もう一度キスしたかった・・・


その7







・・・・・ゾロは・・・・・本当は、養護の先生じゃなかった。

父さんの・・・・主治医だったんだ。

だから・・・・・知ってたんだ・・・・俺よりも父さんの事・・・。

そしてたぶん・・・・・・父さんに俺のこと・・・・・頼まれてた。

だから・・・・・俺を放っておけなかった。

父さんに・・・・・頼まれてたから・・・・。



ただ・・・・・・それだけ・・・・。




それぞれの想いを抱えて、マキノとサンジは、深夜の学校へと急ぐ。

家族の歯車がようやく動き出した。



 

「・・・・サンキュー、助かったぜ、ゾロ。 急に痛みが酷くなってきて・・・」

宿直室で横になっているシャンクスがそう言ってゾロを見た。

「良いんですよ、理事長。 さっ、もうお休みになってください。 今夜は、ずっと付いてます

から・・・。」

ゾロは、シャンクスに注射を打つと、そっとシャンクスに毛布をかける。

「ああ。 悪いな・・・あと少しだから、勘弁してくれよ。」

そう言って優しく微笑むシャンクスの姿に、ゾロは己の無力さを痛感した。




・・・・・・・俺は、何のために医療を学んだんだ・・・?




暫くして、廊下を歩いてくる足音がゾロの耳に届く。

それは、真っ直ぐに明かりのついているこの部屋に近づいてきた。

「あなた・・・!!」

「お父さん!!」

そう言って息を切らし、部屋に駆け込んできたのは、マキノとサンジだった。

「・・・・・・・・・マキノ・・・? ・・・・・・サンジ? 何故、ここに・・・・・?」

シャンクスは思いがけない訪問者に、慌てて身体を起こす。

「っ・・・・あなた・・・・!!」

マキノはそう言ってシャンクスの身体に縋り付いた。

はらはらとマキノの瞳から涙が雫す。

「父さん!迎えに来たよ。 帰ろうよ、家に・・・。」

サンジも、ベッドの脇からシャンクスにそう声をかけた。

「・・・・サンジ、お前、なにを言って? それに、何故、マキノは泣いて・・・?」

シャンクスは、先ほどまでぐったりとして死に瀕した病人とは思えない程の気丈さで平静さ

を装う。

「父さん・・・。俺達、全部知ってるんだ。 父さんの病気のことも・・・だから・・・!!」

サンジはそこまで言ってグッと言葉に詰まった。




・・・・・父さん、本当に・・・・死んじゃうの・・・・?




