YES YES YES


その2.



 




「・・・本当、驚きよ? 貴方があんなとこに居るなんて・・・・渡欧してるじゃなかったの?」

ナミは、そう良いながら、ワインを注ぐとゾロに手渡す。

ここはとあるホテルの一室。

と、言っても安ホテルではなく、最高ランクの名高いホテルのスウィートルーム。

VIP専用の特別室だ。

「・・・・・別に、いいだろ。 後数日は俺の自由にしていい時間だ。 それが約束。 20歳にな

れば・・・・俺には自由なんか無くなるんだ。 このホテル同様、古いしきたりと格式なんて

言う昔の馬鹿みたいな柵に雁字搦めにされて生を終えるだけ。 後継者としての俺が生きて

るだけの時間が来るんだから・・・・」

ナミからグラスを受け取り、ゾロはそう言い放つと一気にワインを飲み干した。

「クスクス・・・・あらあら、そんな悲観的な見方しかできないなんて・・・・誰もが羨むロロノアコ

ンツェルンの御曹司とは思えない言葉ね? かく言うあたしも人には言えないけどね。」

「本当に・・・・海運王の後継者と目される一人娘のお嬢さんと、あんなところで出くわすなんて

想像もしてなかったぞ。 何年ぶりだ?ナミ・・・」

「正確には・・・・4年ぶりかしら。 貴方の後継者発表のパーティー以来ね。 いきなり15歳の

少年に後継者はお前だ、だものね。 クスクス・・・貴方のお爺様には本当驚かされるわ。 

まっ、見てて面白かったけど?」

「人の人生を勝手に面白がるな。 俺はあの日以来、何処に行くにも一人じゃ行動させても貰

えず、毎日、窮屈な檻の中に入れられた気分だ。 それまで相手にもしてなかった大人が掌

返したようにちやほや・・・・誰も、俺自身を見ようともしてくれない。 ・・・・・アイツ以外は。」

「アイツって・・・・・サンジ君?」

一通り会話を交えて、ナミは核心を突くようにゾロにそう尋ねる。

「・・・・・・ああ。」

ゾロは、それだけ言って席を立つと窓から夜景を眺めた。

「・・・・・本当に彼で間違いないの? サンジ君、全然貴方の事覚えてないみたいだし・・・」

「俺が間違う筈が無い。 感情をそのままにぶつけてくる瞳は、アイツのものだ。」

「大した記憶力ね? たかだか数時間・・・しかも10年以上前の事なんでしょ? それを言い

切るなんて・・・」

「・・・・そうだな。 自分でもおかしいと思う。 ずっと忘れずに・・・・なんでだろうと・・・・確かめ

たかった。 俺の自由な時間があるうちに。 だから・・・・」

「だから、あの店に入店した。 ・・・で、その答えは見つかった?」

「ああ、わかった。 俺は・・・・・逢いたかったんだ、アイツに。 だから、忘れなかった。」

「逢いたかったって・・・・まさかそれだけ、なんて言わないわよね?」

「ん? 他になんかあるのか?」

「あんたって・・・・」

真面目に語るゾロに、ナミは思わず苦笑する。

いつも優秀なブレーンに囲まれ、大人に囲まれて育ったこの男は、殆どの分野でキレる才能

と人が羨むほどの卓越した能力を持ち合わせていると言うのに、人間としての基本的部分、

特に自分の感情に対しては、小学生の子供よりニブくて純粋なのだろう。

きょとんとして、それからいささかムッとした表情を見せるゾロに、ナミは堪えきれずに笑い出

した。

「・・・・・なにがおかしい・・・」

「いや、何がって・・・あー・・・クスクス・・・・財界のキングアーサーと呼ばれるあんたも、只人

だったって訳ね・・・・」

「そんなの周りが勝手に呼んでるだけだ。 お前だって、『貴方』から『あんた』って、言葉遣い

崩れてるぞ。 そんなんじゃ、遊び回ってるのがバレバレだ。 気をつけた方がいい。」

ナミに笑われているのが釈然としないゾロは、そう言い返しグラスをテーブルに置く。

「話はもう済んだだろ。 俺は、もう帰る。」

「あら? 未来のパートナーと親交を深めなくて良いの?」

ドアに向かうゾロにナミは微笑を浮かべ、その背中に言葉を投げかけた。

「あ? 未来のパートナー?」

ドアに手を掛けたまま、ぴたりとゾロの足が止まる。

「クスクス・・・・その様子じゃ聞いてないようね? この間、うちのパパが話してたわよ? 

