始まりは、ジャパネスク


その3





「・・・・・・」

(????)

だが、いつまでたっても、地面に触れる感触がない。

おまけに、何か雅な香のにおいと、柔らかな絹の感触が、サンジの身体を包んでいた。

「お怪我はありませんか。 姫。」

不意に、サンジの頭の上から、低い男の声が聞こえた。

よく見ると、見知らぬ男が、サンジを抱き留めていた。

「!!!!」

サンジは驚きのあまり、声が出せなかった。

それでも、あわてて、懐に持っていた扇で顔を隠すと、素早く立ち上がり、無言のまま部屋

に入った。

そして、几帳の陰に隠れた。

(はあ・・・びびった・・・一体、誰だ? あいつ・・・見たことねえぞ? ルフィの兄弟か

何かか? でも、全然ルフィに似てねえし・・・何で、あいつの髪、緑色なんだ? 

それに、すんげえ、ガタいよかったよな・・・俺なんか、すっぽり填るくれえ・・・もしかし

て、警備の役人かな・・・刀も脇に差してたし・・・ちょっとだけ、格好良かったか

な・・・)

サンジは、一人、グルグルと考え事に集中していて、その男が、まだそこから、立ち去ってい

ないことに、気が付いていなかった。







++++++++++++



ここで、少し、説明を補っておく。

この、サンジを抱き留めたこの男。

都でも屈指の名門、現左大臣、藤原ミホークの次男、ゾロという。

年は、17歳。

家柄もさることながら、武術に秀でた才能の持ち主であるゾロは、今上帝の覚えもめでたく、

この年で、近衛少将(このえのしょうしょう。帝や、東宮などの近辺警護にあたる人たちのリ

ーダーで、武術に優れた、家柄の良い坊ちゃんがなる、エリートの花形ポスト)に任命され、

世間では、左近少将(さこんのしょうしょう)と騒がれる、前途有望な若者である。



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今日、俺は、幼なじみのルフィと一緒に、ルフィの父上である、権大納言ウソップ殿を迎え

に、わざわざ、この宇治の山荘までやってきた。

本来なら、別に俺が供をするほどの事ではないのだが・・・最近、我が家では、母様が、も

う、17歳になるのだから、妻の一人くらいは持ちなさいと、うるさく縁談を勧めるので、辟易と

していた。 そんなところに、ルフィが、大納言を迎えに行くからついて来てくれと、俺に頼ん

できた。 俺は、一も二もなくそれを受け、それを口実に、家から飛び出してきたのである。


別に、俺だって、結婚したくねえ訳じゃない。

ただ、何か顔も知らないのに、家柄だけで相手を決めちまう。(この頃は、妻になる実家の後

ろ盾(家柄)も、重要なステータスだった。)

そんなとこが嫌で・・・やっぱり、青臭いと言われようが、その、好きになった人と一緒になる

のが一番で・・・俺の妻は、俺が決める。 

そうずっと、思ってきた。


宇治の山荘に着くと、ルフィは、片っ端から部屋中を回り、大納言を探した。

(やれ、やれ。 相変わらずな奴だ・・・)

俺は、にわかに騒がしくなった山荘で、客間に通され、ルフィが、戻ってくるのを、待った。

女房達の話だと、権大納言殿は、俺達より一足違いで、京に出立したとのことだった。

(全く・・・無駄足だったな・・・まあ、家にいて、母様の小言聞くよりは・・・ましか・・・)

俺は、通された部屋の脇息にもたれ掛かると、フーッと深いため息を吐いた。



暫くして・・・

女房達が、口々に『ルフィ様が・・・』と言って、騒いでいる声が聞こえた。

俺は、女房の一人を捕まえて、どうしたのか、事情を聞いた。

何でも、西の対の客間に、大納言殿ゆかりの姫君がいらしてて、大納言と勘違いしたルフィ

が、その部屋に踏み込み、姫君と対面、その姫君を連れ去ろうとして、逆にその姫君に、庭

に蹴り飛ばされ、失神したというのである。

(・・・そんな馬鹿な・・・仮にもルフィも男である。 それも俺と同等に、武術にだけは

秀でていて・・・そんな姫君に蹴り飛ばされ、失神するほど、柔な男ではない。 

それは、俺が一番良く知っている・・・馬鹿な・・・大方、ルフィが、脇息か何かに蹴躓

いて・・・それにしても・・・庭まで蹴り飛んだとは、やけにリアルな・・・ルフィは、どん

な姫にあったんだろう・・・)

