始まりは、ジャパネスク


その5





暫くして、ドカドカというあわただしい足音と共に、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

ボーっとしてまどろんでいたサンジには、それが誰だかわからない。

その人物は、いきなりサンジを抱きかかえると、ナミに向かってこう言った。

「ナミ! すぐに、車の用意を!! それと、サンジの荷物を持って、俺と一緒に来

い!」

サンジは、その声を聞いて、やっと我に返った。

「・・・・ゾ・・・ロ・・・・?」

「やっぱり、このまま置いていくことなんか出来ない・・・この国にいる間だけで良

い・・・俺の側にいてくれ・・・俺が、お前を守ってやるから・・・」

ゾロはそう言うと、ナミが用意した車にサンジを乗せ、京に向かった。












翌朝、サンジは、ゾロとナミに付き添われ、鳥羽にある左大臣家の別荘、鴛鶯殿(えんおう

でん)に、到着した。

「俺は、今から、宮中に参内しなければいけないから、一緒には、いてあげられな

い。 いいか。 ここは都の端と言っても、宇治なんかとは比べものにならないくらい

人の出入りの多いところだ。 絶対に、部屋から一歩も出ないでくれ。 ナミ、お前の

ことは、ウソップ殿にちゃんと言っておくから、サンジの面倒、よろしく頼む。 夕刻に

は、帰ってくるから。」

ゾロは、サンジとナミにそう言うと、部屋から出ていった。












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「そう言えば、今日やっと、左近少将(さこんのしょうしょう)のゾロはんと、権少将(ご

