<s−side>それから1週間、あいつは、ことある事に、俺に近づいてくる。
最初こそ、ゾロの行動にあたふたしていた俺だが、最近は、もう慣れてきた。
慣れてみりゃ、結構こんなのも良いかなんて思っちまう。
・・・・慣れって言うのは、恐ろしいぜ・・・・
誰だって、人から好かれて嫌な気がするもんじゃねえ。
ましては、この前まで、目が合えば喧嘩していた、いけすかねえ奴だとしても、だ。
いや、いけすかねえ・・・・と思っていた奴だからこそ、余計に、この変化が、俺には楽しくて仕
方がねえ。
まず、朝だ。
あの万年寝腐れ野郎が、ここんとこ毎日、俺に蹴り起こされる前に、皆と一緒に朝食のテー
ブルについている。
ナミさんもウソップも、最初、天変地異の前触れかと、驚き、戦いていたが、事情が飲み込め
ないまま、最近では、慣れて、普通に受け止め始めた。
まあ、ルフィは、初めから、何も気にする様子はなかったが・・・・って、こいつは、何考えてん
だか・・・
昼間も、あいつは、昼寝もしねえで、俺の仕込みの手伝いをしてくれる。
まあ、それも、何もしねえで、キッチンにいるのは、うぜえって、俺が言ったからなんだろうけど
な・・・
それでも、俺の言うことを聞いて手伝ってくれるなんざ、以前のあいつからは、想像もつかね
え事だ。
『まだ、わかんねえのか。』とか『もう、わかったんじゃねえのか。』と、口を挟みながら
も、俺の言うことに従順だ。
でも、俺には、一つ気になることがある。
それは、あいつがあれ以来、隙を見せるとキスしようとしてくることだ。
好きな奴にキスしたいと思うのは、当然のことだと思う。
しかし、ここは海のうえ・・・・もしかして、性欲処理が目的か?
・・・・考えたくもねえ事が、頭の隅に浮かぶ。
俺は、別に焦らそうとか、恋の駆け引きとか、そんなもん考えてるつもりはねえ。
レディ相手になら、考えるがな。
あいつ相手に、そりゃ、無駄というもんだ。
ただ、このまま奴の言うとおり、付き合うって言うことは、あの・・・まあ・・つまりは、だ。
キスの先も、当然あるって事だろ?!
俺の育ったバラティエは、むさ苦しい野郎共しかいねえところで、レディのいねえ海の航海
上、男と男がヤることもあるとか、そういった下世話な話も、コック達から色々と聞いたことも
ある。
それに、見かけが、派手で華奢な俺は、何度かその手のことをヤられそうになった事もある
が、その度に、クソジジイ直伝のこの足で、ことごとく返り討ちにしてやった。
それはもう、二度とそんな考えが起きねえ様、徹底的にだ。
その俺が、まさか、俺自身が、そんなことで悩む日が来るなんて・・・・今でも信じられねえ。
キスされた時点で、はっきり、今までのように徹底的に抵抗して、叩きのめしゃ、それで済ん
だハズなのに。
奴に、ゾロにキスされると、何か、身体中の力が抜けて、頭ん中が真っ白になっちまう。
そんな状態で、蹴りの一つも出るはずもなく、俺はいつも、なすがまま・・・・
それが嫌で、情けなくて、終わったあとで、蹴り入れてやる。
そう、何が一番情けねえかというと、そのキスを俺が嫌がってねえって事だ。
たぶん、俺は、ゾロが好きなんだと思う。
けど、それは、今だから言えることなのかも知らない。
陸に上がって、他の美しいレディ達に囲まれた、その状況で、俺が、ゾロを好きだという気持
ちを持てたままでいられるか・・・・
・・・いや、もうごまかしは無しだ。
俺は、たぶん言いきれる。
だが、しかし、奴が、ゾロが、俺に対する気持ちが変わらねえって、そう言い切れんのか?
・・・俺は、恐いんだ。
・・・このままゾロを受け入れて・・・・って、俺が受けなのか?
