願い事、一つだけ・・・・


その1







神様、お願いです。

もし願い事が叶うなら・・・・・

たった一つだけで良いです。

俺に・・・・・・

俺に、ゾロを・・・・・・返して下さい。

・・・・他に何も望みません。

お願いです・・・・・・神様。

ゾロを、俺に・・・・・・

俺に、返して下さい。

ピンクの雪なんか・・・・・・・いらない。

こんなに綺麗な雪なのに・・・・・

俺は・・・・・全然幸せじゃねえもん。

ピンクの雪なんかいらない。

・・・・・・・・・神様、お願い。

ゾロを・・・・・ゾロを俺に返して・・・・・

















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「・・・・・・いけね。 またやっちまった・・・・・・」

サンジは、そう呟いてベッドから身を起こす。

そして、目尻に溜まった涙を袖口で拭った。

枕は、流した涙でぐっしょりと濡れている。

もう何度同じ事を繰り返しただろう。

何もない雪だけが降りつもる中でただ一人空を見上げ、言葉を発するだけの夢。

言葉だけが、形作っている・・・・夢。

ゾロを失ってもう18年が経とうとしているのに、未だにサンジはゾロの事が忘れられないで

いる。

ゾロを失って、ゾロの物も全て無くなった。

ゾロの母親が、全て持ち帰ったのだ。

このマンションと想い出だけをサンジに残して。

『・・・・貴方は、まだ若い。 このまま一生をあの子に縛り付けられてはダメ。 

あなたが、この先ちゃんと、自分の人生を生きるために・・・・あの子の物は、何一つ

貴方には差し上げられないわ。 酷なようだけど、この子も、きっとそれを望んでいる

はずだから・・・・』

ゾロの母親はそう言って、分骨したゾロの骨さえ持ち帰ってしまった。

サンジに残された物は、万が一にとゾロがサンジ名義で掛けていた保険金とこのマンション

、そして、唯一二人で撮った写真が一枚だけ。

「・・・・・おはよう、ゾロ・・・・・・またやっちまった・・・・いつまでもダメだな、俺っ

て・・・」

サンジは、スーツに着替えながらテレビの上の笑っているゾロの写真に、そう言って笑った。

「さて、今日から、イーストブルー学園、高等部だ。 何事も初日が肝心だからな。 

気合い入れて行かなくちゃ・・・・行ってくるよ、ゾロ。」

サンジは、もう一度写真に向かって語りかけると、勢い良く玄関のドアを開けた。











サンジは、現在、高校の教師をやっている。

ゾロの残してくれた保険金のおかげでまた、大学で学べるようになった。

元々頭の良いサンジは、大学の奨励でイギリスにも留学し、ストレートで英語の教員になっ

た。

そして、今日、教員歴14年目、4回目の転勤で、ここイーストブルー学園、高等部に招致さ

れたのだった。

サンジは、桜の舞い散る中、イーストブルー学園の門をくぐった。

「良くいらっしゃいました。 私がここの高等部部長のブードルです。 この学園はこ

の桜並木も自慢の一つで・・・ ヒラヒラと風に舞い散って、さながら雪のようでしょ

う?」

部長のブードルは、そう言ってサンジを高等部に案内する。

「・・・・・・・そうですね。 本当に・・・・・雪のようで・・・・・」

サンジはそう言ってハッとする。




誰??・・・・・見ている?




