深愛



その4







「お〜い。 島だ!! 島が見えるぞーっ!!」

見張り台にいたウソップが、他のクルーに大声で叫んだ。

一斉に、皆、甲板に出て、目的の島を眺める。

約1ヶ月ぶりの陸地に、皆、浮き浮きと落ち着かない。

ルフィは、今すぐにでも飛び出していきそうな勢いだ。

「よし! 予定通りね。 サンジ君、上陸の準備と、買い出し、よろしくね。 街の規模

はそんなには大きくないと思うけど、食料を調達するには、事足りるはずだから。 

ログが貯まるまで3日間の猶予があるわ。 海軍もいないはずだから・・・・皆で、宿を

取りましょう。 但し、宿泊代は、貸しよ。 さあ、わかったら、上陸の準備、皆よろしく

ねvv」

テラスで、ナミさんが皆にそう指示を出す。

「は〜いvv ナミさん、任せといて下さい。」

俺はそう言って、再度、買い出しリストに記入漏れがないかを確認に倉庫へと向かう。

皆、船が港に着く間、上陸準備に追われてる。

やはり、海賊になろうと、陸地は・・・・恋しいものらしい。

「・・・・・いもは・・・・4箱・・・・いや、6箱にしとこう。 あと、肉と・・・香辛料と・・・・・

なんか目新しい食材が有ると良いんだけど、な・・・・」

俺は、倉庫でブツブツと呟きながら、メモを取る。

不意に、背後に視線を感じた。

じっと、心まで見透かされそうになるくらい鋭い視線・・・・・

その気配だけで、あいつだとわかる自分に苦笑しながら、俺は、振り向きもせず、あいつに

言う。

「・・・・・何か用か? 今、忙しいんだ、後にしてくれ・・・・」

「・・・・いや・・・・・別に。」

コツコツと近づく足音。

そう言いながら、ゆっくりと近づいて来る気配に、俺の心臓は、早鐘のように鳴り響く。

そして、背中に感じるあいつの体温と腰に廻された腕。

「・・・・・買い出し・・・・一緒に行くか・・・・」

「ああ、頼む。 ・・・・・後で、呼びに行くから・・・・」

俺は、耳元で囁かれたあいつの言葉にドキドキしながらも、平静を装ってあいつにそう告げ

る。

「・・・クク・・・・じゃあ、船尾で待ってる・・・・」

あいつは、笑いを噛み殺した声でそう言って、一瞬だけ耳朶を噛んで、倉庫を出ていった。

「・・・・・はぁ・・・・・なんだって、俺ばっか・・・・・」

俺は、そう言ってため息を吐く。

あいつは、いつも冷静で・・・・・・俺だけが、あいつの言動に振り回されて・・・・

意識して・・・・・ドキドキして・・・・・





発せられた言葉一つで、こんなにドキドキする俺を・・・・・あいつは知っているんだろうか。

触れられる温かさに縋り付いてしまいそうになる俺を・・・・・あいつは知っているのだろうか。



俺が、倉庫から出てきた頃には、すでに、ルフィの姿はなく、皆、各自自分の荷物を持って

船を下り始めていた。

「サンジ君、はい、これ。 宿泊代も一緒に入ってるから、お願いね。 あとで、宿で

合流しましょう。 じゃあ、ねvv」

ナミさんは、そう言って俺に金と宿までの簡単な地図を渡してくれた。

「いってらっしゃい、じゃあ、後で! ・・・・・・さてと、起こしに行くか・・・・」

俺はそう言うと、あいつが待つ船尾へと向かう。

「・・・・・おい、起きろよ、クソ剣士・・・・・もう皆、行っちまったぞ。 買い出し、付き合

ってくれんだろ? 起きねえなら、置いてくぜ。」

俺は、あいつの腹巻きに片足を乗せ、そう言った。

「・・・・・皆、出ていったのか?」

