ジャパネスク ふたたび −平安時代編−


その3







白と薄蒼色を基調にした清楚なかさね・・・・・・

室内の灯りに照らされた黄金の髪を相まって儚げで愁いを帯びるサンジの表情。

都で評判の美姫達でも、これほど自分の心を惹き付け、捕らえて離さない者はいないだろ

う、とゾロは、真剣にそう思った。

その姿を見るに付け、ゾロの心臓は、早鐘のように鳴り響いて・・・・胸が、キュッと締め付け

られる。




・・・・・・やはり、この男なんだ。




ゾロは、サンジの身体を引き寄せると、顎に手を掛け強引に唇を重ねた。

「!!!んんっ・・・・んんーーっ!! んーーーっ!!んんーーっ!!」

サンジは、ゾロの思いも寄らない行為に、サンジは、必死になって抵抗する。

全身が恐怖で総毛立ち、がたがたと震えが止まず、抵抗する力さえ、失っていく。

ゾロは、そんなサンジの様子に気が付く余裕すらなく、叫び声を上げようとしたサンジの唇に

更に深く口付けた。

サンジは、顔面蒼白になりながらも、やっとの思いで、ゾロの舌に力一杯噛みついた。

「っ痛・・・・・」

ゾロは、口の端から血を雫しながら、ようやくサンジの唇から離れた。

サンジは、唇を手で拭って、渾身の力で、ゾロを蹴り飛ばす。

「ふざけるな!!! ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなーっ!! 俺は、てめえ

に夜這いかけられるために、こう言う格好してここにいるんじゃねえ!! 

てめえも、初めからこういうつもりで・・・・・こういうつもりで俺に声掛けたんだな!!

・・・・てめえは・・・・てめえは、あんな奴らと同じじゃねえって・・・・・そう思ってたの

に・・・・・・出て行け!!! 出て行けよ!今すぐに!! こんなこと、もう止め

だ!!」

サンジは、ゾロを睨み付けて、そう一気に捲し立てた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。 俺の話を・・・・」

「うるせえ!! てめえの話なんか、聞く耳もたねえ!! てめえが、出ていかねえ

のなら、俺が、出て行く!! そこどけよ!!」

サンジはそう言ってゾロの言葉を遮ると、十二単を脱ぎ捨てて御簾の方へと歩き出した。

「聞いてくれ!! 俺は、お前が好きだ。 俺は、伊達や酔狂でこんなことはしない。

好きだから、した。 いきなりなのは、謝る。 ・・・・・けど、キスしたことは、謝らな

い。」

ゾロは、出ていこうとするサンジの背中にはっきりとそう叫ぶ。

「・・・・・・てめえなあ、いい加減にしろよ!! 逢ったばっかで、まだ互いになんにも

知らねえのにそんな戯れ言、誰が信じるって言うんだよ!! それに、俺は男だぞ!