貴方のお爺様とv 婚姻による合併話v まぁ、3年後・・・あたしが20歳になってからだろうだ

けど?」

「あのクソジジィ・・・・」

ナミの話にゾロは心底ムカついたように呟いた。

「クソジジィ!! あんたの口からクソジジィって言葉が聞けるなんて・・・あー、もうダメ。 

あたし・・・・」

ゲラゲラと大笑いしながら、ナミはゾロに近づく。

「アイツがいつも言ってるから・・・・・」

「ふふ・・・・あんたなら、イイかも? 3年後、あたしの気が変わってなかったら、お嫁さんにな

ってあげるわ。 んじゃ、おやすみvゾロ。 またね?」

ナミは、ゆっくりとゾロの首に腕を回し唇を掠めると、トンと身体をドアの外に押しやり、一方的

にドアを閉めた。

ゾロの気配がドアから遠ざかる。

「本当にもう・・・・ああ言うのが一番性質悪いのよね。 不毛な恋愛に泣くなんて、あたしの

プライドが許さないんだから。 独りで寝るには、広過ぎるわよね・・・・」

ナミは、そう呟いて、キングサイズのベッドに蹲った。








それから、表面上何も起こらない穏やかな日々が続いた。

サンジはいつも以上に愛想良く立ち振る舞い、店は繁盛を極めた。

ただ一つ違ったのは、あの日以来、サンジはゾロを見る事が無くなった事。

店のチーフとして必要最低限しかゾロに関わる事も無くなった。

「ねえ、サンジ君。」

「はい、ナミさん。 どうかしました?」

いつもの様に微笑を浮かべ、ナミに返事するサンジ。

「君・・・・・無理してるでしょ?」

「ヘッ?! ヤ、ヤだな・・・・ナミさん。 俺が無理してるなんて・・・・気の所為ですよ。」

「サンジ君。 じゃあなんでさっきから時計気にしてるのかしら? そう言えば、彼、今日もまだ

みたいだけど?」

「いや、それは・・・・あ、そうなんですよ。 俺、一応、チーフだから。 規律を乱すのはちゃんと

チェックしないと・・・」

さりげなくサンジは、自分の立場上だと言い訳した。

「そう? な〜んか、取ってつけた言い訳っぽいけど・・・? もしかしてゾロ、バレちゃったのか

しら・・・」

「ゾロ、なんかあったんですか!」

ボソッと呟かれたナミの言葉に、サンジは思わず立ち上がる。

「ちょ、ちょっとサンジ君、落ち着いて・・・・って、君、やっぱり気になってたんだ、ゾロの事。 

クスクス・・・・素直じゃないのね?サンジ君?」

「すみません・・・ナミさん・・・ や、決してそんな事は・・・・」

ばつが悪そうに恐縮するサンジに、ナミはある事を思いつく。

「サンジ君、お願い。 ゾロを助けてあげて。 彼、今、酷い奴らに追われてて・・・・もしかした

ら、今日だって、そいつらを撒いてて遅くなってるのかも・・・・」

「待って、ナミさん・・・・それはどう言う?」

急に神妙な面持ちで語り始めるナミに、サンジも真剣に話を聞いた。

ナミの話はこうだった。

ゾロの父親が経営していた会社が、その発展性を財界を影で操ると言われてる組織に目をつ

けられ巧妙な罠に嵌められ乗っ取られて、そのショックで両親は他界。

その組織は、独り遺されたゾロの剣の腕前にも関心を示し、組織の一員に加わる事を強要さ

れてる。

