雪月花


花の章...その1






その日の昼下がり、サンジは、船尾にいるゾロの元へと向かう。

ゆっくりと、コツコツと靴音を響かせて、サンジは、瞳を閉じたゾロの前に立った。

「・・・・・なあ、てめえが、船を下りる原因って言うのは・・・・・俺か? 

・・・・・俺が、変なこと、言ったから・・・・・ もし、そうだとしたら、船を下りるのは、

てめえじゃなくて、俺の方だ。 ・・・・・悪かったな、俺から誘っといて・・・・・・・・・

あれで、気にするなって言う方が、無理な話か。 ・・・・・とにかく、てめえは、船を下

りる必要なんかねえよ。 ・・・・俺は・・・・俺は、別に・・・・・・この船じゃなくても、

オールブルーは、探せるから・・・・・・てめえは、ルフィの側にいやがれ。 

・・・・話は、それだけだ。 邪魔したな。」

サンジは、そう言って、ゾロの元から、離れようとする。

ゾロは、瞳を開けると、去っていこうとするサンジの腕を掴んだ。

「・・・・待てよ。 俺が、船を下りるのは、別に、てめえのせいでも、この前のことでも

ねえ。 ・・・・・俺の・・・・・俺が・・・・」

「て、敵襲だーっ! ゾロ!サンジ! 急いで来てくれーっ!!」

ゾロの言葉を遮るように、ウソップが、見張り台から、大声で叫ぶ。

「話は、後だ! 行くぞ!!」

「ああ。」

サンジとゾロは、そう言って、船頭の甲板に向かった。

ゾロとサンジが、船頭に着くと同じくして、数十名の海賊共が、一斉に船に乗り込んできた。

「者共、かかれっ!! 敵は、少数だ!」

「「おう!!」」

船長らしい人物の声と共に、海賊共は、クルー達に襲いかかってくる。

「はっ、なめんなよ。 雑魚共と同じに勘定して貰っちゃ困るぜ。 俺ら、潰す気なら、

あと千人は、連れて来いって・・・・」

「・・・・全くだ・・・・・でも、それでも、俺達は、潰せないが、な。」

「・・・・じゃ、ぼちぼち始めますか・・・・」

「・・・・やるか・・・・」

サンジとゾロは、そう言いながら、戦闘を開始した。

他のクルー達も、自分達の持てる限りの力で、応戦する。

しかし、数で上回る海賊共に、なかなか決着が付かず、サンジもゾロも他のクルー達にも、

疲労の色が見え始めてきた。

そんなとき、

「うわあっ!」

チョッパーが、甲板の雪に脚を取られ、甲板に倒れ込む。

それをチャンスとばかりに、海賊共が、チョッパーに、向かって斬りつけた。

「やべえ、チョッパーッ!!」

サンジは、慌ててチョッパーに襲いかかってくる海賊共を蹴り払う。

海賊共は、チョッパーに一太刀も浴びせることなく、吹き飛んだ。

ホッと、胸を撫で下ろすクルー達・・・・・

しかし、事態は、この後思いも寄らない展開を迎える。

「チクショーッ! てめえも、道連れにしてやる・・・・」

突然、サンジの足元に倒れていた海賊の一人が、サンジの身体を掴むと、自ら海に飛び込

んだ。

その手には、手榴弾を持っている。

「うそ・・・・・」

ふわっと、サンジの身体が、甲板から離れる。

体勢を崩したサンジは、蹴りを繰り出すことも出来ず、そのまま、その海賊と共に、海に投げ

出された。

「っ・・・サンジーッ!!」

その様子を見たゾロは、言うが早いか、和道一文字だけを手にして、サンジの腕を掴んだ。

「・・・・・・・な・・・なん・・・・で・・・・・」

サンジは、驚いてそう呟く。

「待ってろ、今、引き上げるから・・・・」

ゾロはそう言うと、サンジの足にしがみついている海賊の腕を斬り捨てた。

「ぎゃあっ!!」

海賊は、手榴弾と共に、海の中に消えていった。

「今だっ!!」

甲板にいた海賊の一人が、そう言って、ゾロの背後に迫る。

「ゾロッ!! 離せ! 後ろに敵が!! 構えろ!ゾロッ! 馬鹿ッ! 

