翌日、サンジは、いつものように、学校に向かった。
教室では、相変わらず、ゾロの周りで、楽しそうな声が聞こえていた。「おはよう、ゾロ。」
サンジは、ゾロにそう言って声を掛ける。
「ん・・・ああ・・・・でな、・・・・今度の休みなんだけどよ・・・」
ゾロは、サンジの方を見向きもしないで、周りのクラスメートと楽しそうに話をしていた。
・・・・・??なんだ?ゾロ・・・・・俺の声、聞こえなかったのかな・・・・
「ゾロ! おはよう! 何話してんだ?」
サンジは、今度ははっきりと大きな声でゾロの側で、声を掛ける。
「いちいち、うるせえんだよ、聞こえてるって! ああ、それでさっきの話なんだけ
ど・・・」
ゾロはそう言ってサンジに冷たい視線を向けると、またクラスメートと話を始めた。
「・・・・・・ゾ・・・・ロ・・・・」
サンジは、あまりのゾロの変わりように、言葉を失って、そのまま席に着く。
・・・・・ゾロ・・・・・・何があったんだろ・・・・・
・・・・・俺・・・・・なんかした??
・・・・・俺・・・・・ゾロから嫌われるようなこと・・・・・・なんかしたのか・・・・・
・・・・・ゾロ・・・・・・どうして・・・・・・
・・・・・どうして・・・・・・・こんなこと・・・・・・今までなかったのに・・・・・・
・・・・・ゾ・・・・・ロ・・・・・・
休み時間の度にサンジは、ゾロに話しかけるものの、ゾロは、サンジと話すどころか、顔さえ
見ようとはしない。
さすがに、クラスメート達も、二人の異変に気付き始めていた。
「・・・・・・なあ、ゾロ。 お前、今日、サンジのこと無視し続けてるだろ?なんで
だ?? サンジとお前、喧嘩でもしたのか? サンジ、ずっとお前のこと気にしてた
ぞ。 今だって、いつもは、サンジと食べるのに・・・・ お前、絶対に、変だ。」
お昼休み、ゾロを一緒に弁当を食べていたルフィが、ゾロにそう言う。
「・・・・少し黙って食えよ。 それに、あいつのことは、言うな。 あいつは、俺なんか
より・・・・俺より・・・・・クソッ! ルフィ、あと、やる!」
ゾロは、殆ど手つかずにいた弁当をルフィに渡すと、さっさと、教室を出ていった。
「っと、悪い。 ・・・・・・・サンジ・・・・」
「あ・・・・ゾロ。 ・・・・あのさ・・・・俺・・・・」
「ごめん、俺、急いでんだ・・・・」
教室の入り口で、サンジとぶつかったゾロは、やはりサンジと視線を合わすこともなく、そう
言って足早にそこから立ち去っていく。
・・・・・・・なんでだよ・・・・・・ゾロ・・・・・
・・・・・・・もう話してもくれねえのかよ・・・・・
・・・・・・・そこまで・・・・俺・・・・・嫌われた?
サンジは、教室のドアの前で、キュッと唇を噛んで、遠ざかるゾロの背中を見続けた。
++++++++++++++++
「なんだ、なんだ?? 全然元気ないじゃないか・・・・・どうした?サンジ。」
「あ・・・・いえ・・・・はい・・・・」
放課後のグラウンドで、エースがそう言ってサンジに声を掛ける。
最近様子がおかしいサンジだが、今日は、特に、酷い。
何を言っても、曖昧な返事を繰り返すだけで、笑わないし、怒りもしない。
ため息ばかり吐いて、ずっと暗い顔のまま・・・・当然、サッカーの部活にも覇気がない。
「・・・・・なあ、サンジ。 ・・・・お前、あいつのことが、そんなに好きか?」
不意に、エースが、ぼそりとサンジに呟いた。
「えっ?! 何言って・・・・あいつって・・・・・」
サンジは、エースの突然の言葉に、びっくりして、エースの顔を見る。
「・・・・あいつだよ。 剣道部の、ロロノア・ゾロ。 ・・・・・サンジ、お前、そいつのこと
好きだろ。 違うか?」
エースは、淡々とした口調でサンジに話す。
「ははは・・・・いやだな、エース先輩。 何を言い出すかと思えば・・・・・・俺は・・・・
俺は、ゾロの・・・・こ・・・と・・・・・・なん・・・て・・・・・・・・・・」
サンジは、笑ってやり過ごそうとそう考えていたのだが、ゾロの名を口にした途端、詰まって
何も言えなくなってしまった。
今日一日の、ゾロの自分に対する明らかな拒絶・・・・・
それが、サンジの言葉を失くさせていく。
サンジは、ギュッと奥歯を噛みしめて、溢れてくる涙を堪えるのがやっとだった。
「・・・・サンジ。 悪いことは言わない、俺に・・・・俺にしとけよ。 俺は、絶対に、お
前の笑顔を守るから・・・・・泣かせるようなマネは、しないから・・・・・忘れろなんて言
わない。 ・・・・・あいつを好きなお前ごと全部、俺が包んでやるから・・・・・・・
サンジ・・・・・聞いてるか・・・・」
エースは、サンジの痩躯をしっかりと抱き締めて、そう言う。
「・・・・・先輩・・・・・俺・・・・・・俺・・・・・・。 ・・・・・・すみません、少し・・・・時間下
さい・・・・」
サンジは、震える声でそう言って、部室に戻っていった。
・・・・・もうやっぱり・・・・ゾロの事は無かったことにした方が良いよな・・・・
・・・・・ジャンゴ先生に言って・・・・・・催眠治療して貰って・・・・・
・・・・・俺の中から、あいつへの想いを全部取り除いて貰えばいい・・・・・
・・・・・そうだ、簡単な事じゃないか・・・・
