もう一度キスしたかった・・・


その5







「すいません、叔父さん。 診察室、ちょっと借ります。」

自宅に戻ったゾロは、そう家族に声を掛けるとサンジ達を診察室に運ぶ

それから着替えを取りに自室に向かい、サンジに手渡した。

「ほらっ。 もうこれに懲りたら、刃物なんか振り回すんじゃないぜ。 サンジも、無茶するなよ

な。」

ゾロは、そう言いながら、バギーとサンジの傷を診て、的確な処置を行う。

「う、うるせーよ。 てめえが付けた傷だろうが! 礼は言わないからな! ・・・・あばよ。」

ゾロの言葉に、バギーはそう言い返すと、一緒に来たA校の生徒達と家に帰っていった。

「さてと・・・。 もう遅いから、君達は俺が車で送っていくよ。 えっと・・・君は・・・。」

「・・・・・シュライヤだよ、先生。」

「ああ、そう。 シュライヤ君。 君の家は何処だ? サンジ君宅の近くか?」

「いや、俺は、まだ寄るところがあるから・・・・。 サンジ、明日、学校でな。 じゃあ、先生、

サンジのことよろしくな。」

シュライヤはそう言うと、そそくさと医院を出ていった。

「なんだ、あいつ・・・。 遠慮してんのか?」

「それは違うぜ。 あいつ、これからバイトなんだ。 バイトって言っても自分とこバーのなんだ

けどな。 それをあんたには知られたくないんだろ。 俺も、もう一人で帰れるから、送ってく

れなくても良い・・・。」

サンジはそう言って、立ち上がろうとした。

しかし、思ったよりも深く傷ついているのか、上手く歩けない。

「ったく、意地っ張りだな、お前は。 今歩いて帰ると傷口が開いて、一生歩けなくなるかも知

れないぜ?」

「へっ?! 嘘・・・・?」

ゾロの言葉に、サンジはその場で振り向いた。

明らかにサンジは、ゾロの言葉に狼狽えていた。

「ククク・・・本当にお前って、面白い奴だよな。 素直かと思えば、意地っ張りだし・・・。」

ゾロは苦笑しながら、サンジに手を貸す。

「あーっ! てめえ、俺のこと騙したな!!」

素直に狼狽えた事に恥ずかしくなったサンジは、そう言ってゾロに殴りかかろうとした。

「おっと。 嘘は吐いてないさ。 本当に、無理すると歩けなくなる・・・。」

ゾロは難なくサンジの腕を捕ると、その倒れ込んできた身体を支える。

一瞬、互いの視線が重なった。

ドクンと互いの心臓が音をたてた。

ギュッと無意識にサンジはゾロの背中のシャツを掴む。

ゾロは、思わずサンジの身体を抱き締めていた。

「なによ、ゾロ。 帰ったら、ちゃんと顔見せなさいよね。」

そう言って、従妹のくいなが診察室に入ってきた。

ゾロとサンジは、慌てて身体を離す。

くいなは、敏感に二人の間に流れた空気を感じ取った。

「ああ、ごめん。 生徒が怪我してたもんだから。」

ゾロはそう言って、治療に使った薬剤等を片付け始める。

「ふ〜ん・・。 あ、初めまして。 ほら、ゾロ、ちゃんと生徒さんに紹介してよ。」

くいなはそう言って、ゾロのシャツの裾を引っ張った。

その姿にチクンとサンジの胸に棘が刺さる。

「ああ、そうだったな。 こいつ、俺の従妹でくいなと言うんだ。 まぁ、妹みたいなもんだな。」

ゾロはそう言って、くいなの頭を優しく撫でた。

その様子を見ていたサンジの心の中に、ピシッとヒビが入る。

「酷〜い・・・。 妹だなんて・・・・もうすぐ自分の奥さんになる人に言う言葉? せめて婚約者

位言いなさいよね!」

くいなはそう言って、ゾロの胸をぽかぽかと叩いた。

とても幸せそうなくいなの横顔がサンジの瞳に映る。

サンジの中の何かがガラガラと音を立てて砕け散った。

「・・・・・・婚約者・・・・?」

サンジは、ボソリとそう呟く。

「ええ、そうよ。 近々結婚する予定なの。 本当は、とっくに結婚してた筈だったんだけ

ど・・・。 今、彼、色々と忙しくて・・・。」

くいなはそう言って、サンジに、にっこりと微笑んだ。

とても幸せに満ちた・・・・・満面の笑みで・・・・・。

「もう良いだろ。 そんな個人的なこと・・・。 もう遅いから、サンジを送って行くから。 叔父さ

んにそう伝えといて。」

ゾロは、はぐらかすようにそう言うと、サンジを連れて医院を出る。

「うん、わかった。 気を付けてね!!」

くいなはそう言って、二人を見送った。












医院を出て、車に乗り込んでからも、サンジはずっと無言で俯いていた。

「・・・・・どうした? ずっと黙りこくって・・・?」

ゾロは不審に思い、助手席のサンジにそう声を掛ける。

サンジは、その声に弾かれたように、ゾロの方を見た。

ズキンとサンジの胸が痛む。




ああ・・・・そうなんだ・・・・俺・・・。

俺・・・・・・こいつのこと・・・・

・・・・・・最低。

あんな事で、気付かされるなんて・・・

気が付いちゃいけない想いに・・・・

・・・・・・気が付かされてしまった。

俺って・・・・・・恋愛運・・・・・・・・皆無。




「っ・・・・・・・最悪・・・。」

サンジはそう呟くように言うと、顔をゾロから背けた。

