始まりは、ジャパネスク


その2





「・・・ここに、匿っちゃくれねえか?」

サンジは、さも悲痛な表情を浮かべ、ウソップの同情をかう作戦にでた。

案の定、ウソップは、目に涙を浮かべて、

「そない恐ろしい目にあわはるとは・・・なんて、あわれな・・・わかりました。 

この権大納言藤原ウソップの名にかけて、あんさんをお守りいたしやす。 

さっ、とりあえず、その妙な着物脱いで、湯浴み(お風呂)しなはれ。 

ナミ!・・・ナミはおるか〜!」

そう言って、ウソップは、お付きの女房ナミを呼んだ。

そして、なにやら、扇で口元を覆って、指示を出すと、ナミは、てきぱきと言いつけ通り、湯浴

みの用意をさせ、サンジの前に出た。

「ナ、ナミしゃんっv」

女房の顔を見て、サンジは驚いて、声を上げた。

「は、はい。 確かに、私はナミともうしますが・・・どちらかで、お会いしましたでしょう

か? 私には、記憶無いのですけど・・・さあ、あちらへ。」

女房ナミは、丁寧にサンジに、受け答えした。

「あっ、いえ。 良く知っている人にそっくりだったので・・・」

サンジは、あわてて弁解すると、ナミについて、湯浴みに向かった。

「ぷはあ〜。生き返ったぜ〜。」

サンジは、湯船に浸かると、フーッと息を吐いた。

「それにしても、ラッキーだったぜ。 あんなお人好しの貴族のとこだったなんて・・・

あとは、あのSOSが、届いて、誰か、迎えに来るの待つしかねえな。 どれ位かかっ

かな・・・1週間? いや、2週間くらいか・・・まあ、どちらにしても、ここでおとなしく、

匿って貰うしかねえよな・・・」

サンジは、そう、一人呟くと、湯船から上がった。

風呂から上がると、丹の粉を塗った塗籠の中に、真新しい着物が、置いてあった。

さっき、サンジが脱いだ制服と下着は、どこかに片づけられたらしく、見当たらない。

「んっ?! これ着れってか?!」

サンジは、その着物を身につけた。

「げっ!! マジかよ。 これ女物のうちぎじゃん。 何で女物なんだよ・・・俺、着方、

知らねえぞ・・・どう着たら良いんだ? おーい、誰かいねえかー。」

サンジは、風呂場から叫んだ。

「はい。こちらに。」

そう言って、ナミが、2、3人の女房を連れて、入ってきた。

「では、失礼いたします。」

そう言うと、ナミは、他の女房と共に、サンジに着物を着せた。

「はあ・・・重てえ・・・この時代のレディ達は、皆、こんな重たいもん着てたのか・・・

くそっ、動きづれえ・・・」

サンジは、そう呟いて、ナミの後ろについて歩いていく。

「殿様。 お支度できました。」

そう言って、ナミは、恭しくウソップにお辞儀すると、サンジを部屋に通した。

「おおっ、これは・・・すっかり見違えましたよ・・・まさか、ここまで変わられるとは・・・

どっからみても、美しい姫さんや・・・」

ウソップは、サンジの姿を見て、驚嘆の声を上げた。

さらさらと流れる黄金の髪・・・

深く蒼い色の瞳・・・

青磁のような透き通る肌・・・

その上に羽織られた金糸に藍のうちぎと赤と白のかさね。

どれも、この時代には不釣り合いな、見たこともない姿であったが、そのあまりの美しさに、

ウソップは惚れ惚れとサンジを見つめていた。

「あんさんには、これから、わての遠縁の姫さんとして、暮らしてもらいやす。

まあ、あんさんが、男であらっしゃいますのはわかりますが。 ・・・男だと、いつまで

も家に籠もると怪しまれますんで・・・姫さんという方が、何かと都合がよろしい。 

いいでんな。 わて、これから、京に戻らんといけんようになりましたんで、後のこと

は、このナミに任します。 絶対に、他の者には、姿見せんようにして

くださりませ。 それと、人前で、くれぐれもしゃべらんように・・・何かの用事は、全

て、このナミに申しつけて、この御簾の向こうに几帳を立てかけて、じっと、おとなしく

しときなはれ。」

そう言うと、ウソップは、ナミにサンジの世話を頼んで、京に向け、出立していった。

(・・・なんで、そうなる・・・まっ、いいか。 迎えが来るまでの辛抱だし。 

・・・でも、せっかく来たんだから、ちょっとは、いろんなとこ、見てみてえ気もするんだ

が・・・ここは一つ、おとなしく、言うことを聞くとするか・・・)

