ジャパネスク ふたたび −平安時代編−


その2







「・・・で、最近、美しい姫さんばかりが、狙われる事件がおきてますなあ・・・」

「昨日、左馬頭(さまのかみ)のところの二の姫さんも、いなくならはりましたとか・・」

「えらいショックで、左馬頭はん、寝込んではると言う話ですがな・・・・・」

「この前は、桃園式部卿宮(ももぞのしきぶきょうのみや)の一の姫さんやったやろ。」

「鬼の仕業やて、噂になってますなあ・・・・」

殿上では、シャンクス帝を囲んで、最近の都で起こっている事件のことを口々に長老達が、

帝の耳に入れる。

立て続けに起こる美姫ばかりを狙った犯行に、宮中も、他人事とは言えない状態になってい

た。

左馬頭の二の姫は、別として、桃園式部卿宮の一の姫は、近く、シャンクス帝の女御として

入内する予定であった。

「・・・・・やっぱり、このままにしてはおけねえな。 おい! ゾロを呼べ!」

シャンクスの伝令で、ゾロが、殿上に召された。

「・・・・お呼びですか? 今上・・・・」

ゾロはそう言って、恭しく頭を下げる。

「ああ、そんな堅苦しいことはしなくて良い。 長老達は、帰らせたから・・・・ 

ところで、最近、都を騒がせている事件、知ってるか??」

「・・・はい。 確か、評判の美しい姫君ばかりを狙った神隠し事件ですね。 衛門佐

(えもんのすけ)に命じて、調査、警戒中なのですが、一向に、足取りが掴めません。

私が、直に動きたいのですが、お上の命令がない以上、そうもいきません。」

ゾロは、シャンクスにそう言って、言葉を待つ。

衛門督・別当となったからには、宮中で指揮するのが当然で、実際の調査等は、全て部下

が執り行っている。

「・・・・・っで、てめえに、聞く。 なんか、具体的な策は、あるのか? 足取りを掴む

為の・・・」

「はい。 囮を使おうかと・・・・・実際に、どこかの姫君を使おうとは考えてはおりませ

ん。 噂だけを流して、夜盗が忍び込んだところを捕らえようと考えております。」

「ふ〜ん。 そんなことで、簡単にのってくるか? ここまで、足取りが全然掴めてな

いと言うことは、余程、慎重な奴らだぞ。 噂だけの絵空事のような姫君をさらいにや

ってくると思うか? 俺なら、そんなこと、絶対にしねえな。 絶対、本人が、噂にたが

わねえような姫君か、確認する。」

ゾロの策にシャンクスは、そう言って反論する。

「・・・しかし、実際に囮になってくれるような奇特な美しい姫君なんて、この都中探し

ても、いやしませんよ。 ルフィに頼もうかとも思いましたが、どうみても、美姫には、

なれないし・・・・」

「んじゃあ、てめえが・・・・」

「冗談は、止めて下さいよ・・・こっちは、真剣に考えてんですから・・・・」

「ははは・・・・わりい。 ちょっと、怖いモノ見たさがあってな・・・・・・」

ゾロとシャンクスが、そう言って談笑してるとき、命婦が、先触れとしてやって来た。

「新師宮様、殿上なされました。」

「はよう、これへ・・・」

「・・・・承知いたしました。」

命婦が、去って暫くして、新師宮サンジが、シャンクスの前に現れた。

ゾロの心臓が、早鐘のように鳴り響く。

「お上の笑う声が、承香殿の方にも届いてましたよ。 火急のお呼びにて、参上いた

しました。 なにか、ご用ですか?」

サンジは、そう言って恭しく挨拶をした。

「ああ、堅苦しい挨拶は、いらねえ。 てめえを見込んで、話がある。 実はな、この

ゾロと一緒に手を組んで、今、都を騒がせてる神隠し事件の真相を暴いて欲しい。」

「お上にそこまで言われては、断りようがないですね。 っで、私は、一体何をすれば

いいですか?」

シャンクスからそう頼まれて、サンジは、にっこりと笑って返事した。

ゾロは、目の前のサンジから、瞳を離せないでいた。

あの宴の夜に見たサンジは、幾分儚げで愁いを帯び、この世のモノとは思えぬ程に幻想的

にゾロには映った。

しかし、最後に発せられたサンジの言葉は、その容姿からは想像も付かないほどに、強烈

