翌日。
いつものように3時になると、ゾロはバイクに乗って、どこかに行こうとする。
きっと、ゼフの息子が入院している病院に違いない。
いつも戻ってきたゾロからは、微かに消毒液のにおいがしていたからだ。
俺は、さっと、ゾロのバイクに飛び乗ると、ゾロに向かって、「にゃー。」
と、鳴いた。
「・・・お前も、一度くらいは、会いてえよな・・・」
そう言うと、ゾロは、お腹にどこからか持ってきた籠をくくりつけ、その中に、俺を入れ、バイク
に乗って、ゼフの息子が待つ病院へと向かった。
「絶対に、暴れるなよ。」
ゾロは、俺にそう言うと、自分のTシャツの中に俺を隠して、静かに、病院の個室のドアを開
けた。
そこには、3本の点滴を両腕に挿した、ゾロと同じくらいの年の家にある写真そっくりの男の
人がいた。
口には、人工呼吸器が取り付けられ、規則的な機械の音が病室に響いていた。
ゾロは、俺を抱いて、ベッドの横に立ち、その男を眺めていた。
「おい、サンジ。 いい加減、起きろよ。 ほら、今日は、てめえが助けた猫が来てん
だぞ。名前も同じ、サンジだ。てめえと同じ瞳だぜ。ほら、見て見ろよ。てめえら、良
く、似てんだぜ・・・」
そう言うと、俺をサンジと呼ばれる男に見せるように近づけた。
(・・・そうか。俺の名前、猫の名前にしちゃあ、変だと思ってたんだ。俺は、てめえの
代わりだったんだな・・・てめえの1年、俺が貰っちまったんだな。・・・ごめんな・・・・
でも、今、返すから・・・ごめんな・・・・)
「にゃー。」
俺は、そう一声鳴いて、ゾロの腕からするりと抜けると、寝ているサンジの毛布に潜り込ん
だ。
そして、サンジの胸の上に乗ると、パジャマの間の、トクントクンと一番心音の伝わる場所を
前足の爪で、勢い良く引っ掻いた。
パジャマに血が滲んできた。
(頼む。 戻ってくれ。)
俺は、素早くその血を舐めだした。
「うわあ、てめえ、こらっ! 何しやがる!!」
毛布をのけ、血が滲んだパジャマを見たゾロが、あわてて俺を、抱きかかえようとする。
『パシン。』
ゾロの手が、俺に触れようとした瞬間、いきなり電流が流れるような衝撃が、俺の身体を貫い
た。
(・・・・・・・・・・ここは・・・・・・・・・どこ・・・だ・・・・・・・・・)
「アブねえ!!」
俺は、店の前の道路で、小さな黒い仔猫が震えてうずくまっている姿を目にした。
その仔猫を拾い上げた瞬間、 ・・・車が突っ込んできて・・・・まぶしい光に包まれた。
(・・・・・あれは、俺・・・・・・)
そう思った瞬間、俺はまた、闇の中に引きづられていった。
「てめえは・・・・まったく、しょうのねえ奴だなあ。 看護婦さんに何つったら良いんだ
よ・・・・あーあ、サンジ、ごめんな。 痛てえよな・・・」
ゾロの声が近くに聞こえる。
でも、いつもより、うんと鮮明だ。
ゾロって、こんな声だっけ??
(ふ、ふ、ふ。 なんだよ、くすぐったいぜ。 やめろってば!痛っ!何かチクッとした。
何だ? イタッ、イタッ・・・)
「いてえよ!! 馬鹿!!」
そう言って、俺は、目を開けた。
「サ、サンジッ!!」
そう言ったまま、ポカンと口を開けた間抜けなゾロの姿が、目に映った。
俺は、何故か、身体に不自由さを感じて、辺りを見回した。
顎には、とれかかった人工呼吸器。
両腕には、3本の点滴。
少しでも身じろぐと、身体がミシミシとなって、いうことをきかない。
・・・っで、目の前のゾロの腕の中には、俺の姿が・・・・
(・・・い、いや、違う。俺は、ここだ。 ・・・じゃあ、あの黒い猫は???)