い、いや、その前に、あの顔で、『抱いてv』って、言われても・・・・
・・・すまん、俺、絶対、勃たねえ・・・し、やっぱ、キスでボーっとしてる間に、襲われそうだし。
・・・俺が受けだよな・・・って、おいおい、そうじゃねえって。
そう、このまま奴と身体繋げて、そのあと陸に上がって、美しいレディ達と比べられて、
『やっぱり、女の方が良い。 すまん、俺、どうかしてたんだ。 忘れてくれ。』
なんざいわれた日にゃ、俺は、立ち直れねえ。
きっと、食事に毒盛って、奴を殺して、俺も仲間殺しの汚名きたまま・・・・
そんなんじゃ、俺が、あのクソジジイのとこから出てきたことが、全てが、無駄になる。
夢が夢のままで、終わっちまう。
俺は、まだ良い、自分でしでかすことだから・・・・
でも、ジジイは・・・俺に足までくれたジジイの夢を・・・俺は、てめえの勝手で、終わらせるこ
は、出来ねえ。
・・・・・・・・それが、奴に返答できねえ、本当の理由だ。
俺も、男だから、好きな人は、抱きてえと思うし、相手も、自分のこと好きだってわかったら、
止めらんねえ。
だから、俺は、確認してえ。
自分の気持ち隠したまま、それは、卑怯で狡いことだと、わかってる。
それでも、それでも、俺は・・・
・・・今ならまだ・・・俺は・・・自分を押さえることが出来る・・・
・・・何もなかったように、振る舞うことが出来る・・・・だから・・・・・
俺は、翌朝に仕込みを終わらせたキッチンで、一人タバコに火を付け、そろそろやってくるで
あろうあいつを待った。
<z−side>
(もうそろそろ、仕込みも終わった頃だろう。)
俺は、男部屋を出て、キッチンの方へ歩き出す。
俺は最近、夜中にキッチンに行って、サンジと酒を飲むことを習慣にしていた。
昼間も極力、サンジの側にいてえと思うのだが、何たって、あいつは、コックだし、他にも、色
々雑用があって、なかなか二人っきりになれることなんてねえ。
だから、俺は、この時間をとっても楽しみにしている。
サンジと俺の二人っきりの時間・・・
本当は、キスの一つでもしてえとこだが、サンジは、あれ以来、警戒してあんまし、隙をつくん
ねえし、まあ、俺としても、強引にコトに運んで、それが原因で、サンジに嫌われでもしたら、
それこそ、目もあてられねえ。
それに何より、たわいもねえ話題とかで、クルクルとよく変わるあいつの顔を見ながら、旨い
つまみで酒が飲める。
この状況が、俺は、凄く気に入っている。
キッチンに、明かりがついている。
俺は、サンジがいるであろう、キッチンのドアを開けた。
「よう。」
俺は、奴に声をかけた。
「ああん?! また、酒飲みに来たのか? 全く、1日でどんだけ飲んだら、気が済む
んだ?この底なしマリモは・・・」
相変わらず、憎たらしい口を利きながらも、あいつは酒とつまみを用意する。
俺は黙って、壁に刀を立てかけ、棚からグラスを二つ取り出すと、テーブルの上に置き、イス
に腰掛けた。
「お前も飲むんだろ?」
そういって、俺は、出された酒をコップについでやる。
「おっ。 やっとグラスで飲むことを学んだか。 偉いぞ。 これで、ようやく、人間に一
歩近づいたな、クソマリモ。」
本当に、こいつは、俺をムカつかせる天才だ。
「・・・・・・・・・」
俺は、喉まででかかった言葉を、ようやく飲み込んだ。
こんなコトで、1日で一番楽しみにしている時間を失すようなことはしたくねえ。
俺も、たいがい大人になったよな・・・・
本当、この1週間、俺は、自分でも驚くほど、サンジに対して甘え。
以前なら、すぐキレて、突っかかる場面でも、さらりと受け流し、
・・・受け流したあと、『てめえ、子供扱いすんじゃねえ。』と、顔を真っ赤にして、睨んでくる
あいつも可愛いんだけどよ。
あいつの料理の手伝いまで、かってでてやるしよ。
ナミとウソップが、『・・・ゾロ。 ・・・・終わってるよ。』っていうのも、あながち嘘じゃねえか
もしんねえ。
でも、あいつ、料理してるときは、生き生きしててさ、凄い機嫌がいいんだよ。
この前なんか、鼻歌歌ってたし・・・すっげえ可愛いんだぜ。 これが。
知らず知らずに、顔が緩む。
ウソップがいたら、間違いなく泡を吹いて、その場でぶっ倒れていることだろう・・・、『世界は
終わりだ・・・』と。
だが、サンジの前では、あくまでも、ポーカーフェイスを崩さない。
ゾロが何も言い返してこないので、サンジは仕方なく、ゾロの隣に座って、酒を飲む。
たわいもない会話が続く。
すると、サンジが、突然、話をきりだした。
「おい。明日、たぶん、ナミさんがおしゃっていた通り、どっかの島に着くだろう。 てめ
えは、俺と一緒に、船降りたら、美しいレディと甘い一時を過ごしてきやがれ。 溜ま
ってんだろ?! そんなんだから、俺を好きだなんて、錯覚起こすんだよ。 一時で
も、美しいレディの香りの包まれりゃ、そんな錯覚、いっぺんで吹き飛ぶって!」
サンジは、明るく言葉を続けた。
「なあに、時間が足りねえってんなら、そのまま、帰って来なくったていいぜ? 船番
なんて、俺一人いりゃ充分だ。 ナミさんには、俺から話つけとくから。」
そう言うと、グラスを流しに持っていった。
俺が、俺が言ったことを欲求不満からくる勘違いだって言うのか?
そんなに、俺の言うことが、信じられねえのか?
俺の本気は、伝わっていなかったのか?
俺は、ショックだった。
あんなに、あんなに真剣に自分の気持ちをうち明けたつもりだったのに・・・・
サンジだって、嫌じゃねえと真剣に言ってくれたじゃねえか! 今は、わかんねえって。
俺は、自分の良いように、それを解釈していただけなのか?
あれは、奴が、サンジが、俺を傷つけねえ様に、拒絶した言葉だったのか?
沸々と怒りが湧いてくる・・・・
持っていた酒瓶が、音を立てて砕け散った。
「ガシャン!」
サンジの身体が、ビクッと反応した。
しかし、サンジはこちらを振り向こうともしねえ。
「・・・わかった。」
俺は、そのままキッチンを出ていった。
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