で、一瞬にして、ゾロを幻想の世界から現実に引き戻した。

そのサンジが、また、自分の前にこうして姿を現した。

陽の光を浴びて、眩しいほどに輝く黄金の髪。

親しみやすい笑顔で、快活に話すその姿は、あの夜とは全くの違う顔を見せ、ゾロの瞳を捕

らえて離さない。

どうしてこうまで、この男に関心を抱くのか、瞳で追ってしまうのか、ゾロ自身全くわからなか

った。

少なくても、自分はすみれ族ではないと思っている。

どこそこに、美しい姫が居ると聞けば、それなりに興味はある。

家柄、人柄、地位、将来性、どれをとっても申し分ないゾロには、縁談は降って湧くほどに多

い。

しかし、性格故か、遊び半分で女性に忍んで行くなど、ゾロには考えも付かないことで、この

年になるまで、妻も忍び恋をする相手もいなかった。

愛する人は、生涯でただ一人居ればそれで良い。

その一人が、誰なのか、今はまだ見当も付かないが、確かにその人は存在する。

それが予想ではなく確信に近いモノであると、ゾロはそう思っている。

そう、昨年の中秋の名月に鴛鶯殿で、ルフィと月を仰いで酒を飲み交わした頃から、ゾロの

心に生まれた確信。

月を見上げる度に湧き起こる胸の痛み。

まるで、月に恋でもしているような錯覚さえ覚えてくる。

それが何故なのか・・・・・ゾロにはまだわからない。

「おう、よく言ってくれた。 てめえには、囮をやって貰う。 ・・・・そうだな、関白左大

臣ウソップの遠縁の姫君と言う設定にしておこう。 ウソップには、俺から話を通して

おく。 場所は、ウソップが住んでる二条院で良いだろう。 あそこは、庭も広く、部屋

数も多いので、兵が潜むには、うってつけだからな。」

「ちょ、ちょっと、待てよ、シャンクス。 今、姫君ってそう言わなかったか? 俺・・・・

ちょっと、訳わかんねえんだけど・・・・ちょっと待ってくれ。 俺が、囮なんだよな? 

それで、囮が・・・・・姫君なのか?? ・・・・・・・それって・・・・・・・俺が、姫君?」

「シャンクス??」

ゾロは、シャンクスとサンジの会話を聞いていて、つい、言葉を挟んでしまう。

いくら親しいからと言って、怖れ多くも、お上を呼び捨てにするなどと、ゾロには、到底考えら

れなかった。

それを、新師宮であるサンジは、新参者に関わらず、ルフィ同様に、シャンクスと接している

のである。

「ん? また、てめえか。 まさか、てめえが、発案したとか言うんじゃねえだろう

な・・・・・」

「・・・・・・俺が、さっき、発案した。」

「なっ、てめえ!! それで、俺を姫君に仕立てようと考えやがったのか!! 

ふざけんなよ!この能なし中将が!!」

ゾロの言葉に、サンジは、いきなり、ゾロの胸ぐらを掴みかかり、そう捲し立てた。

「おいおい、ちょっと、待てって!! 先に発案したのは、確かにゾロだが、それは、

俺も考えてたことなんだ。 但し、俺の方が、具体的に考えてたから、てめえを囮に

使おうと考えた。 てめえは、見た目は、凄く綺麗だからな。 結婚に全く興味のねえ

誰かサンが、じっと見惚れるくらいに、な。 だから、てめえのことは、こいつも全然知

らなかったというわけさ。」

シャンクスは、そう言ってゾロの方を見てニヤリと笑う。

うっすらと、ゾロの頬が紅潮するのがわかった。

「うわっ!! 気色い!! てめえ、すみれ族か?? なんで、頬を赤らめんだよ。

俺は、こうみえても、その気は、全くねえからな。 良いか、てめえ。 今回は、シャン

クスが、直々に頼んだことだから、囮の姫君の役、やってやる。 だがな、これでも

し、捕まえられねえようだったら、ただじゃおかねえからな。 いや、忍んできやがっ

たら、間違いなく、俺が、捕まえて締め上げてやるから、安心して俺に任せろ。」

サンジは、ゾロを離してそう言うと、ゾロに対して、不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあ、そう言うことで。 後のことは、全てゾロに任せる。 サンジと段取りを話し合