「ああ、俺達が最後だ。 ほら、いくぜ。」

「ああ・・・」

そして、俺達も、船を下りて街に向かった。

















+++++++++++++++++



買い出しも無事済んで、俺達は、他のクルー達が待つ宿へと向かう。

「明後日の昼に、出航するわ。 それまでは、自由行動よ。 あっ、サンジ君、さっき

雰囲気の良い店を見つけたの。 あたし、これからそこ行くんだけど、ちょっと、

一緒に行ってみない?」

宿に着いたら、丁度、ナミさんが、出掛けるところだった。

「あ、はいはいvv 何処にでもお供させていただきますvv なあ、てめえも行くだ

ろ?」

俺は、二つ返事でナミさんにそう言って、ゾロを見る。

あいつの顔には、ありありと不機嫌さが滲み出ていた。

「あら? 行きたくないんだったら、あんたは、行かなくても良いわよ。 あたしと

サンジ君の2人で行くから。 あんたいると、酒代もかかるし、ね。 こんな奴、

放っといて行きましょvv」

ナミさんはそう言うと、宿を出ていく。

「・・・・誰も、行かねえって言ってねえだろ。」

ナミさんの言葉に、あいつは、ムスッとした表情のまま、呟くようにそう言うと、俺達と一緒

に、その店へと向かった。

その店は、ナミさんが言うように、小じゃれた雰囲気の店だった。

俺達は、その店の名物料理のコースを注文し、酒を飲んだ。

酒も料理もまあまあで、俺は、少し気分が良くなっていた。

「ねえ、サンジ君。 もしも、自分の恋人が浮気したら、どうする?」

「へ? お、俺ですか? あ、あの・・・・・恋人が、ですか・・・・・・」

いきなりなナミさんの質問に、俺は、ドキリとした。

「うふふ・・・ちゃんと正直に答えてねvv」

ナミさんは、そう言うとにっこり俺に笑いかける。

俺は、今までの経験上、この笑顔が、一番強力であることを知っていた。

「え、あ・・・・・俺は・・・・・・まず、こ、恋人に本気かどうか、聞いてみます。」

俺は、恋人と言うフレーズに、あいつを意識してどもってしまった。

つい、瞳が、あいつを見てしまう。


「・・・・っで、その後は??」




・・・・・ナミさん・・・・勘弁してよ・・・・・




「・・・・・本気じゃなかったら、一、一度だけなら許すか、な・・・・・・ 本気だった

ら・・・・・そいつの幸せを考えて・・・・・・・身を引きます。」

「ふ〜ん。 なんだ、つまんない。 サンジ君らしい答えよね・・・・・・ じゃあ、同じ質

問。 あんたは、どうするの?」

ナミさんは、今度は、ゾロに同じ質問をする。

「俺か? 俺は・・・・・・殺る。 ・・・・・・・浮気だろうが、本気だろうが、絶対に許さね

え。 裏切ったら、その時点で、相手もろとも叩き斬ってやる。」

そう言い切ったあいつと俺は、瞳が合ってしまった。

じっと鋭い視線で俺を見るあいつに・・・・・俺は、背筋にゾッとするモノを感じた。

「嫌ねえ・・・・・これだから、魔獣なんて言われるのよ。 こんな奴、恋人なんかにす

る人の気が知れないわ。 ・・・・・ご愁傷様、サンジ君・・・・・」

ナミさんは、呆れた顔でゾロを見てそう言うと、チラリと俺に同情の瞳を向ける。

「ナ、ナミさん、何言って・・・・・・」

「・・・・・サンジ君、今更、でしょ?」

慌てて否定しようとした俺の言葉をナミさんは、にっこりと笑ってそう言った。




・・・・・・いつから???

・・・・・ナミさん、いつから、俺達のこと????