俺は、信じられない話に驚きを隠せず、それでいて、ルフィが連れ去ろうとした姫君のことが

気になって・・・

ルフィが、意識を回復したのは、もうすでに日が暮れたあとだった。

ルフィに呼ばれた俺は、そこで、昼間の女房の話が嘘ではないことを知った。

「俺、すんげえいいもん、見つけた。 絶対に、俺のもんにする!」

ルフィは、ニカッと笑いながら、俺にそう言った。

(庭まで蹴り上げるようなごつい姫をか?? ルフィも変わった趣味だよな・・・)

俺は、つい、ムキムキの右大将のスモーカー殿が、女装したような姫君を想像して・・・・

鳥肌が立った。

夜、昼間の喧噪が嘘のように消えて、しんと静まり返った廷内で、俺は、眠れずに、庭を散

策していた。

ちょうど今日は、十六夜で、月明かりで、庭も明るく照らされていた。

(今夜は、本当に、星が綺麗だ。 ルフィがいたら、二人で月と星を肴にして、一献、

いきたいところだが、ルフィがアレじゃ、どうしようもないか・・・)

「まさに、朧月夜にしくものぞなき・・・だな。」

俺は、そう呟いてまた歩き出した。

ふと、庭に、人の気配を感じた。

いつの間にか、俺は、西の対の庭まで歩いてきていた。

(もしかして・・・夜盗か?)

俺は、注意深く自分の気配を消すと、その人影の方へと歩いていった。





月の光に照らされて、キラキラと・・・俺は、見たこともない美しさに、言葉を失って、立ちつく

した。


月の下で、キラキラと光る黄金の髪・・・

肌は透けるように白く・・・・

仰ぎ見る瞳は、湖のように深く・・・澄んでいる・・・・

唇は自然の赤さを保ち・・・

そう、これはまるで、物語に出てくる、天女・・・・

触れればそのまま天に戻りそうなくらい、儚げな天女・・・・


俺は、本当にそう思った。

暫くして、俺の気配に気付いたのか、天女は、そこから走り出した。

走っていく先に見えるのは、西の対の客間・・・

『俺、すんげえいいもん見つけた。 絶対に、俺のもんにする!』

そう言ったルフィの言葉が頭によぎる。

(この天女が、もしや夕刻、言っていた姫?)

