YES YES YES


その3.



 




「サンジ、これ、貸してくれてありがとうな。 後でクリーニングして返すから・・・・」

閉店後の控え室で、ゾロはそう言ってサンジに声を掛けた。

「あ、ああ、別にそのまんまでも構わねえよ。 どうせ一緒にクリーニング出すだけだし・・・」

ゾロの顔も見ようとせず紫煙を揺らしたままそう返事すると、サンジはスッとゾロとの距離を取

った。

「サンジ・・・・?」

怪訝そうにサンジの顔を見つめ、ゾロはサンジに近づく。

ドクンとサンジの心拍数が上がる。

ゾロの気配が近づくと言うだけで、クラクラしてくる。




なんなんだ、俺はっ!!

もう、我慢できねえっ!!




「く、来んなっ!! か、勘違いすんじゃねえよっ! 俺は、嫌いじゃねえって言っただけで、

テメエの事なんか好きでもねえんだからなっ! てめえなんかよか、店に来るレディ達の方が

絶対に良いに決まってるっ!!」

近づいてきたゾロにサンジはキッとキツい視線を向け、そう言い放った。

「別に俺は・・・・」

サンジの言葉に一瞬酷く傷ついた表情を浮かべ、ゾロは困った表情でそれだけ言うと、サン

ジの傍に置いてあった自分の上着を手に取る。

「悪かったな? 俺が勝手過ぎた。 そうだよな・・・・お前からしたら、俺は、ちょっと前に入っ

てきた、ただの男って奴だよな。 勝手に気持ちぶつけて・・・・・すまなかった。」

ゾロは、そう言うと頭を下げ、部屋を出て行った。




・・・・・・・なんだよ。 あんな表情見せやがって・・・・

なんか俺が酷く苛めたみてえじゃねえかよ。

なんかされたのは、俺の方なんだぜ?

しかも、有無言わさず強引に、だ。

フツーならキレてボコボコに蹴り倒して・・・・・・蹴り倒して・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで・・・・・

なんで、俺・・・・・・嫌がらなかったんだろ・・・

あの蹴りだって・・・ヤバイって・・・・流されそうだって・・・・・

ただそれだけで・・・・・・




「ヤじゃなかったんだ・・・・俺・・・・・・はぁ、参った。」

まざまざと自分の気持ちに気付かされたサンジは、そのままどっかりとソファーに腰を掛け瞳

を閉じた。





翌日、ゾロは出勤しなかった。

その翌日も、次の日も、ゾロは姿を見せなかった。




まさか・・・・あれきり?

もしかして、俺に振られて悲観して? いや、そんな華奢な野郎じゃねえ筈だ。

だとしたら・・・・・・・なにかあった?

あー・・・もう俺って、アイツの居場所すら知らねえじゃねえか。




「なにしてんだよ・・・・アイツは・・・」

一向に姿を現さないゾロに、サンジは一人イライラとして時を過ごしていた。







「・・・・・本当に、このままで良いの?」

とあるホテルのロビーで、ナミがゾロにそう尋ねる。

「何が?」

「わかってるくせに・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・逢えただけで充分だ。」

ゾロは、そう返事して、視線を伏せた。

「財界を揺るがすほどの実行力と発言力を持つ貴方も、自分の恋愛には形無しね。」

「・・・・・・・・・・・・時間だ。 じゃあ、元気で。」

「ばっかみたい。 ちょっとがっかり・・・・知らないからね、ゾロ。」

ナミはそう言うと、席を立とうとしたゾロを一睨みして、先に席を立ちロビーを去る。

「・・・・・・・・振られたんだ。仕方ないだろ・・・」

ゾロは、淋しく苦笑すると、ブレーンと共に空港へと向かった。







「はい、こちら、『バラティエ』。 あ、ナミさんv エッ?!本当ですか?! 今、行きます!!」

ナミからの電話に、サンジは慌てて店を飛び出す。

「待て・・・・何処へ行く?チビナス・・・・」

その背を止めたのは、父親であり、オーナーでもあるゼフ。

「あ、親父! ゾロが!一大事なんだ! 俺、すぐに行って・・・」

「ロロノアの事なら本人から連絡が入った。 短い間だったが世話になったと。と言う事はだ。

事情はどうであれ、あいつ自身で決めた事。 お前が行ってどうなるもんでもあるまい。 それ

に・・・・お前がそこまでする義理が何処にある? 放っておけ。 どうせ二度と逢う事など無い

奴だ。」

今にも駆け出しそうなサンジに、ゼフは淡々と諭すように話した。




親父の言うとおりかも知れねえ。

アイツはそんな組織にむざむざと連れて行かれるような奴じゃねえ。

けど・・・・・それがもしこの間の事が原因だとしたら・・・?