目の前の父親、シャンクスは、どう見ても死期が迫っている重病人には見えない。

普段と変わらない、ただ少しやつれた感じがするだけだった。

「・・・・そうか。バレてたのか・・・・」

シャンクスは、それだけ言うとゆっくりと身体を横たえる。

張り詰めていた緊張の糸が切れたのと、知られてしまったショックに、シャンクスはただ黙

ったまま瞳を閉じた。

「・・・・父さん・・・。 母さんね、父さんの為に、別れるフリをするって・・・・・そう言ったんだ。

父さんだって、残される俺達のこと気遣って・・・黙ったまま逝こうとしてた。 けど・・・・・・

それって、違うだろ? お互いに好きなのに・・・・愛し合っているのに・・・。 現実から逃げ

ようとしてる・・・。 父さんは、俺達が辛くなるからって・・・・けど、それは、父さんが、そん

な俺達を見たくないからだろ? 母さんだって・・・・父さんの気持ちを想ってって・・・・そう言

ったけど、本当は、母さんがそんな父さんを見たくなかった・・・。 俺は、まだ子供で・・・・

母さんや父さんから見たらまだまだなんだろうけど。 ・・・・・・・好きなのに、傍にいれ

ない・・・・その辛さはわかるようになったよ。 好きだってだけじゃ、どうしようもないこ

とも・・・・。 けど、現実から逃げちゃいけないんだよね。 それがどんなに辛くてもさ・・・。」

サンジはそう言って、にっこりと笑った。

「フッ・・・。 子供、子供と思っていたら・・・・・いつの間にか、成長してたんだな。 俺が心

配する必要は全然なかったわけだ。 さすがは、俺の自慢の息子だ。 お前なら、これから

どんなことがあっても自分の力で切り開いていけるだろう。 ・・・・・マキノのこと・・・母さん

のこと、よろしくな。 父さんももう逃げない。 最後まで、お前達と一緒にいたい・・・。」

シャンクスは瞳を開けるとそう言って、サンジを見て苦笑する。

「っ・・・・シャンクス・・・・」

マキノも涙を堪えて、二人を見てにっこりと笑った。

ゾロは、そんなサンジたちの様子に、スッと胸のつかえが取れるのを感じた。

シャンクスの屈託のない笑顔が、ゾロにはとても嬉しかった。

「・・・・・じゃあ、俺、車の用意して来ます。」

そう言って部屋を出て行ったゾロをサンジは慌てて呼び止める。

「あっ、ちょっと待って! 俺、父さんの荷物、先に運んどくから・・・。」

「あっ、おい、サンジ?!」

「サンジ君?!」

「いいからいいから。 父さん達は、後からゆっくり来て・・・。 ずっと会ってなかったんだろ?