んのしょうしょう)のルフィはんが、揃って参内なさるとか・・・やっとこれで、宮中にも、

華やかさが戻って参りますなあ。 お上・・・」

ここは宮中・・・

このところ、良くも悪くも何かに付け噂にのぼるゾロとルフィが、そろいも揃って物忌み(陰陽

道で占わせた外に出ては行けない日=さぼる口実によく使われた)などを理由に何日も休

んでいた宮中では、久々の二人の参内で明るさが戻っていた。

「何でも、ウソップ殿の宇治の山荘で、お二人ともお籠もりだったとか・・・ひょっとし

て、なんぞ美しい姫君とかいらしてたんではありませんのか・・・なあ、ウソップは

ん・・・」

そう言って、右大臣が、ウソップに話を振る。

「えっ、ああ・・・別に・・・そんなことは・・・それよりも、お上。 今度の除目で、先の

亡くなった師の宮様のポストに、落葉の宮様を御推挙されると伺っておりますが、そ

れは、ほんまですか?」

ウソップは、あわてて話題をほかのものにすりかえた。

その時、スッと先触れの命婦が来て、ルフィとゾロの参内を告げた。

「「只今、参内いたしました。」」

そう言って、ルフィとゾロは、お上に恭しく挨拶をした。

「おおう、ようきた。 はよう、これへ・・・」

そう言って、シャンクスは扇で中にはいるよう指し示すと、

「ああ、じいさん達の話しばっか聞かされてたんだ。 ルフィ、ゾロ。 お前ら、この1

週間、何やってたんだ? まさか、本当の物忌みじゃねえんだろ?」

そう、帝らしくない親しさで、二人に話す。

「鋭いなー、シャンクスは・・・ 俺達、すんげえいいもん見つけちゃってさー・・・」

「ルフィ! 止せ!!」

瞳をキラキラと輝かせ、ニカっと笑って話すルフィに、ゾロは遮るように口を挟んだ。

「なんだー、ゾロ。 この俺にも話せないようなことか?? 俺はまかりなりにも、帝だ

ぞ? ルフィ、良いから、話せよ。」

シャンクスは、ガキ大将のようにゾロにそう言うと、ルフィに話すように言った。

「・・・それでさあ、サンジって言う、すんごく綺麗な奴でよう、俺、一目見て気に入っ

たんだ。 俺、夜這いしようと何度か行ったんだけど、サンジの奴、めちゃくちゃ強い

し、ゾロからも邪魔されるし・・・でも、俺、諦めないんだ。」

ルフィは、そう言いきって、ニカっと笑った。

「夜、夜這いって・・・サンジって、姫なのか???」

シャンクスがすぐにつっこむ。

「う〜ん、そうじゃなくて・・・姫の格好してんだけど、姫じゃないんだ。 ・・・でも、凄く

綺麗で・・・俺、あんな綺麗な奴・・・初めて見たんだ。」

「姫のようで、姫じゃない??? なんだ?それは・・・ おい、ウソップ。 そのサンジ

って言うのは、一体何者なんだ? どうして、お前の山荘なんかにいるんだ?」

シャンクスは、要領の得ないルフィを諦め、権大納言であるウソップに話を聞くことにした。

「えっ・・・あの・・・その・・・なんというか・・・そのお人は、なんでも、よその国から来

てはりまして・・・迎えが来るまで、置いて欲しいと申しますんで邸に住まわしてんど

すけど・・・まあ、ほんま、綺麗な御子で・・・」

そう言って、ウソップは、帝シャンクスに話し始めた。

なんせ、根が真面目で気弱なウソップが、帝に隠し通せるはずもなく、ウソップは、ペラペラと

サンジのことを全て話してしまった。

「・・・・・・・・」

その様子を、ゾロは一人、苦虫を噛み潰したような顔をしてウソップとルフィを睨んでいた。

(本当に、むかつく馬鹿な親子だぜ。 そんなことを言ったら、好奇心が旺盛な帝のこ

と、サンジのことを、ほっとくわけがない。 ヘタしたら、後宮で、迎えが来るまで預か

るとかなんとか言って、入内させるに決まってる。 それに見ろ・・・周りにいる貴族達

が、明らかにサンジに興味を持った目をしている・・・ここが、宮中でなかったら、ただ

では済まさないところだ・・・)