・・・・・エース先輩となら、きっと笑って過ごすことが出来る・・・・・
・・・・・そっちの方が・・・・俺も・・・・ゾロも・・・・先輩も・・・・・皆、上手くいくんだ・・・・・・
・・・・・けど・・・・・・・・・それなのに・・・・・・・
・・・・・それなのに、俺は・・・・・・・
・・・・・エース先輩の言葉が・・・・・ゾロだったらって・・・・・
・・・・・あいつの言葉だったらって・・・・・・・そう・・・・考えてしまった・・・・・・
・・・・・苦しいよ・・・・・・・辛いよ・・・・・・ゾロ・・・・ゾロ・・・・・・・ゾ・・・・ロ・・・・・
サンジは、誰もいない部室で、一人涙を零す。
「ッ・・・・・ゾ・・・・・・ロ・・・・・・。」
そっと肩を震わせて、嗚咽を飲み込んで、ゾロの名を口にした。
「・・・・・・・・。」
エースは、その光景を、部室の窓から、ただ黙って見ているだけしかできなかった。
暫くして、ようやく落ち着いたのか、部室からサンジが、出てきた。
泣いていた顔を洗ったのか、サンジの金髪に滴が零れ、それが、夕日に煌めいて、エース
は、サンジの姿に、暫く見惚れていた。
サンジの瞳は、まだうっすらと赤く・・・・それさえなければ、全然いつもと変わらない表情だっ
た。
「エース先輩、すみません。 俺、これから、病院に行きたいので、今日は、これで帰
ります。 ・・・・・それと、さっきのことは、明日、ちゃんと返事しますから・・・・・
じゃあ・・・・」
サンジは、そう言うと、そのままグラウンドを出て病院に向かった。
・・・・・俺は・・・・俺は・・・・もう、忘れる・・・・・・
・・・・・俺の・・・・俺の想い・・・・・この想いを全て・・・・・忘れるんだ・・・・
・・・・・それが、ゾロにとっても、俺にとっても・・・・・・一番だから・・・・
サンジは、ジャンゴによる催眠治療によってゾロへの思いを断ち切ることに決めた。
エースは、サンジが立ち去った後に、足元に落ちていたカードを拾うと、意を決した顔で、
ある場所へと走り出した。
++++++++++++++++
「ロロノア・ゾロ!! 出てこい!! いるんだろっ!! さっさと出てこいよっ!!」
サンジが、学校を出た直後、体育館に、怒声が響きわたった。
その声のあまりの大きさに、練習に励んでいた剣道部員達が、ざわめきだす。
「・・・・・・誰だと思ったら・・・・・エース先輩、でしたよね。 俺に、なんか用です
か?」
ゾロは、防具をはずすと、エースの前に現れて、そう言った。
「・・・・・お前、な・・・・・ふざけんなっ!!」
バシッ!!
エースは、そう言うなり、ゾロの顔を拳で殴る。
「なにすんですかっ!!いきなり・・・・」
ゾロは、口の端から流れる血を手で拭い、エースを睨み返した。
「ほう・・・俺の拳を受けて倒れないというのは、本当に、身体の方は鍛えてあるんだ
な。 ・・・・だがな・・・・お前は・・・・お前は、心の方も少しは、鍛えろよ!!
お前、サンジに何をした!何を言った!! なんで、あいつを泣かすことばかりするん
だ・・・・・・俺なら・・・・俺なら、絶対に泣かさないのに・・・・・なんで、お前が・・・・・・
お前が、サンジの一番なんだよっ!!」
エースは、グッと拳を握りしめたまま、そう叫ぶ。
「・・・・・・あいつが・・・・・泣いた?」
ゾロは、呆然としてエースにそう尋ねる。
「ああ、そうだよ!! あいつは・・・・サンジは、最近ずっとおかしかった。
・・・・何を言っても上の空で・・・・・・でも、今日は・・・・違った。 見たこともないくら
い悲痛な表情で・・・・・・曖昧な返事しか寄越せない状態で・・・・・・あいつは・・・・・
サンジは、一人・・・・・声も出さずに泣いて・・・・・・泣いて、お前の名前を呼んだんだ
よっ!! ・・・・なんで、お前の名前なんだよ! ・・・・俺じゃなくて・・・・・お前の名
を呼ぶんだよ! ・・・・俺は、あいつが、幸せなら・・・・笑っていられるなら・・・・・
黙ってるつもりだった。 ・・・・黙って・・・・見守るつもりだった・・・・・だが・・・・・お前
が、これ以上、サンジを泣かすなら・・・・・俺は・・・・俺が、サンジを守る! お前に
は、サンジは、渡せない。 たとえ、お前がサンジの一番だろうと・・・・・俺は、お前
にサンジを譲る気はない!」
エースは、ゾロに鋭い視線を向けたまま、そう言った。
「・・・・・・先輩。 サンジ・・・・何処にいますか・・・・・」
ゾロは、静かな声で、エースに聞く。
「・・・・・そんなの、知るか! 自分で探せ!」
エースはそう言うと、持っていたカードを床に捨て、体育館を出ていった。
ゾロは、そのカードを黙って拾う。
『黒猫病院 診察券 名前:サンジ』
「・・・・・・エース先輩・・・・・・・先生、俺、早退します。」
ゾロは、そう言って、そのままの格好で、体育館を飛び出していった。
「ヒュー、やるね、最近の高校生は・・・・さあ、練習だ、練習!! 皆も、ゾロに負け
ないくらい、青春を謳歌しようぜ!!」
剣道部顧問、シャンクスは、そう言って、皆に、ハッパをかけ、剣道部は、また練習を再開し
た。
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