「おい、お前。 確かゾロと言ったよな。 ゾロ、サンジ。 良いか、今から言うことを良
く聞けよ。 始めに言っておく。 これは、ジョークでも何でもない。 間違いなく、サン
ジの身体におこっていることなんだ。」「・・・わかった。」
俺は、不安げに俺を見つめるサンジの手を握って、チョッパーの話に耳を傾けた。
「・・・サンジは・・・現在、妊娠4ヶ月目に入っている・・・」
「「はあ???」」
俺とサンジは、同時に大声で叫んだ。
「・・・だから、これは、ジョークでも何でもないんだ。 常識では、あり得ないことなん
だ。 俺も、こんなの診てみないと信用できなかったんだが・・・今、サンジのお腹の
中をエコーで見せてやるから。」
そう言って、チョッパーは、冷静にサンジのお腹に器械を当てて、説明を始めた。
「いいか。 この小さい楕円形のものが見えるだろ? これが、子宮にあたる部分だ。
サンジは、男だから、その言葉が当てはまるのかどうか解らないが、今の医学では、
子宮という言葉以外当てはまるモノがない。 その中に注目してくれ。 ドクドクと脈
打っている小さな丸いものがみえるだろ? それが、胎児だ。 どうしてサンジにそん
なものが出来たのかは、俺にも解らないが、確かに、サンジの体の中で、胎児は生
きている。 もっとも、本当に、胎児なのかどうかは、DNAを採取して調べるしかない
のだが・・・ 今から、それを調べても良いだろうか? これは、お前達が決めることだ
から、このまま、無いことにして、処置することもできる。 どうする?」
「・・・ちょっと、待ってくれないか・・・お、俺、頭が混乱してて・・・とにかく、それが、
本当に、胎児かどうか、まず、それを調べてくれないか・・・結論は、その後だ・・・」
「・・・・・・・・」
俺は、気が動転して何も言えなかった。
さすがに、サンジは、自分の身体のことだけあって、チョッパーに、調査を依頼したが、俺同
様に、気が動転しているのは、間違いなかった。
「・・・わかった。 じゃあ、少しチクッとするが、我慢してくれ。」
そう言うと、チョッパーは、胎児の調査を始めた。
1時間後、チョッパーは、検査結果が出たと、俺達に言った。
結果は、間違いなく、人間の胎児という結論だった。
俺は、確かに、サンジとの子供が欲しいと思ったことはある。
だが、現実に、現実問題として、男に子供が出来るなんて・・・
サンジとの子供・・・・それは欲しくないと言えば嘘になる。
サンジは、かなりショックを受けているらしく、顔から血の気が失せている。
・・・こんなサンジに、子供を産ませて良いのだろうか・・・
ただでさえ、今、体調が悪いのだ。
子供を産むまでに、サンジの身体になにかあったら・・・・
俺は、そう思うと、産んでくれとは、言い出せなかった。
子供を取るか、サンジを取るかと言われたら、間違いなく、俺は、サンジを選ぶ。
子供は、サンジが男だという時点で、諦めている。
でも、サンジは、サンジは、こいつは、俺の半身なんだ。
半身を失ったら、俺は、生きていけねえ・・・
「・・・すまないが、1日、ゆっくり考えさせてくれねえか。」
俺は、そう答えるのが精一杯だった。
俺は、放心状態のサンジを車に乗せ、とりあえず、『バラティエ』に向かった。
「はっ、嘘だろ・・・俺の中に・・・赤ちゃん・・・赤ちゃんがいるの・・・か・・・ ・・・ごめ
ん、ゾロ。 俺、またお前に、迷惑かけちまった・・・ 俺達、まだ学生なのに・・・
ゾロ・・・ごめん・・・俺、てめえに・・・迷惑ばかり・・・」
サンジは、助手席で、ハラハラと涙を流し始めた。
俺は、店の駐車場に車を停める。
「・・・サンジ・・・一つだけ、聞いて良いか?」
俺は、泣いて謝り続けるサンジの方を見てそう言った。
「何だ、ゾロ・・・いいんだぜ・・・別にてめえに責任取って貰おうとか、全然思ってねえ
から・・・ただ・・・ごめんな・・・本当に・・・ごめん・・・」
「・・・お前は、どうしたいと思ってる?」
「えっ、何で?ゾロ・・・」
「良いから、お前は、赤ちゃんをどうしたいのかって聞いてんだ。」
「・・・俺は・・・産みたい・・・でも、ゾロには、迷惑かけないから・・・迷惑は・・・ヒック」
そう言って、サンジは、泣きじゃくってしまった。
こんな時まで、サンジは、俺のことばかり考えてくれている。
俺のことより、自分のことで精一杯のハズなのに・・・
俺は、自分のことばかり・・・
サンジを失う事を怖れて・・・
サンジを失ったらということばかり考えて・・・
サンジの気持ちを考えてやってなかった・・・
ごめんな、サンジ・・・
今の俺に出来ること・・・
俺にしか出来ねえこと・・・
サンジ・・・こんな俺でも、お前を支えてやることは・・・出来るだろうか・・・
俺は、優しくサンジの身体を抱き寄せた。
一回り小さくなったサンジの身体が、俺の腕の中で震えてる。
「サンジ、結婚しよう。」
俺は、サンジの耳元で、そう囁いた。
「えっ、ゾロ・・・」
サンジはそう言って、涙で溢れた蒼い瞳を俺に向けた。
「子供が出来たから言うんじゃねえよ・・・ローマに行ってから、ピエールにあの泉の