腕を離せ!!」

サンジは、それにいち早く気が付いて、ゾロにそう叫ぶ。

しかし、ゾロは、サンジの腕を掴んで離さず、それでいて、振り向きもしない。

「馬鹿ゾロッ! 何考えて・・・・・止めろっ!! 嫌だーっ!」

サンジの瞳には、ゾロの後ろで、刀を振りかぶる海賊の姿・・・・・












ザシュッ・・・・

斬りつける音と共にゾロの背中から血沫が飛ぶ。

「っ・クッ・・・」

ゾロが思わず顔を顰める。




『・・・・・背中の傷は、剣士の恥だ。』




鷹の目との闘いで、ゾロが言った言葉が、サンジの中で何度も何度もこだまする。

ポタ、ポタと、ゾロの腕から、サンジの顔に、血が、滴り落ちる。

「っ・・・・・・・嫌だーっ!! ゾロォォーッ!!」

サンジは、悲鳴に近い声でそう叫んだ。

「「「!!サンジーッ! ゾローッ!!」」」

「!!サンジ君! ゾロ!!」

「!!コックさん! 剣士さん!!」

サンジの悲痛な声に、クルー達が、反応する。

皆、人が変わったように、凄い力で海賊共をなぎ倒していく。

ルフィは、ことごとく海賊共を遙か彼方に吹き飛ばし、ロビンも、ハナハナの能力で、敵を一

掃し、ウソップは、敵の船を砲弾で、撃沈した。

「・・・・なんで・・・・・なんで・・・・俺なんか・・・・」

「・・・・・っ、良いから・・・・早く上がってこい。 ・・・・クッ・・・・・これ以上、力入んね

え・・・・・」

ゾロは、息苦しそうにそう言った。

アッという間に、海賊共は、姿を消して、サンジは、ロビンに助けられて甲板に戻る。

その姿を確かめてから、ゾロは、意識を手放した。

「っ・・・ヤダ・・・・ゾロ・・・・死ぬなよ・・・・・・こんなとこで・・・・・・ヤダ・・・・・

クッ・・・・・ダメだ・・・・背中の傷は・・・・・剣士の恥だって・・・・・・そう言って・・・・・

そう言ってたじゃねえか・・・・・・・なのに・・・・・なのに、なんで・・・・・・・ヤダ・・・・・

・・・・こんなとこで死ぬんじゃ・・・・ねえ・・・・・・・・ ・・・・・・まだ、夢の途中だろう

が・・・・・・なあ・・・・・ゾロ・・・・・・・瞳、開けろよ・・・・・・・俺・・・・・・・俺・・・・・・・

まだ、お前に何も・・・・・・・何も伝えてねえ・・・・・・ヤダ・・・・・・・・・なあ・・・・・・

瞳開けろって・・・・・・死ぬなーっ!・・・・・ゾロ・・・・ゾロ・・・・・」

サンジは、そう言って、泣きながらゾロを揺さぶった。




・・・・・ナミさん、俺・・・・・・・

・・・・・・本当に・・・・・馬鹿でした・・・・・・

・・・・・・・こんな単純なこと・・・・・・

・・・・・・・・こんな状況になるまで・・・・・・

・・・・・・・・・自分の気持ちから逃げてたなんて・・・・・・

・・・・・・・・こんな状況で・・・・・・・

・・・・・・・一番大切なことに・・・・・

・・・・・・気が付くなんて・・・・・

・・・・・俺は・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・




「っ・・・・・ゾロ・・・・・好きだ・・・・・・好きなんだ・・・・・俺・・・・・・・まだ、てめえ

に・・・・・・それ・・・・・伝えてねえ・・・・・・・なあ・・・・・・・ゾロ・・・・・・・ゾロ・・・・・

瞳・・・・・開けてくれよ・・・・なあ・・・・・・」

サンジは、見守るクルー達の中、そう言って、ゾロの頬に手を添える。

ポタリと、サンジの涙が、ゾロの頬に落ちた。

「・・・・馬鹿が・・・・・勝手に・・・・・・・俺を・・・・・・殺すんじゃ・・・・・ねえ・・・・・・こん

なことで・・・・・俺は・・・・・・俺は、死なねえよ・・・・・・だから・・・・・・泣・・く・・な・・」

ゾロは、ゆっくりと瞳を開けて、サンジを見つめ、そう言って笑った。

「っ・・クッ・・」

ゾロの顔が、また苦痛に歪む。

「・・ゾロォーッ!」

「チョッパー! 急いで、ゾロの傷の手当を! サンジ君、大丈夫よ。 こいつが、こん

なことで、くたばるタマじゃないのは、皆、知ってるから。」

ナミはそう言って、チョッパーに指示を出すと、サンジににっこりと笑いかけた。

「わ、わかった。 サンジ、そこちょっと、どいて・・・・・」

