始まりは、ジャパネスク


その6





ゾロは、優しくサンジの顔を両手で挟むと、親指で流れる涙を拭いて、優しく口付けた。

「サンジ・・・好きだ・・・俺の・・・妻になって欲しい・・・」

ゾロは口付けたあと、サンジにそう囁く。

「・・・ゾロ・・・」

そうサンジがゾロの名前を呼んだとき、いきなり、庭が光り輝いた。

「何だ?!」

ゾロが異変に気付いて、あわてて庭に出た。

キィーンという鋭い金属音と共に、目の前に空間が揺れた。

ゾロは、聞いたことのないこの音の衝撃で、身体が動かない。

(何だ?!なにがおこった?!)

ゾロは、やっとの思いで、その揺らぎに目を向けた。

すると、発光した球体が、突然、空間に現れ、その球体は、スッと御簾をすり抜けると、サン

ジがいる部屋へと消えた。

(サンジに何の用だ! やめろ! サンジ、逃げろ!!)

ゾロは懸命に声を出そうとしたが、声どころか、身体さえ、固まったように、ピクリとも動かな

い。

暫くして、その球体は、またサンジの部屋から出てくると、何事もなかったように、ゾロの目

の前で、音と共に、空間の揺らぎの中に消えていった。

消えたと同時に、ゾロのからだが、自由になった。

「サンジ!!」

ゾロは、すぐさまサンジのいる部屋へと走った。

「は、は、は。 ・・・ゾロ・・・お別れだ・・・明晩・・・俺・・・迎えが来る・・・ほんの少し

の間・・・だったけど・・・楽しか・・・ごめん・・・・俺・・・笑って・・・てめえとは・・・別れ

たかったのに・・・ごめん・・・俺・・・笑えな・・・ごめん・・・ゾロ・・・」

その声は、せつなく、悲しみに溢れていた。

「・・・ずっと・・・ここにいちゃダメなのか・・・・迎えは・・・俺が・・・俺が、追い払ってや

るから・・・だから・・・俺と・・・俺の側にいろよ・・・」

ゾロはそう言って、サンジをギュッと抱きしめた。

「・・・ごめん・・・ゾロ・・・ごめん・・・」

サンジは、ゾロの直衣(のうし)を掴んで、ただ泣きじゃくって、謝るばかりだった。

その夜、ゾロとサンジは、お互いの存在を確かめるように、ただただ抱きしめて眠りについ

た。







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翌日、目を覚ますと、サンジは、俺の腕の中ですやすやと眠っていた。