とってつけた嘘なんか吐くんじゃねえよ!! 見損なったぜ。 今度、言ったら承知し

ねえからな!!」

サンジは振り向いてそう言うと、側にあった脇息をゾロに投げつけた。

「お前が怒るのも、もっともだと思う。 でも、俺には、確信が有るんだ。 俺は、お前

が好きだ、惚れている。 上手く言えないけど、あの宴の夜、お前に出逢って・・・・・

いや、その前に、ルフィからお前の名前を聞いた秋の夜から、俺の中におぼろげな人

物が現れて・・・・・・・ずっと気になってて、俺の心がうずくんだ。 誰だかもわからな

いのに、確かに俺は、その人物に惹かれて・・・・・そして、それがお前に逢うにつれ

て、どんどん鮮明になっていくんだ。 黄金の髪に蒼い瞳・・・・・そして、俺の名を呼

ぶ声・・・。 そして、今、確信した。 俺が、生涯を掛けて愛する人は、サンジ、お前

しかいない。 男だろうが、女だろうが関係ない。 俺が、好きなのは、お前だ。 

嫌われようと蔑まれようと、この気持ちに嘘はない。」

ゾロは、真っ直ぐにサンジを見つめて静かな声でそう言った。

「・・・・・・わかった。 もう良い。 こんなことでガタガタ言うのも、大人げねえしな。

・・・・・乗りかかった船だ。 最後まで、囮はやってやる。 ・・・・・けど、そこまでだ。

宮中で俺にあっても、二度と俺に話しかけるな。 俺も、てめえには、話しかけねえ。

さっ、わかったら、さっさと戻るんだな。」

サンジはそう言うと、顎でふすまをしゃくって指し示す。

「・・・・・・・信じてくれとは言わない。 俺だって、何でこう言う気持ちになったのか、

説明できないんだから。 だが、俺の気持ちを否定することだけは、止めてくれ。 

誰が何と言おうと、この気持ちに嘘はないから・・・・・」

ゾロは、切なげな瞳でそう呟くと、ふすまの後ろに戻っていった。

「残念だがな、俺は、てめえなんか好きでも何でもねえ。 と言うか、全くそう言う色

恋事に興味はねえ。 そう言うわけだから、てめえも、そんな望みのねえ事、忘れ

て、ちゃんとした姫君を娶れよ。 それなら、俺だって、知人ぐらいには思っててや

る。」

サンジはゾロの背中にそう言って、脇息を元の場所に戻ると鎮座し直した。





それから、2、3日は、何事もなく過ぎ、外出もままならない状態で、退屈を持て余したゾロと

サンジは、互いの生い立ちを語り始めた。

「・・・・・ふ〜ん。 本当にてめえは、恵まれた中で育ってきたんだな。 まあ、てめえ

を見れば、一目瞭然だけどな。 ・・・・・俺は。 ・・・・・知ってるか? 後見と身寄り

のない捨て宮ほど、悲惨なもんはねえんだぜ。 父様は早くに死んだしな。 

母様も、その翌年には、亡くなった。 俺は、まだその時、八つだった。 世間知らず

で、育ちと顔だけが良い俺は、信頼していた従者に裏切られて財産は、いつの間に

か無くなってるわ、金欲しさに、近づいてきた奴らに、売られそうになったり。 

・・・・・俺を慰み者にしようとした連中なんて数えやしねえ。 あの寺に拾われて、

シャンクスと出逢わなけりゃ、俺は、どっかで、春売りをやらされてたかも、な・・・・」

サンジは、まるで他人事のように、淡々とゾロに自分の生い立ちを話す。

冷ややかにそう言って笑顔さえ浮かべるサンジに、ゾロは、ギュッと胸が締め付けられた。

その話から、今までのサンジの言葉と態度が理解できた。

・・・・・そして、自分が如何に自分勝手な行動で、サンジを傷つけたのかを思い知らされた。

「・・・・・サンジ、本当に、ごめん。 けど、俺は、お前を慰み者にしようなんてちっとも

思ってなかった。 信じてくれ。 ただ、胸が高鳴って・・・・どうしようもなくて・・・・」

ゾロはそう言って唇を噛みしめる。

「もう良いって、そんなこと。 本当にてめえは、噂に違わず、真っ直ぐな野郎だな。 

てめえは、家柄も、地位も、将来性も、見てくれだって全然いけてるんだ。 俺なんか

に構わなくても、てめえを婿に迎えたいと思ってる貴族も姫君もたくさん居るだろう。 

可能性のない俺なんか相手にしないで、てめえに相応な、家柄の良い慎ましくて綺

麗な姫君を、妻に迎えて幸せになれよ。」

サンジは、そう言って苦笑した。

「そんなこと出来るわけないだろ。 言ったはずだ。 俺が、生涯で愛する人は、

サンジ、お前だけだ。 俺は、自分の気持ちをねじ曲げることは出来ない。 それに、

好きじゃないって事は、嫌いでもないって事だろ? だったら俺は、一生諦めない、

諦めきれない。 そんな生半可な気持ちじゃないんだから。」

ゾロは、じっとサンジの瞳を見つめてそう言い返す。

「ば、馬鹿か!てめえ! な、なにそんな真剣にクサい台詞、言ってんだよ!! 