ゾロはそれを拒絶。 組織から逃れる為にここでひっそりと暮らしていた。と言う。

「・・・・・そうだったのか。 そんな事が・・・・ナミさん、任せてください。 俺がアイツの傍に居

る限り、そんな組織の一つや二つ・・・」

「よろしくね、サンジ君。 君だけが頼りよ。」




クスクス・・・・ヤだ、サンジ君ったら、本気にしちゃって、もう・・・・可愛いんだから、サンジ君っ

て・・・・

けど、これで面白くなってきたじゃない・・・・どうなるかしら?

・・・・・楽しみよね・・・ふふ・・・・




ナミは笑いを必死で堪えながら、涙を浮かべサンジの手を握る。

サンジもまたナミの話を信じ切って、真剣にゾロを悪の組織から守ろうと堅く心に誓ったのであ

った。

「すいません、ちょっと道が混んでて・・・遅くなりました。」

そんなところへ、息を切らして、ゾロが店に入ってきた。

服のあちこちに擦り汚れ。

額に玉の様な汗。

それだけで、サンジを勘違いさせるには充分だった。

「ゾロ・・・・わかってる。何も言うな。 これからは、俺が付いてるから。」

「あ? 何がだ?」

「いや、皆まで言わなくて良いから・・・・あ、その服じゃお客様に失礼だから、俺の服を貸そ

う。」

「あ? いや、オイ、なんだ? 何が??」

「いいから、いいから・・・・同じ職場で働く仲間は家族と同じだ。 遠慮はいらねえ。」

全く話がわかってないゾロはきょとんとしたまま、サンジに引っ張られて控え室に連れていか

れる。

後に残ったナミは、笑いでこみ上げる涙を流して、そんな二人を見送った。

 

「んー・・・・こっちが良いよな。 ほら、これに着替えろ。」

「ああ、ありがとう。」

訳がわからないまま、ゾロはサンジに言われるままに着替える。




どうしたんだ?コイツ・・・・なんで急に?

いつものように道を間違えて迷ってただけだったんだが・・・・

どうしても、自分の足で歩くのに、慣れないな、この街は・・・袋小路が多過ぎだ。




ぶつぶつと呟きながら着替えているゾロの背中に何かが触れた。

「なっ!」

ゾロが慌てて振り向くと、サンジがペタペタと物珍しそうに自分の身体を触っていた。

「へぇー・・・・やっぱ・・・見た目以上に筋肉に張りがある。 相当鍛えてあんな・・・」

マジマジとゾロの身体に触れながら見つめるサンジ。

ゾクゾクとゾロの身体に痺れが走る。

サンジに触れられた箇所に感覚が集中して火照ってさえくる。

「止めろっ!」

慌ててサンジの手を掴み、動作を制した。




なんて細さだ・・・・それに・・・・・




ゴクリとゾロの喉が鳴る。

「ッ・・・痛ェ・・・・この馬鹿力・・・手首捥げんだろっ! ん? な、なんだよ・・・」

腕を捕られたサンジが、文句を言いながらゾロの表情を訝しげに見つめる。

だんだんとゾロの顔が近づいてきた。

「な、なんだよ・・・・黙って触って悪かった。 だから、な?手を・・・・ふがっ! んん?!?!」

サンジの瞳がこれ以上無いほどに丸くなる。

それもその筈、サンジの唇は、ゾロのそれに塞がれていたのだから。




ハイ? ・・・・・・・・・・ハイ?

これは、なんだ? 俺は、今、何を? つか、どう言う状況で??

うわっ! 舌がっ!!