目元には、まだ、乾ききっていない涙の跡・・・


俺は、今まで、こんな愛しさを知らない・・・

この世の全てを失くしても、離したくない存在・・・

あの、宇治の山荘で・・・月の光の中で、サンジを見た、あの瞬間から・・・俺は・・・こいつに

捕らわれていた・・・

・・・それなのに・・・それなのに・・・この想いは・・・敵うことはないのか・・・

サンジは・・・行ってしまうのか・・・俺を置いて・・・この俺の想いを・・・残したまま・・・

嫌だ・・・サンジ、嫌だ・・・俺は・・・俺はもう・・・お前を手放さない・・・たとえ誰が迎えに来よ

うと・・・俺は・・・俺が・・・お前を行かせない・・・


俺は、抱きしめる腕に力を込め、頬にかかる黄金の髪を優しく掻き分けると、涙を吸い取るよ

うに、サンジの目元に口付けた。

そして、まだ眠っているサンジを起こさないように、身体を動かすと、ナミを呼んで、筆と紙と

硯を持ってこさせた。

「・・・これを、宮中の帝に。」

そう言って書いた文をナミに渡し、急いで帝の元に届けさせた。

それから、二条堀川にある、権大納言の本邸に先触れもなく馬を走らせると、まだ眠ってい

たルフィを叩き起こし、協力を仰いだ。

ルフィは、サンジがいなくなると聞いて、1も2もなく、全面的に協力を惜しまなかった。











その夜、鴛鶯殿の周りには、宮中並の物々しい厳戒態勢がしかれた。

宮中からも、勅使で、武術に長けた者たちが集められ、権大納言・左大臣両家からも、屈強

の者たちが、数十人応援に集まって、猫の子1匹逃さない大警備網であった。

また、万が一のことも考え、サンジの側には、俺とルフィが、控えた。



亥の刻(午後10:00頃)・・・・

今夜は新月だというのに、鴛鶯殿は、警備の明かりが煌々と灯り、昼間さながらの光で溢

れていた。


キィーンと、また、俺の耳に、あの忌まわしい金属音が鳴り響いた。

「ルフィ!! 来たぞ! 気を付けろ!!」

そうルフィに叫んでみたものの、俺の身体は、また石のように固まって動かない。

それは、サンジを除いた他の者皆も、同様だった。

サンジは、見慣れない衣装に身を包むと、固まって動けない俺の前に来て、

「・・・ゾロ・・・最後まで・・・ありがとうな・・・俺、嬉しかった・・・」

そう言って、俺の唇に触れるだけの口付けをした。

そして、そのまま、庭の方に歩いていく。

(サンジ!!行くな!! ・・・サンジ・・・サンジ!!)

俺の心が届いたのか、サンジはビクッと後ろを振り返ると、俺に向かって、にっこりと微笑ん

だ。

また、キィーンと嫌な音がして・・・・辺りはまばゆい光に満たされた。














+++++++++++++++



「あれ?! 俺達、一体何やってんだ? おい、ゾロ・・・お前、何で泣いてんだ??」

ルフィにそう言われて、俺は自分の顔を手で触った。

「・・・さあ・・・なんでだろ?? ・・・ここは・・・鴛鶯殿??? なんで、こんなところ

に?」

俺の頬には、ルフィに言われたとおり、涙が流れていた。

(何で、俺、泣いてんだ? ・・・俺・・・訳わかんねえ・・・確か、ルフィと、宇治に、ウ

ソップ殿を迎えに行ったはずじゃ???)

「まっ、いいか・・・さあ、今夜は飲もうぜ。 何でかわかんねえけど、人たくさん来て

るし・・・明かりもたくさんついてるし・・・よおしっ!! 今夜は、パーッと無礼講だー

っ!!」

そう言って、ルフィは、女房達を呼んで、酒の用意をさせ、俺は、渋々、宴の席を設けた。

「さあー、ゾロー、一緒に飲もうぜ。」

「・・・ここは、俺の屋敷だ。」

「まあそう言わずにさあー。 あっ、そう言えば、知ってるか? 今度の除目で、前回

空席だった師の宮(そちのみや)のポストに、新しい宮様がなるらしいんだぜ。 

なんでも、父上の話だと、先先帝の御子(みこ)で、母宮も幼い頃みまかられてて、

伊勢の方の遠縁の寺で育てられていたんだと。 それを、今上帝がお声をかけて、師

の宮に、御推挙されたらしい。 年もあまり俺達と変わらないらしいぞ。 一体、どん

な宮様だろうな? 確か、落葉の宮様って呼ばれてて、名前が・・・さ・・・さ、なんと

かって。」

「サンジか?」

「そうそう、サンジ、サンジ様だ。 あれ?ゾロ・・・お前、知ってるのか??」

ルフィが、ニシシと笑って俺に酒をつぐ。

「いや、全然。 ・・・ただ・・・何となく、名前が浮かんだんだ。」

「そっかあ。 いやー、次の参内が楽しみだな・・・」

「・・・そうだな・・・」

俺は、そう言って、酒を飲み干した。

(・・・サンジ様かあ・・・なんでかな・・・その名を思い浮かべるだけで・・・何で、こん

なに・・・胸が締め付けられるんだろう・・・なんでかな・・・)

ゾロは月のない空を見上げて、こみ上げてくる感情を、持て余していた。









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<コメント>

ハイ、ようやく、クライマックスを迎えました。
ルナ的には、Hは、ナッシィングと言うことで・・・
やってもよかったかしらん・・・
最近、清純派なのよ、ルナはvって、違うか・・・(笑)
あと1回を残すだけになりましたが・・・・果たして???
では、逃げる!!