ANNIVERSARY


その12






ゾロは、主治医を連れて、サンジのいる病院へ急いだ。

チョッパーのあの様子から、サンジの身に危険が迫った頃は、容易に予測できた。

・・・・今までが、順調すぎたんだ。

・・・男の身体で、本当に、出産に持ちこたえられるのか?

・・・ただでさえ、あいつは、細いんだ。

・・・それに、あの事故のこともある・・・・

ゾロは気が気ではなかった。

今まで、順調に、月日が流れていたため、ゾロでさえ、どこかで、安心しきっていた部分があ

ったのだ。

それが、今日・・・・あっけなく、崩された。

まもなく、チョッパーの病院に着いた。

「・・・サンジ、無事でいろよ。」

ゾロはそう呟きながら、主治医と共に、チョッパーの元に向かう。

「チョッパー! サンジは・・・サンジの容態は・・・・」

ゾロはそう大声で呼びながら、看護婦の制止を振り切って、手術室に入った。

「ゾロ! 今は、入ったらダメだ! 後で、説明するから、部屋の外にいてくれ! 

今、サンジの身体に、ウィルスが入ったら、危険だ!」

チョッパーは、ゾロにそう言って、手術室から、ゾロを追い出した。

サンジが手術室に入って・・・

1時間、2時間と時間だけが過ぎていく。

その間、ゾロは、何をすることも出来ず、ただうろうろとするばかり・・・・

そのうち、お昼近くになって、ゼフが、何も知らずに、食事を持って現れた。

「どうした。 サンジに何かあったのか?」

ゼフは、ゾロを見つけると、すぐにそう聞いた。

「ああ、おやっさん。 連絡しないですみません。 俺、気が動転してて・・・」

「いや、それはいい。 それより、サンジの奴、一体何があったんだ。」

「実は、今朝、俺と話をしていたら、急に、サンジが、腹を押さえてうずくまって・・・・

俺、慌てて、チョッパーを呼んで、指示通り、総合病院の主治医を呼んできて・・・・

そしたら、サンジ、この手術室に移されてて・・・・俺、俺、どうしたらいいかって・・・

サンジに何かあったらって思うと、もうどうしようもなくて・・・・・おやっさん・・・俺、

俺・・・」

「しっかりしろ! ロロノア。 てめえがここでうろたえてどうする。 サンジは、俺が育

てた息子だ。 あんな事故にあっても、生き抜いた奴だ。 このくらいでどうこうなるわ

けねえだろ。 サンジを信じろ。 絶対に、大丈夫だ。」

ゼフは、ゾロの肩をガシッと掴んで、そう言った。

「・・・・・・ゾロ。 あっ、ゼフも来てたのか・・・・二人とも、良く聞いて欲しい・・・・ 

サンジの身体が・・・・出産に耐えられないかも知れない・・・・ 凄く、女性ホルモンの

分泌量が、変化していて、安定しきってない・・・・・こんな事、これまで一度も、無か

ったのに・・・・・ ・・・ここまで育つと、今、取り出しても、胎児には、影響はそんなに

ない。 ・・・ただ・・・・この状態で、腹を切って胎児を取り出すと・・・・・・ はっきりと

言う。 ・・・・サンジは、助からないかも知れない・・・・ ・・・・覚悟しておいて貰える

だろうか・・・・・もう少し、様子診て・・・・これ以上、女性ホルモンがサンジの中で減

少し続けると・・・・サンジの身体は・・・・耐えられない。」

チョッパーは、手術室から出てくると、ゾロとゼフに向かってそう言って、唇を噛んだ。

「ふざけるな! てめえ、大丈夫だとそう言ってたじゃねえか! 母子共に順調だっ

て・・・ それを今更・・・」

「止めろ、ロロノア・・・・・ それ以上言っても、サンジの身体が、良くなるわけじゃね

え・・・・」

チョッパーの服を掴んで、大きく前後に揺するゾロの姿に、ゼフは、静かな声でそう言った。

「・・・すまない・・・・でも、俺だって、サンジを死なせたくない。 だから、全力を尽く

す。 これから、サンジの体の中の女性ホルモンを採取して、増殖させる・・・・初めて

だから、上手くいくとは限らないけど・・・・何もやらないよりは、マシだ。 

・・・それと、ゾロ。 サンジが、うわごとのように、お前を呼んでる。 服を着替えて、

消毒して、サンジの側にいてやってくれないか。 少しでも、サンジの心が落ち着くよ

うに・・・」

「・・・わかった。」

そうして、チョッパーとゾロは、サンジの待つ手術室に入った。

「サンジ、しっかりしろ! サンジ!」

ゾロは、サンジの手を握って、そう呼びかける。

サンジは、うわごとのように、ゾロの名を呼び、苦しそうに息をする。






それから、10時間後。

「ゾロ! 出来たぞ! サンジの女性ホルモンが、ちゃんと、増殖してくれた! 

