LOVE A PAIN


その1







「ナミ!! おい! しっかりしろ! ナミーッ!!」

突然倒れたナミをベッドに寝かせ、ルフィは、慌ててナミを揺する。

「ルフィさん! ダメよ、そんなに揺すっちゃ!」

そう言って制するビビの声もルフィには届いていないようだ。

「ナミ!! おい!ナミ!!どうしちゃったんだよ!ナミ!!」

「おい!止めろ!ルフィ!! 余計に悪化する!!」

ゾロに後ろから羽交い締めにされ、ナミの身体を揺することは何とか思いとどまったものの、

ルフィの動揺は計り知れない。

「・・・・・・・・・・・・。」

サンジは、初めて見せたルフィの動揺の大きさに、言葉が出てこなかった。

今までどんなことが起きても絶対に動揺することなかったルフィ・・・。

そのルフィが、今、大切な仲間(ひと)を失う恐怖に、その動揺を隠せない。

海賊王になると馬鹿の一つ覚えばかり言って笑っていた男が・・・・。

いつから、この航海士を一人の女性(ひと)として見ていたのか。

ベッドの脇で打ちひしがれる横顔が、全てを物語っていた。

サンジは、ルフィに声を掛けることも出来ず、黙って部屋を出ていった。










「うぅ〜・・・。 寒ぃ・・・。 この前まであんなに暖かかったのに、なんでだ?」

「ああ、それは、この近くに冬島が有るからだわ、きっと・・・。」

甲板でそう呟いていたサンジの側に、いつの間に来ていたのか、ビビがそう言って隣に立

つ。

「へぇ〜・・。 さすがは、ビビちゃん、物知りだな。 んじゃ、きっと街もあるよな・・・。 

そしたら・・・。」

「ええ、そうすれば、ナミさんを医者に診せてあげられる。 早く元気になって欲しいもの・・。」

「ああ。 ナミさんには、早く元気になって欲しい・・・。」

雪がちらつく甲板で、サンジとビビはじっと船の先の海を見つめた。

ナミが原因不明の高熱で倒れて、もう2日。

熱は下がるどころか、上がる一方で、船医も居ない船では、どうすることもできなかった。

ただでさえ、航海が難しいこのグランドライン・・・。

航海士であるナミを欠くことは、航海の中断をも覚悟しなければならない。

しかし、それよりもなによりも航海士である以前に、ナミはクルー達にとって欠かせない仲間

であり家族であった。

サンジにとっては・・・・・・かけがえのない女性(ひと)・・・。

良き理解者で良き相談相手で一番信頼おける・・・・・そして親愛なる女性(ひと)・・・。

ゾロと出逢わなければ・・・・いや、出逢った今でさえ、その気持ちは変わらない。

ゾロに対するのとは似て非なる愛情・・・。

見返りを欲しない無償の愛。

ナミが幸せで明るく笑っているだけで、サンジも幸せだった。

その笑顔がもう2日前から、サンジの瞳の前から消えた。




あれだけ、食材にも衛生にも気を遣っていたはずなのに・・・。

こんなになるまで、その状態に気が付かなかった・・・。

・・・・・・・俺の責任だ。

俺が、もっと早くに気が付いていれば・・・・。

ここまで、ナミさんの病状は悪化してなかった。

・・・・・・・俺の・・・・・・・・・責任だ。




人一倍、ナミの様子には気を遣っていたはずなのに、それを見抜けなかった自分の甘さが、

サンジを呵む。

「・・・・・サンジさん、あまり自分を責めないで。 私だって、同じ部屋だったのに・・・。 

同じ女性だったのに・・・。 ・・・・・・気が付かなかった。 だから・・・・」

「ビビちゃん・・・・。 ・・・・・・・ありがとう。」

サンジは、ビビの言葉にそう言ってにっこりと笑う。

暫くして、サクサクと雪を踏みしめる音が近づき、甲板に人が出てくる気配がした。

「あっ・・・・。 サンジさん、私、ナミさんに付いているわ。 じゃあ。」

ビビは、近づいてくる人物を見留めると、そう言ってナミの眠る部屋へと向かう。

入れ違いに、ゾロがサンジの隣にやってきた。

二人は、お互いに言葉を交わすこともなく、何もない海を見つめる。

いつの間にか雪が止んで、雲の切れ間から夕陽が覗く。

「・・・・・綺麗だな。 ・・・・太陽は・・・・・・変わんねえのにな・・・・・。」

サンジはボソリとそう呟くと、その夕陽の煌めきに瞳を細めた。

「ああ。 ・・・・・そうだな・・・。」

