LOVE ATTACK

その3





<s−side>

サンジは、ゾロを膝枕しながら、その頭を優しく撫でた。

思ったよりも、柔らかい髪。

自分が、こんな穏やかな気持ちになれるなんて、さっきまで、全く思わなかった。

いや、思えなかった。

ふと、ゾロの首筋に目をやる。

薄く、赤い線ができている。

俺は、そっと、その線に手を触れた。

・・・ごめん。 俺は、馬鹿だ・・・俺が、てめえの言うことを信じなかったばっかりに。

・・・俺が・・・あんな事言ったから・・・・

俺は、ゾロを失うとこだった。




陸に上がったら、花街に行け、そう言う言葉に返ってきた、あいつの・・・ゾロの、今まで聞い

たことのない低い声。

俺は、ゾッとした。

殴られると思った。

怒鳴られる。そう思っていた。

『何て馬鹿なこと考えるんだ。』って、怒って、怒鳴られて、俺の不安を否定してくれて・・・

そう、思っていた。

しかし、返ってきた言葉は、

「わかった。」

に一言。

自分の不安を肯定されたようで、 ・・・やっぱりそうだったのかって・・・・・




は、は、は・・・ 今わかって良かったじゃねえか。

今なら、まだ引き返せるからって。

・・・・今なら・・・まだ・・・・・





俺は奴の顔が見れなくて、そのまま流しに手をかけて背を向けていた。

ゾロは、そのままキッチンを出ていってしまった。

堪えていた涙が、溢れてくる。

・・・声にならない嗚咽・・・

・・・これでいい・・・・これでよかったじゃねえか・・・・

今なら、まだ・・・戻れる。

そう思って、俺は、あいつに、ああ言ったんじゃねえか。

・・・今なら・・・って。

でも、でも、実際は・・・そうじゃなかった。

俺は・・・とっくに、元に戻れねえとこまできちまっていた。

それに気づかなかったのは、いや、認めようとしなかったのは、俺が、弱かったから・・・狡か

ったから・・・・

あいつに好かれている・・・・あいつの言葉に嘘はねえと、俺は、甘えていたんだ。

それが、俺の甘えだと気が付いたとき、ゾロは、もう、キッチンにいなかった。

もう、取り返しがつかない。

俺は、自分で、ゾロとの関係を断ち切ってしまった。




これから、きっと、無視されるかもしれねえ・・・・

ゾロは、もう、俺のこと、仲間とも扱ってくれないかもしれねえ・・・・

・・・・・嫌だ・・・そんなの嫌だ。

そんなの、俺が耐えられねえ・・・・

もう、俺は、 ・・・この船に・・・ゾロの側に、いられねえ・・・・




俺は、ひとしきり、流しで泣くと、船を下りる決心をして、キッチンを出ていこうとした。

テーブルの、ゾロの席を通り過ぎるとき、カチャッと、音がした。

それは、ゾロの刀。

片時も奴のそばを離れずに、鷹の目との闘いの中でも、折れずに、ゾロを見守っていた。

・・・・・・親友の形見・・・・・和道一文字・・・・・

俺は、ゾロのぬくもりが感じられて、そっと刀を抱きしめて、さっきまでゾロがいた、その場所

で、もう2度と呼ぶことのないであろう名前を口にした。

「・・・ゾロ・・・ゾロ・・・」

奴の名を口にしただけで、溢れる涙が止まらない。

溢れる思いが言葉となって、俺の口からこぼれ出す・・・・

「・・・・・ずっと・・・・側に・・・・いたかっ・・・た・・・」

それは、言えなかった本当の気持ち。

もう言うことのない、本当の言葉。


今だけ・・・そう、今だけ・・・・お前だけでも、俺の本当の気持ちを聞いてくれ・・・・

もう、俺は、お前の主人に会うこともできねえから・・・・


俺は、ギュッと力を込めて、和道一文字を抱きしめた。

その時、バタンと大きな音を立てて、キッチンの扉が開いた。

