ジャパネスク ふたたび −平安時代編−


その5







季節は過ぎて秋・・・・・

お蔵入りかと思われていた桃園式部卿宮の一の姫が、シャンクス帝のお声掛かりで、

無事、入内し、麗景殿の部屋を賜って、麗景殿の女御と称されるようになった。

そして、今日は、そのお祝いの管弦の宴が、開かれていた。

ゾロの笛とエースの琵琶、そしてサンジの箏・・・・・どれもそれぞれの名手と謳われるだけあ

って、雅やかな音色と合奏は、その場にいる人々を酔わせるには充分だった。

「チッ。 せっかく人並みに吹けるようになったと思ったのに・・・・サンジがあんなに上

手いんじゃ、俺、もう吹けねえよ。」

ルフィは、そう言ってふてくされたように、食べ物を口に運ぶ。

あの事件の後、自然と仲良くなったルフィとサンジは、一向に上手くならないルフィの箏を

サンジが、指導することになった。

その教え方は、容赦なく、さすがのルフィも、やっとこさ、人並みに吹けるまでには上達した

のであった。

「おう、サンジ。 久しぶりに、てめえの舞がみてえ。 これで、舞ってみちゃくれねえ

か。」

シャンクスは、そう言って紅葉の枝を一振り、サンジに差し出す。

「・・・・・仕方ないですね・・・・では、今宵は、麗景殿の女御様のために・・・・・では、

どなたか曲の方を・・・・」

サンジは、御簾の向こうにいる麗景殿の女御に、にっこりと微笑んで一礼してそう言った。

「「じゃあ、私が・・・・」」

サンジの声にそう返事をしたのは、ゾロとエースだった。

「・・・・・・ここは、俺に任せとけ。 なあ、サンジ、いや、師宮殿、不肖ながら、この私

が、琵琶を弾きましょう。」

「・・・・任せられねえな。 師宮殿、私が、横笛を吹きますよ。」

「お前、人前で笛を吹くの苦手だろ? 無理しなくて良いぞ。」

「無理してねえし。 お前こそ、毎回嫌って言うほど、弾いてるじゃないか。 ここは無

理せずに俺に譲れよ。」

エースとゾロは、互いにそう言い合って、睨み合う。

「本当に、あのお二方は、いろんなところで競い合ってはりますなぁ。」

「・・・・しかし、エースはんはともかく、あのゾロはんまで、あない笛吹くことに積極的

になるなんて、なんかあるんとちゃいますか。」

「まあ、舞手が、師宮はんやから、なんでしょうかね・・・・・本当に綺麗な顔立ちして

はりますからなぁ」

「奇しの恋かもしれませんなぁ・・・・」

「ははは、エースはんは、そうかもしれませんが、あのゾロはんは、考えられまへん

な・・・・」

両者一歩も引かず、宴の席が、ざわざわとざわめき始める。

当のサンジは、クスクスと笑いながら、二人の睨み合う姿を見ていた。

「ああ、いちいちうるせえな。 おい、サンジ。 てめえが、どっちか選べよ。 ったく

よ、いつまでたっても、始まらねえじゃねえか。」

シャンクスは、痺れを切らしたようにそうサンジに告げる。

「はい、では、そのように・・・・・・・・では、お二人に合奏をお頼みします。」

サンジはそう言って、エースとゾロににっこり微笑んだ。

その微笑みに、ゾロは、思わず手を伸ばしそうになる。

「ああ、良いぜ、任せてくれ。」

エースは、張り切ってそう言った。

「?・・・・・衛門督殿? どうかしましたか?」

「え?ああ、いえ、なんでもありません。 ・・・・では。」

サンジの言葉にゾロは、我に返ると、エースと共に合奏し始める。

サンジは、二人の合奏に合わせて、扇と紅葉の枝を片手に、雅やかな舞を披露した。

宴の席も、サンジの舞に驚嘆のため息が漏れ、皆、しばし時の過ぎゆくのも忘れ、名手が弾

く合奏とその優雅な舞いと共に、秋の夜長を堪能した。

管弦の宴も終盤にさしかかり、麗景殿の女御は、先に部屋に戻り、長老達も、それぞれ屋

敷に帰り始める。




・・・・・・本当に綺麗なんだよなぁ・・・・・・

・・・・・・舞っている姿も絵になるくらい、艶やかで、雅やかで・・・・

・・・・・・笛の演奏に集中できなかった・・・・・




ゾロは、宴の間中、サンジから瞳を離せないでいた。

庭に差し込む月の光が、黄金の髪を煌めかせて、橙色の直衣と藍色の袴を着たサンジを

一層艶やかに映す。

さすがに、人目があるので、そうそう傍に近づけないが、楽しそうに笑っているサンジを見な

がらの酒は、格別に美味かった。

「今日の宴の主役は、サンジ殿というわけですか? ・・・・・近衛中将殿?」

不意に、エースがそう言って、ゾロに近づいて来る。

「今宵の舞は、見事でしたね。 月の精もかくあらんと言ったとこでしょう。 

すっかり、管弦の宴に華を添えていた麗景殿の女御様も影が薄くなってしまった。」

