<z−side>このまま、男部屋に戻っても、とても眠れそうにねえ。
俺は、甲板で、夜を明かすことにした。
「・・・こんな時は、居合いの型でもやって、精神統一するに限る・・・」
そう言って、腰の刀に手をかけ・・・・手をかけ??? ・・・しまった!
俺は、あまりのショックに、刀をキッチンの壁に立てかけたまま、飛び出してきたらしい。
キッチンには、まだサンジがいる。
俺は、どうしたモノかと考えた。
サンジには、今、会いたくねえ。
今、あいつの目の前に立つと、俺は、何するか、わからねえ・・・
・・・自分のモノになんねえなら、いっそ、いなくなっちまえばいい・・・・
俺の心が、軋みだす・・・
とりあえず、俺は、キッチンの窓を覗くことにした。
サンジが出ていくのを確認したあとで、刀を取りに行こうと考えたのだ。
窓を覗いたその瞬間、俺は、意外な光景を目の当たりにする。
サンジが、俺が飲んでいた場所で・・・・泣いている。
蒼い瞳を閉じたまま、頬に伝う涙もそのままに・・・・
・・・その腕には、俺の刀。
鷹の目との戦いにも、刃こぼれせずに、俺と共にあった、和道一文字・・・・
耳を澄ますと、嗚咽と共に、掠れた声が聞こえる。
「・・・ゾ・・・ロ・・・ご・・めっ・・・・ん・・・・ゾロ・・・・ゾロ・・・ゾロ・・・オ・・・レ・・・側・・・
に・・・い・・たかっ・・・た・・・ゾロ・・ゾロ・・」
俺の名を連呼する声が、何かをオレに訴えかける。
俺は、あいつの言いたかったことが、わかったような気がした。
あいつは、本気で、俺に女を抱かせようとしたんじゃねえ。
その逆だ。
あいつは、俺が、陸に上がったら、女の方が良くなるんじゃねえかって、自分が只の性欲解
消の道具として見られてるんじゃねえじゃかと。
だから、ああ言って俺にそう仕向けようとしてやがったんだ。
そう言えば、あれ以来、俺は、サンジの隙をついては、抱きしめて、キスしようとした。
まあ、その殆どが、あの足に阻まれて、成功しなかったが・・・
俺としちゃ、サンジが側にいんのに、何もしねえでいられるほど出来た人間じゃねえ。
あいつが、側にいるだけで、何て言うか、その、ムラムラとだな・・・・
ああもう、理性が、きかねえんだよ。
こんなに、人を欲したのも、こんな気持ちになったのも、初めてづくしで、俺は、自分で自分の
気持ちを抑えられねえんだ。
抱きしめて、キスしてる間は、サンジが俺だけのもんになった気がして。
まあ、半分は、他のクルーに見せつけて、サンジは、俺のもんだって、主張するためでも有る
んだがな・・・
特に、ルフィ・・・・ありゃ、要注意だ。
『俺のコックだ。』
なんてどうどうと言い切ってやがるし、どこそこ考えずに、ベタベタとサンジにまとわりつきや
がって、どこまで本気なのか、全く読めねえ。
昼間、サンジと一緒にいるようになって、ルフィが、サンジに抱きつくときの、あの瞳が、俺に
だけ挑戦的に映るのは、気のせいなんかじゃねえ。
サンジもルフィには、慣れちまって、何も言わねえし・・・・
ガキだって言われようが、俺だって、サンジを独り占めしてえんだよ。
サンジには、それが、俺が、欲求不満に陥ってると映ったらしいな。
・・・違う。 そうじゃねえんだ。 そうじゃねえんだよ!
