雪月花


花の章...その2






1週間後。

サンジの献身的な看護によって、ゾロは起きあがれるまでに回復した。

「よし、今日から、もう船の中、歩き回っても良いぞ。 但し、トレーニングは、まだ駄

目だ。 まだ完全には傷が塞がってないんだからな。」

チョッパーは、ゾロの傷の消毒をして、ゾロにそう忠告する。

「サンキュー、チョッパー。 てめえにも、迷惑掛けたな。」

ゾロはそう言って、チョッパーに礼を言った。

「お、俺は、医者だからな。 患者を診るのは当たり前だ。 当たり前なことだか

ら・・・・・そんなに礼を言われても・・・・・・嬉しくなんか・・・・・嬉しくなんか・・・

ないぞぉ〜vv そ、それに、礼なら、サンジにも、言えよな。 サンジ、ずっとお前の世

話してたんだぞ、夜もつきっきりで・・・・・」

チョッパーはニコニコしてそう言い返し、部屋を出ていった。

「ああ、わかってる・・・・・」

ゾロはそう呟くと、立ち上がり、キッチンに向かう。


ゾロは嬉しかった。

背中を斬られ、意識の遠のく中、聞こえたサンジの声・・・・・・・・

あの声を、あの言葉をもう一度、ちゃんとサンジの口から聞きたかった。

あの瞬間・・・・・本気で、これで、死んだって構わない・・・・・そう思った。

・・・・・・・そう、あの夜、サンジに触れて消えていった雪のように・・・・・・

叶わない夢だと・・・・・・・・・絶対にあり得ないと思っていたことが、あの時、叶った。

・・・・・・そう思った・・・・・・・・

・・・・・・もうこの思いを隠さなくても・・・・・・・もうサンジの側を離れなくても良い。

・・・・・・そう思っていた・・・・・・・














+++++++++++++++++++



キッチンでは、ナミとサンジが、二人っきりでなにやら話をしていた。

二人の話し声が聞こえる。

ゾロは、ドアの前で、中に入るのを躊躇した。

「・・・・・・・じゃあ、ナミさん。 後のこと、よろしくお願いします。 ・・・・それから、皆

には、黙っててください。 ・・・・特に、あいつには・・・・・ 最後まで、ナミさんに甘え

てしまって、本当に申し訳有りません。」

サンジは、そう言って、ナミに頭を下げる。

「・・・・・本当に、それで、良いの? サンジ君。」

「はい、良いんです。 ・・・・・俺、このままじゃ・・・・・・・このまま、この船にいたら、

俺・・・・・あいつの・・・・・あいつの夢の障害にしかならない。 ・・・・・それだけ

は・・・・絶対に・・・・・・絶対に嫌なんです。 ・・・・・・・あいつの・・・・・・・・そんなこ

とになるんだったら、俺、死んだ方がマシです。 ・・・・・・これ、料理のレシピです。 

頭の良いナミさんなら、すぐに、覚えれると思います。 ・・・・・・・じゃ、島が見えた

ら、教えて下さい。 いろいろと、今まで、ありがとうございました。」

サンジが、そう言って、キッチンのドアを開けると、そこには、ゾロが、立っていた。

ゾロは、じっとサンジのことを睨み付けてそこを動かない。

「おっ、ゾロ、良かったな。 やっと動けるようになったってな。 さっき、嬉しそうに、

チョッパーが、そう言ってたぞ。 ・・・・・俺も、お役ごめんだな。 ・・・・・じゃあ・・・」

サンジはそう言って笑って、ゾロの側を通り過ぎようとする。

「・・・・ちょっと、待てよ。」

ゾロはそう言うなり、サンジの腕を掴んだ。

「っ・・馬鹿、痛てえよ。 そんなに強く、掴んだら、俺の繊細な腕が、へし折れるだ

ろ・・・・・・・離せよ。」

サンジは、そう言ってゾロを睨み付ける。




・・・・・・もう頼むから・・・・・放っといてくれ・・・・・・

・・・・・・・せっかく決心付けたのに・・・・・・

・・・・・・・・これ以上・・・・・俺を・・・・・・

・・・・・・・・・俺を情けねえ奴にしないでくれ・・・・・

・・・・・・・・・・てめえ見てると・・・・・つい・・・・・

・・・・・・・・・・・決心が・・・・ニブっちまうじゃねえか・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・俺は・・・・・てめえの側に・・・・・・いちゃいけねえ・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・いちゃいけねえんだよ・・・・・・・・