って、早く事件を解決するように。 とにかく、浚われた姫君達の安否が気に掛かる。

もちろん、このことは、公にはしないこと。 じゃ、よろしく頼む。」

「・・・・・承知しました。」

「まかせとけ、シャンクス。」

こうして、シャンクス、ゾロ、サンジの三人は、左大臣ウソップと、その息子ルフィの協力を得

て、極秘に、神隠し事件の捜査に乗り出した。




「・・・・・なあ、思うんだけど、なんで俺、十二単なわけ? 別にさあ、そこまでしなく

ても良いんじゃねえの? 浚いに来たところを踏ん捕まえりゃ良いじゃねえか。」

サンジは、酒を注ぎながら、ゾロにそう言った。

今日は、捜査の段取りを話し合うために集まったのだが、表向き、宮中で親しくなったゾロの

ところに遊びに来たという名目で、ルフィとサンジが、右大臣家に集まっている。

「それでは、ダメだ。 お上がおっしゃってただろ。 実際に浚われている姫君の安否

が重要なんだ。 その場で、捕まえても、姫達の所在がわからなくなっては、元も子

もない。 サンジには、悪いが、その場は抵抗せずに、わざと捕まって欲しい。 

その為に、ちゃんと十二単で正装して貰う。」

「・・・・・わかった。 そう言うことなら仕方ねえか。 けど念のために聞いておく。 

ちゃんと追捕する手はずはついてんだろな。 2、3人ならともかく、もし犯人が、多勢

だった場合、いくら俺でも、一人じゃどうしようもねえからな。 俺、剣術はつかえねえ

し。 それともし、他の貴族とかが夜這いに来たらどうすんだよ。 俺、宮中に来たば

っかで、全然、誰が誰なのかわかんねえから犯人と区別がつかねえよ。」

「その点なら大丈夫だ。 俺が、奥のふすまの影に待機している。 もし、誰かが夜

這いに来ても、俺が、追い返すから大丈夫だ。 さすがに、俺を相手にしてでも、と言

う奴は、いないからな。」

「・・・・大した自信じゃねえか。 本当に、大丈夫なのか?」

「ああ、ゾロは、本当に強いぞ。 剣術だけなら、向かうところ敵無しだ。 ああ、そう

いえば、父様が、色々と衣装、用意したって言ってたぞ。 うち、妹亡くしたばっかだ

から、それは喜んで用意してたなあ。 母様も、遠縁の姫さんが来るって、張り切って

部屋の模様替え始めたし・・・・」

「・・・・っで、いつ、左大臣家にのり込むんだ?」

「一週間後だ。 ルフィ、サンジ、よろしく頼む。」

「任せとけって。 ニシシ、こう言うのって、すげえ楽しいよな。 わくわくするぜ。」

「俺は、やりたくねえが、シャンクスの頼みだしな。 断れねえから・・・・一丁やりま

すか。 本当に頼んだぜ。 お二人さん。」

三人は、段取りの確認をしながら、楽しく酒を酌み交わした。









それから、一週間後、つつがなく、サンジ姫(?)の二条邸への引っ越しも済んで、ルフィとウ

ソップは、サンジ姫が、噂の端にのるように、せっせと事有る事に吹聴し、宴を催しては、

サンジ姫の存在をアピールした。

その甲斐あってか、サンジ姫を目当てにした貴族達が、ひっきりなしに訪れては、贈り物や

求婚の文を贈るようになった。

世にも珍しい黄金色の髪と、宝玉のような蒼い瞳を持ち、透けるような白い肌を持った姫君。

血筋も、親王を父君に持ち、母君も、左大臣家の家柄。

今回、左大臣のウソップが、わざわざ、屋敷に引き取ったのも、女御入内を考えての事と都

の人々は、囁きあった。

「はぁ〜・・・・ったく、世間の噂って言うのは、本当、宛にならねえって事が、よおっ

く、わかったな。 なんだって、自分で確認もしてねえ相手に、恋文や求婚できるの

かね・・・・俺には、到底、理解できねえよ・・・・」

几帳越しにそう言ったサンジの声に、ゾロは、ハッとする。




・・・・・・・俺は、以前、これと同じ状況に遭遇している。




曖昧で、輪郭もはっきりとしない記憶が、ゾロの脳裏に甦る。

しかし、頭の中で、確信に近いものが、響いてくるのだ。

これと同じ事が、サンジと初めてであった時に起こった。

サンジという名前、二度目の既視感、そして、自分の瞳を捕らえて離さないこの男。

それはどうしてなのか・・・・・

自問自答を繰り返すゾロの中で、少しずつ輪郭を成していく人・・・・・・

自分の生涯でただ一人と決めた人・・・・・

それがゆっくりと、ゾロの中で一人の人物になっていく。

そう、この目の前の几帳の中のこの男に・・・・・

ゾロは、意を決して、几帳の中に押し入った。

「な、なんだよ、いきなり・・・・びっくりさせんなよ!! ったく・・・・・例の人浚いがや

って来たのかと思ったぜ。 ・・・・何か俺に用か?」

急に現れたゾロに、サンジは驚いてそう言った。









 
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<コメント>

ははは・・・・・・もう、何の申し開きもありません。
全然、サンジ、乙女ってない!可愛いげもない!そして、定番の姫サンジ!!
まあ、前作の関係もあるし、ゾロに、早くその気になって貰わないと
話が進まないし・・・・の前に!
サンジが・・・・・サンジがどうよ?!みたいな。(笑)
はてさて・・・・・・このままサンジは、ゾロの手に落ちるのか?!