俺は、いても立ってもいられなくて、キッチンの扉を勢い良く開けた。
「バタン。」
その音に反応して、サンジが俺を見る。
そして、そのまま顔を背け、流し台の方へ走り出そうとした。
俺は、サンジの腕を掴み、その細い身体を引き寄せた。
「何しやがる! 離せ!! 離しやがれ!このクソ剣士!!」
サンジは、下を向いたまま、めちゃくちゃに暴れた。
俺は、しっかりと後ろから、抱きしめていた腕に力を込める。
「・・・やめろ。 ・・・頼むから・・・・離して・・・・くれ・・・・」
サンジの声が、だんだん細くなり、また涙声になった。
「もう、落ち着いたか。」
俺は、奴の耳元で、そっと声をかけた。
「・・・・・・・・」
サンジは、ビクッと身体を震わせたが、言葉は返ってこない。
サンジが、俺の腕の中でおとなしくなったので、俺は、言葉を続けた。
「俺は・・・・ てめえは忘れているだろうが、10年前、俺は、てめえに出会ってんだ。
・・・覚えてねえか? ・・・これを教えた野郎のことを。」
俺は、ココヤシ村のテーブルの上にあった折り紙を、ズボンのポケットから取り出して、サンジ
に見せた。
それは、もう、しわくちゃで、何とか原形をとどめている程度だった。
「あっ。 ・・・それは・・・」
サンジが呟く。
「そん時だ。 あん時の俺は、まだガキで、生まれて初めて感じた自分の気持ちが理
解できなかった。 何で、ずっと、側にいたかったのか。 何で、てめえを喜ばせたか
ったのか。バラティエで、てめえの顔見て、俺は、思いだしちまったんだ。 ・・・鮮明
に。 10年も前の事をだぞ。 それを簡単に、自分のその時の気持ちまで、鮮明に思
いだしちまった。 ・・・サンジ。 それは、てめえだからだ。 俺は、いつ出会おうと、
どこで出会おうと、俺は、てめえが好きになる。 てめえにしか惹かれねえんだよ。
・・・サンジ。これから先も、ずっとだ。 俺は、てめえしか、てめえしか、いらねえ。
・・・・それでも、それでも、俺の言うことが信じられないなら、今すぐ、俺を斬れ。
・・・てめえに、俺をくれてやる。」
俺は、そう言うと、側にあった和道一文字を、サンジの手に持たせた。
そして、サンジの正面に立つと、自分の手を添えて、その刃を首筋に当てた。
チリッ。 首筋に痛みが走る。
首筋に血がにじんだ。
「あっ・・・ああっ・・」
サンジは、あわてて刀から手をはずすと、その場に崩れ落ちた。
「ご、ごめん・・・・オレ・・・・・オレ・・・・恐かったんだ。 ・・・俺だけが、ソロのこと好き
になっていって・・・俺だけが・・・・ でも、ゾロは、もしかしたら、あいつらみたいに、俺
をレディの代わりにしようと思ってるんじゃねえかと・・・・ そうじゃねえと思いたかっ
た。 ・・・だけど、だけど、俺・・・俺、ゾロのこと試したんだ・・・・」
そう言うと、また子供のように泣きじゃくった。
俺は、刀を鞘に収め、床に置くと屈んでサンジを抱きしめた。
「もう、二度と、あんな・・・あんな心にもないこと言うな。 俺は・・・俺は、そんな出来
た人間じゃねえから・・・」
それだけ言うと、俺は、サンジの頬を撫でた。
次々に頬を伝う涙を拭ってやる。
俺は、自分が、野望以外に、こんなに執着心を持つ奴だなんて思いもしなかった。
どちらかといえば、こと人間関係には、無関心な方だと思っていたし、今までそうやって、生き
てきた。
そう、再びサンジに会うまでは。
さっき、窓を覗く前に、一瞬よぎった考え・・・・
サンジが俺のもんにならないなら・・・ 他人のもんになる位なら、いっそ、殺してしまおうか。
殺して、俺の、俺一人のもんにする・・・と。
そんなどす黒い感情を自分でセーブできねえ程、俺は、サンジが、欲しかった。
身体だけじゃねえ。
その心が・・・その心をもった身体ごと全部が欲しかった。
それが、今、俺の中にある。
・・・やっと、俺は、手に入れた。
「もう、泣くな。 それ以上泣くと、瞳が溶けるぞ。」
そう言って、俺は、止まらない涙を拭うように、サンジの瞳に口付けを繰り返した。
「うっく・・・馬鹿ゾロ・・・ヒック・・そんなきざなこと・・ヒック・・言うな・・っく。」
サンジはまだしゃくり上げながらも、俺に言い続ける。
俺は、その様子が、なんかとても可愛くて、そっと、奴の耳元で、囁いた。
「そんな可愛いこと言ってると、今ここで、食っちまうぞ。」
サンジは、一瞬、キョトンとした顔で俺を見たが、次の瞬間、顔を真っ赤にして、俯いてしまっ
た。
クッ、可愛いぜ・・・ けど、また、怒らせちまったか?
