えていた。

首筋に冷たい汗が流れていた。

夢の中の打ちひしがれたゾロの背中とあの声が・・・・・・・忘れられない。

現実と夢が、頭の中で交差する。

腕に力を入れ身を捩ると、ミシミシと身体の内側から骨の軋む音と共に、全身に激痛が走

った。

「っ・・・・ってえ・・・。 やっぱ、生きてるよな、俺・・・。」

身体は、激痛で悲鳴を上げているのに、何故かサンジはその痛みを感じることに安堵した。

仰向けになり、もう一度確かめるように、そっと天井に向けて手をかざした。

今度は・・・・・・・透けていなかった。

心底ほっとした。

やっと、夢から戻れたような気がした。

ふと隣を見れば、ルフィの姿・・・。

全身傷だらけで、ベッドの上で熟睡しているルフィに、サンジは、ナミもまた無事で居ることを

確信する。




さすがは、ルフィ・・・・・俺達の船長。

やってくれるじゃねえか・・・。




サンジはベッドから立ち上がり、タバコに火を点け紫煙を揺らして、見慣れない室内を見渡し

た。

何処にもナミの姿はなかった。

「・・・・・まずは、ナミさんの無事な姿をこの瞳で確認しねえと・・・。」

サンジはそう呟くと、全身の痛みに耐えながら、ナミの姿を探し回った。

そこで、サンジは、街で唯一の医者Dr.くれはと二本足で歩くトナカイに出逢った。

トナカイの名前は、トニートニー・チョッパー。

人の言葉を話し、Dr.くれはに医術を学んでいるトナカイ。




・・・・・可愛い。

・・・・・もこもこ・・・・・触りてえ・・・。




ずっと、バラティエの海上レストランで育ってきたサンジは、動物と接する機会がなかった。

あるのは、食用となるものばかりで・・・。

チョッパーの容姿の可愛さにサンジは、一目で気に入った。

食用にと体裁を付けては、追いかけ回して・・・。

その実は、抱き抱えてそのもこもことした身体に触れたかったのだ。

まさか、後で仲間になるとは知りもせず・・・。

それから、ルフィとチョッパーのの活躍で、ドラム王国最後の王がいなくなり、ウソップと共

に、留守番をしていたはずのゾロまで城に姿を現した。

「あっ、ゾロ。」

サンジは、城の外にいるゾロの姿を見て駆け寄ろうとしたのだが、身体が思うように動かな

い。




あちゃあ・・・・少し無茶しすぎたかな・・・?

・・・・・・ゾロ、きっと、怒るよな・・・?




別れるときにあれだけ念を押されたにもかかわらず、無茶をしたサンジは、ゾロに合わす顔

がない。

こそこそとナミと門の後ろに隠れてたのだが、それが災いしてDr.くれはに見つかり荒治療

を受けるハメになった。




「・・・・・・・・なぁ、怒ってるか・・・? ・・・・・・・・・・・・なぁ。」

帰りのソリの中で意識を取り戻したサンジは、すぐ傍にいるゾロにそう声を掛ける。

しかし、ゾロからの返事はなかった。

結局、サンジは一言もゾロと会話出来ず、ゴーイングメリー号に戻ってしまった。








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<コメント>

チョッパー・・・・出てきたことには出てきたんだけどね。
これじゃあ、全然どういう性格なのかわかんないよね。(死)
まっ、チョッパーとの絡みは、また後日談にでも。
とりあえず、次へ!(脱兎!!)
「もこもこ触りてえ・・・。」(笑)