聞いてるこっちが、恥ずかしくなるぜ・・・・・もう良い、止めろ、その話は・・・・」

サンジは、慌ててゾロにそう言うと下に俯いた。

スッとサンジの頬に赤みが差す。

ゾロは、そんなサンジの表情がやけに幼く見えて、思わず笑った。

「・・・・・何笑ってんだよ!! てめえのせいだろが!! てめえが、気色い事言うか

らだ!!」

サンジはそう言ってゾロに脚を振り上げた。

「おわっ!!」

「あぶない!!」

着慣れない十二単に脚を取られ、サンジは、ゾロに倒れ込む。

ゾロは、慌ててサンジを抱き留めた。

「うわっ!! 止めろ! 止せ!! 俺は、てめえなんか、好きじゃねえ!! こら、

離せ!! 離れろよ!! 気色い!!」

サンジは、必死にゾロの腕から逃れようとする。

「・・・・・あのなあ、お前が転びそうだったから、助けただけだろ? そんなに何度も

言うことないだろ。 傷つくんだぜ、これでも・・・」

ゾロは、ムスッとした顔でそう言うと、サンジから離れた。

「・・・・・悪かったな。」

サンジは、そう呟くと、ばつが悪そうな顔をした。











それから、また数日が過ぎたある夜・・・・・

サンジのいる部屋に数人の男達の気配がした。

「だれ?!」

「シッ。 お静かに願いますよ、姫様。 手荒なことはしたくないんで、ね。」

男達はそう言って、サンジの口を塞ぐと、手際よく屋敷の外に置いてあった網代車にサンジ

を乗せて、屋敷を離れていく。

ゾロは、その様子を、気配を消して注意深く覗いていた。

「おい、ルフィ。 俺達も追いかけるぞ。」

ゾロはそう言って、隣にいるルフィに声を掛ける。

「ぐがーーーっ!!!・・・・」

しかし、聞こえてきたのは、ルフィの鼾だけ。

「・・・・・・・・この馬鹿が。 ・・・・・仕方ない。 俺一人で後つけるか・・・・」

ゾロはそう呟いて、急いで、その網代車を追いかけた。

車は、ゆっくりと二条院を出て、すぐ近くの二条堀川へと進んでいく。

「??・・・・・この先は・・・・・」

ゾロはそう呟いて、立ち止まる。

その先に見える屋敷はただ一つ。

先帝の東宮(シャンクス帝の兄)妃が住まう先々左大臣の屋敷のみ。

網代車は、確かにその門をくぐり中へと消えていった。

「ここは確か、先帝の亡東宮の妃が、お住まいの先々左大臣の屋敷。 何故、こんな

ところに・・・・・・ 東宮が、ご病気で早逝して、妃ご自身も、病に伏していると聞いて

いたが・・・・・昨年、先々左大臣が亡くなられて、すっかりと表舞台からは遠ざかり、

静かにお暮らしだと聞いていた・・・・・ とりあえず、一度、二条院に戻り、今上に

も、お伝えしなければ・・・・」

ゾロは、元来た道を急ぎ、二条院に戻ると熟睡しているルフィを叩き起こして、シャンクスにも

連絡を取り、また一人、二条堀川の先々左大臣家に乗り込んだ。












++++++++++++++++++



サンジは、男に連れられるままに、見知らぬ屋敷の部屋の奥の座敷牢にやってきた。

「ここで大人しくしとくんだな。 下手に騒いだり、俺達を出し抜いて逃げ出そうなんて

気、起こすんじゃねえゾ。 ・・・・・それにしても、お前、綺麗だな。 黄金の髪に宝玉

の瞳か。 このまま生け贄にするには、惜しいよな。 なあ、俺のもんにならねえか。

ここにいてもどうせ死ぬんだ。 だったら、俺とここを逃げ出して、一緒に暮らさねえ

か。 贅沢とはいかねえが、そこそこの暮らしは保証するぜ。 ・・・・どうだ?」

男はそう言うと、サンジの顎に手を掛け、にたりと笑う。

「・・・・・・・・・」

サンジは、黙ったまま、座敷牢の中に目を向けた。

牢の中には、今まで浚われてきたと思われる姫君たちが、部屋の隅で寄り添って震え、

蹲っている。