「・・ゾロ・・・ゾロ・・・聞いておるのか? おい! ゾロ!!」

不意にシャンクスから名前を呼ばれ、ハッと我に返ったゾロは、あわてて返事をする。

「なにか?」

「・・・もう、なにかじゃねえよ・・・聞いてなかったのか? お前、暫くサンジ姫の身辺

警護をしろって、言ったんだよ。 俺も、そのサンジ姫に会ってみてえし・・・その間

に、ルフィみたいに夜這いしようと企むやつが出てこないとも限らねえし・・・お前、腕

が立つから、俺が、サンジ姫に会うまで、しっかりとお守りしろよ。」

「御意。」

そう言うと、シャンクスは、皆を下がらせた。



「さあてっv サンジちゃんに、お手紙でも書きますかっvv」

そう言って、シャンクスは、命婦に筆と紙の用意をさせた。


この時代・・・男女の恋愛は、通常、文のやりとりから始まる。

恋の歌を詠み、相手の女性に送って、OKを貰うまで、何度も、まめまめしく文のやりとりをす

るのだ。

そして、相手からOKの返歌を貰えたら、陰陽師に吉日を占わせて、貼れて、結婚の儀に繋

げるのである。

まあ、その他にも、夜這いをかけるなど強引なやり方もあるにはあるのだが・・・









++++++++++++



「はあ・・・・なんだってんだ??? この手紙はよー・・・」

サンジは、このところ毎日来る文の多さに、頭を悩ませていた。

ゾロとルフィが宮中に参内したその夜から、ひっきりなしに、知らない名前の貴族達から、読

めない草書文字で書かれた文が届くのだ。

その数、毎日20通は越えている。

初めは、何が書いてあるのか、興味津々で、ナミに読んで貰っていたのだが、どれもこれも

皆、恋の歌ばかり・・・

さすがに、げんなりとしてきたのだ。

「相変わらず、モテモテだな・・・」

ゾロが、サンジの顔を見ながら宿直にやってきた。

「ああ、誰かさん達のおかげでな・・・俺は、すっかり時の人って訳だ・・・」

サンジは、嫌みっぽく、ゾロにそう言った。

「・・・すまん・・・」

「別にてめえのせいじゃねえだろ。 ・・・それにしても・・・何で、皆、こんな見たことも

ねえ奴なんかに、恋文を届けられんのかね・・・俺には、理解できん。 

・・・なあ・・・てめえも・・・その・・・なんだ・・・す、好きな姫とかに・・・手紙出したりし

てんのか?」

サンジは、おずおずとゾロに尋ねる。

「・・・いいや・・・俺は・・・俺の好きな奴は、そんなの嫌いみたいだから・・・

だから・・・やらない・・・」

そう言って、ゾロは真っ直ぐにサンジを見た。

「・・・はっ・・・そうか・・・てめえにも好きな姫・・・いるんだ・・・そうか・・・」

サンジはそう言うと、そのまま几帳に陰に隠れてしまった。

(・・・そうか・・・そうだよなあ・・・あの年で、左近少将やってるくらいだから、家柄も

良いだろうし・・・結構、格好良いもんなあ・・・好きな姫の一人や二人いたって、いて

も、全然おかしくねえよな・・・ ・・・あ・・・俺・・・ヘコんできた・・・ちくしょーっ・・・

俺って・・・・本気で、ゾロのこと・・・好きなのかなあ・・・ダメだー・・・俺・・・もう、ゾロ

の顔・・・見れねえ・・・)

サンジは、俯いたまま、脇息に頭をつけた。

涙がポトリと、脇息に落ちた。

ゾロは、いつもと違うそんなサンジの様子に、胸騒ぎを覚えた。

几帳の陰に入ったサンジが、そのまま消えてしまいそうで・・・

気が付いたときには、身体が勝手に几帳を押しのけていた。

「ッ・・ゾロ・・・」

サンジは、あわてて目元を押さえて、後ろを向いた。

「どうしたんだ、サンジ! なにかあったのか?」

ゾロは、脇息にサンジの涙の跡を見留めると、そのままサンジを抱きしめた。

「・・・別に・・・何でもねえんだ・・・ ・・・ごめん、ゾロ・・・てめえ、夜、俺のところで、

宿直ばっかやってるから・・・好きな姫の・・・とこにも・・・行けねえよな・・・行って来

て、良いぜ・・・俺は、平気だから・・・・・・ごめんな・・・帝に言って、宿直は要らない

って・・・そう言うから・・・ゾロ・・・もう・・・行って良いよ・・・」

サンジは、震える声で、ゾロにそう伝えた。

(好きな姫? 行って良い?? こいつ、何言ってんだ?)

ゾロは、サンジの言っている意味が分からず、首を捻る。

「・・・お前がここにいるのに・・・何で俺が、よそに行くんだ?」

ゾロは、思ったままを口にした。

「・・・だって、俺とここにいると・・・お前・・・好きな・・・好きな姫のところに行けないじ

ゃないか・・・クッ。」

サンジは、そう言うと、肩を振るわせて泣いた。

「馬鹿、何泣いてんだよ・・・好きな奴なら、ほら、ここにいるじゃないか・・・。」

ゾロはやっとサンジが泣いている意味を理解して、ギュッと抱きしめた。

「えっ・・・今なんて・・・」

サンジが驚いてゾロの方を振り返った。

「・・・だから・・・俺の好きな奴は・・・お前だ、サンジ・・・」

そう言って、サンジのおでこに、こつんと自分の額をくっつけた。

「・・フェッ・・・・・」

サンジは、ゾロの首に腕を回し、肩口で泣きじゃくった。








  
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<コメント>

ぐはあ・・・砂吐きまくり・・・生き埋めになった人いませんか〜(笑)
書いてて、すっかり埋まっちまった・・・
でも・・・シャンクスが帝で、世の中上手くいくのか?
ちょっと、自分のキャラ選択に疑問を持ってしまった・・・
でも、ゾロサンは、こうでなくっちゃvv
おでことおでこをあわせるの・・・最近これに酔ってます・・・
純情路線まっしぐらな気がするのは・・・ルナだけ??かな・・・(笑)
いよいよ、平安編、クライマックスに入りますvv
もう少しだけ、おつきあいを・・・って、
また長くなったりして・・・(笑)