ゾロは、サンジの言葉にそう相づちを打ってサンジの横顔を見つめる。

タバコの紫煙と共に、夕陽に金色の髪が透け、風になびく。

ナミのことが余程気掛かりなのか、その表情にも暗い影を落として・・・

じっと船の行き先だけを見つめるサンジ。

こんな表情をサンジにさせるナミに理不尽と解っていながら嫉妬さえ感じてしまう。

そのあまりの痛々しさと自分には何もしてやれないジレンマに、ゾロはグッと拳を握った。

「さて、そろそろ飯の支度するか・・・。」

暫くしてサンジはそう言って、ゾロを見てにっこりと笑う。

サンジ特有の嘘で固めた笑顔・・・。

自分の心情を悟られまいと、見惚れるほどに綺麗に笑う・・・。

ゾロが見つけたサンジの・・・・癖。

思わず、ゾロはサンジに手を伸ばす。

「・・・・ナミは、助かる。 あの女がこれくらいでくたばる訳ねえよ。」

ゾロは、サンジの頭を肩に引き寄せてそっと髪に手を添える。

「っ・・・おう、わかってる。」

サンジは、グッと瞳に力を入れてこみ上げてくる涙を隠し・・・

それから、ゾロの元を離れ、キッチンに入っていった。









「・・・・・・・んな顔するんじゃねえよ。 見てるこっちが辛えよ・・・。」

ゾロは、去っていくサンジの背中にそう呟いて、また雪が降り始めた空を見上げた。















「島だーーーーっ!! 島が見えたぞぉーーーーーっ!!」

ウソップの声が甲板に響き、クルー達はホッと胸を撫で下ろす。




これで、ナミは助かる。




皆、それしか思いつかなかった。

入島の際、多少のいざこざはあったものの、ドルトンという街のリーダーのおかげで何とか

上陸できた。

船を無人にするわけにもいかず、足を怪我したゾロが船番をすることになった。

「絶対に、無茶はするなよ。」

「何言ってんだ。 たかが、ナミさんを医者に診せに行くだけだ。 無茶のしようがねえだろ。

てめえこそ、その足、治りきってねえうちに無理すんじゃねえぞ。 ・・・・・本当は、てめえも

医者に診て貰った方が・・・・」

「ばーか。 俺は、もう大丈夫だって言ったろ? 人の世話より・・・・・気を付けて行けよ。

それと・・・・早く帰ってこい。 待ってるから・・・。」

「おう、ナミさんを医者に診せたら、真っ直ぐにてめえに会いに帰ってくる。 それまで・・・」

ゾロとサンジは、互いにそう会話して軽く口付けを交わす。

「ウソップさん、海賊って・・・素敵ねvv」

「ビビ・・・・違うだろ、ソレ! 行くぞ! サンジ!!」

キラキラと瞳を輝かせて二人を見つめるビビにウソップは、速攻ツッコミを入れて早々に、

船を降りた。

そして、サンジはルフィ達と共に、ナミを抱え街に急ぐ。

街の医者は、魔女と噂される人物ただ一人。

しかし、その医者は、ドラムロッキーという険しい山の頂に住んでいて、仕方なく、ルフィと

サンジは、その魔女が住むという山の頂上の城を目指した。

途中、ラパーンという動物の襲撃を受け、雪崩が、サンジ達を襲う。

サンジには、躊躇している暇もなかった。

未来有る船長と愛すべき航海士の身を守るためには、自分の身を犠牲にするしか選択の

余地がなかった。

雪崩と共に身体が無造作に転がり落ちていく。

瞳の端にルフィとナミの無事な姿を確認し、サンジは安堵した。

雪に叩きつけられ背骨から響くひしゃげた鈍い音と共に、不意に頭に浮かんだのは、船で待

っているはずのゾロの顔。

意識は確実に遠ざかっていくのに、サンジの頭の中には呆れたように自分を見て苦笑する

ゾロの顔が鮮明になっていく。




ばぁ〜か。 なにやってんだよ・・・。




頭の中でそう言って手を差し出すゾロの姿に。

「わりいな。 これが俺の性分なんでな・・・・。」

サンジはゾロの幻影に手を伸ばし、笑いながらそう呟く。

そして、そのまま雪の中で意識を手放した。














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<コメント>

ハイ、今の季節感全く無視したどんよりとした始まり方・・・。
最近、また駄文の書き方に行き詰まり・・・。
四苦八苦してるのがバレバレ。(-_-;)
雪の中にサンジの手が見えたとき、これは絶対にそうよ!
と、勝手に妄想働かせてたんだよね・・・。(笑)
ちょっこしルナミ色もvv