ANNIVERSARY


その7





三日目の朝。

やっと二人だけの時間・・・たった、2日間だけだけど、有効に使わなくっちゃな。

俺達は、少し早起きして、ローマの街並みを、手を繋いで、ゆっくりと散歩する。

「ハァ〜イッv」

誰も彼も皆、気軽に俺達に挨拶してくれて、俺は、つい嬉しくなってしまう。

誰も俺達が男同士だと言うことを気にしない。

自然にありのままを受け入れてくれる・・・

・・・サンジも俺と同じ気持ちかな・・・

俺はふと、サンジの方を見る。

すると、サンジも俺の方を見て、ふわっと、笑った。

・・・同じだ・・・俺達は、今、同じ気持ちを共有している。

俺はそう確信した。

俺達は、一日中、ローマの街並みを、手と繋いで、まわった。

途中、ジェラートを食べたり、テラスで、カプチーノを飲んだり・・・

そんな些細なことでも、サンジといるだけで、充分に、満たされる。

夕食は、ピエールが、知り合いの店を予約してくれた。

とてもムードのある店で、味の方も、ピエールの店や『バラティエ』に劣らない素晴らしい味だ

った。

「なあ、ゾロ。 俺、明日、行ってみてえとこがあるんだけど、付き合ってくれるか?

 ・・・・/////昼からで良いから・・・ゆっくり、ブランチして、出かけようぜ・・・」

食事をしながら、サンジは、少し顔を赤らめて、俺にそう言った。

その夜。

俺達は、激しく求め合った。

それはもう、さながら、獣のように・・・

俺は、久しぶりに聞いたサンジの嬌声に、また我を忘れて・・・

サンジは、また俺に啼かされて・・・

お互いに身体を離したのは、もう夜が白み始めた頃だった。

それから、俺達は、少し寝て、サンジが行きたがっていた場所に向かった。










「ゾロ! ほらっ、こうやってな、泉に背を向けて、コインを右手で、左の肩越しに2

枚、泉の中に投げるんだ。 2枚だぞ、わかったか? 間違っても、3枚入れるなよ。

よし、やってみようぜ。」

「・・・わかった。」

サンジがどうしてそんなことを俺にさせたがるのか、俺には理解できなかったが、とりあえ

ず、やってみることにした。

1枚、2枚と・・・俺は言われたとおり、コインを泉の中に投げ入れた。

俺に続いて、サンジも同じ事をした。

「サンジ・・・これって、何かのまじないか?」

「・・・まあ、そんなもんだ・・・」

俺の質問にサンジは、曖昧な返事しかよこさなかった。

それから、俺達は、スペイン広場とか、色々なところを見てまわった。

そして、最後に、お世話になったピエールのところに、お別れの挨拶に行った。

「おう、せっかく仲良くなれたのに・・・寂しいです。 ゾロ、あなたに会えて本当に、

良かったです。 もし、あなたが悪い人だったら、私、サンジ、諦めなかったかもで

す。 でも、残念だったね。 あなたいい人・・・私、あなたのこと、好きになったよ。 

また、遊びにきてね。 今度は、ハネムーンでね。」

ピエールは、そう言っておどけて笑った。

俺は、ちょっと、ピエールの言葉ににむかついたが、これはジョークだと自分に言い聞かせ

た。

でも・・・ハネムーンは、ないだろう・・・

俺は、心の中で、ピエールに軽く突っ込んでみた。

サンジは、一人厨房に入って、コックの連中に最後の挨拶をしている。

ピエールは、グラスにワインをついで、俺に渡した。

「・・・そう言えば、ゾロ。 あなたたち、今日、ちゃんと、トレビの泉にコイン、2枚、投

げてきましたか? 3枚は、ダメですよ。」

ピエールは、ワインを飲みながら、俺にそう聞いてきた。

サンジといい、ピエールといい、あのまじないにどんな意味が有るんだ?

不思議に思って、俺は、ピエールに、そのまじないの意味を聞いた。

「おう、サンジは、あなたに話さなかったのですか? 良いでしょう、お教えします。 

あのトレビの泉には、言い伝えがあります。 右手で、左の肩越しにコインを2枚投げ

入れて、それが成功すると、好きな人と結婚できるんです。 3枚は、別れるんです

が。 どうですか? 素晴らしい伝説でしょう?」

そう言うと、ピエールは、にっこりと笑った。

・・・そうだったのか・・・

って事は、サンジの奴・・・そんなことまで考えてくれてたのか・・・・

・・・クーッ。 可愛い奴・・・

よし、決めた!

俺、日本に帰ったら、サンジに、プ、プロポー、プロポーズする!