サンジは、自分への視線を感じて辺りを見渡した。

しかし、見える範囲には、自分とブードル部長しかいなかった。




・・・・・・気のせいか・・・・こんなとこに知り合いなんて居るはずないし・・・・




「・・・・・どうかしましたか?」

「いいえ、なにもありません。 たぶん、気のせいでしょう。」

ブードル部長の言葉に、サンジはにっこりと笑ってそう返事をした。

「はい、皆さん、静かにして下さい。 今日からこの高等部に来ていただいた先生をご

紹介させていただきます。 こちらが、サンジ先生です。 教科は、英語。 受け持ち

は・・・・3年C組です。 では、サンジ先生、ご挨拶お願いできますか?」

朝礼集会でブードル部長先生から紹介され、サンジは、ステージの上に上がる。




さあ、ここが第一歩だ。




「こんにちは、今、ご紹介に預かりました、サンジです。 君たちには、英語を教える

ことになります。 教科書に捕らわれない実用的な英語を皆さんにお教えしたいと思

っています。 どうぞ、よろ・・・・・し・・・・・・・・」

サンジは挨拶の終盤で、壇上から見た生徒の一人に瞳を奪われた。




・・・・・・ゾ・・・・・ロ?

いや・・・・・・違う。

ゾロは確かに・・・・・・・・死んだ。

けど・・・・・・この前にいるのは・・・・・じゃあ、誰?




そこには、ゾロそっくりの生徒が自分を見ていた。

緑色の短髪。

切れ長の瞳。

がっしりとしたスポーツマンらしい体格。

違うのは・・・・その若さ故の雰囲気のみ。

ドクンとサンジの心臓がはねる。

そして、だんだんと早鐘のように心音が早くなる。

周りの風景が音と共に消えていく。

その生徒以外のものが、サンジの視界から消えていった。

「・・・・ジ先生? サンジ先生? どうかしましたか?」

いつまでも動かないサンジに、ざわざわとざわめく体育館でブードル部長先生に身体を揺す

られ、サンジはやっと現実に戻る。

「あ、いえ・・・・・・すみません。 失礼しました。」

サンジは青ざめた表情のまま、ステージを降りた。




あの子は・・・・・・ゾロじゃない。

俺の愛した・・・・・ゾロじゃない。




頭の中でそうわかっているもののサンジの動揺は隠せない。

その後どうやって自分が3年C組の教室まで案内されたのかさえ、サンジの記憶には残って

いなかった。

それでも、教師であるサンジは教壇に立ち、自分がこれから受け持つ生徒の名を順番に読

み上げる。

「・・・・以上。 欠席者はいませんね。 一応、私の自己紹介は先程、朝礼で言いま

したが、なにか質問等ありますか?」

「はい! サンジ先生は、独身ですか? それとも結婚してるんですか?」

クラスの女子生徒が席を立ち、そう質問した。

「はい、今は独身です。 昔は・・・・・結婚してました。」

サンジは、その生徒ににっこりと笑ってそう言う。

「「「なんだ、バツ一かよ。」」」

「何で別れたのかな? 結構良いセンいってると思うんだけどね・・・」

「恋人、居るのかなぁ・・・」

ざわざわと教室が騒ぎ出した。

「クスクス・・・今は、恋人は居ません。 それに、バツ一じゃないですよ。 籍は入れ

てなかったし・・・・それに、その人は、今もここにいるんです。」

サンジは、生徒達の反応に苦笑してそう言うと、胸を手で押さえる。

「先生、それってどういう意味ですか?」

「それは・・・・私の好きな人は・・・・・・ずっと昔に亡くなったんです。 ちょうど、そう、

君たちが生まれた頃の年に・・・・です。 ・・・・・だから・・・・ここに・・・・・です。」

生徒の質問にサンジはそう言って寂しそうに笑った。

シンと教室が静まり返る。

「・・・・もう、質問はありませんか? 無かったらクラス委員等の選出に移ります

が・・・・・では、立候補する人、いませんか?」

それからサンジに質問する生徒は無く、サンジの着任一日目はこうして無事に過ぎていっ

た。







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<コメント>

ハイ。これは、NIGHT MAREに置いてある【ピンクの雪が降ったら・・・】
の続きでやんす。 前作が前作だけに途中、ちょびっと辛くなりそうですが、
ハッピーエンド目指してますので、ご心配なくvv
けど・・・・・・設定に無理があるかなぁ・・・・(苦笑)
まっ、ゾロサンだし・・・・・年の差なんて・・・・
脱兎!!