深愛



その5







俺は、アリシアの歌を聴きながら、その店を出て宿屋に向かう。

ゾロは、アリシアを追いかける俺を見て、どう思っただろう。

あいつのあの冷ややかな瞳は、どう言った意味を持つのだろう。

俺は、アリシアに未練があるから、追いかけたわけではなかった。

ただただ、彼女に謝りたかった。

謝って、許しを乞いたかった。

そして・・・・・・・・きちんとけじめを付けたかった。

あの恋は、俺の中で宙に浮いたまま、封じられてしまった。

アリシアもきっと、そう・・・・・・

彼女のために、自分のために、俺は、アリシアと向き合わなければならなかった。

過去の記憶として・・・・未来に進むために・・・・・・

俺とアリシアの時間は、もう、元には戻らないのだから・・・・・・






「・・・・・・まだ、戻ってないのか?」

俺は、そう呟いて、灯りのついてない部屋に入る。

そして、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながら、部屋の灯りをつけた。

「!!!な、なんだよ、脅かしやがって・・・・部屋にいるなら、灯りぐらいつけろよ

な! 全く、こっちが、ビビっちまっただろうが・・・・・・」

部屋の灯りをつけた俺は、あいつがソファに座っているのに初めて気が付いた。

己の気配さえ消して、ただじっと先程のような冷ややかな瞳で俺を見つめる。

「・・・・・・風呂・・・・入ってくる・・・・・・」

俺は、その視線に居たたまれなくなって、顔を背け、風呂に向かった。

その途端、俺は、もの凄い力でベッドに押さえつけられる。

「な、なにを・・・止め・・・んんっ・・」

俺の言葉は、途中で、あいつの唇でかき消された。

息を吐く間もないほどの激しい口付けに俺の頭はクラクラしてきて、後は、どうでもよくなって


きた。

あいつは、シャツのボタンを引きちぎり、慣れた手つきで俺を追い立てる。

それから、前戯もそこそこに俺の中に突き入れた。

「ヒッ・・あ・・・・ああ・・・・」

内部から引き裂かれそうなほどに圧迫感と痛みに身を捩り、俺は、ゾロを受け入れる。

あいつは、無言のまま、激しく俺を揺さぶった。

こんなことは、初めてだった。

一番最初に身体を繋げたときでさえ、ここまで激しく手荒くはなかった。

しかし、あいつの熱に慣れさせられた俺の身体は、次第にその痛みを快感に変える。

結合部分に湧き起こる甘い疼き。

俺は、そのまま快楽に身を委ねた。

「あああっ・・・・っ・・・あ・・・ゾロ・・・・はぁ・・・ん・・・あ・・・・ッロ・・・・」

もう、何も考えられなかった。

俺は、あいつに縋り付いて、嬌声を上げ続ける。

「お前は、俺のモノだ。 誰にも渡さねえ。 覚えておけ・・・・・・俺からお前を奪おうと

する奴は、たとえお前でも容赦しねえ。 裏切りは、許さねえ。 死んでもお前は、

俺のモノだ。」

俺は、薄れゆく意識の中で、押し殺すように言ったあいつの言葉を聞いた。







翌日、俺は、アリシアとの関係をきちんとゾロに話した。

そして、彼女に対し恋愛感情が、すでに無いこと。

そして、自分のため、彼女のために、今夜、彼女と逢う約束をしていることも。

ゾロは、初め難色を示したが、最後は、俺が、彼女に会うことを許してくれた。

「・・・・・気を付けていけ。」

「ああ、先に寝てていいぜ。」

俺は、ゾロの言葉にそう返事して、アリシアの待つあの店へと向かう。

30分ほど、酒と共に彼女の歌を聴き、それから彼女の部屋へ向かった。

「・・・・・・あれから、貴方のことを一日たりとも、忘れたことはなかったわ。 純粋で、

天使のように優しい私の恋人・・・・・忘れられるわけがなかった。 ・・・・・苦しかった

わ。 ・・・・・何度、あのバラティエに貴方の顔を見に行こうとしたことか。 