「なあ、良いだろ? 俺のもんになれば、生きてここから出られるぜ。」

男は、無言のままのサンジに耳元で再度そう囁いた。

「・・・・・・手を離せ。 そしてその臭い息を俺に吹きかけるな。 反吐がでそうだぜ。」

サンジは、そう言ったかと思うと、男の鳩尾に膝蹴りを放つ。

「がはぁっ!!」

男は、腹を押さえて二、三歩後ずさりして蹲った。

「ここにいる姫君たちは、皆、返して貰うぜ。」

サンジは、そう言って姫君たちを手招きし座敷牢から逃がそうとする。

「っ・・・・・てめえ・・・・男だな。 誰かーーっ!! 皆来てくれーーっ!!」

すぐに意識を取り戻した男は、そう叫んで仲間を呼んだ。

「チッ。 蹴りが、甘かったか・・・・・」

サンジは、そう呟いて、十二単を脱ぐと、小袖姿のまま、姫君たちの前に立つ。

ドカドカと響く足音が近づいて、アッという間に、サンジ達は、男達に逃げ道を塞がれた。

「フルボディの兄貴。 こいつ、姫じゃないぜ。 男だ。 俺達を出し抜いて、姫達を逃

がそうとしやがった。」

サンジを連れてきた男は、リーダーの男にそう言ってサンジを指差す。

「ふ〜ん。 珍しく綺麗な顔立ちの姫君だと思ってたら、男か・・・・・ククク、じゃあ、生

け贄には使えねえな。 たった一人忍び込んで何が出来る。 自分の認識の甘さを、

嫌っというほど、わからせてやるぜ。 おい、捕まえろ! 傷つけても良いが、殺すな

よ。 楽しみが一つ減るからな・・・・・やれ!」

フルボディは、そう言うと、側にいた男達に顎で指図した。

「相手は、たかが一人だ。 やっちまおうぜ。」

「なめんなよ。 たかが一人と思うな!」

そう言って、サンジは、自分に近づいてくる男達の攻撃を持ち前の反射神経でかわしなが

ら、一人一人、確実に伸していった。

しかし、予想以上に敵の数は多く、サンジの表情に焦りと疲労の色が見え始めた。

「ククク・・・・本当に楽しませてくれるじゃねえか。 ・・・・・だが、こうしたらどうか

な?」

フルボディは、そう言うと、サンジめがけて矢を放つ。

サンジは、飛んできた矢を避けようと身をかわす。

その時、疲れからか一瞬だけ、サンジの反応が遅れた。

「今だ! 全員で飛びかかれ!!」

フルボディの指示に、男達が一斉にサンジに飛びかかった。

「放せ!! 俺に触るな!! おらっ!離せよ!!」

サンジは、必死になって抵抗したが、多勢に無勢ではどうしようもなかった。

「ッククク・・・いいねえ。 強気な瞳が、なかなか・・・・・どうせ、殺される運命だ。 

その前に、たっぷりと可愛がってやるぜ。」

フルボディは、そう言って、サンジの顎に手を掛ける。

「畜生!! 殺せ! 今すぐに殺せ!! てめえらの慰み者になるぐらいなら死んだ

方がマシだ!! さっさと、殺しやがれ!!」

「フフフ・・・俺は、あいにく死姦するような趣味は、もってねえからな。 飽きるまで

は、生かしといてやるぜ。 ・・・・部屋に連れていけ。 ああ、死なれても困るから

な。 猿ぐつわを忘れずにな。」

「ふざけるな!! てめえらの思い通り・・・んんっ・・・」

サンジは、手足を縛られ口を封じられ、フルボディと共に、男達によって部屋に連れて行かれ

た。








 
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<コメント>

・・・・なんかさあ、気合い入れて書いてる奴に限って、
上書きして消しちゃうんだよね・・・・(TOT)
はぁ・・・・・っで、コレも同様。 書き直しに3日も掛かっちゃった。
頭の中は、なんでだろ〜??のフレーズが・・・(笑)
ほんのちょっとだけ、サンジの心に変化が・・・・・
そうこうしてる間に、サンジ、ピ〜ンチ!!
・・・・今回の悪人は、フルボディっすvv
・・・・・・・っで、ゾロ、あんたなにしてんの??(笑)