LOVE DECLARATION


その2.



 




それから船は順調にサンドラ川を遡り、クルー達は砂漠に入り、一路、反乱軍の拠点ユバに

向かう。




クソッ!

もやもやして、すっきりしねえ。

あー・・・・・触りてえ。

もう何日触れてねえんだ・・・・・四日?いや、もっとか・・・?




瞳の前を歩くサンジの金色の髪を眺めながら、ゾロは悶々として歩いていた。

船を降りて砂漠に入ってからと言うもの、サンジに触れる機会が全くといってない。

唯一、二人きりになれた夜も、野宿続きでそんな事する場所も無く・・・

昼間も恥ずかしがって人目を気にするサンジは必要以外、ゾロに近づく事は無かった。

まぁ、内乱を止めると言う目的の為に訪れた場所だから、そんな事に現を抜かしてる場合じゃ

無い事は、ゾロも渋々わかってるつもりでいたのだが・・・。

この昼間、瞳の前で繰り広げられる光景が、ゾロに焦燥感を与え続けているのだ。

「オイ、荷物、持ってやろうか?」

「あ? 大丈夫だ、エース。 気遣いは無用だぜ。」

「そうか? けど、無理はするなよ。 お前は昔っから、意地っ張りだからな。」

そう会話してにっこりと笑い、サンジの金色の髪をクシャッと撫でるエース。

「ったく、いつまでもガキ扱いするなよな。 あれからどれ位経ってると思うんだよ・・。」

サンジの方もムスッとしながらも、その手を振り払おうとはしない。




気安く、触るんじゃねえよ!!




ゾロの不機嫌度が、一気に上がる。

それがわかるのは、隣にいるウソップのみ。

パキッパキッと先程から、ゾロの拳の音がしている。




ヒーッ!!

ダメだ、俺・・・。

ここでゾロに担がれたら・・・・・俺・・・・

俺、骨ボキボキに・・・・殺される。

頑張れ、俺・・・。




そう思い、必死になって歩くウソップの心情をクルー達は知らない。

「フン、手助けがいるほど、そいつはそんな柔な奴じゃねえよ。」

サンジとエースの間にそう言って、ゾロが割って入った。

「クク・・・まぁな。 けど・・・・てめえには、俺を気遣うって優しさはねえのかよ!!」

「ハン、気遣って欲しいのか?」

「べ、別にそうは言ってねえ!!」

そう言って久しぶりに小競り合いを始めたサンジとゾロに、ナミの拳が上がる。

バキッ!! ドカッ!!