待て・・・待て待て待て待てよ・・・・・よぉく考えてみよう・・・・

んっ・・・・巧いな、コイツ・・・・そう、そこ・・・・そこが気持ちよく・・・・




「んっ・・・・ふぁ・・・ンッ・・・・ハァ・・・」

ガクンとサンジの腰が崩れる。

体勢を崩して、そのまま重なり合うように床に倒れこむ二人。




あー・・・もー・・・なんか気持ちイイ・・・・つか、もうなんも考えられねー・・・・

ん?なんだ?なんかもぞもぞと・・・動いて・・・・手?

・・・・・・誰の?

乳首? 痛ッ!

乳首抓んで・・・・あわわっ・・・・ダメだって!!

ヤバイ!! 快感が強過ぎっ!!




「あっ・・・・あっ・・・・あああっ・・・!! 止めろっって!!」

ドカッ!!

「グッ!!」

サンジの蹴りが見事ゾロの鳩尾に決まり、低い呻き声と共に、ゾロがようやくサンジから退い

た。

「ななななにをテメエはっ!!!」

状況をようやく呑み込めたサンジは、唾を吐き掛けんばかりに、ゾロに食って掛かる。

「・・・・・好きだ。 今、はっきりとわかった。」

「はぁ??」

動揺を隠そうと必死で銜えた煙草が、口元から滑り落ちる。

「サンジ、俺はお前が好きみたいだ。 間違い無い。」

サンジの驚吃した表情を意に介さず、まるで青春ドラマの一コマの様に、ゾロはサンジに言い

切っていた。

「すすす・・・すす好きって・・・・テメエ、全然わかってねえだろ、この状況を・・・」

「状況? ああ、キスしたって事か? 堪らなくキスしたくなって・・・・・それって、好きだからだ

って、今、気づいた。」

「キス・・・・」

先程までの感覚が甦り、サンジは羞恥で真っ赤になる。

「いや、そうじゃなくて! 俺は男だ。 テメエも男だ。 それで好きってのはどう考えてもおか

しいだろ?」

「ああ、そうだな。 けど、俺はお前が好きなんだ。 お前はもう覚えてもいないだろうが、俺は

ずっと前にお前に逢っていて・・・・・ずっと忘れられなくて・・・・それで、なんでそうなのかを確

認したくてお前に逢いに来たんだ。 ようやく、その答えがわかった。 それは・・・俺がお前を

好きだからだ。」




俺を好き?

男の俺を好きだと?

ずっと前に逢ってる? ・・・・・全然覚えねえけど?

いやいや、問題はそこじゃねえだろ、俺・・・




自分を好きだと断言するゾロに、サンジの思考は著しく低下する一方。

「ととにかくだ・・・・テメエ・・・」

「お前は、俺が嫌いか?」

サンジの言葉を遮るように、ゾロが真っ直ぐな瞳で問い掛ける。




当ったり前だろが!

誰が好き好んで、てめえを・・・・・しかも、野郎だぜ? 正気じゃねえ。




「きっ・・・・・嫌いじゃねえよ・・・」

発した言葉にサンジは慌てて口を噤んだ。




何を俺は・・・・・




自分の発した言葉を信じられず呆然とするサンジ。

「そうか・・・・ああ、うん。 ありがとう。」




んな嬉しそうに言うんじゃねえよ・・・つい・・・




「あ、いや、違・・・・ああ、うん・・・・あ、俺、行かねえと・・・・じゃ・・・」

はにかみがちに笑顔を向けるゾロに、結局サンジは、否定できず、ふらふらとその場を後にし

た。

それから後の事は、どう言う接客をしたのかさえ、サンジには記憶になかった。

思い出すのは、頭の芯がクラクラしたあのゾロとの口付けだけ。




参った・・・・重症だ、俺。

よりにもよって・・・・あんな・・・・・




サンジの悩みはますます増える一方だった。





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<コメント>

ぱぶちゃーーーん!!ごめんにょー!!(滝汗)
こんなに長く続くなんて・・・・思わなかったよ。(げふん)
すすすみまそん・・・久々でほら、駄文に磨きかかっちゃって・・・てへv(オイ)
次で終わらせるから! 絶対に!!(心意気はいつもそうなの/待て)

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