願い事、一つだけ・・・・


その3







「ナミ!! おい! 待てって!!」

ゾロはそう言って、前を走っているナミの腕を掴む。

「何よ! 嫌!! 離して!! あんたなんか大嫌い!! あんたなんか・・・・・あん

たなんか・・・・」

ナミはそう言って、ポロポロと涙を流した。

「・・・・俺は、別に好かれようと思っちゃいねえがな。 あんな風に一方的に駆け出し

ていかれるとなぁ。 困るんだよ、俺。」

ゾロは、腕を掴んだままボソリとそう言う。

「あんたなんか・・・ヒック・・・・・好きなの・・・・好きだったの。 ずっと・・・・

ずっと・・・・ゾロが、好きだったの・・・・」

ナミはそう言ってゾロの腕の中で泣きじゃくる。

「・・・・・ごめん、ナミ。 俺は・・・・」

「わかってる!! もうわかっちゃったから。 ・・・・・二年間も傍にいたのよ。 

あんたのあんな瞳・・・・初めて見たわ。 惹かれたんでしょ?サンジ先生に・・・・ 

でも、どうして? どうして、サンジ先生なの? 今日逢ったばかりの・・・・・・・それも

男の人よ? ねえ、どうして?」

ナミは、ゾロの言葉を遮りそう尋ねた。

「・・・・わかんねえ。 けど、あの人なんだ。 ナミのことは、好きだ。 友達以上に

は。 たぶん、あの人に逢わなければ・・・・・・けど、俺とあの人は逢ってしまった。 

年とか、男女とか、時間とか、関係ないんだ。 ただ、傍にいたいんだ。 居て欲しい

んだ。 あの人しか見えなくなるんだ。 他の何も見えなくなる・・・・・・こんな事、初

めてだ。 心が・・・・・あの人を求めてしまう・・・・・」

ゾロは、穏やかな表情でナミを見つめてそう言う。

「・・・・そう。 まるで寓話に出てくるエデンの恋人たちみたいね。 神様は人間をお

作りになられたとき、一対の魂を必ず送り込んだというわ。 巡り逢えば必ず惹かれ

合い、恋をして愛を育む・・・・・・・それが、あんた達という訳ね。 ・・・・・・敵うわけな

いわね、それじゃあ。 ふ・・・・なんか、告白して自分の気持ち洗いざらい言ったら、

逆に気分がすっきりしたわ。 ・・・・・・サンジ先生でも憎めたらまた違うんでしょうけ

ど。 なんとなく、憎めないのよね、あの先生もあんたも。 まあ、良いわ。 これから

は、友人として今まで通り付き合ってあげる。 あー、どこかにあたしのエデンの恋人

もいるのよね。 早く逢ってみたいもんだわ。 じゃあね、ゾロ。 今日は、ありがとう。

・・・・・・また明日ね。」

ナミはそう言って涙を拭うと、最後は笑ってゾロの腕の中から離れて一人歩き出した。

「ナミ・・・・・ごめんな。」

ゾロはナミの背中にそう呟いて、元来た道を戻っていった。




・・・・・なんとなくわかってたんだけどね、あたしじゃダメだって事・・・・・




「きゃあ!!」

俯いていたナミは急に飛び出してきた人影にぶつかって道に倒れる。

「うわっ!! ごめ、ごめんな!! 大丈夫か??」

その人物は慌ててナミの鞄を拾うと、そう声を掛けた。

「・・・いえ、大丈夫ですから・・・・・・大丈・・・・夫・・・・ふぇ・・・・ヒック・・・・」

ナミは、その人の前で泣きだしてしまった。

堰を切ったようにその涙が止まらない。

「参ったなぁ・・・・・すんげえ痛かったのか? ごめんな。 泣かないで。 何処が痛

い??」

その人物はそう言って泣いているナミの顔を覗き込む。

「いえ、そんなんじゃないんです・・・・ヒック・・・・ごめんなさい。 あたしこそ、こんな

で・・・」

ナミはそう言って、初めてその人物を見た。

ナミの心臓がドクンと音を立てる。




これは、一体・・・・・どう言う・・・・・こと?




自然と涙が止まる。

その覗き込まれた瞳から瞳が離せない。

「家は、何処? 動けないなら俺が背負って行くから。 あ、俺? 俺は、今日からイ

ーストブルー学園高等部に入学する筈だったルフィと言うんだ。 けどさ、すっかり寝

坊して・・・・・今、通学路を確認しに来てたんだ。 本当、ごめんな、ぶつかって・・・」

ルフィはそう言って、ナミに手を差しだした。

「いいのよ、ボーっとして歩いてたあたしも悪いんだし。 あたしは・・・・・あたしは、

ナミ。 イーストブルー学園高等部の3年生よ。 ルフィ君か。 あたしの方が先輩

ね。 もう平気よ。 どうもありがとう。」

ナミはそう言って立ち上がる。

「じゃあね、ありがとう。ルフィ君・・・・・縁があったらまた逢えるかもね、学校で。 

ばいばい。」

そう言って歩きだしたナミの腕をルフィがいきなり掴んだ。

「待って! やっぱり、家まで送る。 今逢ったばっかだけど、凄く気になるんだ、あん

たのこと。 もう暗くなるし・・・・・それとも、彼氏が居て俺に送られるのは迷惑か?」

ルフィは、ナミを見つめてそう言った。

またナミの心臓がドキドキと早くなる。




嘘・・・・・なんで??

