願い事、一つだけ・・・・


その2







「・・・・ロ、おい、ゾロッてば!! お前、何か今日変だぞ? 朝礼の時からボーっと

して。 なんかあったのか?」

3年B組の教室でエースがゾロに、そう言って声を掛ける。

「・・・・・なぁ、エース。 俺、変なんだ。 初めて見たはずなのに・・・・俺、前から知っ

てるような気がして・・・・・知ってる筈なんか無いのに・・・ そんなことってあると思う

か?」

ゾロは呟くようにそう言ってエースの顔を見た。

「ああ、それって、既視感、デジャブとかいう奴だろ? 俺も食ったことないのに、食っ

たこと有る様な気がするときがあるぞ。」

「あんた、ばっかじゃないの? それは、既視感でも何でもないわよ。 それよりも、

ゾロ。 あんた、本当どうしたの? 新任のC組の先生をずっと睨み付けてたけど。 

知り合いかなんか?」

エースの言葉を否定するようにそう言ってナミが二人の間に割って入る。

「全然知らねえよ、あんな先生。 それに、別に睨み付けてたわけじゃ・・・・・あいつ

の方こそ、俺の方じっと見てて・・・・・」

ゾロはそう言ったまま、また先程のサンジの顔を思い出した。

桜並木で登校途中、初めて見かけた金色の髪。

その後ろ姿から瞳が離せなかった。

桜の花びらがその髪に肩にヒラヒラと雪のように触れる。

その姿を瞳にした瞬間、雪の中で笑うその人の姿が脳裏を掠めた。

それは、どこかの公園で・・・・・・確かに自分に向けられた笑顔。

幸せそうに微笑む優しい笑顔。

でもそれは、後ろから来たエースに呼び止められて、すぐに脳裏から消えた。

そして、朝礼。

今度は、正面からその人を真っ直ぐに見た。

自分を見て微かに微笑んだ後、一瞬だけ泣きそうな顔をして、その顔はすぐに青ざめていっ

た。

ズキンと胸が痛んだ。

一瞬だけ見せた泣きそうな顔が頭から離れなかった。

何故、自分を見てあの人はあれ程、動揺したのか。

自分のスピーチさえ忘れるほどに。

今日初めて見たはずなのに、何故だか、心が引っかかる。

どうしても・・・・・・瞳がはずせなかった。

気になって気になって、仕方がない。

あの表情の理由が無性に知りたくなった。

たかが、隣のクラスの新任の先生だというのに。

今まで一切の面識は無いというのに。

「・・・・・ロッ。 ゾロ。 もう、ちゃんと聞いてよね。 あんた、クラス委員決まったわ

よ。 放課後、学級委員会があるらしいから。 部活に出る前にちゃんと出てよね。 

いい?わかったわよね?」

「げっ、嘘だろ。 なんで俺が、委員なんだよ。」

「多数決でさっき決まったじゃない! またぼんやりしてたわね。 副はまた、あたし

だから。 一年間、しっかりやってよね! ほらっ、前に出て挨拶よ、挨拶・・・・」

ぼんやりとしてたゾロを引っ張り、ナミは黒板の前にゾロと並ぶ。

「・・・・・ロロノア・ゾロだ。 なんでか知らねえが委員長になったんで・・・・一年間、

よろしく。」

「あたしは、ナミよ。 いっとくけど、あたしはあくまでも、副委員長だからね。 

いくら、てきぱきと委員長より仕事をこなしていても、皆も、間違わないでね。 

委員長はこの横でボーっとしてるゾロなんだから・・・・・」

「んだよ!それ!! ボーっとなんかしてねえって!!」

「さあ、どうだかねえ・・・・」

ゾロとナミの挨拶にクラス中がドッと沸き立った。















・・・・・・・・放課後。

「さてっと、着任一日目、無事終了ってとこだな。 けど・・・・・・・あの子・・・・・」

サンジは、朝礼の時に見た生徒を思いだしてそう呟く。




・・・・・本当に、ゾロそっくりだった。

・・・・・何て名前だろう。

・・・・・もしかしたら、担任になれるかもって・・・・・・

・・・・・そんなこと考えちゃったなぁ・・・・

・・・・・ゾロじゃねえのに。

・・・・・わかってるから・・・・・・・・余計に・・・・・・辛い。




時計の針も18時を回り、サンジは学園を出てマンションに向かう。

「先生!! サンジ先生ーっ!!」

桜並木を歩いているサンジの後ろから大きな女生徒の声が聞こえた。

「こんにちは、先生。 先生も今、帰りですか?」

「ああ、こんにちは。 君は、えっと・・・・」

「やだ、あたしったら。 ナミです。隣の教室の3年B組なんですよ。 以後よろしく!

