「・・・・・これ以上このままの状態で、お前とは、付き合えない。 ・・・・・お前は、絶
対に、俺だけのものには、ならないから・・・・ そうとわかって、これ以上割り切って
付き合えるほど、俺は、大人じゃねえ。 ・・・・お前が、選べ・・・・・・俺と共に来る
か。 ・・・・・それとも、あいつとここで、暮らすのか。 ・・・・お前が、もし、俺を選ぶ
なら、俺は、生ある限りお前と共に、居ることを誓おう。決して裕福で平穏には暮らせ
ないかも知れないけど、俺が、絶対に、守ってやる。 絶対に、一人にはしねえ・・・」そう言ったのは、16歳の俺。
「・・・・・・・私は・・・・・・私は・・・・貴方を・・・選べ・・・・ない・・・・・私は・・・・・あの
人を・・・・一人には・・・・・できない。 ・・・・・・愛しているの・・・・貴方と同じくらい
に・・・・・・あの人のことも・・・・・・父親のように・・・・兄弟のように・・・・・あの人のこ
とを・・・・・・愛しているの・・・・だから・・・・・・貴方には・・・・貴方の側には・・・・・・
いられない。 けど、これだけは、信じて・・・・・貴方が好き・・・・・誰よりも・・・・貴方
以外に・・・・・焦がれるこの気持ちは・・・・・・生まれてから一度も・・・・・持ったこと
はなかった・・・・・あんなに情熱的に・・・・・焦がれたことは・・・・・・一度も・・・・・な
かった・・・・」
そして、そう答えたのは、20歳の・・・・・俺の恋人だった人。
泣きながら、震える声でそう言って・・・・・・・・・・・・・・・・にっこりと最後に笑った。
16歳の俺は、やっぱり、その日暮らしにも事欠く有様で、汚いなりで、道ばたにしゃがみ込
んでいるのを、彼女に拾われた。
初対面の人に俺がついていったこと自体、それは、運命だとしか思えなかった。
彼女は、とてもさばさばしていて、恋人というよりかは、家族に似た感情をしか、初めは持た
なかった。
子供のように純粋で、嘘が大嫌いで、明るくて、誰からも好かれる、そんな人だった。
彼女には、一緒に住んでいた男が居た。
男は、商人で、彼女とは、10歳も離れていた。
とても気のいい人で、得体の知れない俺を、喜んで住まわせてくれた。
彼女たちに子供は居なかった。
俺は、道場以来の人の温かさに触れて、なかなか、そこを離れるきっかけを掴めないで居
た。
それくらい、その家は、暖かく、俺は、殺伐と生きていた自分が、嘘のように思えた。
それが、変化したのは、商人の失踪・・・・・
いきなりの主人の失踪に、彼女は、失踪前と変わらぬ様に、振る舞っていた。
すぐに帰ってくると、周りの人には、言い続けて・・・・・
俺も、あの夜までは、気が付かなかったぐらい・・・・毅然とした人だった。
その夜、たまたま、喉が渇いたので、深夜のキッチンに向かった。
そこには、彼女が、小刻みに身体を震わせて、テーブルに座る姿があった。
じっと瞳を閉じて、人差し指を噛んで、声を漏らさないように泣き続けていた。
俺は、その姿を見て、居ても立っても居られなくて、次の瞬間、彼女を抱き締めていた。
余程、精神的に堪えていたのか、彼女の身体は細く、俺の身体にすっぽりと入り込むほど
痩せていて、俺は、生まれて初めて、人を守りたいと、そう思った。
俺達は、そのまま一夜を過ごし、彼女は、俺の恋人になった。
それでも、俺には、野望があるから、いつまでもそこには、留まっていられなかった。
彼女は、俺に何処までもついていくと言った。
待たせるぐらいなら、ここで殺せと俺に言った。
もう、待つつらさは味わいたくないと・・・・死の瞬間まで貴方が側にいれば、それで幸せなの
だと、俺に告げた。
しかし、旅立ちの2日前・・・・主人が、満身創痍で、帰ってきた。
それは、失踪してから2ヶ月経ったところだった。
俺は、彼女の中で、まだ、商人に対する愛情が消えてないことを知っていた。
このまま、俺に付き合って、街をさすらうように生きるよりも、商人とここに留まって暮らす方
が、彼女にとって幸せな生き方と言うことも、わかっていた。
だから、俺は、敢えて彼女に選ばせた。
きちんと別れられるように・・・・・すっぱりと、過去として断ち切らせるように・・・・・・
そして、俺自身、悔いの無いように、自分の気持ちを言葉として彼女に伝えたかった。
この言葉に嘘はなかった。
もし、俺を選ぶなら、俺は、生ある限りお前と共に、居ることを誓おう。
決して裕福で平穏には暮らせないかも知れないけど、俺が、絶対に、守ってやる。
絶対に、一人にはしねえ・・・・
・・・・・・なんで、今頃、こんな夢を見たんだろう・・・・
・・・・・・過去は、全て切り捨てたはずなのに・・・・
・・・・・・あの人のことは、全て忘れ去ったはずなのに・・・・
俺は、肩にかかる金色の髪を手で鋤きながら、ふと先程の夢を思い出す。
あれは、俺の過去の想い出。
懐かしさよりも苦しさと切なさに苦しんだ俺の想い出。
もう、あんなに愛する人は出来ないと、そう思っていた・・・・
あれ以上愛することが出来るなんて出来ないと、そう思っていた・・・・過去の記憶。
苦しくて、切なくて、二度と同じ思いはしたくないと、頑なまでに深入りすることをを避け続け
たというのに・・・・・
この腕の中で眠る恋人は、その痩躯と同じように、すっぽりと俺の心にも入り込んで、いつの
間にか、かけがえのない者へと変わっていった。
・・・・もし、あの時と同じ様な事が起きたら・・・・・
・・・・俺は、こいつに同じように、選択させるのだろうか・・・・
・・・・もう・・・・離せない・・・・離さない・・・・・
・・・・それでも、こいつが、俺から離れるというのなら・・・・
・・・・俺が、こいつを永遠に、俺から離れることのない様に・・・・
・・・・もの言わぬ骸に変えてやろう・・・・・
・・・・永遠に離れることのない様に・・・・
・・・・その骸だけを抱いて、俺は・・・・歩き続けよう・・・・
「俺から離れるな・・・・・俺を裏切るな・・・・・俺にお前を・・・・・殺らせるな・・・・」
俺は、そう呟いて、金色の髪にそっと、口付ける。
永遠にその日が来ないことを祈りながら・・・・・
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