俺はそれを確かめるべく、姫の元へ駆け出した。

「あっ、危ない!」

姫が着物の裾を踏んで倒れようとしたところへ、俺は間一髪、間に合った。

すっぽりと俺の腕の中に収まる痩躯・・・

キラキラと輝く黄金の髪が、優しく俺の頬に触れた。

見上げた瞳の色は蒼く・・・

俺は、その瞳から目が離せなかった。

かけられた俺の声に、姫はあわてて、扇で顔を隠すと、そのまま俺の腕からするりと抜け、

部屋に戻っていった。

まだ、腕の中には姫の暖かさが、残っている・・・

「・・・ルフィには、渡せない・・・」

俺はそう呟くと、その姫のいる部屋に向かった。

生まれて初めて、自分から欲しいと思った姫。

俺の妻になるのは、この姫しかいない。

たった今逢ったばかりで、どうしてそこまで思いこめるのか・・・

それさえも考えられず、俺は、姫のいる部屋に入った。

昼間の騒動でだろうか、御簾は破け、隅に片づけられている。

その先に、几帳が幾重にも重なっていて、その後ろから、先程の姫と同じ気配が漂ってい

た。

「姫。 無礼を許してください。」

そう言って、俺は、几帳を押しのけ、姫の前に立った。

「なっ?!なっ!!!!」

あまりの驚き声も出せず、青ざめた顔の姫の姿が、そこにあった。

俺は、そのまま、姫を抱きしめた。

「姫・・・月の光に照らされた貴女の儚さに、私はここまで来てしまいました。

どうか、このまま、私の妻になっては、頂けませんか?」

そう言って、俺は、優しく姫に口付けた。

途端に、姫は、凄い力で暴れ出した。

とても、女の力とは思えない。

「てめえ、いきなり入って来て、何言ってやがる! 姫だと?! どこにそんなんがい

るんだ! よく見てから、言いやがれ!」

姫は、下世話な下々の使う言葉を俺に言った。

俺は、余程、姫が錯乱しているのだと思い、優しく声をかけた。

「そんなに大声で騒ぐと、女房達が皆、起きてこちらに来ますよ。 今、ここに女房達

が来て困るのは、私ではなく、姫。 貴女の方ですよ。」

そう言うと、姫は、観念したのか、おとなしくなった。

俺は、チャンスとばかり、姫の腰紐に手をかけた。

着ていた着物がするりと姫の肩から滑り落ちる。

・・・そこで見たモノに・・・今度は、俺が、言葉を失って固まってしまった。

「・・・だから・・・言っただろ? 俺は、姫じゃねえつうのっ。 今、ここの大納言のおっ

さんに匿って貰ってるだけなんだ。 すまねえな、がっかりさせちまってよ。 

でも、てめえが悪いんだぜ。 勝手に人の部屋にズカズカ入り込んでよ。有無言わさ

ず抱きしめるしよ・・・」

そう言って、姫、いや、男は、ペラペラと俺に、今までのいきさつを話し始めた。

俺は、あまりのショックに、その男の話を、半分も理解できなかった。

わかったのは・・・

この男の名がサンジであること。

れっきとした、男であること。

いずれ迎えが来て、自分の国に帰ってしまうこと。

・・・その3つだけ。

(なんてことだ・・・一目惚れして自分の妻はこの人しかいないとまでに惚れ込んだ相

手が・・・実は、男だったとは・・・笑えない冗談だ・・・)

俺は、自分の部屋に帰る気も失せ、その夜は、サンジの部屋で、お互いの話をして夜を明

かした。




翌日、俺は、姫の正体を教えるべく、ルフィのところに行った。

(ルフィも、ショック、受けるだろうな・・・)

「ルフィ、良く聞け。 実は、あの姫は、男だったんだ。 名前も、サンジって言うん

だ。 姫じゃなかったんだよ。」

俺は、話しながら、そう思っていた。

しかし、ルフィの反応は、意外なモノで・・・

「ふーん、そうか。 名前、サンジって言うのか・・・そうか、そうか・・・」

ルフィは、別段ショックを受けた様子もなく、逆に名前がわかって、嬉しそうにそう言った。

「お前、姫じゃないんだぞ? 男だったんだぞ? 驚かないのか??」

(普通、驚くだろうが・・・)

俺は、ルフィに確認した。

しかし、ルフィは、平然と、俺に言い切った。

「なんで? 男だろうと、女だろうと、サンジはサンジだ。 綺麗なモノは綺麗だし、

俺、あいつ、気に入ったし・・・やっぱ、俺、あいつ、俺のもんにする!」

ルフィの言葉に、俺は、少しだけ胸の痛みを覚えた。

この平和な昨今、一夫多妻制が横行し、男と男の恋愛は、さしてタブーではなく、すみれ族

と言う言葉がもてはやされている今日では、男女の恋愛と同等な社会通念とされていた。

つまり、男であろうが、女であろうが、好きならば、全く、問題ないと言うことである。

子供が欲しいので有れば、他の女性と作ればいい、その程度の問題であった。








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<コメント>

ゾロ、登場!!
一体どれくらいの人が、この役柄を考えていたのかな・・・
ぴったり、ビンゴだった人! 貴女はすっかり、ルナフリークです!
ルナとお友達になりましょう!!(笑)
一気にいくかと思ったのですが・・・
やはり、男ですから・・・(笑)
このあとのサンジの心の変化・・・ゾロの心・・・・
そう言ったモノがわかるように書けたらなあと・・・
でも、やはり、ルフィは、ルフィ・・・(笑)
このキャラは、ルフィじゃないと務まらないし・・・(笑)
エースとか、ギンも考えたんだけどね・・・
エースはちょっとキャラ違うし、ギンだと、ね。役不足かな・・・(笑)
結構、早めに続きをと思ってますので、
もう少し、お待ち下さいませ。