・・・・・・私は、それさえもできなかった。 怖くて、貴方に拒絶されるのが・・・・・・

死ぬより辛くて・・・・・・けど、もう良いの。 貴方とまた出逢えたんですもの。 

うふふ・・・・あの頃は、本当に、天使のような少年だったのに・・・・・いつの間にか、

男の人になっていたのね・・・・・・」

アリシアは、そう言ってにっこり笑う。

「・・・・・・アリシア。 今日来たのは、俺・・・・・・君に伝えたいことが・・・・・」

「・・・・・良いの・・・・・貴方の顔が見られただけで・・・・・私は、充分。 ・・・・・時間

は・・・・・もう戻らないのね・・・・・・ わかっていたの・・・・・わかっているの。

・・・・・・でも・・・・・お願い・・・・・今日だけで良いの・・・・・今日だけ・・・・・4年前の

あの頃に・・・・・・戻らせて・・・・・・お願い・・・・・・」

アリシアは、俺の言葉を遮って、そう言って涙ぐんだ。

彼女は、俺と違って、この4年間、じっと一人で耐えてきた。

俺が、ゾロと幸せな航海をしていたときも、彼女は一人傷ついて・・・・・・

そう思うと、俺は、彼女を一人置いて帰ることが出来なかった。

ゾロの言葉が頭をよぎる・・・・・けど・・・・・・

どうして俺に、彼女を見捨てることができるだろうか・・・・・・

「・・・・・・わかった。 戻ろう・・・・・・幸せだと信じて疑わなかった、あの頃に・・・・・」

俺はそう言って、彼女を優しく抱き締めた。







「おはよう、サンジ。 私の可愛い天使さん・・・・・」

朝日が射し込む部屋で、アリシアはそう言って俺の顔を覗き込む。

「ああ・・・・・おはよう、アリシア・・・・・」

本当に、時が4年前に戻ったような錯覚さえ覚えて、俺は、ゆっくりとベッドから起きあがっ

た。

「・・・・・・昨日は、本当にありがとう。 嬉しかったわ。 ・・・・・これでやっと貴方に、

本当のさよならが言えるわ。 ・・・・・幸せになってね。 私も、貴方に負けないように

幸せになるから。 さっ、朝食の用意は出来てるわ。 うふふ、貴方には敵わないけ

ど、昔よりは、食べられると思うわよ。」

アリシアはそう言って、にっこりと微笑む。

俺は、その微笑みを見て、自分の決断に間違いはなかったとそう思えた。

俺は、アリシアと最後の朝食を取って、彼女の部屋を後にした。

宿に戻ると、ゾロは、もう部屋にはいなかった。

たぶん、昨夜、俺が何をしていたか、勘のいいあいつなら、もうわかったはずだ。

きっと俺は・・・・・・あいつに・・・・・・・・

あの言葉の通りに・・・・・・

・・・・・けど、俺は、後悔はしてねえ・・・・・・

それに・・・・・・あいつの手に掛かるのなら、それも、本望だ。




俺があいつにやれるものがあるのなら・・・・・・・・この命だってくれてやる。

それしか・・・・・・・俺には、やれるもんねえから・・・・・・・




俺は、覚悟を決めて、あいつが待つ船へと歩いていった。

船には、あいつ以外、まだ誰も、戻っては来てなかった。

きっと、戻って来れなかったんだろう。

あいつが、キッチンから放つこの強烈な殺気のせいで・・・・・

俺は、戻ってきたことを知らせるために、わざと靴音を響かせて、キッチンに入る。

あいつは、黙ったまま、キッチンの壁に寄りかかって、俺を睨み付けた。

「・・・・・わりい、飯、食ってねえよな・・・・・今、作る・・・・・」

ピント張りつめた空気と、ひしひしと伝わる殺気の中で、俺はいつものようにあいつに声を掛

け、シンクに向かった。

「・・・・・・・抱いたのか、あの女・・・・・」

ボソリと呟くように聞こえたあいつの声・・・・・

抑揚のない冷たい声・・・・・

「ああ、抱いた。」

俺は、振り向かないままそう言って、シンクに向かう足を止めて、タバコに火を点ける。

ガシャーーンッ!!