俺は、一気に流れ込んでくる記憶の情報に、頭が混乱した。
(俺は、猫・・・いや、猫は、あっちだ・・・・だとしたら、俺は・・・)
頭の中がグルグルと渦を巻いて・・・・
俺は、やっとこさで、人工呼吸器をはずすと、とりあえず身体を起こした。
あまりの情報量で、頭がズキズキと痛んでくる。
「サ、サンジ〜!!」
ゾロは泣きながら、俺に抱きついてきた。
「良かった。 本当に・・・本当に良かった。」
ゾロはそう言って、グイグイ抱きしめている腕に力をいれる。
恥ずかしくて、頭にカーッと血がのぼった。
猫の時の記憶は、全部残っていて、ドキドキもそのままだ。
人間になった(戻った)途端、その感情がなんなのかわかった気がした。
どうやら、俺は、ゾロに対して、以前の親友以上の気持ちを持っちまったらしい。
・・・平たく言えば、・・・まあ・・・好きだってこと・・・だ。
そして、事故以前の記憶も、思い出してきた。
中学、高校と、同級生だった俺達は、何をやるのもいつも一緒で、違うことと言えば、ゾロは、
剣道部で、俺がサッカー部だったくらいで・・・・
大学も同じ学部に通ってた。
ゾロは、大学に行っても、相変わらず剣術馬鹿で、俺はと言うと、コックになる為、サッカーは
やめて、店の手伝いをしていた。
俺は、大学なんかより、調理師学校に行きたかったんだが、オヤジが、本気でコックを目指す
なら、まず、5カ国語位はマスターできる様、勉強しろと、無理に大学に行かされたのだ。
そして、昨年の夏休み前、俺は、ゾロに、ずっと好きだったと告白された。
俺は、そん時は、そんなこと考えもしてなかったから、ただ、ただ、驚いた。
・・・・っで、何となく、返事も返せず、うやむやのまま、夏休みに入ってすぐ、あの事故にあっ
た。
そして、俺は、猫になっちまった・・・・・・
「おっ、そうだ! 俺、医者とおやっさんに知らせねえと・・・」
そう言って、黒猫サンジをイスに座らせると、病室を出ていこうとした。
「あっ、ちょっと・・・待った・・・・」
俺は、あわててゾロを呼び止めた。
「何だ、どっか、痛てえのか?」
ゾロは、あわてて俺のそばに寄ってきた。
ゾロの頬に残る涙のあと・・・
「ゾロ。最後まで諦めねえでいてくれて、ありがとな。」
俺は、笑顔でそう言うと、ゾロの頬をペロリとなめた。
いけねえ。 まだ、猫の時の癖が残ってるらしい。
「な・・なな・・・」
ゾロは、真っ赤な顔をして、舐められた頬を押さえると、
「あったりまえだ。 そんなの・・・」
とボソリと言った。
「じゃ、俺、言ってくるから。」
そう言ってゾロは、笑顔で病室を出ていった。
出ていったゾロを見送ったあと、俺は、イスに眠る黒猫サンジに、
「ありがとな。」
と声をかけた。
「ニィーッ。(良いってことよ。)」
黒猫サンジは、俺の顔を見て、一声鳴いた。
(??? 今、人間の言葉喋ってなかったか? と言うか、頭ん中に直接聞こえたよう
な・・・ !!! 疲れてるんだよな、俺・・・)
俺は、あまり深く考えないようにした。
だって、今、俺は、最高の気分だから・・・・
俺の気持ちをゾロに伝えられる幸せ。
そして、ゾロが俺の気持ちに応えてくれる幸せ。
もう、一方通行じゃないんだ。
猫のままだったら、決して届かなかった想い。
それも、もう考えないで良い・・・・だって、俺は、俺は、ゾロに伝えることが出来るから。
今度、二人っきりになった時、俺もゾロにこう言おう。
「俺も、ゾロのこと、好きだよ。」
<END>
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<コメント>
いかがだったでしょうか。 猫サンジ。
一応、バッドエンドも考えてたんですけど、やっぱ、最後はハッピーじゃなきゃ。
この後のゾロサンも、いつか、書けたらなあと、思います。
では、おつきあいありがとうございました!
この話の続きが、ロロノア家へと続きます。 ロロノア家には、こちらから・・・・
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