「あー、ウザい!! あんた達!! この暑さだけでもイライラするのに、止めてよ

ね!! ほら、さっさと行くわよ!!」

ナミはそう言うとマツゲに戻って行った。

「ククク・・・・ほら、立てるか?」

極自然に、エースがそう言ってサンジに腕を伸ばす。

「ああ、平気だ。 いつもの事だし・・・。」

サンジもその手をとり、サッと立ち上がった。

「・・・・・・しっかし、昔からだが、相変わらず細っこいなぁ、お前は・・・。 ほれ、腰なん

かこんなに細い・・・・」

エースは、立ち上がったサンジの腰に腕を回し、そう言って笑う。

その様子を直視して、ゾロは呆然と凍りついた。

「ばっか、気安く触んじゃねえよ! 暑苦しいんだよ!」

「ヘイヘイ・・・。」

サッと振り上げたサンジの脚をエースは事も無げにスッと避けて苦笑している。

その立場は今まで自分だった筈なのに、いつの間にかエースに代わっていて、ゾロの不機嫌

さは増す一方。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むかつく。」

そうボソリと呟かれたゾロの低い声に、ウソップは恐怖のあまり気を失う。

「あー?ウソップ、大丈夫か? 暑さにやられたんだな。 オイ、ゾロ、ウソップを頼

む。」

そう言ったサンジの言葉がウソップの耳に微かに届いた。

「ああ、わかった。」

そう言って、ゾロがウソップを肩に担ぎ上げる。




違うんだ、サンジ・・・・。

・・・・・・・・違うぜ。

暑さもあんだがな・・・・・・・それ以上に・・・・・・




ウソップの心の呟きは、サンジに聞こえる事は無かった。





その夜。

「クソッ! ・・・・・・・眠れねえ。」

昼間の事が原因で、ゾロはなかなか寝付けずにいた。

瞳を閉じれば、艶を帯びて自分を誘うサンジの姿ばかりがちらついて・・・。

夜ともなれば、灼熱の砂漠も嘘のようにひんやりと人肌恋しくなる。

ふと、何気なくクルー達に瞳を向ければ、元凶であるサンジの姿が見当たらない。

そして、エースの姿も。

「まさか、な・・・。」

ゾロは頭で否定しながらも、急ぎ立ち上がる。

少し離れたところに煙が見えた。

ゾロは、気配を消してその場所に移動した。

「・・・・本当、びっくりしたぜ。 まさか、てめえがルフィの兄ちゃんだったとはな。 

いやぁ、世間は広いようで狭いよな、本当。」

「ああ、俺も、ナノハナでお前の姿見かけたときは、幻かってそう思ったぜ。 お前は、

あの店から出ることはねえって、そう思ってたから・・・。」

明日の食事の下ごしらえをしているのか、サンジは食材に火を通しながら、エースと火の回り

に座り込んで楽しそうに会話している。

その雰囲気が、ゾロに声をかけることを躊躇させた。

「・・・・・・・なぁ、俺と一緒に来る気はねえか? 白髭海賊団に入らねえか。 オール

ブルー・・・・俺が、連れて行ってやるぜ。」

スッと、エースがサンジの髪を撫でる。

「あ? ・・・・・・・そうだな。 てめえんとこの海賊団ならすぐにでも見つけられそうだし

な・・・・・」

サンジはそう言って、エースににっこりと笑いかけた。

いつものクルー達に向ける優しい人懐こい笑顔で・・・・。

ゾロに衝撃が走る。




・・・・・・・・嘘・・・・・だろ・・・?

なに言ってやがんだ・・・?

・・・・・・・・船、降りると・・・・・・あいつ・・・・・

そう言う意味なのか・・・?

そう言ったのか・・・?




ゾロは、全身に冷や水を浴びせられたような気がした。

感情に任せて、刀を振り上げそうになる。

瞳の前に見える一切のものを滅してしまいたい衝動に駆られた。

と、同時に込み上げる悔しさ。




あいつは・・・・・・・あいつは、俺と離れても平気なのか・・・?




たぶん、サンジの選択は間違っていないと思う。

自分達と旅を続けるより、白髭とエースと共に旅をした方が、その情報力、戦力、影響力、

どれをとっても、サンジの夢を叶えるには、最短且つ安全で済むだろう。

しかし、それでもゾロは、一緒に旅をしたかった。

一緒にいたかった。

せめて、野望が叶うその日まで・・・・・一緒に・・・・。

そして、一緒に見届けたかった、その瞬間を・・・。

サンジもそうだと思っていた。

別に未来の約束など交わした事は無い。

それでも・・・・・・・・自分と同じだと、ゾロはそう思っていた。

サンジのその言葉を聞くまでは・・・・・。

ゾロは、黙ってその場を離れていく。

これ以上、見ているには、精神が保てなかった。

湧き上がる激情を抑える術が見つけられなかった。












「・・・・なんてな。 とってもいい話だとは思うけどよ、俺・・・・・・もう一つ、夢、見つけ

ちまったんだ。 それはさ・・・・・俺が努力したところでどうにもならないんだけどよ。 

俺・・・・・決めたんだ。 その為に、俺は・・・・・・・・あの店を旅立ったんだ。 その夢

の為に・・・・。」

ニコニコと満面の笑みで、サンジはエースにそう言葉を続けた。

「ふ〜ん・・・・。 そうか・・・・・残念だな、本当。 俺・・・・お前の作る飯、凄く好きで

さ。 できるなら、ずっと食べたかったんだよなぁ。 いやぁ、残念、残念・・・。」

「飯目当てかよ!!」

エースの言葉に、間髪入れずサンジはそうツッコミをいれる。

フッと、エースが口角を上げた。

「ああ。 お前は・・・・・・・・・もう無理なようだから。」

「??エー・・・・ス・・・?」

急に真面目な表情になったエースにサンジはキョトンとして見返す。

柔らかな笑みを浮かべ、エースはサンジの頬に手を伸ばした。

「・・・・・・・さっきな、ここにあいつが来てたぞ。 ロロノア・ゾロだっけか? 凄い殺気

抱えて・・・・どっか行っちまったがな。 教えようかどうか迷ったんだが、俺、良い人だ

から。 お前の幸せ、ぶち壊せなかった。 行けよ。 あいつ、絶対勘違いしてるぜ? 

お前が俺と白髭海賊団に行くってな・・・。」

エースはそう言って苦笑する。

「えっ?! 嘘・・・・・・」

サンジは、慌てて立ち上がると辺りを見渡した。

しかし、それらしき影は見えない。

「・・・・・あの馬鹿・・・。 サンキュー、エース。」

サンジはそう言って、その場を駆け出した。

「おう! 手遅れだったら、俺んとこ、来いよーっ!!」

エースはサンジの背中にそう言って、深く帽子を被り直す。

「・・・・・・・本当、俺って・・・・・・良い人。」

そう呟いて、消えそうな残り火に炎をくべた。












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<コメント>

エース・・・・兄ちゃんは良い人です!
その一言に尽きますね☆
今回の犠牲者は、またしてもウソップ君です。
ところどころ原作と違う箇所はありますが、それはご愛嬌と言う事で☆
ああ、本当は今回でアラバスタ迄入りたかったのですが、無理かなぁ。(ぼそ)
さて、後1ページ・・・・・何処まで進めるかしらん?(笑)