俺は、自分で決めはしたものの、気恥ずかしさと緊張で、手が震えた。

翌日。

俺達は、飛行機に乗って、日本に帰ってきた。

「ゾロ、お前、昨日の夜から、何か変だぞ? ピエールさんに何か言われたのか?」

「いや、別に。 少し、疲れただけだろう。」

俺の微妙な変化を感じ取って、サンジが俺にそう言ってきた。

俺は、疲れを理由にそうごまかしたが、内心、どうプロポーズしようかと、そればかり考えて

いた。








そして、そのまま季節は過ぎさって・・・

俺は、サンジにプロポーズ出来ないまま、夏を迎えた。

はあ・・・・なんで、たったあれだけのことが、言えないんだろ・・・

全く・・・情けねえ・・・・

俺って、こんな情けねえ男だったか・・・

結婚しようって・・・そういやいいだけじゃねえか・・・

・・・ダメだなあ・・・俺・・・

言うチャンスは、いくらでもあった。

なのに、サンジを目の前にしたら・・・はあ・・・

日毎にため息ばかりが俺の口から増えていく。

俺は、自分のことで精一杯で、サンジの体調の変化に気がついてなかった。

サンジは、夏休み、俺の部活に弁当を差し入れに来てくれる。

その日も、サンジは、変わらず俺に、弁当を届けにやってきた。

「・・・サンジ、お前、顔色悪いぞ。 どこか具合悪いんじゃねえのか?」

弁当を持ってきても、一緒に食べようとしないサンジに俺はようやく気がついて、そう尋ね

た。

「いや、平気だ。 たぶん、夏バテしたんじゃねえかな。 最近、食欲なくって・・・」

そう言って笑うあいつの顔に、俺は、目を見張った。

心なしか、頬はこけ、細い身体が、ますます細く見える。

俺は、急いで、サンジの身体を抱きしめた。

・・・細い・・・細すぎる・・・

いくら元が細いからって、これは、異常だ・・・

・・・俺は、馬鹿だ・・・

自分のことばかりで、サンジの体調に、今まで気付きもしなかった。

「・・・いつからだ。 メシ食えなくなったのは、いつからだって聞いている。」

俺は、サンジに、強い口調でそう言った。

「えっ、ああ、ここ1ヶ月位、食べ物の匂いが鼻について・・・ 気持ち悪くって・・・

でも、大したことねえよ。 涼しくなったら、治るさ。」

そう言って、サンジは、笑った。

「・・・・病院に行く!」

俺は、サンジの身体を抱きかかえて車に乗せ、かかりつけの病院に急いだ。

病院で診察を受けているサンジを待っている間、俺は、サンジの主治医に呼ばれた。

「ゾロ君・・・ちょっと、いいかな・・・サンジ君のことなんだけど・・・」

俺は、主治医の深刻な声に、事の重大さを感じた。

まさか・・・サンジに何か・・・

今頃になって、あの事故の後遺症か何か出たのか・・・

俺は、目の前が真っ暗になっていった・・・

いま、あいつが、俺の前からいなくなったら・・・

俺は・・・俺は・・・生きていける自信が・・・ねえ・・・

「ゾロ君、おい、しっかりしろ! とりあえず、ここでは、サンジ君は、診てあげられな

い・・・今から紹介する医者のところに、至急行ってくれ。 彼ならきっと何とかしてく

れるはずだ。 わかったかい。 これがその場所の地図だ。 今すぐに行ってくれ。 

連絡は、こっちで取って上げるから。」

そう言って、主治医は、俺に地図を持たせた。

俺は、サンジをまた車に乗せて、その地図の場所に急いだ。


















+++++++++++++++++



「先生はいますか?」

俺はサンジを抱きかかえて、さびれた病院のドアを開けた。

こんなさびれた個人病院で、一体何が出来ると言うんだ。

あんな大きな総合病院で、診れないと言われたんだゾ。

・・・サンジは、また、医者に、見放されたんだろうか・・・

・・・どうして、サンジばかりが・・・こんな目に遭うんだ・・・・

俺は、総合病院の対応に、悔しさがこみ上げてくる。

・・・でも、もう、ここしか頼れる病院は、ないんだ。

「誰かいませんか!」

「おい、こっちだ、こっちに来てくれ。」

奥の方から声が聞こえた。

しかし・・・何という病院だ。

看護婦もいないのか?

こんな病院で診て貰って、サンジは、大丈夫なんだろうか。

俺の不安は、ますます膨らんでいく。

俺は、サンジを抱えて診察室に歩いていく。

「・・・俺、何か悪い病気なのか?」

サンジも不安なんだろう。

そう言って、サンジは、ギュッと、俺の首にしがみついてきた。

「大丈夫だ、きっと治る。」

俺はそう言って、サンジの頬にそっと口付けた。

「失礼します。」

そう言って俺は診察室のドアを開ける。

「うがっ!! 化け物!!」

俺は、そいつの異様さに思わず叫んでしまった。

「・・・全く、失礼な奴だな、君は。 俺は、化け物なんかじゃない。 れっきとしたトナ

カイだ。 だけどな、普通のトナカイじゃないんだぞ。 IQ300の、スーパートナカイな

んだからな。 お前何かよりずっと頭良いんだぞ。 わかったか。 そいつだろ、サンジ

って言うのは。 俺に任せろ、話は聞いてるから。」

そう言うとそのトナカイは、サンジを診察台に乗せるように俺に命じた。

「・・・それと、俺の名前は、トナカイじゃねえ。 『チョッパー』っていうんだ。 よろしく

な。」

そう言って、チョッパーは、サンジを診察した。

「???!!!こ、これは!!」

チョッパーの深刻な声に俺達は、息をのんだ。






<next>   <back>   <roronoake−top>