こみ上げてくる涙を見られないように、ただただ、助手席の窓の外を見ているフリをし続け

た。

こんな最悪な形で自分の気持ちに気が付かされ、サンジは感情を抑えられない。

生まれて初めて体験する、人を好きになると言うこと・・・。

それが、あんな形で始まって・・・・こんなにひっそりと終わりを遂げるなんて・・・。

早く家に戻って、一人になりたかった。

一人になって、思いっきり泣きたかった。

「はぁ? 何が最悪なんだ?」

サンジの心情を知らないゾロはそう言って、サンジの方を見る。

しかし、サンジからは何も返答はなかった。

・・・・言える訳無い。

一言でも言葉を発せれば、泣いていることがバレてしまうから。

泣いていることがバレたら、その理由も告げなくちゃならなくなる。

自分の中で想っているうちは、まだ良い。

しかし、言葉にしてしまうと・・・・・感情が抑えきれないことをサンジは自覚していた。

いつまでも無言のサンジに、ゾロの方が痺れを切らし始める。

「お前、いい加減にしろよな。 黙ってちゃなんにもわからないだろ!」

ゾロは、途中、路肩に車を停めて、サンジを強引に自分の方へ振り向かせた。

「止め・・・止めろ!! ・・・・・やだ・・・・離せ・・・。」

サンジはゾロから顔を背けたまま、ゾロの腕を必死に手で押し返す。

はらはらとサンジの涙が、ゾロの腕を濡らした。

「・・・・・・お前・・・何で、泣いて・・・・?」

ゾロは、そこまで言って言葉を失う。

必死になって自分に泣き顔を見られまいとするサンジの姿に、ズキンと胸が痛んだ。

理由が何であろうと、泣いているサンジを放ってはおけなかった。

単に、理事長に・・・シャンクスに頼まれたから・・・・そう言ったモノではない・・・・感情。




ああ、そうか・・・俺は・・・

俺がこいつにとまどっていた理由・・・。

何度も・・・・溢れ出てきたこの感情は・・・・

・・・・・俺の気のせいなんかじゃなかった。

今・・・・・はっきりとわかった。

けど・・・・・・・俺には・・・・今の俺には・・・・

それを告げることも出来ない・・・。




自分を実の子供のようにここまで育ててくれた叔父夫婦の期待を裏切るマネは出来ない。

自分の気持ちはどうであれ、すでにゾロの目の前には、確実に医院の後継者としてのレー

ルが敷かれてある。

直に従妹であるくいなと結婚して、正式な叔父夫婦の息子として医院を継いでいく。

それが自分の生きていく道・・・。

頭の中はそう割り切っているつもりなのに、瞳の前のサンジの姿にゾロの感情がついてい

かない。

「泣くな・・・・サンジ。 泣くなよ。」

ゾロはそう言って、サンジを抱き締める。

今度は偶然ではなく、自分の意志として、ゾロはサンジを抱き締めた。

「っ・・・・ゾロ・・・・俺・・・・俺・・・・」

サンジは泣きながらゾロにしがみつく。

「っ・・・・・・ゾロ・・・・俺・・・・俺・・・・ゾロが好き・・・・・・・・なんだ・・・・。」

流れる涙をそのままに、サンジは溢れる想いを言葉にした。

思いがけないサンジの言葉に、ゾロは、抱き締めた腕の力を抜く。

「っ・・・・わかってる。 ゾロは、もうすぐ、くいなさんと結婚するんだもんな。 それより以前

に、俺、男だしさ・・・・。 ごめん、変な事言って・・・・今の言葉・・・・忘れ・・・て・・・・。」

サンジは俯いたままそう言うと、スッとゾロから身体を離した。

「・・・・・・サンジ・・・。」

ゾロは言葉に詰まった。

抱き締めて、自分もそうだとそう告げたいのに、叔父夫婦とくいなの姿が脳裏をよぎって、

身体が思うように動かない。

「いいんだ、ゾロ。 さっ、早く戻らないと、くいなさんが心配するよ・・・。 俺、ここからすぐ近

くだから・・・・歩くな・・・。」

サンジはそう言うと、助手席のドアを開けゆっくりと車から降りた。

少しずつ車から離れていくサンジの背中・・・。

ヘッドライトにキラキラと金色の髪が揺れている。

「サンジ!!」

ゾロはサンジの名を呼び車から降りると、サンジに駆け寄った。

そして・・・・・・その痩躯をもう一度抱き締めて、そっと唇を重ねる。

「サンジ、ごめん。 俺は・・・・」

「ゾロ・・・・? ううん、もう充分・・・・これ以上望んだら・・・・・・罰が当たるよ。」

サンジは、にっこりと笑ってそう言うと、また一人で歩き始めた。

必死で留めていた涙が、またサンジの頬を雫す。

ゾロは無言で、じっとその後ろ姿を見えなくなるまで見つめ続けた。

リリリリリリリ・・・・・

携帯の着信音に、ゾロは慌てて電話を取る。

「あ、はい・・・。 わかりました、すぐに行きます。」

ゾロは電話を切ると、大急ぎでシャンクスが待つ学校へと車を走らせた。









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<コメント>

なんとなく・・・泥沼?!(違うだろ!おい!!)
いや、目一杯そうかも。 色々と障害がある二人ですが・・・。
どうなるんだろ・・??
少しだけ、大詰めに入ってきた予感vv(っておい!)
それでは〜vv