サンジは、御簾を下ろした几帳の中で、脇息にもたれ掛かると、訪れる眠気に、そのまま身

を任せた。








暫くして、ガヤガヤと騒がしい雰囲気とさやさやとあわただしく衣擦れの音が、近づいてき

た。

「姫様。・・・早く、奥の几帳の影に・・・」

そう言って、ナミが、あわてて部屋に入ってきた。

「姫様、早く!! ああっ、ルフィ様が、来てしまいますわ!!」

ナミは、御簾の中に入ってくると、一人、パタパタと、サンジのまわりに、幾重に

も几帳を立てかけ始めた。

「おもうさ〜ん(お父さん)!! おもうさんが、ここに隠れてんの、知ってんだぞ〜。 

いい加減、都に帰ってこいって、かーさまが言ってたぞ〜!」

そう大声で叫んで、誰かが部屋に入ってきた。

あわてて、ナミが御簾から出て、その男を制する。

「ルフィ様。 ここには、殿様は、おられません。 もう先程、京に向け、出立なされま

した。 さっ、早く、お帰りなされませ。」

そう言って、ナミは、御簾の前に立ちふさがった。

「・・・ナミ。 隠しても、ダメだぞ。 父様は、そこか。」

そう言って、ルフィは、ナミを押しのけると、御簾をあげ、几帳を蹴倒し、サンジの前に立っ

た。

「誰だ? お前。 見ない顔だな・・・それにしても・・・綺麗だな・・・おし! お前、俺

の妻にする。 俺と一緒に、来い!」

そう言うと、ルフィは、サンジの腕を取り、抱き上げようとした。

「・・・ナメんなよ・・・ルフィ・・・てめえ・・・俺は、レディじゃねえ! てめえのようなマ

ナーを知らねえ奴には、こいつで、充分だ。 くらえっ!」

そう言って、ルフィの腹めがけて、サンジは、渾身の蹴りを食らわした。

「グフッ!!」

ルフィは、御簾と共に、庭まで吹き飛んでいった。

「ル、ルフィ・・・様・・・」

ナミは、そう言って、庭に倒れているルフィに、駆け寄っていった。

「チッ、ナミさんの次は、ルフィかよ・・・どうなってんだ?」

サンジは、ブツブツと独り言を言った。

「ひ、姫・・・様・・・その格好・・・」

「あん?!」

サンジは、ナミに言われて、ハッと、自分の姿を確認した。

胸は、はだけ、裾は、蹴り出した足が、太股のところまでバッチリとみえていた。

「ゲッ、まじ・・・」

サンジは、あわてて着崩れを直そうとしたが、自分では、どうにも出来ない。

ナミは、クスクスと笑うと、失神しているルフィを別の女房達に、他の部屋に運ばせ、サンジ

のところまで来た。

「・・・姫様。 もう、このようなことは、なさいません様に・・・女性の着物は、動くこと

には不向きに出来ておりますから・・・ふふ。 でも、ルフィ様には、良い薬になりまし

たわ。 あの方は、本当に、自分が思ったことをすぐ、実行になさるお方ですから・・・

さっ、私が、お直ししましょう。」

そう言って、着崩れたサンジの着物を直してくれた。

「ナミさん・・・その姫様って言うのは、やめてくれよ。 サンジで良いよ。」

サンジは、そう言って、ナミの手を取った。

「わかましたわ。 姫、いえ、サンジ様。 では、私、ルフィ様が心配ですので、これ

で・・・くれぐれも、お部屋の外には、出ないで下さいまし・・・明朝、御簾も、取り替え

させますので、今日は、几帳だけですので、くれぐれも、ご用心を・・・」

そう言って、サンジの手から、スッと手をはずすと、さっさと部屋を出ていった。

「・・・やっぱり、いつの時代でも、ナミさんは、ナミさんだよな〜っv ああ、平安時代

のナミさんも、素敵だっv」

サンジは、鼻の穴を膨らませ、また、脇息にもたれ掛かった。

じき、日が暮れ、食事も済ませたサンジは、女房達が作ってくれた寝床に横になった。


シンと物音一つしない夜・・・

賑やかな都会に住み慣れているサンジにとって、この静かさは、逆に寝付けない要因になっ

た。

サンジは、周りに人の気配がないことを確認すると、部屋を抜け出て、庭に降りた。

空には、見たこともない程の星の光が、瞬いていた。

「うわあ、綺麗だよなあ・・・・」

サンジは、思わず、声を上げた。

サンジが空を見上げ、どれくらいの時が経っただろう・・・

不意に、近づいてくる足音に、サンジはあわてて、部屋に走った。

(くそおっ、動きづれえ・・・ゲッ! 誰か、来やがった。 こんな格好、見られたくね

え・・・)

着物の裾を踏んづけそうになりながら、サンジは、部屋に急いだ。

あと一歩で、縁側の階段につく、そう思ったとき、サンジは、思いっきり、着物の裾を踏んでし

まった。

(ゲッ。 しまった、転ぶ!!)

サンジは、思わず目をつぶった。






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<コメント>

先に、ルフィとナミが登場しました・・・(笑)
平安モノって好きなんだけど、時代考察をしてないから、
ところどころアレ?って思うとこがあると思います・・・
もう少し、古典、しっかりとやっとくんだった・・・はあ・・・
姫サンジッv 一度やっときたかったんだよな・・・
それでは☆