エースは、瞳を細めて、サンジを見て、俺にそう言った。

「・・・・・いい加減、その仰々しい宮中言葉は止めろよ。 誰も聞いてないんだから。

お前だって、『かつ見れど うとくもあるかな月光の いたらぬ里も あらじと思えば』

(月は確かに美しい。 だが、その美しさが時には疎ましい。 自分以外のところにま

でその美しさを見せているのだから)って心境じゃないのか?」

ゾロは、エースのサンジを見つめる瞳にいささかがムッとして、そう歌を詠んで言い返す。

「じゃあ、お前は、『月光の いたらぬ里こそ あらましほしけれ』(月の光が、届かな

いところこそ、あってほしいものだ)と言う心境だろ? 色恋事に疎い奴ほど、填った

ときの独占欲って大きいらしいからな。」

エースは、怯むことなくゾロにそう返歌で応戦した。

「うるさい、放っとけよ。 お前もひょっとして、サンジに本気なのか? 宮中一のプレ

イボーイを気取ってる奴が。 けど、俺だって、本気だ。 サンジを思う気持ちは、お前

にも、誰にも、絶対に負けない。」

ゾロはそう言うとエースを鋭い視線で睨み付ける。

「俺だって、今度は、本気だ。 絶対に引く気はない。 まあ、あいつが、お前に惚れ

るとは思えないし、俺の方が、お前よりは、サンジとの付き合い長いし・・・・まっ、

せいぜい嫌われないようにがんばれよ。」

エースはそう言って、ゾロの肩をポンと叩くと、サンジの方へ歩いていった。

そして、サンジとなにやら談笑して、ゾロの方を見て、ニヤリと挑戦的な笑いをしてみせた。

「・・・・・・本当に、むかつく野郎だぜ。」

ゾロは、不機嫌さを面に顕しながら、一人手酌で酒を飲み続けた。

「はぁ・・・・・・ちょっと、飲み過ぎた。 ・・・・・頭、冷やしてくるか・・・・・・」

ゾロは、そう呟いて、宴の席から離れて庭を散策し始めた。

















「・・・・・・今年の春・・・・・ここで、あいつに初めて逢ったんだよな・・・・・もう半年

か・・・・ 相変わらず、サンジは、サンジだし・・・・ あの事件の時には、少し進展し

たのかなって、そう思ってたのだが・・・・・ はぁ・・・・・報われない恋って言うのも、

結構辛いなあ・・・・・」

ゾロは、誰もいない春の庭(春に愛でる木々が植えてある庭)で、初めてサンジを見た桜の

木の下で、漢詩を口ずさむ。

「・・・・・どうした? 神妙な顔をして・・・・ また迷子にでもなったのか?」

その声に弾かれたように、顔を上げると、サンジが、そう言って近づいてきた。

「・・・・・迷子じゃねえよ。 ちょっとな、思い出してたんだ・・・・・・お前に初めてあっ

た夜のことを・・・・・ 今と全然反対のシュチエーションだったが、な・・・・」

ゾロは、サンジにしんみりとそう話す。

「ああ、あの夜か。 ・・・・・そうだな、もう半年経つのか・・・・・ ついこの間のことみ

てえだがな・・・・・・月日の経つのは、早いもんだぜ。 ・・・・・・・・なあ、てめえ、

まだ俺のこと・・・・・・いいや、止めとこう、この話は・・・・・ せっかくの宴だしな。 

てめえの笛・・・・なかなかだった。 エースの琵琶と相まって・・・・良かったぜ。」

サンジは、そう言ってニヤリと笑う。

「そうか? お前の舞こそ・・・・・綺麗だった。 本当に・・・・綺麗で・・・・・見事な舞

だった。」

そう言って切なげに自分を見つめるゾロの瞳に、サンジの胸にトクンと音がする。

「そりゃ、どうも。 ・・・・・俺、もう、行くわ・・・・・」

サンジは、そう言って自分から視線を外すと、宴の庭の方へ歩き出した。

「サンジ、待ってくれ。 ・・・・ちょっとだけ・・・・なあ、もう少しだけ、ここにいてくれな

いか。 別に何かをしようとか考えてないから。 ほんの少しだけで良い・・・・・

傍に・・・・傍にいてくれないか・・・・・」

ゾロは、小さな縋るような声でサンジに言う。

「・・・・・・はぁ。 ・・・・てめえ、まだ、そんなことを言ってんのか? いい加減に・・・」

「諦めきれたら、こんな事、言わない! ・・・・どうしても諦めがつかないから・・・・

辛いんだ。 ・・・・らしくないってわかってる。 女々しい奴だって笑うかも知れない。

・・・・けど・・・・・自分じゃ、どうしようもないんだ。 ・・・・・どうしようも・・・・・・」

ゾロは、サンジの言葉を遮ってそう言うと、キュッと唇を噛んだ。

サンジは、ため息を吐きながら、ゆっくりとゾロに近づいた。

「フッ。 ・・・・仕方ねえな、てめえも。 なんか俺、苛めてるみてえじゃねえか。

・・・ったく・・・・ ・・・・てめえの笛・・・・・俺、結構、好きだぜ。 これは、頑張った