二度と・・・・・?

二度とアイツに逢えねえ・・・・のか?

アイツを誤解させたまま・・・・・・俺は・・・・・・・




「親父・・・・・ごめん。 それでも、俺は・・・・」

「二度と戻ってこねえ覚悟は出来てるのか? ロロノアのところへ行くと言う事は、そう言う事

だぞ。」

ゼフにそう言われて、サンジは一瞬躊躇する。




そうだ。

組織に追われるゾロを助けるって事は・・・・俺も追われるって事。

俺は・・・・・・俺は・・・・・・・ゾロ・・・・・・




「ごめん、親父。 俺、やっぱ、アイツ、放っておけねえ。 ・・・・好きなんだ、ゾロを。 今まで

・・・・・俺を育ててくれてありがとう。 俺、最高に幸せでした!!」

サンジは大きく息を吸い込んで、ゼフを真っ直ぐに見返し、そう言い切って深々と一礼した。

「・・・・アホ。 さっさと行け・・・」

ゼフは、くるりと背中を向けると、そのまま店の中へ入って行く。

サンジもすぐに踵を返して、急ぎナミから教えられた空港へと道を急いだ。











「ゾロ・・・・ゾロ・・・・・何処だ? 何処に・・・・」

空港ターミナルは、人もまばら。

しかし、ゾロの姿はなかなか見当たらない。

サンジは、階上のテラスから必死で、ゾロの姿を探した。

そこへ、黒い礼服に身を包む集団が現れる。

真ん中に見覚えのある緑色の髪の毛。

逃げられないようになのか、完璧にゾロの周囲を囲っている、見るからに屈強な男たち。




チッ・・・・厄介だな。 

あれだけの人数・・・・いっぺんに倒せるか・・・しかし、迷ってる暇も無さそうだ。 

ええい、ままよ!