気を利かせてやってんだから・・・。 父さんの荷物、これだけだよね?」

サンジは自分を呼び止めようとする両親にそう言うと、シャンクスの荷物が入った鞄を持って

部屋を出た。

「・・・・・サンジの奴・・・ませた事を・・・。 ・・・・マキノ、悪かったな、ずっと黙ってて。 俺、

サンジが言うように、お前達が悲しむのを見たくなかった。 いや、本当は・・・・俺の弱さ

を・・・・お前には見せたくなかったのかも知れない。 だんだんと弱っていく俺を・・・・

お前には見せたくなかった。 格好付けだからな、俺は。 でも・・・・・・会いたかった。 

会って・・・・・こうしたかった。 出来るなら・・・・もう一度・・・キス・・・したかったんだ。 

最後に、お前と・・・・」

シャンクスはそう言って、マキノを抱きしめるとそっと口付ける。

お互いに初めて口付けたかのような、甘い感覚が甦ってくる。

「馬鹿・・・。 何年貴方と付き合ったと思っているの? もう絶対に離れないんだから。 

最後まで・・・・一緒にいさせて・・・・」

マキノはそう言ってにっこりと微笑んで、シャンクスの背中に腕を回した。

「ああ。 ・・・・馬鹿だな、俺・・・。 初めから、こうしとけばよかった。」

「良いの・・・間に合ったから・・・・。 ふふ・・・サンジ君に感謝しなくちゃ。 やっぱり、あの子

は貴方の子供ね。」

「・・・・惚れるなよ・・?」

「ふふ・・・もう遅いわ。 ベタ惚れよ。」

「そりゃあ、ヤバいな・・・。 男として負けられないな。」

「ふふ・・・そうね。 貴方の子供だもの・・・。」

シャンクスとマキノは、そう会話して互いの身体を抱き締め合った。










「ゾロ・・・じゃない、ロロノア先生は、知ってたんだね。 あの時、保健室で言ってた言葉は、

これのことだったんだ。 ごめん、俺よりもずっと父さんの事知ってて・・・・それなのに、

俺は・・・・自分のことしか考えられなくて・・・。 けど、もう大丈夫だから。 俺、全部わかっち

ゃったし・・・ゾ・・・ロロノア先生が、俺のこと心配してくれて・・・・・嬉しかったから。 

例えそれが、父さんに頼まれてた事だとしても・・・・・俺・・・・・嬉しかったから・・・・。

ありがとう、ゾ・・・ロロノア先生・・・。」

サンジは、こみあげる涙を必死で堪えて、ゾロを見て微笑む。

『ロロノア先生』・・・サンジの口からそう呼ばれる度に、ゾロの胸にチクンと何かが突き刺さ

る。

自分の言いつけを守るように、無理に自分の名前を先生と置き換えているサンジの姿に愛

おしさが募ってくる。

「・・・・ゾロで良い。 お前は、ゾロと呼んで良いから・・・。」

ゾロはそう言って、サンジを抱きしめた。

サンジは、ゾロを見つめたまま無言で首を横に振る。

「良いんだ、サンジ・・・。 お前は・・・・・良いんだ。」

ゾロは、再度、サンジを見つめてそう言葉を繰り返した。

「っ・・・・・駄目だよ、先生。 そんなこと言ったら、俺・・・・・俺、自惚れちゃうよ。 先生の

言葉・・・・俺だけ特別だって・・・・勘違いするから・・・。」

「サンジ・・・。 特別なんだ。 お前は、特別なんだ、そう・・・初めから・・・・・初めから特別だ

ったんだ。 ・・・・・好きだ、サンジ。」

ゾロの腕からすり抜けようとするサンジの身体を、ゾロは抱きしめる腕に力を込める。

「っ・・・・ゾ・・・ロ・・・? 本当に? 嘘じゃない?」

そう言ったサンジの瞳から、我慢していた涙が溢れて頬を濡らした。

「ああ、嘘じゃない。 この気持ちは、お前にだけ・・・。 けど、俺には・・・・・」

「っ・・・わかってる。 ゾロには、くいなさんがいるもんな。 今更どうにもならないことぐら

い・・・・わかってるから。 あっ、父さん達が来た。 俺、行く、な?」

サンジは、さっと涙をぬぐうとゾロの腕をすり抜け、両親の元に駆け寄った。




そう・・・・・・・・今更、どうしようもない・・・事・・・・。




ゾロとサンジは互いに、はけ口のない切なさを胸に抱え、シャンクスを家に連れ帰る。

翌日、ゾロは、高校の養護教員を辞めた。

シャンクスが、高校にいない以上、ゾロのいる理由もなくなったからだ。

そして、高校には、新しい女性の養護教員がやってきて、ゾロは、マキノにシャンクスの投薬

方法と看護の仕方を教え、大学病院に戻っていった。








それから、1ヶ月が経ったある日。

シャンクスは、サンジとマキノに看取られて、生を終えた。

その表情は、病状からは想像も出来ないほど穏やかで幸せそうな表情であった。

「・・・・サンジ君、ごめん。 今は、シャンクスと二人だけにして・・・。」

「・・・・・うん・・・わかった。」

気丈に微笑んだマキノにサンジはそれだけ言うと、家を出る。

ふらふらと、どこをどう歩いているのかさえ、サンジはわからなかった。

気がつけば・・・・・サンジは、ゾロの家の前に来ていた。 

ただぼーっと立ち竦んでいた。

どれくらい時間が経ったのか、辺りの街灯がつき始めた頃、サンジは、車のクラクションで

我に返る。

「サンジ・・・? 何してるんだ? お母さんについてなくて良いのか?」

車から掛けられた声に、サンジは、ハッとして顔を上げる。

そこには、久しぶりに見るゾロの姿・・・。

「っ・・・・ゾ・・・・ロ・・・・・・・ゾロォ・・・・」

堰を切ったように涙が後から後から溢れてくる。

自分の名を呼び子供のように泣きじゃくるサンジに、ゾロは、車を降り慌てて駆け寄った。

「どうした? 何があった? サンジ?!」

ゾロの問いかけにも、サンジはただ泣きじゃくってシャツを掴むだけ。

「ゾロ! どうしたの?その子? ずっとそこにいたようだけど・・・。」

くいなが、そう言って家から出てきた。

「何時からだ? サンジは、何時からここにいた?」

「えっ?! 確かお昼頃・・・ううん、お昼前だったかも・・・。 けど、別に家に用があるように

も思えなかったし・・・。」

「何で俺に連絡してくれなかった?! サンジだってわかってただろ?!」

ゾロはくいなにきつい口調でそう話す。

「な、なに怒ってんのよ。 あたしだって暇じゃないのよ。 一々気にしてなかったし・・・・。

なんであたしがこんなことであんたに怒られなきゃならないの? おかしいわよ、ゾロ!!」

反対にくいなからそう言われ、ゾロは、自分の気持ちの変化に気がつく。




・・・・・俺は・・・・俺の心は、もう、選んでいる。

くいなではなく・・・・・・サンジを・・・。




「・・・・悪い、くいな。 つい・・・・ごめん。 ・・・・・こいつ、家に送ってくるから・・・。」

ゾロはくいなにそう言うと、サンジを助手席に乗せ、車を走らせた。

「・・・・・・ゾロ。 なんで・・・? あの子が・・・・・どうして、あたしじゃないの? ・・・・酷いよ、

ゾロ・・・。 ずっと・・・・ずっと信じてたのに・・・あたしだけだって・・・。」

くいなは、ゾロの車を見送りながらそう呟く。

くいなもまた、ゾロの気持ちの変化に気がついてしまった。

「けど・・・・・・・・ゾロから言わない限り、あたしは引かない・・・。」

くいなはそう言って、頬に流れる涙を拭うと、何事もなかったかのように家に入っていった。








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<コメント>

お、終わりきれませんでした・・・(懺悔)
次で必ず・・・・・って言わないほうがいいかな・・?(死)
シャンクス、ごめん!往生してくれ・・・(ち〜ん・・!!)
本当、何書いてんの?って感じ。
シャンマキ?ゾロクイナ?
いえいえ、誰がなんと言おうと、ゾロサンです!
ゾ・ロ・サ・ン!!です。(脱兎)