なんで、あたし・・・・・・・・こんなにドキドキしてるの?

ゾロの時と同じ・・・・・・ううん、それ以上・・・・・

もしかしてこれが・・・・・・・




「ううん、全然迷惑じゃないわ。 それにあたし、振られたばっかで・・・・」

「ええっ?! あんた振られたのか?? もったいねえ、俺なら絶対にそんな事しね

えのに。 それでさっき・・・・・・なぁ、そんな馬鹿な奴なんか忘れて、俺と付き合わ

ねえ? 俺達絶対、上手くいくと思うんだ。」

ルフィはニカッと笑ってナミにそう言った。

「・・・・あんた、図々しいってよく言われない? 今さっきも言ったとおり、あたしは3

年生で年上で、しかも失恋直後なのよ? そこにつけ込むように言うなんて・・・」

ナミは呆れたようにそう言い返す。

「そんなこと、全然関係ねえし。 つけ込むつもりはないけど、今言わなきゃずっと言

えないかも知れないだろ? そんなの絶対に嫌だ。 それに・・・・・今逢ったばっかで

信じられないと思うけど、俺、あんたが好きだ。 好きだから、付き合いたいってそう

思うのはダメなのか?」

ルフィは、真っ直ぐにナミを見つめてそう言った。

「あんたって・・・・・まぁ、いいわ。 けど、付き合うったって、友達からだからね。 

良〜い? 彼氏にするかどうかは暫くしてから決めるわ。」

ナミは、そう言ってにっこりと笑う。

「おう! 今は、それで良い。」

「まっ、せいぜい頑張りなさい、ルフィ君。」




・・・・・・・・間違いない。

これが・・・・・・そう。

見つけた・・・・・・あたしの・・・・・エデンの・・・・・




夕日が沈む中、ナミはルフィと仲良く会話して家まで帰った。














++++++++++++++++++++++++



ゾロは、今来た道を急いだ。




サンジは、まだそこにいる。

きっとそこで・・・・・泣いている。




ゾロの瞳に、桜並木が見えてきた。

その中に蹲るように見える人影。

夕日に輝く愛おしい金色の髪・・・・・

「サンジーッ!!」

ゾロは、その人影にそう叫んで走り出す。

その人をもう一度、この腕に抱き寄せるため。

そのぬくもりを確かめるために。

サンジも、その声に気が付いて顔を上げる。

そしてゆっくりと立ち上がった。

「・・・・・ッロ。 ・・・・・・・ゾローッ!!」

サンジはそう叫んでゾロの方へと駆け出す。

18年間止まっていた二人の時間が、ようやく動き出す。

キキーッ!!

ドン!!

けたたましい車のブレーキ音と何かのぶつかる音がサンジの耳に届く。

もう二度と聞きたくないと思っていた・・・・・・絶望の音。

「あっ・・・あっ・・・・・いやああぁーーーっ!!!」

サンジは、目の前の光景に耳を閉ざし、絶叫して立ちすくむ。

目の前に広がる・・・・・・・18年前の悪夢。

止まった車の前で横たわるゾロの姿。

絶望が容赦なくサンジを襲う。

18年間サンジの中に封印されていた悲しみの記憶が解き放たれる。

「あっ・・・あっ・・・・ああっ・・・・」

サンジは、頬を伝う涙をそのままに言葉もなく、ふらふらと倒れているゾロに近づく。

周りのざわめきも人も、車も、サイレンも、サンジの瞳には映らない、聞こえない。




・・・・・神様。

・・・・・これは、ゾロを返してくれた貴方を一瞬でも恨んだ俺のせいですか?

・・・・・これが・・・・・・・・運命なのですか・・・・・・

・・・・・運命には・・・・・抗えないと・・・・・・そうおっしゃってるのですか。




サンジは、そっと倒れているゾロの髪に触れる。

何度も、何度もそれを繰り返した。

流れる涙もそのままに、ゾロのすぐ傍で。

ポタリとサンジの涙がゾロの頬に雫した。

「っ・・・・うっ。 ・・・・・・サンジ?」

その瞬間、ゆっくりとゾロの瞳が開いた。

「・・・・・・馬鹿、泣くなよ。 ちゃんと戻って来ただろ?」

ゾロはそう言ってにっこりと笑い、サンジの頬を伝う涙を手で拭う。

「っ・・・うん・・・・うん・・・・ゾロ・・・ゾロ・・・・」

サンジは、何度もそう頷いてゾロの手を握り返した。




神様・・・・・・疑った俺を許して下さい。

もう・・・・・他には望みません。

ありがとう・・・・・神様。

俺に、ゾロを返してくれて・・・・・・ありがとう。




桜並木から風にそよがれて桜の花びらが雪のように二人に舞い散る。

「・・・・・ただいま、サンジ。」

「・・・・・お帰りなさい、ゾロ。」

そっとサンジの唇がゾロの唇に触れた。










++++++++++++++++++++++



「ばっかじゃないの、あんた。 車に轢かれたと聞いてびっくりして来てみたら・・・・・

全然、ピンピンしてるじゃない。 しかも擦り傷だけだなんて。 あんた本当に人間?