言い伝えを聞いたときから、ずっと、ずっと、日本に帰ったら言おうと思ってたんだ。
なかなかきっかけが掴めなかった。 これは、この子供は、きっと、あの泉の力なん
だ。 俺は、まだ学生だし、収入もねえ。 だけど、お前と子供ぐらいは、なんとかす
るから・・・だから、サンジ、結婚してくれないか。」
「っ・・・ゾロ・・・ゾロ・・・ゾロ・・・」
サンジはそう言って、俺にしがみつく。
「・・・サンジ・・・返事は、くれねえのか?」
俺は、優しくサンジにそう言った。
「っ・・・嫌だったら、あんな事、ゾロにわざわざさせねえよ。」
そう言って、サンジは、俺に最高の笑顔を向けた。
それから、俺達は、車を降りて、ゼフのいる店に向かった。
お、落ち着け、俺・・・
俺の心臓は、バクバクと今にも飛び出しそうだ。
店に向かう足取りも重くなる。
もしかすると、俺、明日の朝、病院で寝てるかもしれねえ・・・
短かったよな・・・俺の人生・・・
俺の頭は、緊張で、爆発寸前。
何を考えているのかさえ、自分ではわからなくなってきた。
「・・・ゾロ、大丈夫か?」
サンジがとなりで、俺の顔を覗いた。
俺は、サンジの手をギュッと握る。
「・・・大丈夫だよ、ゾロ。 きっと、うまくいく・・・」
サンジは、俺の気持ちを察したのか、首に抱きついて、俺の耳元で、そう囁いてくれた。
ああ、そうだよな。
俺には、お前がいる。
このくらいで怖じ気づいてどうする。
俺は覚悟を決めて、店の裏口から入った。
厨房は、ランチタイムが一段落したのか、皆、ちょうど一息ついているところだった。
「・・・なんだ。 用があるならさっさといわねえか。 今から、ディナーの仕込みに入る
んだ。」
ゼフはそう言って、鍋を火にかけ始めた。
「おやっさん、俺達・・・」
「すまん、皆、ちょっと席、はずしてくれねえか。 なんか、深刻なことのようだ。」
ゼフはそう言って、厨房から、コック達を外に出した。
「さあ、話を聞こうか・・・」
ゼフはそう言って、イスに腰掛ける。
がんばれ、俺!
震える膝を叱咤して、俺はゼフにこう言った。
「・・・俺達、結婚します。」
「・・・・・・そうか・・・」
ゼフは少しも驚かずにそう言った。
そうかって、それだけか?
俺は、拍子抜けして、唖然としてゼフを見た。
「ふふふ。 何だ、その顔は・・・大方、俺にどやされるとでも、思っていたのか?
なんで、反対する理由がある。 てめえとサンジの顔を見れば、そのくらいの覚悟が
出来ていることなんてとっくにわかってた。 サンジが、幸せだと思うんなら、俺は、
何もいわねえよ。 すまねえな、期待裏切っちまったか。」
ゼフはそう言って、笑った。
・・・あっけなかったが、一応、第一関門突破だな。
・・・次、第二関門だ。
こればっかしは、ゼフも驚くだろうな。
なんてったって、子供だぜ?
男に赤ん坊が出来たなんて、
前代未聞だからな・・・
「おやっさん・・・実は・・・サンジ・・・子供出来てんだ。」
「・・・誰の子だ。」
「俺とサンジのだ。 サンジのお腹にいるんだ。」
「・・・そうか・・・」
「はあ??」
俺は、ゼフが、全然驚かないので、俺の方が、変な声上げちまった。
「ははは。 俺が、驚くとでも思ったか? そのくれえじゃ驚かねえよ。 サンジはな
あ、この俺が、産んだんだ。」
ゼフはニヤリとして俺を見た。
マ、マジか〜?!
俺は、心底驚いたが、サンジの件が有るので、ありがち嘘じゃねえよな、と考えた。
「ぷはっはっは。 嘘だよ、嘘。 そんなわけねえじゃねえか。 サンジには、ちゃんと
母親がいたんだよ。 心配するな。 ッで、いつ産まれんだ?」
ゼフは俺にしてやったりという顔をして笑った。
全く・・・おやっさん・・・キャラ、変わったな・・・
でも・・・本当にそうなんだろうか。
・・・ひょっとして、サンジの体質は、遺伝と言うことも考えられる・・・
俺の中に新たな疑問が生まれた瞬間だ。
俺の予想に反して、第二関門も全く問題なく通過した。
「今、4ヶ月に入ったとこだって。」
サンジが初めて、口を開いた。
ゼフが予想に反して、穏やかに結婚を許してくれたので、ほっとしたのだろう。
「・・・じゃあ、来年早々か・・・それで、てめえら、これからどうするんだ?」
「俺、大学止めて、働きます。 今からじゃあ、そんな良いところに就職できないかも
知れねえけど、何とか、二人でやってみます。」
「・・・そうか・・・その件は、今日の夜にでも話すとしよう・・・とりあえず、サンジ、てめ
え、顔色がよくねえ。 早く家に帰って、寝てろ。 ゾロ、悪いが、家まで送ってやって
くれ。 俺も今日は、早めに家に帰るから・・・」
ゼフにそう言われて、俺は、サンジを家まで送った。
「後で、また来るから、ちゃんと、寝てんだぞ。 もう、お前だけの身体じゃねえんだか
らな。」
俺はそう言って、サンジの頬に軽くキスをした。
「うん、そうする。」
サンジはそう言って自分のお腹を手でさすった。
「じゃあ、あとで。」
「おう!」
サンジと別れてから、俺は、第三の関門へと急いだ。
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