サンジは、ゾロの瞳に居たたまれなくなって、瞳を伏せた。

「・・・・・てめえは、俺を見くびってるのか。」

ゾロは、押し殺したような声でサンジにそう聞く。

「はっ、何をいきなり・・・・・わけわかんねえ奴だな。 俺は、別にてめえを見くびっち

ゃいねえよ。 ・・・・てめえは、凄い奴だよ。 ・・・・きっと、そのうち、大剣豪にだって

なれるだろうさ。 背中を預かった俺には、てめえの強さは、よくわかってるからな。」

サンジは、俯いたまま、ゾロにそう言った。

「じゃあ、なんで、てめえが、船を下りる。 俺は・・・・・てめえと一緒にいたら、自分

の夢も果たせねえほど柔な野郎だと思ってやがったのか? ・・・・俺も、見くびられ

たもんだぜ。」

「!!・・・・・なんで、それを・・・・てめえ、盗み聞きしてやがったな! 

俺とナミさんの話・・・・」

サンジは、先程の話をゾロに聞かれ、逆ギレして、ゾロに掴みかかる。

「・・・・・いいか、サンジ。 一回しか言わねえから、良く聞いとけ。 俺は、てめえと

いることを障害だなんて思うことは、絶対に無え。 サンジ、俺は、てめえが、好き

だ。 大事だ。 ・・・・・背中に傷を作っても、てめえを失うよりはマシだと思うほど

に・・・・・ けどな、俺は、てめえのためには、死なねえ。 それが、てめえを苦しめる

事になるとわかってるからな。 だから、てめえは、安心して俺の側に居ろ。 俺は、

絶対に、死なねえから・・・・・ ・・・・・・・なあ、サンジ・・・・・もう一度・・・・・

もう一度、俺に言ってくれ。 てめえの本心が知りてえ。 サンジ、俺は、てめえが、

好きだ。 てめえは、どうなんだ?」

ゾロは、射抜くような瞳でサンジを見つめ、サンジの両腕を掴み直した。

「・・・・・なんで、そんな簡単に言い切れる・・・・・・・・てめえは・・・・・この間・・・・・・

この間、俺のせいで、死にかけたんだぞ! ・・・・・・夢も叶えてねえのに・・・・・・」

サンジは、そう言って、ゾロを睨み返す。

ゾロを睨み付けるサンジの瞳に、次第に涙が溢れてきた。

「・・・けど、死ななかっただろ? ・・・・・俺は、この刀に誓ったからな。 大剣豪にな

るまで・・・・・鷹の目を敗って世界一の剣豪になるまで、俺は、死なねえ。 

・・・・だから、てめえのためには、俺は死なねえよ。 てめえは、そんな弱い奴じゃね

えから・・・・・・俺に守られるような弱い奴じゃねえから。 ・・・・・一緒に、生きていけ

る奴だから・・・・・・・だから、俺の側に、居ろよ、サンジ・・・・・」

ゾロは、そう言って、サンジの頬に手を添える。

「・・・・・・俺は・・・・・・俺は・・・・・・・・馬鹿だよなあ・・・・・・・てめえも・・・・・・

・・・・・・・俺なんかに捕まっちまってよ・・・・・・素敵なレディは、他に星の数ほど居る

って言うのに・・・・・・・・なんで、俺なんかに・・・・・・・・馬鹿な奴・・・・・・・

・・・・・・なんで、てめえなんだろうな・・・・・・俺も・・・・・馬鹿だよな・・・・・・ 

・・・・・・・・・・・・覚悟は良いか? てめえ、夢叶える前に死にやがったら、

俺が、地獄の果てまで追いかけて、絶対に、俺の手で、殺してやるから、な。 

良く、覚えてやがれ!」

サンジは、ゾロの瞳の前に観念したようにそう告げた。

「・・・・・てめえ・・・・やっぱり、馬鹿だろう・・・・・死んだら、殺せねえだろが・・・・」

ゾロは、ため息を吐いてサンジを見る。

「馬、馬鹿! もののたとえだろうが。 てめえこそ、馬鹿じゃねえか。 

・・・・・・・けど・・・・・・・・・・好きだぜ、ゾロ・・・・好きだ・・・・・」

サンジはそう言ってゾロの腰に腕を廻す。

「・・・・・・その言葉、もう一生、取消きかねえからな。 てめえこそ、覚悟しな。」

ゾロは、そう言って、サンジの顎に手を添えて、軽く口付けた。

二人の周りに暖かな風が、流れてきた。

「サンジ君、今度上陸する島は、春島よ。 ふふふ、どうする? まだ、船、下りる

気?」