これを体内に戻せば、何とかなるはずだ。」

チョッパーは、ゾロにそう言うと、サンジの腕に点滴を開始した。

「サンジ・・・・頼むから・・・・俺を置いて逝くな・・・・・・・・俺達の赤ん坊だろ? 

二人揃って育てなくて、どうするんだ・・・ サンジ・・・・赤ん坊が、お前を待って

る・・・」









点滴は、無事に終わり、サンジの息も、少し落ち着きを取り戻してきた。

いつの間にか、日付は変わり、チョッパーは、ある決断をする。

「・・・ゾロ。 サンジの状態も、だいぶん落ち着いていた。 ・・・俺は、このままここ

で、サンジの帝王切開をしようと思う。 これは、俺の判断なんだが、このまま予定日

を待つよりは、今の方が、サンジの身体にとっては、良いと思う。 ・・・ゾロ。 同意し

てくれるか?」

「ああ、サンジの命、お前に預ける。」

チョッパーの力強い瞳に、ゾロは、そう言って答えた。

「じゃあ、今から、帝王切開を始める。 ゾロは、そのまま、サンジの手を握ってて。

・・・ゾロ。 一つ聞いて良いか? お前、この間のビデオ、最後まで見れたか?」

「・・・いいや?」

何故、こんな時にそう言う質問をするのか理解に苦しんだが、ゾロは、正直に話した。

「・・・・・・そうか・・・・・・・ゾロ、絶対に、赤ん坊の泣き声がしても、こっちみるなよ。 

わかったな、絶対だぞ。」

チョッパーは、深いため息を吐いて、ゾロにそう、念を押した。

「????わかった。」

ゾロは短く返事をする。

まもなく、サンジの開腹手術が執り行われ、パチンと言うはじけるような音と共に、元気のい

い赤ん坊の声が聞こえてきた。

「やった! サンジ、でかした! 俺達の子供が、生まれた。 凄い大きな声だぞ。

きっと、男の子だ。 『零(ゼロ)』だ。 『零(ゼロ)』が生まれた! ああ、お前、見れ

ないもんな。 よし、俺が、お前の代わりに、見といてやるぜ。 きっと、可愛い

ぜ・・・」

ゾロは、サンジにそう言うと、チョッパーの言ったことなどすっかりと忘れて、チョッパーの方を

見る。

チョッパーの腕には、生まれたばかりの血塗れの赤ん坊・・・・

あの夜見た、ビデオの映像と同じ・・・・

スッと、ゾロの身体から、血の気が引いた。

フラフラとして、目の前が、真っ暗に、なっていく・・・・

「ゾロ! おい!しっかりしろ!! ゾロッてば・・・おい! ・・・・仕方ねえな。 

だから、あれほど、こっち見るなって、そう言ったのに・・・・すまん、婦長! ゾロを、

そっちの台に寝かせといて貰えるか?」

「はい、わかりました。」

婦長の、テラコッタは、ゾロを軽々と持ち上げると、開いている台にそっと寝かせた。

「・・・だらしねえな、お前の父ちゃんは・・・・まあ、男はたいがい、こう言うのには、

弱いんだけどな・・・」

そう言って、チョッパーは、生まれたばかりの赤ん坊を湯船に付けて、綺麗に洗ってやっ

た。

「・・・お前、母ちゃん似だな。 良かったな。 父ちゃんに似ないで・・・ふわふわの金

色の産毛が、光ってて・・・・これは、美人になるぞ。」

チョッパーは、赤ん坊をバスタオルにくるみながら、そう囁いた。

そして、サンジの腹の縫合に取りかかった。

「よし、これでいい。 サンジの方も、何とか、大丈夫そうだ。 ・・・良かった。 一時

は、どうなるかと思ったぜ。 さてと・・・赤ん坊をゼフにお披露目、とするか。」

チョッパーは、寝台の上の二人を交互に見て、そう言った。

「ゼフ! やったぞ、母子共に大丈夫だ! ほらっ、見てみろよ! サンジ似の可愛

い、女の子だ。 こいつは、美人になるぞ。 まだ、瞳が開いてないから、どんな色し

てるのかわからないが、この金色の髪の毛と、白い肌は、間違いなくサンジ譲りだ。

・・・抱いてみるか?」

チョッパーはそう言って、ゼフに赤ん坊を渡す。

ゼフは、こわごわと赤ん坊を抱くと、髭を今までにないほどに、ヘニョンと下げ、目尻を思いっ

きり下げた。

「ジイジでちゅうよ〜、わかりまちゅか〜」

その声は、チョッパーが、笑いを堪えきれないほど、強烈なモノであった。

「ブッ!! ・・・ちょっ、ちょっと・・・・ごめん・・・・」

チョッパーは、後ろを向いて壁に手を置くと、声を殺して、笑った。

後ろから見ても、肩が大きく震え、笑っているのが、はっきりとわかった。

「ゴホッ・・・/////チョッパー・・・もう良い・・・・赤ちゃん、保育器に移すんだろ? 