チョッパーが、てきぱきと止血を試みる。

「さっ、傷の手当が済んだら、サンジ君とルフィは、ゾロをベッドに運んで! ウソップ

とロビンは、甲板の片づけをお願い!」

ナミの号令で、クルー達は、慌ただしく動き始めた。
















+++++++++++++++++++



「チョッパー、どうだ、ゾロの様子・・・・・」

サンジが、そう言って部屋に入ってきた。

「うん・・・・・もう大丈夫だと思うよ。 ・・・・普通の人なら、死んじゃってても、おかしく

ない怪我だったのに・・・・・凄いよね。 もう傷が、塞がりかけてる・・・・・」

「傷は? ・・・・・背中の傷は・・・・・やっぱり、残るのか?」

「・・・・うん・・・・・それは・・・・・・仕方ないよ。 命、あっただけでも、不思議なほどの

傷なんだから・・・・・・・・」

「・・・・・そうか・・・・・・・ありがとう、チョッパー。 飯食ってきていいぜ。 ここは、俺

が見てるから・・・・・・」

サンジは、悲しそうにそう言って、ゾロの側のイスに腰掛けた。

「うん、じゃあ、そうさせて貰う。 なんかあったら、呼びに来て、すぐ来るから・・・・・

それと、気が付いたら、これ、飲ませといてね。 熱冷ましと痛み止めの薬・・・・」

「・・・・・わかった。」

チョッパーは、そう言ってサンジに薬を渡すと、部屋を出ていった。

ゾロは、俯せにベッドで、眠っている。

背中に巻いた包帯が、血で滲んで、傷の深さを物語る。

「・・・・・・ゾロ・・・・・ごめんな。 ・・・・俺のせいで・・・・・付けたくもねえ傷を負わせ

てしまった。 ・・・・・俺、どう償えばいい? ・・・・・・・どうすれば・・・・・・・」

こんなとこで、泣きたくなんかないのに、サンジの瞳からは、次々と涙腺が壊れたように涙が

溢れて止まらない。




・・・・・・・・出会わなければ・・・・・良かった・・・・・・

・・・・・・・この船に、乗らなければ・・・・・・良かった・・・・・・

・・・・・・そしたら、ゾロは・・・・・・・・

・・・・・ゾロは、こんな傷・・・・・背負わずに済んだものを・・・・・・

・・・・俺のせいだ・・・・・・

・・・俺が・・・・・油断してたから・・・・・・




「ッ・・・・・クッ・・・・」

サンジは、必死に嗚咽を押し殺す。

「・・・・泣くな・・・・・てめえのせいじゃねえよ・・・・・・・俺が・・・・・俺の未熟さが招い

たものだ・・・・・・それに、俺は・・・・・・・・後悔してねえ。 この傷で、てめえが守れ

たなら・・・・・安いもんだ。 ・・・・・好きな奴を守って出来た傷なら・・・・・勲章にはな

っても、恥にはならねえから・・・・・・だから・・・・・気にするな・・・・・」

ゾロはうっすらと瞳を開けて、サンジの頬に流れる涙を指で拭った。

「っ・・・・・ごめんな・・・・本当に・・・・ごめん。 ・・・・俺、なんでもするから・・・・・

ゾロ・・・・本当に・・・・・ごめん・・・・・・・」

サンジは、ただ瞳も閉じずに、ゾロを見つめる。

「・・・・・・・謝るな。 てめえに謝られると、余計に自分の未熟さを思い知らされる。

・・・・・だから、それ以上、謝るな。 ・・・・それに、償いや同情なんかするな。

・・・・俺は、そんなのちっとも嬉しくねえ・・・・ ・・・・眠い。 ・・・・少し、眠らせてく

れ・・・・・・眠ったら、すぐ、治るから・・・・・・・・・」

ゾロはそう言って、また深い眠りに入った。

「・・・・ごめんな、ゾロ。 ・・・・俺、お前が動けるようになるまで、ちゃんと看護するか

ら・・・・・・それまでは・・・・・側に・・・・・・いさせてくれよ、な・・・・・・・」

サンジは、眠るゾロの顔を見つめてそう呟いた。











   
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<コメント>

ゾロ・・・・・・背中に傷を背負ってしまいましたねvv
もう鷹の目との闘いで言ったあの台詞vv
『背中の傷は剣士の恥だ』・・・もうこの言葉に酔いしれていたのよねvv
ゾロの気持ち、皆さんに伝わりましたでしょうか?
まあ、ルナの文章の拙さでは、なかなかに無理があるようですが・・・(-_-;)
では、次で、ラストです・・・・・