俺は、突然のことで、ギョッとして、ドアの方を見た。


・・・ゾロが、立っていた・・・・

きっと、刀を忘れたことを思い出して、ここへ戻ってきたんだろう・・・

・・・それは、ちょっと冷静に考えれば、わかりきったことだった。

ゾロが、自分の刀を、ましては親友の形見の和道一文字を、そのままここに、おいとくはずが

ねえ。




・・・・・まずい。 ・・・・・見られたか。

俺は、とっさに顔を伏せ、流しの方に駆け出した。

一瞬だけ、反応が遅れた。

俺は、易々とゾロに腕を取られ、後ろから羽交い締めにされた。


頼む。 ・・・頼むから、これ以上、情けねえ惨めな俺を見ねえでくれ・・・・

自分からてめえを断ち切った癖に、こんな、こんな未練たらしく・・・無様な俺を・・・頼

むから、見ねえでくれ・・・・・


俺は、力の限り暴れた。

だが、所詮、ゾロの力にはかなわない・・・・

俺は、暴れ疲れて、そして、この状況に、ますます情けなくなって、また、泣きたくなった。


「もう、落ち着いたか?」

いつものゾロの優しい声が聞こえた。

俺の好きな、ちょっと掠れるような低い声・・・・

・・・何も言えなかった。

すると、ゾロは、ポケットから折り鶴らしきモノを取り出し、俺に見せた。

それは、ココヤシ村で、俺があいつの隣で折ったモノ。

ゾロは、10年前に、俺に折り鶴を教えた子供を覚えてるかと言った。

何で、てめえがそんなことを??

やっぱり、あの子供は、ゾロだったのかと、頭の中で、色々な考えがグルグルと渦巻く。

そんな思考が追いつかない俺に、ゾロは、はっきりと言った。

いつ、どこで、俺に出会ったとしても、俺にしか惹かれねえ、俺だけを好きになる、と・・・

それは、これからもかわらねえ、てめえに、俺をくれてやる、と・・・・




なんで??

てめえは、これから、夢を叶えんだろ?!

親友に誓った、大剣豪になるって言う、とてつもねえ夢を・・・

・・・それなのに・・・それなのに、こんな夢の途中で、俺に殺されてやるというのか?

・・・こんな、馬鹿な俺のために・・・・

あいつは、動けねえ俺に痺れを斬らしたのか、俺の正面に立って手を添えると、刀を首に当

てて、力を入れた。

うっすらと、赤い線がにじむ。

・・・本気だ。

俺は、はじけたように、刀から手をはずすと、そのまま心を声にした。

・・・涙が止まんねえ。

ゾロは、わかっているという風に、俺を抱きしめて、2度とあんな事言うなと、涙を拭ってくれ

た。




・・・その時の、ゾロの表情を、俺は、忘れない。

あんな、あんな辛そうで、泣きそうな顔。

・・・俺が、そうさせた・・・・俺がそう仕向けた・・・・

・・・もう2度と見たくね・・・・させたくねえ。




俺は、ゾロの胸に顔を埋めて、また泣いた。

ゾロは、俺の涙を拭うように、触れるだけのキスを繰り返した。

どれ位、経ったんだろう・・・・

俺は、涙は止まったが、なかなか呼吸が元に戻らず、ゾロにブツブツ言いながら、まだ、しゃく

り上げていた。

急に、耳元で、ゾロの声がした。

俺は一瞬何を言っているのかわからずに、ポカンとしたが、そのうち、ゾロの言いたいことが

わかってきて・・・・頭に血がのぼった。

ゾロは、いたずらっ子のような顔をして、俺を見ている。

その顔をみて、俺は、決めた。




ゾロとなら、何だって、嫌じゃねえ。 どんなことでも・・・・

俺は、言った後に凄く恥ずかしくなって、目の前の胸に顔をつけると、そっとゾロの背中に腕を

廻してシャツを引っ張った。

だが、いつまで経っても、ゾロが動く気配がねえ。

俺は、ちょっと不安になって、ゾロの顔を見上げた。

・・・ゾロは、鼻血を出していた。

何かの病気か?!

