ANNIVERSARY


その13






「ずりいよ。 ゾロと親父ばっか・・・・・・俺が、産んだのに・・・・」

病室に戻ったゾロに、聞こえた第1声は、そう言って、ゼフにブツブツ文句を言って口を尖らせ

ているサンジの声だった。

「おっ、どうだった、赤ん坊は? すっげえかわいかっただろ? ほっぺたなんか、ぷく

っとしてて・・・・・サンジが生まれた時を、思い出しちまった・・・・」

そう言って、ゼフは、先程の抱いた赤ん坊の感触を思い出すかのような、優しい瞳をしてゾロ

に声を掛ける。

「ずりいよ! 二人とも・・・・俺・・・俺、自分で産んだのに・・・・まだ、一度も、見ても

いねえし、触れてもいねえんだぜ? 俺が・・・この俺が産んだって言うのに・・・・・ 

うがあっ!! もう我慢できねえ! 俺、新生児室に行って・・・・痛てッ。」

サンジは、そう言って、ベッドの上から、身を起こそうとして、顔を歪ませる。

「馬、馬鹿! 何考えてんだ! さっき、腹切って、子供産んだばかりなんだぜ。 

動けるわけねえだろか!! 全く・・・・・・わかった。 後で、チョッパーに頼んで、赤

ん坊、ここに連れてきてやるから、暫く我慢しろ。 なっ。」

ゾロは慌てて、サンジの側に駆け寄って、ポンと優しくサンジの頭を叩く。

「じゃあ、俺は、店あるから・・・・これで・・・・ 後で、精の付くもん、持ってきてやるか

ら・・・ロロノアも、一緒ので、良いよな? ・・・それと、ロロノア、ちゃんと、お袋さん

にも、連絡、忘れんじゃねえぞ。」

「おやっさん、本当に来てくれて、ありがとう・・・俺一人だったら、どうなっていたこと

か・・・本当に、ありがとうございます。」

ゾロは、丁寧に、頭を下げ、心からの感謝の意を表す。

「親父・・・また、心配掛けたな。 ありがとう。」

サンジもまた、ゼフに向かって頭を下げた。

「・・・////そんなの、親だったら、あたりめえだ。 じゃあな。」

ゼフはそう言葉少なに、そう言うと、病室を出ていった。

「さあ・・・・夜が明けるまで、もう少し時間がある。 朝になったら、ちゃんと、赤ん

坊、ここに連れてきてやるから、おとなしく、寝てろ。 俺、ここにいてやるから・・・」

ゾロは、そう言って、疲労の残るサンジの頬にそっと口付ける。

「うん・・・そうする。 おやすみ、ゾロ。」

サンジは、さすがに身体がきついのか、そう言って、眠りについた。

ゾロは、サンジの顔を黙って見つめながら、ゆっくりと金色の髪を鋤いてやる。









・・・・良かった。 サンジが、無事でいてくれて・・・

良かった・・・・本当に・・・・

あのサンジが危険な状態の中、産まれる子供までが、疎ましく感じた。

こいつがいるから、サンジが・・・・俺のサンジが・・・・

・・・神様。 赤ん坊は、諦めても良い・・・・だけど・・・サンジは・・・サンジだけは・・・・

どうか、俺から、奪わないで・・・くれ・・・・

・・・真剣に、そんなことを考えた自分がいた。

・・・どんなことをしても・・・・・・後で、サンジに非難されようが・・・・ゾロには・・・サンジを失う

ことだけは・・・・耐えられなかった・・・・・

・・・でも・・・・あの新生児室で、赤ん坊を抱いた瞬間、ミルクを飲ませているときに、ギュッと

握った手のぬくもりが伝わった瞬間・・・・

・・・俺は、確かに感じた。

サンジと同じくらいに感じる愛情を・・・・

この子のためなら、何だって出来ると・・・・

サンジ以外には、感じたことのない程の深い愛情と慈しみを覚えた。






「ありがとう。 サンジ。 ・・・俺は、かけがえのないものを、またこの手にできた。

・・・・ありがとう・・・・サンジ・・・お前のおかげだ。」

ゾロは朝、チョッパーが診察に訪れるまで、約束通り、サンジのそばから離れなかった。

診察も無事に終わり、チョッパーの許可を得て、ゾロは、サンジが待つ病室に赤ん坊を連れ

てきた。

2度目という事もあって、幾分か抱き方もマシになったものの、どうしても、ぎこちなくなってし

まう。

それでも、ゾロは、ぎこちない手で、サンジの腕に赤ん坊を抱かせた。

「うわあ・・・ちっちぇ〜・・・・それに、軽い・・・・なんか、壊しそうで、俺・・・緊張す

る・・・」

先程の自分も、こんなにがちがちになっていたのかと思うと、何だか、笑えてくる。

・・・・でも・・・・母子って、こういう感じかな・・・・

こわごわと抱くサンジに、ゾロは瞳を細めて見つめる。

そんなとき、赤ん坊が、フッと、瞳を開けた。

・・・・蒼・・・・蒼・・・・蒼・・・・

・・・・でも、サンジの瞳よりも、もっと深い・・・・藍に近い・・・蒼・・・・

「・・・ラピスラズリ・・・・・・・・ラピス・・・・・」

サンジが、赤ん坊を見てそう呟いた。

「・・・ゾロ。 この子の名前は、『ラピス』。 ラピスラズリのラピスだ。 

・・・ラピスラズリ・・・幸運の青金石・・・・この子は、俺達にたくさんの幸せを運んでき

た。 ・・・そして、これからも・・・ずっと・・・・だから・・・・俺達のラピスラズリ・・・

・・・ラピス・・・だ。」

サンジは、ゾロにそう言って、笑った。

「・・・『ラピス』かあ・・・悪くねえ、な。 まあ、俺は、女の子の名前、考えてなかった

し・・・サンジが、そう名付けたいのなら、それで良い。 ・・・よろしくな、ラピス。」

ゾロはそう言って、ラピスの小さな手に触れる。

その感触を感じたのか、ラピスは、また、キュッとゾロの指を掴んだ。

・・・くう・・・・可愛い・・・・

サンジとは、違った可愛らしさが・・・・

ゾロの頬が、だらしなく緩む。

「あ〜、ゾロ。 ずりい。 ラピスと手なんか握って・・・ 俺だって・・・俺だって・・・」

サンジは、ラピスの頬にそっと手を触れてみる。

ちゅぱっ!!