てめえにご褒美だ。 受け取れ・・・」

サンジは、そう言って微笑むと、ゾロの唇にそっと自分の唇を押し当てる。

ふわりと、薫衣香(くのえこう)の香りが広がって、ゾロは、唇に感じる柔らかな感触に、身体

が硬直して動けなかった。

「ほらっ! てめえもいい加減に戻らねえと、シャンクスがうるさいぜ。」

サンジは、何事もなかったかのようにそう言うと、さっさとその場を後にする。

ゾロは、唇に残る余韻を指でそっと触れ、慌ててサンジの後を追って宴の庭に戻っていった。











宴も終焉になり、ゾロは、ただ一人、家人を伴って車で、屋敷に戻る。

あのサンジからの口付けの後のことをゾロは、あまり覚えていない。

あまりにも唐突で、それでいて甘美な一瞬の出来事・・・・

たぶん、サンジとしては、慰めにも似た行為だろうが、ゾロにとっては、宴の席で、エースに

してやられた憂さを一瞬で消し去るには、充分な出来事であった。

「・・・・はぁ・・・・やはり、俺は、あいつのことしか瞳に入らない。 ・・・・いっそのこ

と、無視されてた方が・・・・・いや、それでも・・・俺は・・・・」

ゾロがブツブツと独り言を言っていると、急に車が止まり、お供の家人の声が聞こえた。

「ゾロ様、すみません。 道の真ん中で、難儀をしているという方が、助けを求めにや

ってこられましたが、如何致しましょうか? ずいぶんと身なりの良さそうな姫様とそ

の従者のようですが・・・・」

家人は、少しとまどったような声でそうゾロに尋ねる。

「・・・・困った人が有れば助けるのが、手を差し伸べてやるのが情というもの。 

私が、直接、降りて聞いてみよう。」

ゾロはそう言うと、車を降り、その女人のところへと近づいた。

「如何なされた。 このような時刻に、供人も一人で・・・」

ゾロは、そう優しく声を掛ける。

「・・・・・すみませぬ。 長い旅路でここまでやって来たものの、縁の者の屋敷は、

門が閉ざされ、このような時間では、宿を取ることもままならず・・・・ただただ・・・

疲れ果ててしまって・・・・いっそ、儚んでしまおうかと・・・・ そこにそちらのお車を見

かけた従者が、非礼にもかかわらず、お声をかけてしまったようです。 

・・・・・申し訳有りませぬ・・・・」

その声を聞いて、ゾロは、ハッとした。




・・・・・・似ている・・・・いや、似ているというものではない。

・・・・・・同じだ・・・・・あいつの声と・・・・・・




若い姫はそう言って、扇で顔を隠したまま俯いている。

「・・・・では、落ち着くまでの暫くの間、私の屋敷にいらっしゃいませんか? 

私の名は、ゾロ。 衛門督の任に着いておりますので、妖しい者ではありません。」

ゾロは、平静を装ってそう姫様に言った。

「・・・・本当に、身も知れない私などに優しいお言葉を掛けていただいて・・・・・

ありがとうございます。 今宵だけでも・・・・そのお慈悲に縋らせていただきます。」

姫はそう言って、ゆっくりと扇を下ろして、恭しくゾロに頭を下げた。

「・・・・・・サ・・・ン・・・ジ?」

その姫の顔を見た途端、ゾロはそう言って、持っていた扇を道に落とした。

黄金の髪に蒼い瞳・・・・・姿形、どれをとってもサンジと瓜二つ・・・・

「・・・どうかなされましたか?」

姫はそう言って、ゾロの落とした扇を拾うとにっこりと笑ってゾロに手渡した。

「・・・・い、いえ、別に。 貴方が私の知人にそっくりだったため、少し驚いただけで

す。」

ゾロは、姫から扇を受け取ると、じっと姫の顔を見つめる。

「・・・・・あの・・・・・」

「ああ、すみません。 さっ、私の車で参りましょう・・・・」

姫の声にゾロは、我に返って姫の手を取ると、車に案内し、姫と供に、屋敷へと帰っていっ

た。







 
<next>     <back> 




<コメント>

はぁ〜、なんだかややこしくなってきた・・・・・申し訳ない。(ペコリ)
もうそろそろ・・・・だよね。と思いたい!!
ゾロとエースの和歌の内容は、ゾロの方が、
『月(サンジ)は、確かに誰が見ても綺麗だけど、
自分以外にもそう言う風に思わせてるのが、やきもきする。』
と言う解釈で、エースの方は、
『・・・だから、月(サンジ)は、そっと誰の目にも触れさせずに隠しておきたい』
と言う解釈です。 まあ、これは、ルナが考えたのではなく、
ある小説の抜粋なんですけど・・・・(汗)
解釈は、勝手に考えました。(あはは)
あれだけで、どの小説から抜粋したか、わかったあなたは、平安通です!!(笑)
なんとももどかしい・・・・・チッ、ゾロをお坊ちゃまにするのではなかった。