俺は、サンジを覗き込んだ。
「・・・・ゾロなら・・・ゾロになら、俺・・・・全然嫌じゃねえし・・・・」
サンジは、そう言って、はにかんだ笑顔を向けると、俺の背中に、恐る恐る手を回してきた。
肩口に顔を伏せ、小刻みに震える手で、俺のシャツを握りしめる。
ブチッと、俺の中で、何かが、切れた・・・・
もう、ダメだ・・・ クッ、たまんねえ・・・・
俺は、サンジを、即効押し倒そうとしたが、何か、顔に違和感を感じて、思わず、鼻の下に手
をあてた。
やべえ・・・鼻血出た・・・・
クソー、何だってこの肝心なときに・・・・しまんねえだろ、これじゃ・・・・・
・・・やっぱ、俺、溜まってたのかも・・・・
俺は、何とか気合いで、鼻血を止めようとしたのだが、意に反して、鼻血は止まらねえ。
「・・・ゾロ?・・・」
俺の無反応ぶりを不審に思ったのか、サンジが、俺の顔を見上げた。
「?! ゾロ! どーしたんだよ?! 一体??」
そう叫ぶと、サンジはあわてて、タオルを持ってくると、ゾロの鼻に押し当てた。
「もー、一体、何やってんだよ!」
と、ブツブツ言いながらも、氷を袋に詰めて、俺に渡してくれた。
「す、すまねえ・・・・ サンジ。」
俺は、すんげえ情けねえ声で言った。
あー、本当、情けねえ。
俺は、せっかくのチャンスを無駄にしちまったことと、情けねえ姿をサンジに晒してしまったこ
とのダブルパンチで、鼻にタオルと氷を押し当てたまま、ボーっと何も考えられなかった。
「もう、しょうがねえな。」
サンジは、側の壁により掛かると、両足を投げ出したまま、床に座った。
ペチ、ペチっとサンジは、自分の足を叩いて、俺を手招きする。
俺は、訳も分からないまま、サンジの側に行った。
不意に、ぐいっと頭を捕まれて、俺は、サンジの太股に、頭を押しつけられた。
「今日だけだかんな! いつもすると思うなよ。 今日だけ、今日だけだ!」
サンジの怒っているような声がした。
顔を見ると、耳まで真っ赤だ。
どうやら、怒っているんじゃなく、照れているだけのようだ。
全く、こいつは、かわいげがあるのかないのか・・・
でも、俺にとって、こいつは、何をやっても、最高に可愛いんだけどな・・・・
『あんた、完全に、終わってるわよ。』と、即座に、ナミからつっこまれそうな、そんなクサレ
たことを、俺は考えていた。
・・・しかし、本当に気持ちが良い。
柔らかくて、適度に筋肉がついてて、 ・・・それに、何か、いい匂いがする。
「もう、鼻血、止まったか?」
サンジは、少し心配そうな声で、俺の顔を覗き込む。
「ああ。」
俺は、そう言ってサンジの顔を見た。
やっぱ、綺麗だよな。
・・・俺の好きな蒼い瞳・・・俺だけの・・・・
そう思ってみていたら、奴が不意に微笑んだ。
俺は、片手で、サンジの頭を引き寄せて、チュッと触れるだけのキスをした。
「ば、馬鹿っ。 ・・・クソマリモ・・・筋肉ムッキン・・・エロマリモ、エロ剣士・・・・って、
オラ、てめえ、聞いてんのか・・・」
サンジは、また真っ赤になった。
文句は言いながらも、膝枕をはずす気はねえらしい。
「ハイ、ハイ。」
俺は、気のない返事を繰り返すと、眠気に誘われるまま、目を閉じた。
この日から、俺の日課に、【膝枕】という項目が追加されたのは、言うまでもない・・・・
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<コメント>
砂吐き注意報、警報が発令されました。
砂に埋もれないよう、スコップをご持参して下さい。
いやあ、またまた、キス止まりになりました・・・・
そんなに早く、Hさせてなるモノかと・・・・・←かなり、本音。
いやいや、本当、大事に書きたいので・・・・って言うか、私、エロ書けるのか??
は、は、は、は。 ・・・笑って、ごまかす・・・・
このあと、<sanji−side>終わってから、やっと、結ばれることになってます。
別に、読まなくても話はつながりますが、サンジの気持ちが知りたい方は、もう暫く、おつきあい下さいませ。
・・・ゾロのオヤジ臭さと、サンジの乙女度数が、かなり、上がってきました・・・・
かっこいい二人を望んでいた、貴女! ここには、存在しないですよ・・・・
即刻、退場しないと、砂に埋もれて、身動きとれなくなってしまいます・・・ご注意を!!
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