ラピスが、顔を動かして、頬に触れるサンジの指を急に、口に含んだ。

そして、ミルクを飲むように、コクコクと口を動かす。

「うわあ!! ゾロ!! 見ろ! 見ろ!! ラピスが、俺の手をミルクと間違って、

チュパ、チュパしてる!! すげえ・・・すげえ力だ・・・・ 赤ん坊って・・・・すげえ

よ・・・・・ 俺・・・俺・・・」

サンジは、ラピスの仕草に感動して、最後は、涙声になった。

「良かったな。サンジ・・・」

ゾロはそう言って、サンジの髪をクシャッと撫でた。

「あらあら、もうお腹がすいたのかしら・・・・ さっきは、パパに飲ませて貰ったから、

今度は、ママに飲ませて貰おうかしらね・・・・」

そう言って、婦長のテラコッタは、ミルクを作った。

「さあ、そのままの格好で良いから、このほ乳瓶を口に含ませてね。」

「はい。」

サンジは、緊張した面もちで、ラピスにミルクをやる。

コクンコクンとラピスの顎が動いて・・・アッという間に、ミルクはなくなった。

「さあ、次は、ゲップをさせるのよ。 そうしないと、赤ちゃんは、吐いたりするからね。

はい、肩口に、首をのせるように俯せに抱き直して・・・」

テラコッタの指示で、サンジは、肩口にラピスの顎をのせ、優しく背中を撫でる。

ゲフッ

ラピスの口から小さなゲップが聞こえ、甘ったるいミルクの匂いが、サンジの鼻に届いた。

・・・これが・・・赤ん坊の、匂い・・・・

なんか、ふわふわして・・・・幸せな匂い・・・・

・・・俺の・・・俺達のラピス・・・・

サンジは、ラピスをもう一度腕に抱き直すと、優しく、微笑んだ。

「さあ、今日は、このくらいにしておいて・・・ これからはずっと、一緒にいられるん

だ。 まずは、サンジ、早く元気になろう。 ・・・それと、ゾロ。 お前も、ラピスのこ

と、ちゃんと勉強するんだぞ。 わかんないことがあったら、この、テラコッタ婦長に聞

くんだ。 彼女は、一流のナースだからな。 下手な医者よりは、全然頼りになるか

ら・・・」

チョッパーは、そう言って、サンジから、赤ん坊を取り上げると、テラコッタに渡して、病室を出

ていった。




翌日から、ゾロは、育児休暇を会社から貰って、ラピスの世話の仕方などを、動けないサン

ジに代わり、テラコッタから、詳しく教わった。

その1.・・・産湯の浸かりかた・・・

その2.・・・ミルクの量と作り方・・・

その3.・・・ミルクの飲ませ方とゲップのださせ方・・・

その4.・・・おむつの替え方・・・

ゾロにとって、最大の試練が、その4.・・・おむつの替え方・・・で、ある。

・・・どうしても、女の子特有の、その付いてないものに、慣れず・・・ゾロは、毎回、必要以上

に、時間がかかってしまう。

・・・はあ・・・・参った・・・・こればっかりは・・・俺・・・出来そうにねえ・・・

これだけは、サンジにやって貰うか・・・・

ゾロは、テラコッタに時間がかかりすぎると叱られながら、そう考えた。

サンジは、ベッドの上で、テラコッタから色々とゾロの健闘ぶりを聞いて、笑っている。

「・・・本当、笑い事じゃねえんだぞ。 頼む、サンジ。 俺、ラピスのおむつ換えだけ

は、できそうに、ねえ・・・ 後のは手伝うけど、これだけは、勘弁してくれ。」

ゾロは真剣にサンジに両手をあわせて、そう言った。

「ククク・・・しょうのねえパパだなあ・・・ 仕方がねえ。 俺が、やってやるよ。」