ナミは、キッチンの中から出てきて、サンジにそう声を掛ける。

「ええ。 ・・・・・・船、下ります。 ・・・・・・こいつ連れて、買い出しいかねえと・・・・

この船のコックは、俺ですから。」

サンジは、そう言ってにっこりと笑った。

「はいはい、わかったわ。 ごちそうさま。 けど、ゾロ。 途中、宿屋に泊まろうとする

んじゃないわよ。 サンジ君も、良いわね。 絶対に、一度、船に戻って、買い出しを

ちゃんと済ませてからにしてちょうだい。 じゃあ、ね。 ・・・・・そうそう、サンジ君、

野郎同士のキスなんか、誰も見たくないの。 何処かだれもいないとこで、お願い

ね。」

ナミは、そう言って、呆れたように笑うと、手をヒラヒラさせて自分の部屋に戻っていった。

ゾロは、ナミの言葉に舌打ちをする。

「!!・・・/////てめえ、ナミさんに、見られたじゃねえかーっ!」

サンジが、そう言うなり、ゾロに蹴りを繰り出した。

「うわっ! アブねえな。 別に、見られても平気だぞ、俺は・・・・・・」

ゾロは、すれすれで避けながら、そう告げる。

「てめえが、良くても、俺は、嫌なんだよっ!」

「わかんねえ奴だな・・・・・減るもんじゃなし、それくらいで照れてどうする・・・・・

だいたい、さっきは、てめえから抱きついてきたんだろが・・・・・」

「くはあ・・・・・この無神経野郎・・・・・いっぺん死んでこい!」

「痛てて・・・・・洒落になんねえだろ、てめえの蹴りは・・・・・」

「うるせえ! 未来の大剣豪ともあろうもんが、このぐれえの蹴りで、泣き言言うな。」

「・・・・いい加減にしろよ、この跳ねっ返りが・・・・・・俺だって、キレるぞ・・・・・」

「おう、やれるもんなら、やってみろって。 死に損ないのてめえに、何ができる!」

「ふざけんな、てめえ・・・・泣かすぞ、こらぁ・・・・・」

ゾロとサンジは、そう罵り合いながら、いつものように、乱闘をし始めた。









「ねえ、ねえ。 俺・・・・止めた方が良い? ・・・・ゾロ、怪我してるし・・・・・・・・・・」

甲板で二人の諍いを見てチョッパーは、そうウソップに聞いてみる。

「・・・・・・・止めとけ、チョッパー。 ・・・・・あれは、あいつらの愛情表現なんだ。 

だから、見守るだけにしとこう・・・・・・・・」

ウソップは、とばっちりが来ないように、チョッパーにそう助言した。

「・・・・・・けど、チョッパー、救急道具は、用意して置いた方が良いみたい。 

剣士さん、もうすぐ、傷が、開きそうよ・・・・・・ふふふ・・・・」

ロビンは、そう言って、微笑む。

「いよう、ゾロ。 もう治ったのか? すげえな。 ニシシ・・・・」

ルフィは、ゾロの様子を見て、そう言って笑った。



甲板の雪はいつの間にか消え、花の香りがゴーイングメリ−号に、春島から風に乗って流

れてきた。







「・・・グッ・・・」

「うわあっ! チョッパー!! ゾロの背中の傷が、開いたーっ! 早く、治してやって

くれーっ!」

サンジの慌てふためく声が、甲板にこだまする。





ゴーイングメリー号、只今、春島に向けて順調に(?)航海中である。





   
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<コメント>

はあ、やれやれ、なんとか、終わりました、終わらせました。(笑)
ゾロの台詞・・・・『てめえのために、俺は、死なねえ。』の意味が、
皆さん、伝わりましたでしょうか・・・・密かに、ルナのツボなんっすけど・・・(汗)
やっぱり、シリアスで終われない病が・・・・・
良いのよんvv誰がなんと言おうと、楽しくおわんなきゃ、ねvv
けど、初めはどうなることかと思いましたが・・・・・
シリアス度が、高かったよねvvって、違う??(爆)
一応、タイトルにあわせて雪、月、花をちょびっとだけそれぞれの章に
ちりばめてみましたvv
けど、今回は、暗いのが、ちと長すぎましたね。(笑)
しかもHなし!(爆)
はあ、ここまで読んで下さって、どうもありがとさんでしたvv