「ゾローーーーーーッ!! 逃げろーーーーーっ!!」

サンジは、そう叫びながら、その集団めがけて飛び降りた。

それから、間髪入れずに、周りの黒服の男たちを得意の蹴りで伸していく。

「サンジ・・・?」

いきなり自分の前に現れたサンジに、唖然とするゾロ。

「な、何者だ!! お守りしろ!!」

サンジに飛び掛かる黒服の男たち。

「何をグズグズしてんだよっ!! さっさと逃げろっ!!」

「いや、サンジ、お前・・・」

「クソッ! こっちだっ!!早くっ!!」

「お、おい!」

ゾロは、訳がわからないまま、否応無くサンジに腕を引っ張られその場を駆け出す。

「あのな、サンジ・・・・」

「クソッ!アイツら、しつこい! こっちだ、ここに隠れてっ!!」

掲示板と植木の狭間にしゃがみこみ、サンジは追っ手を撒いた。

「ハァハァ・・・・やっと撒いたか。 ゾロ、テメエ、なんて早まった事を・・・」

「あ? それよりなんでお前がここに?」

「そんなの、テメエを助ける為に決まってるだろ?」

「助け・・・る?」

「ナミさんから詳しい事情は聞いてる。 あんな組織なんかの言いなりになるな。 俺が一緒

に逃げてやる。」

「ナミ?組織?逃げる?お前と? なんで??」

「なんでって・・・・・・テメエが好きだからだよっ!! ああ、悪かったな。好きじゃねえと言っと

いて、今更だけどよ。 気付いたんだよ、俺も好きだって事に。 だから・・・・」

「エッ?! それは、本当か? 本当に・・・好きなのか?」

「ああ、何度も言わせるな。 それよか、早くここを・・・・」

サンジがそう言って腰を上げようとした時、カチリと背中にトリガー音が聞こえた。

後頭部に銃口の感触。

「貴様、何者だ。 なんで、キングを誘拐した。」

背中越しに野太い声がする。

先程まで相手していた連中だと、サンジはすぐに察知した。




チッ! 万事休すか。

こうなったら、ゾロだけでも逃がして・・・・




「ゾ・・・」

「止めろ! サンジは違う。」

サンジがゾロに言葉を発する前に、ゾロがその男を制した。

「渡欧は、中止する。 とりあえず屋敷に戻るぞ。」

「ですが・・・・」

「中止だ。 屋敷に戻る。」

「・・・・・・ハイ。かしこまりました。」

その男はゾロに恭しく頭を下げると、てきぱきと何処かへ指示をしだした。

事情がまるでわからずポカンとするサンジ。

「とりあえずここじゃなんだから、うちに来てくれ。」

「エッ?! けど、こいつら、テメエ拉致しようとした悪い組織の奴らじゃ?」

「あ? いや? こいつは俺の有能なブレーンの一人だが?」

「だって、ナミさんが・・・・」

「言ってる事がさっぱりわからない。 とにかく、ナミも呼ぶから、うちへ。」

ゾロに促され、サンジは理解できないまま、ゾロの屋敷へ向かった。










「あはははは!! ヤだ、サンジ君、そんな大立ち回りしちゃったの?」

話を聞いて駆けつけたナミはお腹を抱えて大笑い。

「ナミさん・・・・酷いです。 あんな嘘・・・・俺、真剣に・・・・」

ナミからの話が真っ赤な嘘だと知ったサンジは涙目でナミに抗議する。

「クスクス・・・・ああ、ごめんね?サンジ君。 けど、結果的に良かったんじゃなくて? ちゃん

と結ばれたんですもの。 ねっ?」

ナミにウィンクされ、サンジはハッと気付いた。




そうだった・・・・俺・・・・

ドサクサに紛れて、あんな告白を・・・・・




「ああ、それには礼を言わないと・・・・・さんきゅ、ナミ。」

羞恥で真っ赤なサンジを尻目にゾロは笑顔でナミにそう言う。

「でしょ? この礼は高くつくわよ? ウエストブルー一のホストでも紹介して貰わなくちゃ。」

「エッ?! ナミさんには、イーストブルー一の俺がいるじゃないですかぁ・・・」

「君は、もう引退でしょ? クスクス・・・・ほら、隣で許さないって顔してるわよ?」

ナミはクスクスと笑って、ゾロを指差した。

「・・・・・当たり前だ。」

「ぁあ?! なんでテメエが許さねえんだよ?」

「好きだから、だ。」

サンジの言葉にゾロはきっぱりとそう告げる。

「すすす・・・・そんな事、あっさりと口にするな!」

「ハイハイ・・・サンジ君、じゃあ、またねv」

「あ、ナミさん・・・」

泣きそうなサンジを尻目にナミはそそくさと屋敷を出て行った。

「ほら、みろ! テメエの所為でナミさんが・・・・俺のナミさんが・・・」

「サンジ・・・・好きだ。」

「ばっ、なっ・・・・・・俺も、だよ・・・・って、オイ!何を・・・?」

「我慢出来ない・・・・」

「うわっ! ちょ、たんまっ・・・」

月夜に映える二人の影がカーテン越しにゆっくりと重なっていった。









「はい、今日の分。楽しかったわ、サンジ君。 明日・・・久しぶりにどうかしら?」

「いつもありがとうございます、マダム。 せっかくのお申し出とても嬉しいのですが、申し訳

ありません。 先約がございまして・・・・」

「あら、残念ね。 じゃあ、また今度お店で・・・・じゃあ・・・」

「はい、いつでも、喜んでお待ちしています・・・・お気をつけて・・・」

今日もお得意様に笑顔で応対するサンジ。

「・・・・・先約ねえ・・・」

その会話を影で聞いていたゾロがゆっくりとサンジに近づいた。

「仕方ねえだろ、そうでも言わねえと。 この世界は、人気が全て。 それとも、アフター入れ

てもよろしいんですか?先約のお客様?」

にっこりと笑顔を向けて、サンジはゾロにそう尋ねる。

「良い訳がない。」

「だったら・・・・ほら、客だぜ? お仕事、お仕事・・・・・いらっしゃいませ・・・レディ。」

「・・・・・ようこそ。」

 

 

 

イーストブルーの繁華街には、世界随一と言われるホストクラブがある。

名前は『バラティエ』。

世界中の有閑マダムがこぞって指名に入店する名の馳せた二名のホストがそこにいる。









<END>



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<コメント>

ホストな二人・・・・どうだったですか?ぱぶちゃん?(ドキドキ)
本当にこんな拙な物、しかもいつだよ、リク貰ったのは。(遠い目)
本当遅くなって申し訳ないですぅ・・・;;;;
気持ちだけはてんこ盛りv才能は、ちょこっと・・・
ぱぶちゃん、素敵なリクエスト、どうもありがとうでしたvvv

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