ナミさんにばれていたと言うことで、俺は、一人で狼狽える。

「ククク・・・・・青くなったり、赤くなったり、忙しい奴だな・・・・」

あいつは、平然とそう言って苦笑した。

「な、ば・・・・・てめえは、なんでそんなに冷静でいられるんだ? ナミさんにばれてる

の、知ってやがったのか??」

俺は、一人狼狽えたのが恥ずかしくて、ゾロが平然としていたのがしゃくに障って、そう言っ

てあいつに食ってかかった。

「当たり前でしょ、サンジ君。 あなただけよ、ばれてないって思ってるの。 サンジ君

は知らなかったでしょうけど、こいつ、サンジ君に近寄る者に対して、あらかさまに

牽制してたんだから。 ・・・・最近、チョッパーもウソップも、以前みたいに頼み事とか

しなくなったでしょ? 全部、こいつが、睨み利かせて、遠慮させてたのよ。 ったく、

嫉妬深い男に、惚れられたモノね。」

ナミさんは、そう言ってゾロを睨み付ける。

「・・・だったら、てめえも、少しは、遠慮しろよな・・・・」

ゾロは、そう言うと逆にナミさんに鋭い視線を返した。


ちょうど、その時だった。

あのフレーズが、ピアノの曲に乗って流れてきたのは・・・・・・

・・・・・そう、以前、彼女が俺に歌ってくれた・・・・・あのラブソング・・・・

俺は、気が付いたら、ピアノに向かって駆け出していた。

そして・・・・・演奏者の顔をじっと見つめた。

「・・・・・・サ・・・ンジ?・・・・・・・」

先に言葉を発したのは、彼女だった。

「・・・・・・アリ・・・シア・・・・・」

俺は、4年ぶりに彼女の名を呼んだ。

4年ぶりに見た彼女は、あの時と変わらず・・・・・・・・長い前髪で隠された左頬の傷がなけ

れば、以前と変わらず、いや、以前にも増して綺麗で妖艶だった。

彼女は、俺の声にはじかれたように、店を飛び出していく。

俺は・・・・・・追いかけずにはいられなかった。

途中、ナミさんの声とゾロの冷ややかな視線に気が付いたが・・・・・俺は、そのまま彼女を

追って店をあとにした。










「アリシア!! 待って!! 待ってくれ!!」

俺は彼女の名を呼びながら、追いかける。

「いや、来ないで!! 来ないで、サンジ!! 私はもう、あの時の私じゃない

の!!」

アリシアは、そう言って走っていく。

俺は懸命に彼女を追いかけて、腕を掴んだ。

「いや・・・・・見ないで・・・・・・・お願い・・・・・・お願いだから・・・・・・こんなに醜

い・・・・・・私を・・・・・・見ない・・・・で・・・・・・」

彼女はそう言って泣き崩れた。

「君は・・・・・・君は、全然醜くなんかない。 昔とちっとも変わらない。 いいや、それ

よりも綺麗になった。 ・・・・・この傷は、俺のせい。 ・・・・・俺が、ガキだったばっか

りに、君を守ってやれなかった。 ・・・・・・だから、醜いなんて言わないで。 

・・・・・・俺から、逃げないで・・・・ ・・・・・・全ては、俺のせい。 君に甘えてばかり

だった・・・・俺の・・・・せい・・・だから・・・・」

俺は、そう言って、アリシアを抱き締める。

「ッ・・・・・・サンジ・・・・・・・サンジ・・・・・・」

アリシアは、俺の名を呼んで、俺にしがみついて泣いた。

「・・・・・・ごめん。 アリシア・・・・・本当に・・・・ごめん。 ・・・・・俺、ずっと気になっ

ていた。 君にずっと謝りたかった。 ・・・・・・ごめん、アリシア・・・・・・」

「ううん・・・・私が・・・・・・勇気がなかったの。 ・・・・・・医者から一生治らないと言

われて・・・・どうしても・・・・・・貴方の前に・・・・・・この顔で・・・・・・この顔を・・・・

見せる勇気が・・・・・なかったの。 貴方が・・・・・・私の前から去っていくのが・・・・・

怖くて・・・・・・自分から・・・・・・逃げたの・・・・・・」

謝り続ける俺に、アリシアはそう言って、4年前と変わらない笑顔で、俺に微笑んだ。

それから、俺とアリシアは、さっきの店に戻った。









店に戻ると、ナミさんとゾロの姿は、もうなかった。

「・・・・・・・明日、もう一度、会ってくれる?」

「ああ・・・・・明日も、会いに来るから・・・・・・」

「・・・・・じゃあ、11時に、ここで・・・・・・・」

彼女は、ピアノの前で俺にそう言って、あのラブソングを弾き語りで歌う。

・・・・・・4年前と変わらないハスキーで魅力的な声で・・・・・・・





「・・・Believe in your eyes, I feel so・・・・couse I love you・・・・・・・・」









  
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<コメント>

今回は、またサンジサイドに戻ってお送りしました。
この壁紙同様、ず〜んとした感じになって・・・・・
はっはっは・・・・・・いやあ、暗い、暗い。
ゾロ・・・・・マジで、怖い。 そこまで惚れられてみたいとは思うけど・・・
サンジに悪いので、遠慮させていただきます。(笑)
そろそろクライマックスかな??・・・・・と思ってはいます。
けど、次で終われるかどうかは・・・・・・あはは・・・です。