俺、病室から、産着持ってくるから・・・・」

ゼフは、そう言って、チョッパーに赤ん坊を手渡すと、一目散に、病室に走った。

「・・・ジイジだってさ・・・・ククク・・・良かったな、無事に生まれて・・・」

チョッパーはそう言って笑うと、保育器の中に赤ん坊を寝かせて、ナースセンター隣の、新生

児室に移した。

「・・・これで、よし!」

保育器には、『サンジベビー女』と、プレートが掛けられた。














「ゾロ・・・・おい、ゾロ! いつまで、気を失ってんだ。 ほらっ、赤ん坊、見ないの

か? ゾロッてば。」

チョッパーは、サンジを病室に移動して、あのまま手術室で気を失って倒れたゾロを揺すっ

た。

「う〜ん、サンジ・・・後30分だけ・・・な。」

そう言ってゾロは、チョッパーを抱くと、自分の上にのせた。

ガシッ

チョッパーの角が、ゾロの顎にヒットする。

「痛ってえ!!」

ゾロは、突然の痛みに飛び起きる。

「やっと、起きたか・・・・ ゾロ・・・・俺、あれだけ忠告したのに・・・ 俺の言ったこと

忘れるからだぞ。 赤ん坊は、お前が意識失ってる間に、新生児室に移動した。 

サンジも、もう、病室に戻ってる。 ほらっ、早く言って、赤ん坊見てこいよ。 今度は

大丈夫だ。 ちゃんと、洗って綺麗になってるから・・・・」

「本当か?! サンジは、無事なんだな? ありがとう、チョッパー!!」

ゾロは、チョッパーにお礼を言うと、まずは、サンジの病室に行った。

「おう、ロロノア、遅かったな。 もうすぐ、サンジの麻酔も切れるそうだ。」

事情を知っているゼフは、そう言って笑った。

「・・・すみません、俺・・・・すっかり、取り乱しちまって・・・・ サンジには、このこ

と・・・・」

「ああ、言うつもりはねえよ。 ・・・それに、そのおかげで、俺は、一番に、赤ん坊を

抱けたし、な。 ところで、てめえ、もう、赤ん坊は見たのか? まだだったら、見てこ

いよ。 ここは俺が、見てるから・・・」

「すみません、じゃあ、俺、見てきます!」

ゾロはそう言って、新生児室に急いだ。

・・・どんな子だろう・・・・

・・・どっちに似てんだ・・・・・

・・・・でも、あのグル眉だけは・・・・似てねえで・・・欲しい・・・

ゾロはそんなことを思いながら、新生児室に入った。

プラスチックの窓越しに、保育器で眠っている赤ん坊がいる。

プレートには、『サンジベビー女』の文字・・・・・

「お、女???」

ゾロは、思わず声を上げた。

・・・・女の子なのか???