もの凄い音と共にシンクに向かって投げつけられたイスが、俺の髪を掠めた。

「うわっ!! てめえ、あぶねえだろ!!」

俺はそう言って、初めてあいつの顔を見る。

「・・・・・・・てめえは、俺が、許さねえとわかってて・・・・・それでも・・・・俺を裏切った

のか・・・・・・」

絞り出すようなあいつの声と、傷ついた表情を浮かべるあいつの顔・・・・・




・・・・・・ごめん・・・・・・・俺が、そんな顔・・・・・させちまった・・・・・・




「ああ、そうだ。」

俺はタバコをもみ消しながら、平然とあいつに告げる。

「・・・・殺る!! ・・・・・・望み通りに、殺ってやるよ・・・・・・」

あいつは、冷ややかに笑いを浮かべて、和道一文字を抜いた。

「はっ、てめえに、殺られるほど、俺は、落ちぶれてねえんだよ!」

俺は、最後の悪態を付く。

「・・・・・・言ってろ・・・・・・・」

あいつはそう言ってニヤリと笑う・・・・・・

・・・・・・そう、俺が一番好きな好戦的なあの瞳で・・・・・・

ゾクッと背中に甘い痺れが走る。

最後まで、俺は、あの瞳に捕らわれる。




・・・・・・・この命・・・・・・てめえにくれてやる・・・・・・・




「かかってこいよ!!」

俺はそう言って、ポケットに手を突っ込んで、戦闘態勢に入る。

数秒後、ゾロが、俺の目の前に迫って、俺の頭上で、和道一文字を振り上げた。




・・・・・・ゾロ・・・・・・せめて暫くは・・・・俺のこと・・・・忘れんなよ・・・・・・




「・・・・・さよなら、だ。」

刀が、頭上から振り下ろされる瞬間、俺は、笑顔でそう呟いて、あいつに背中を向けた。














チリッと肩に痛みが走る。

しかし、一向に背中に走る痛みが来ない。

俺は、不思議に思って顔だけ振り向いた。

そこには、青ざめたあいつの顔があった。

和道一文字は、俺の肩口でぴったりと止まっている。

「・・・んでだよ・・・・・・・なんで笑うんだよ・・・・・・・なんで・・・・・・抵抗・・・・しねえ

んだよ・・・・・なんで、言い訳しねえんだよ・・・・・・」

あいつは、震える声でそう呟いた。




・・・・・・・・チッ。 せめて、背中から斬られて、綺麗な死に方をしたかったのに・・・・・

・・・・・・・それくらい、させてくれてもいいだろう・・・・・・

・・・・・・ったく、最後の最後まで世話掛けさせやがって・・・・・・

・・・・・最後まで、俺に悪態つかせんじゃねえよ・・・・・



「抵抗しねえ奴は、斬れねえってか? たいした武士道だぜ。 じゃあ、やってやる

よ。 けどな、やるからには、徹底してやるからな。 せいぜい、返り討ちにあわねえ

ようにするんだなっ!」

俺は、わざと蔑んだ瞳であいつを見下して、あいつに蹴りを繰り出す。

あいつは、防戦一方で、全然俺を殺ろうとしない。

このままうやむやに済ませて、ギクシャクして別れるのだけは我慢できなかった。

別れるぐらいなら、ゾロに殺られるほうが良かった。

もう、あいつの傍でしか・・・・・・・生きられねえから・・・・・・

「おらおら、どうした? 俺を殺るんじゃなかったのか??」

俺は、そう言いながら立て続けに蹴りを繰り出した。

あいつの顔が、涙でにじんで見えなかった。

心が悲鳴を上げていた。

悪態を付く仮面が・・・・・・今にも取れそうだった。




・・・・・ゾロ・・・・・・・ゾロ・・・・・・ゾロ・・・・・・・・・

・・・・・愛してる・・・・・・・ずっとずっと・・・・・・愛してる・・・・・・・











  
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<コメント>

またまたサンジサイドでお送りしました。
けど・・・・・・クライマックスなのに、尻切れトンボ・・・・・(-_-;)
次回で、終わる??予定です。
アリシアとサンジが、実際にしたのかどうかは、ご想像にお任せします。
ゾロサンオンリーの人には、嫌な展開だったかも。
けど、どうしてもはずせない展開だったんです。申し訳ない!!
けど、このサンジって・・・・・乙女??やさぐれ?? なに??(笑)
次・・・・・今度は、ゾロサイドに転換してお届け予定です。
では★