もう一回精密検査してみたら? きっと赤い血じゃなくて緑色の血かも知れないわ

よ。 ハイ、これ、今日の分。」

病院のベッドに横たわるゾロにナミがそう言って、ノートを渡す。

「おっ、サンキュー。 毎日ごめんな。 けど、俺をエイリアン呼ばわりするなよな。 

俺は、ちゃんとした人間だ。」

ゾロは、ナミからノートを手渡されるとそう言って笑った。

「ハイハイ。 まっ、風邪も引かない馬鹿だとは知ってたけどねぇ・・・車に轢かれて

も、大丈夫な身体してるとは思わなかったわ。 あっ、あたし、そろそろ行かない

と・・・・」

「えっ?!もう行くのか? 病院って一人で、つまんねえんだ。 もう少ししたらサンジ

も来るし、ゆっくりしていけば?」

「なに、お子ちゃまな事言ってんのよ。 あたしだって色々と忙しいの。 ああ、待ち合

わせに遅れちゃうわ。 じゃあ、あさってには退院でしょ? それまでゆっくり甘えれ

ば? 学校に行っちゃうと、あんた、そんな平穏でいられないわよ。 サンジ先生って

生徒にモテモテなんだから。 独り占めできるのも、ここだけなんだから。 覚悟して

てね。 じゃあ、チャオ!!」

ナミは、ゾロの言葉にそう言うと、時計を見ながら慌てて部屋を出ていく。

「ちぇっ。 もう行きやがった。 ・・・・サンジって、そんなにモテるのか? まああれ

だけ格好良けりゃ、普通はモテるよな、やっぱ。 こりゃ、早く退院して色々と探りを

入れねえとダメだな。」

「なにが、ダメなんだ? ゾロ??」

ブツブツと一人呟くゾロに、サンジは微笑みながらそう声を掛けた。

「いや、病院って退屈だなぁとそう思ってさ。 あー、早く退院してえ。 

そして、サンジと暮らしてえよ。」

ゾロは、さも退屈な様でサンジを見てそう言う。

「学生の身分で何言ってんだよ。 だいたい、今年は受験だろ? 早く暮らしたいの

なら、一発で大学合格して早く一人前の社会人になれよ。 早くしないと俺、ジジイに

なるからな。」

サンジはそう言ってゾロの鼻先を抓む。

「じゃあ、しっかりと個人授業もして貰わないとな。 頼むぜ、サンジ先生。」

ゾロはニヤリと笑ってそう言うと、サンジの身体を引き寄せた。

「・・・・ったく。 学園では、他人のフリしとかなきゃダメだぞ。 それに、俺は、えこひ

いきはしないから。 みっちり扱くから、そのつもりでな。」

サンジはそう言ってゾロの首に腕を廻す。

「・・・・・・まあ、卒業するまでは仕方ないか。」

ゾロはそう呟いて、サンジに口付けた。















数年後・・・・・

「ただいま〜、サンジ。 はぁ、疲れた。 教師って疲れるもんなんだな。 自分がや

ってみて初めてわかったぜ。」

ゾロは玄関のドアを開け、ネクタイを緩めると、サンジに鞄を渡しながらそう呟く。

「お帰り、ゾロ。 どうだった? 着任一日目の、イーストブルー学園は?」

サンジは、鞄を受け取るとゾロにそっと口付ける。

「ああ、今年も桜が綺麗だった。 あの頃と全く同じだった。 あれはまるで・・・・・

ピンクの雪だな。」

ゾロはそう言ってサンジを抱き締めた。

「・・・・・そうか、ピンクの雪かぁ。 そうか、そうかもな。」

ゾロの腕の中で、サンジはそう言ってにっこりと笑う。

その左手の薬指には、真新しい銀色の指輪が輝いていた。









ピンクの雪が降ったら・・・・・・俺・・・・絶対に幸せになれそうな気がするんだ。









<END>






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<コメント>

さてさて、如何だったでしょうか?
途中かなり省きまくったんですが・・・・・いや、これ以上長いとね・・・(笑)
凄い年の差ですよね、よく考えて見りゃ。
まあ、それでもゾロとサンジの愛情は変わらないでしょうし。
これで、【ピンクの雪・・・】も読める方が出来たかな?
教師サンジと学生ゾロのエピソードは、また他の機会にでもvv
ははは・・・・それでは、また☆