そう言ったサンジの元に、早速、ラピスが、おむつを換えにやってくる。

「ラピス〜、俺が、だらしねえパパに代わって、ちゃんと、おむつ換えて気持ちよくして

あげるからね〜」

サンジは、ゾロとテラコッタが見守る中、ラピスのおむつをはずした。

「!!!!!!!」

サンジの手が、ピタッと、止まる。

「・・・ゾロ・・・てめえ・・・これ見て・・・・・・」

「ああ、そうだ。 まあ、しっかり頼むぜ、ママ。」

そう言って、サンジの動揺を知ったゾロは、ニヤリと笑った。

サンジは、ただ呆然とラピスを見つめているだけ・・・

・・・こんなの・・・こんなの、俺・・・知らねえ・・・・

・・・どうすりゃ、いいんだ・・・・

・・・・マジかよ・・・・

・・・ゾロ・・・・俺・・・・

サンジは、そっと上目遣いで、ゾロの方を見る。

しかし、ゾロは、そんなサンジの様子をニヤニヤしながら、黙って見つめるだけ・・・

「ほらっ、サンジさん、さっさとしないと、ラピスちゃん、風邪引いちゃうわよ。」

テラコッタから、檄が飛ぶ。

「・・・うう゛ぅ〜・・・・」

サンジは、観念して、ラピスのおむつを換えた。

・・・・俺・・・知らなかった・・・・

赤ん坊のおむつ換えんのが、こんなに、神経使うモノだなんて・・・

・・・しかし・・・俺が、今からずっと・・・・やるんだろうなあ・・・・

ゾロに、啖呵を切った手前、サンジは、今更後には引けなかった。

「ハア〜。」

サンジの口から、大きなため息が一つ、零れた。

「・・・ところで、てめえ・・・お袋さんには、ちゃんと、連絡したよな?」

「うおっ!! いけねえ・・・・忘れてた。 俺、今から連絡する!」

サンジの言葉に慌ててゾロは、病室を出ていった。













それから、1ヶ月後、サンジは、ラピスと共に、元気に退院した。

ロロノア家は、前以上に、賑やかになった。




「じゃあ、ラピスちゃんのお誕生と、サンジ君の退院を祝って、乾杯!!」

その日、『バラティエ』では、貸し切りのパーティーが、開かれた。

主役は、当然、サンジとラピス。

ラピスは、何も知らず、ウソップお手製のベビーベッドで、すやすやと眠っている。

「良かったわね、サンジくんっv こんな可愛い子、見たこと無いわ。」

「ええ、サンジさんに似て、凄い美人になりますよ、きっと。」

ナミとビビが、ラピスを見てそう言った。

「おう、サンジ。 すっげえ、可愛いな。 ・・・俺も・・・なあ、ナミ! 俺、すんげえ、子

供欲しくなった! っ痛てえ・・・ナミ、何すんだよ! 殴るなよ。 お前の殴るの、本

当に痛いんだぞ。」

真っ赤になったナミから、殴られて、ルフィは、ブツブツと文句を言う。

「いやあ、俺のベッドも、なかなかのもんだろ? ・・・それにしても、まあ、親から良い

とこ取りで生まれてきたって感じだな。 見たところ、眉毛だけ、ゾロ似で、後は、全

部サンジのミニチュアみたいだな。 うん。 これは、美人になるぞ。 まあ、カヤの次

だけどな。 これから先が、楽しみだな。」

ウソップが、ラピスを覗き込みながら、サンジとゾロにそう言った。

「「ありがとう、皆! 俺達、凄く幸せだ。 これからも、俺達3人、よろしく頼むな。」」

サンジとゾロは、皆にそう挨拶をした。

「「「「当然!!」」」」

パーティーは、終始、賑やかに行われた。








<next>   <back>