・・・てっきり、男だと思ってたのに・・・・

はっ! 眉毛は・・・・・

ゾロは、赤ん坊の眉毛を凝視する。

うっすらと金色の眉毛は・・・・・・・渦を巻いて・・・・いなかった。

「良かった・・・」

ゾロは、ほっと胸をなで下ろす。

女の子で、グル眉だと・・・・可哀想すぎる・・・・

ゾロは心底、ほっとした。

そして、よくよく見れば、金色の髪がうっすらと生え、きめ細やかな白い肌をしている。

・・・・サンジに似ている・・・・・

その瞳はまだ開かれていなかったが、他の部分は、誰が見ても、サンジにそっくりだった。

「ロロノアさん、赤ちゃん、抱っこしてみます??」

婦長のテラコッタが、そう言って、赤ちゃんを保育器から抱き上げ、ゾロのところへ運んでき

た。

「はい、じゃあ、まず、そこの消毒液で、手を消毒して下さいね。」

ゾロは、テラコッタの言うとおりに、消毒液を付け、手を綺麗にする。

「では、頭をこっちにして、お尻を支えるように・・・・そうそう、なかなかお上手です

よ。」

テラコッタに教えて貰い、ゾロは、こわごわと赤ん坊を抱いた。

まるで、何ものってないような軽さ・・・・

でも、腕の中にじんわりと赤ん坊の体温が伝わってきて・・・・

ゾロは、何とも言えない感動を受けた。

ゾロが、動けなくて固まっていると、急に、赤ん坊が、泣き出した。

ゾロは、慌ててテラコッタを呼ぶ。

「あらあら、もう、お腹がすいたのかしら? それとも、うんち?」

テラコッタは、がちがちに固まっているゾロから、赤ん坊を受け取ると、側にあったベビーベッ

ドに、泣いている赤ん坊を寝かせ、おむつを見る。

「・・・まだ、おむつは、濡れてないようね・・・ じゃあ、お腹空いたのね。 待ってて

ね、今、持ってきまちゅうからね。」

そう言って、テラコッタは、慣れた手つきで、おむつをはめ、ミルクの用意をしにいく。

「ロロノアさん、赤ちゃん、見ててくださいね。 ??ロロノアさん? どうかしました

か??」

テラコッタは、そう言って、ゾロに近づいた。

ゾロは、瞳は開いているが、どうにも、ここには、意識がないようだった。

「ちょっと! ロロノアさん!」

テラコッタは、ゾロを大きく揺すって、意識を取り戻させた。

「あっ・・・すみません。 俺・・・赤ちゃんの・・・初めてで・・・・あの・・・俺、女の兄妹

いなかったから・・・ サンジも男だし・・・・すみません、俺、あんまり、見慣れてなく

て・・・驚いてしまって・・・」

ゾロは、しどろもどろになって、テラコッタさんにそう言った。

「あらっ、そうなの? でも、これから、パパにも、おむつ取り替えて貰わなきゃならな

いし・・・ そのうちに、慣れるわよ。 これから、何百回も、見ることになるんだか

ら・・・・」

テラコッタさんは、ゾロにそう言って笑う。

それから、ゾロに赤ん坊を見させると、ミルクを持って、ゾロに差し出した。

「じゃあ、せっかくだから、パパに、ミルク、飲ませて貰おうか。」

そう言って、赤ん坊を抱き起こすと、もう一度、ゾロの腕にのせる。

ゾロは、落としてはいけないといった表情で、がちがちになっている。

「あらあ、そんな固くならないで。 赤ん坊は、結構丈夫に出来てるのよ。 ほらっ、肩

の力抜いて、そう、リラックスして・・・・そうそう・・・はい、じゃあ、これ、口の中に入

れてみて。」

そう言って、テラコッタは、ゾロにほ乳瓶を持たせた。

ゾロは、テラコッタに言われたように、ほ乳瓶を赤ん坊の口に入れた。

チュッ、チュッ、チュッパ・・・

赤ん坊は、待ってましたとばかりに、ほ乳瓶の先を吸い始める。

コクンコクンと顎が動いて一生懸命にミルクを飲む。

不意に、赤ん坊の手が伸ばされ、ほ乳瓶を持っていたゾロの手の小指をギュッと、掴んだ。

「!!!!!!!!!!」

ゾロは、言葉に出来ないほどの感動を覚える。

力強く握られた手を見つめ、サンジ以外に、これほど愛しい存在が出来るなんて・・・・・

ゾロは、また、かけがえのない愛しいモノの存在をその腕に感じ取った。

アッという間に、ほ乳瓶は空になり、赤ん坊は、また、すやすやと眠りについた。

「さあ、保育器に行きましょうね・・・」

赤ん坊は、テラコッタに抱き上げられ、ゾロの腕から、消える・・・・・と、ゾロの小指には、ま

だ、赤ん坊の小さな手が、離れずに握られていた。

「あらあら、パパと別れたくないって、そう言ってるみたいね。 でも、ごめんね。 

また後でね。」

テラコッタはそう言って、そっと赤ん坊の手を小指からはずした。

ハズされた小指は、その後も、赤ん坊の手の感触が感じられて・・・・

ゾロは、暫く、その小指を眺めていた。








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<コメント>

う、生まれました・・・やっと・・・
皆さんの予想は、男?女?? 当たりましたか?
正解は、サンジにの可愛い女の子でした!
それも、眉毛、巻いてません。(笑)
1ページあたり、いつものより長めに書いているので、
いつもの、1.5倍ぐらいかな・・・
もしかすると、あと、2回ほどで、終了するかと・・・(笑)
・・・それでも、後2ページは、続くの、ね・・・(-_-;)
はっはっは! もう、笑うしかないです・・・
では!