サンジ先生って凄く素敵ですよねvv 先生と言うより素敵なお兄さんって感じvv 

英語、あたしわりかし得意なんですよ。 今度の授業がとても楽しみですvv」

ナミはそう言ってサンジににっこりと笑いかける。

「それはどうもありがとう。 君も凄くチャーミングだよ。 これからよろしくな。」

サンジもナミの微笑みにつられてにっこりと笑い返した。

「ナミーッ!! おい、忘れ物だ!! 待てって!!」

暫くナミと一緒に桜並木を歩いていると、サンジに耳に聞き覚えのある声が聞こえる。




・・・・・・この声。

・・・・・・嘘だろ。

・・・・・・忘れる訳がない。

・・・・・・けど・・・・・・・




サンジは、ゆっくりとその声のする方を振り向いた。

「・・・・・・・ゾロ。」

サンジは、その生徒を見つめながらそっと呟く。

「えっ?! やだ、本当、ゾロじゃない? あー、ごめん、ごめん。 あたし、忘れて

た?」

「はぁ、はぁ。 ごめんじゃねえって! 自分で今日の委員会のノート書くとか言って、

さっさと忘れて帰るんだから。」

ゾロは、息を切らしながらナミにそう声を掛けた。

それからナミの隣にいるサンジを見る。

自分に向けられるサンジの視線。

一陣の強い風に吹かれ、桜の花が舞い散った。

ゾロの視界が歪む。

目の前に広がる風景が全て消えていく。

そして・・・・・・・

降りつもる雪の中、自分に微笑む人の姿。

その人をそっと抱き寄せる自分が居る。

幸せが・・・・・・・心から溢れていく。

その降りつもる雪のように。

幸せだけが・・・・・・・心を包み込む。

永遠と信じて疑わなかった自分の想いが・・・・・今・・・・・

「えっ?! どうしたの、二人とも??」

黙ったまま見つめ合う二人にナミは、キョトンとした表情で声を掛ける。

しかし、その声に二人が応えることはなかった。

「ゾロ・・・・・」

もう一度その名を口にしたサンジの瞳に涙が溢れる。

「サンジ・・・・・・・泣くな。 お前が、俺を・・・・・呼んだ。」

気が付くとゾロはそう呟いていた。

「えっ、えっ?! ちょ、ちょっと待ってよ! ねえ、ゾロ、ゾロってば!!」

状況の異様さを感じたナミがそう言ってゾロを揺さぶる。

「ん?ああ、なんだよ、ナミ。そんなに引っ張らなくたって、痛てえよ。」

ゾロは、我に返ったようにそう言ってナミを見た。

「ゾロ!! 嫌! あんた変よ! サンジ先生と見つめ合って・・・・あれはまる

で・・・・・・そう、恋人に向ける瞳だった・・・・・そんなの・・・・・絶対に・・・・・嫌!!」

ナミはそう叫んで、桜並木を駆け出した。




そうよ・・・・・いつだって傍にいたのは、あたしなんだから。

同じ高校になる前から知ってたんだから。

いくら、あいつが友達以上に見ていないと知ってても。

傍にいれば・・・・・・・いつか見てくれるって。

・・・・・・・・そう思ってた。

そう信じてたのに・・・・・・・・・・

どうしてあんな瞳が、サンジ先生に向けられるの?

初めて逢ったばかりでしょ?

どうして・・・・・・あたしじゃ・・・・・あたしにじゃないの・・・・・・・・

いつだって・・・・・・・傍にいたじゃない。




「お、おい! ナミ、ちょっと、待て! ・・・・なんだよ、あいつ・・・・」

「ゾロ・・・・・・彼女を追いかけなさい。 君は、君なんだから。 さあ、早く!」

ゾロの言葉を遮ってサンジはそう言ってゾロを見つめる。

「けど・・・・・」

「良いから、早く行きなさい!!」

サンジに急かされて、ゾロはナミの後を追った。

サンジは、にっこりと笑ってその姿を見送った。

「・・・・・・ゾロだった。 やっぱり、俺の・・・・・・ゾロだった。 けど・・・・・・・・・・

神様。 少しだけ貴方を恨んでも良いですか。 ゾロは俺のゾロだけど・・・・・・俺の手

の届かない・・・ッ・・クッ・・・・」

サンジは桜の花びらが舞い散る中、その場にしゃがみ込んで嗚咽を噛み殺す。




彼には・・・・・・彼の新しい出逢いがある。

・・・・・・新しい人生がある。

・・・・・・それを俺が・・・・・触れてはいけない。

見守ることしか・・・・・・・できない。

触れ合うことさえ・・・・・・叶わない。




「っ・・・・・・ゾロ・・・・・ゾロ・・・・・・ゾ・・・・ロ・・・・・」

サンジは何度も何度もその名を繰り返し、涙をその頬に雫した。







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<コメント>

Σ!!ゾロナミか??と思われた方・・・・・ははは。
まあ、パラレルだし、良いかと。(-_-;)
さてさて・・・・・サンジ・・・・辛いよなぁ。
う〜ん・・・・・・・。