ちょっと俺が見てねえ間に、何かあったのか?

俺は、あわてて、タオルと氷をゾロの鼻に押し当てた。

ゾロは、まるで、怒られた仔犬のようにシュンとして謝ってきた。

その態度が、すんげえ可愛くて・・・・俺は、ふと、あることを思いついた。

鼻血が出たときには、仰向けに寝かせるのが一番だ。

俺は、壁に凭れかけ、両足を投げ出すように床に座ると、ゾロに膝枕を提供すべく、手招きし

た。

何もわかってないゾロは、トボトボと俺に近づいてきた。

俺は、わざと乱暴にゾロの頭を太股に押しつけると、照れ隠しに、今日だけだ、と奴に言っ

た。

ゾロは、黙ったまま俺に膝枕されていた。

もう、鼻血は、止まったかな?

俺は、ゾロを覗き込んで、確認しようとした。

ずっと、黒だって思っていたゾロの瞳は、よく見ると、少しだけ緑がかっている。

本当、このくらい近くで見てみないとわからないくらいの、深緑の色。


この色を知っているのは、きっと、俺だけ・・・

・・・俺だけの色・・・・


俺は、なんだか嬉しくなって、そっと微笑んだ。

不意に、頭が何かに押さえつけられて、俺は、ゾロにキスされた。

・・・・全く・・・本当、こいつってば、油断も隙もねえんだから・・・

・・・黙っているのもしゃくなので、思いつく限りの悪口を言う。

ゾロは、ハイハイと俺を軽くあしらって・・・・・




・・・そして、今、俺の膝枕で、ぐっすり、眠っている。

今まで知らなかったゾロが見えてきて・・・楽しくって・・・さっきのことが、嘘みてえだ。

それにしても、今日は、色々あったよな・・・

・・・膝枕・・・今日だけだっていったけど、たまにだったら、してあげても良いかも・・・

一杯泣いたし、何か、恥ずかしいことも一杯、口走ったような・・・・

・・・・・・それに、きっと、ヤることヤるんだろうな・・・・やっぱ・・・・

・・・もう逃げること出来そうにねえし。

・・・こいつが、いつまでも、我慢できるとは・・・とても、思えねえ・・・・・

・・・俺だって、・・・その、多少は、期待してるとこあるし・・・・

でも、俺には、そんな経験も、知識もねえし・・・・

・・・ゾロは・・・知ってんのかな?

うわあ、俺、俺、凄く、不安になってきた・・・・

すっげえ、恐えー。

・・・でも、まあ、すぐって訳でもねえだろうし。

だって、こんな狭くて、プライバシーも、ベッドも無えようなとこだぜ?

やっぱ、陸に上がってからだよな・・・・うん。 そうだ。

まあ、今度の島は、ナミさんから船番言い渡されてっし、まあ、その間に、覚悟とか、

色々考えりゃ、良いよな。

時間は、まだ、有るんだ。


俺は、勝手にそう結論付けて、心地よい眠りに、身を任せた。

<END>

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<コメント>

すみません。 やっぱり、サンジの気持ちを書きたくて・・・・
内容的に、ゾロサイドとダブってるので、時間無駄にしたと思われた方、ごめんなさい・・・・
未熟者なので、どっちの気持ちも入り交じって、読む方は、苦労されると思いますが、ここまで、おつきあい下さって、ありがとうございました。

次は、いよいよ、ゾロ、本懐を遂げる!!編に突入します。
天然サンジ相手に、どこまで、書けるか、大いに疑問なのですが、ヤルとこまでやったる!!意気込みです!

それでは★