YES YES YES



 




「サンジ君、明日、よろしくね。」

「イエス、マダム。 心得ております。 明日のデート、俺、楽しみにしていますよ。」

「うふふ・・・私もよ。 じゃあ、これ、少ないけど・・・取っておいて。じゃあ・・・」

「いつもすみません、マダム。 それじゃあ・・・」

にっこりと満面の笑みを浮かべ、タクシーへ乗り込む女性に挨拶するサンジ。
 

 


ここは、イーストブルー一の歓楽街にある、とあるホストクラブ『バラティエ』。

今宵も金と暇を持て余した有閑マダムがこぞって入店しに来る。

お目当ては、イーストブルー随一のホストと自他共に認めるサンジ。

人懐こい笑顔と気配り、そして金髪碧眼と言う魅力溢れる容姿に恵まれ、サンジは常に不動

のNo.1ホストの座を欲しいままにしていた。

そう・・・あの日がくるまでは。

その日は突然、何の前触れもなくやってきた。

「あー・・・サンジ。 今日からうちで働く事になったロロノア・ゾロ君だ。 この仕事は初めてら

しいから、お前がしっかり教えてやってくれ。 頼んだぞ。」

サンジがいつものように店に出勤すると、オーナーのゼフがそう言って、隣に立っていた見た

ことも無い男を指差した。

「エッ?! あ、ちょ、ちょっと・・・オヤジ!!」

いきなりな事に驚くサンジ。

「店では親子じゃねえと言ってあるはずだ。 オーナーと言え、オーナーと・・・」

しかし、ゼフはそう言い返してサンジの頭を踵で小突くと、そのまま部屋の奥へ戻ってしまっ

た。

残されたのは、ロロノア・ゾロと紹介された男とサンジの二人のみ。

「あー・・・・俺が、サンジ。 一応、このイーストブルーでは名の知れたホストなんだぜ? 

ここに通ってくるレディ達は、殆どが俺の顧客。 言わば、俺がこの店のトップ。 トップとは会

社の上司と同じ。 指導には必ず従う事。 まっ、ここには虐めとかちんけな事を企む野郎は

いねえから安心しろ。 それに、ここでは、客の人気が全て。 全然モテねえ奴は、当然クビ

だ。 逆にレディの心を捉えれば、俺までとは言わねえが、そこそこにはイイ目を見られるぜ? 

まっ、てめえも頑張って、まずは早く慣れる事だな。」

「ああ、よろしく。」

ゾロはサンジの言葉に、素っ気無くそれだけ返事した。

「よろしくって・・・たったそんだけかよっ!」

「あ? 他になんかあるのか?」




こいつ、絶対にモテねえ。

やれやれ、クソジジィもなんでまたこんなのほほん野郎を連れてきたんだか・・・・

スカウトする目がなっちゃねーよ。

耄碌したな、あのクソジジィ・・・・




「もういいっ!! こっちに来て、接客の心得を覚えろ。」

サンジは、呆れたように溜息を吐きながら、ゾロに基本的なホストとしてのあり方を一通り教え

た。

「もっと心の底から笑顔を向けろよ。」

「可笑しくもないのに笑えない。」

「てめえの感情なんか関係あるか! 笑顔を向けて夢を売る。 それがホストの心得ってもん

なんだよっ!」

「んなにしてまで媚売りたくはない。 笑えないものは笑えない。 取り繕った笑顔で相手に通

じるとは思えない。」

「クッ・・・・勝手にしろっ! てめえはホストには向いてねえ。」

サンジがどう促そうと、ゾロは自分の姿勢を崩そうとはしなかった。

それがまた納得させられそうな態度と言葉で、サンジには癪に障って仕方ない。




絶対に、ホストに向かねえな、アイツは。




しかし、サンジの想像とは逆にゾロの人気はうなぎのぼり。




フッ・・・所詮最初の物珍しさってとこだろう。




そう軽く考えていたサンジだったが、ゾロの人気は収まるどころか、自分の地位さえ脅かす存

在になるまでに一月と経たなかった。




なんでだ?

あんな無愛想で、気の利いた台詞一つ満足に言えねえ奴がなんで・・・?

ひょっとして・・・・アフター?

もしかしてアイツ、あんな飄々とした割にはテクニシャン?

テクニックなら、俺だって負けてねえはずだ。

・・・・・筈だ・・・・・筈・・・・




「・・・・・・・・・・・・・。」

「サンジ君? どうしたの? 最近、上の空ね? 誰か意中の人でもできた?」

サンジの上得意のナミがそう怪訝そうな顔をサンジに向ける。

「あっ・・・いえ、まさか、俺にはこんな素敵なナミさんが居るのに、他に瞳を奪われる訳ないで

すよ。 ただ・・・・・なんでアイツがモテるのかってね? 理解出来なくて・・・」

いつものように満面の笑顔をナミに向け、サンジは視線だけゾロの居るテーブルに送った。

「ん?彼? あら・・・・彼だったのね。 クスクス・・・そうねえ・・・君とは全然違うタイプみたい

ね? あんまりペラペラと自分の事喋ろうとしないし・・・かと言って無視してる訳でもなく、ちゃ

んと相手の話聞いてくれるし。 商売っ気がさらさらないって言うか、ホストらしくないって言う

か・・・逆にあの素っ気無さが良いって、あたしの知り合いの何人かは言ってるしね? 彼、ア

フターの誘いも一切断ってるらしいから、彼女たちも躍起になってる部分ってのもあるんじゃな

くて? 自分だけは特別に見られたいってね? 射抜かれるように真っ直ぐに見られると殆ど

の女の子は、あの強い瞳にしてやられるわね。」

サンジの不満そうな口振りにナミはクスクスと笑いながら、そう話す。

「エッ?! アイツ、アフターやってないんですか? 意外・・・・だとしたら、余計・・・」




負けらんねえっ!!




サンジは新たな闘志を燃やし、ゾロにキツい視線を向けた。

ほぼ同じくして、ゾロがサンジに視線を向ける。




な、なんで見るんだよ・・・・




睨み付けて居るはずの自分が気圧されそうになる視線。




あー・・・・確かに、こりゃ女の子はクラッとなるよなぁ。

って、俺が気圧されてどうする!

俺の方が上なんだかんな!

絶対に負けねえ・・・




サンジは尚も一層鋭い視線で睨み返した。

ふっと一瞬だけサンジに柔和な視線と表情を見せたゾロ。

が、次の瞬間、ゾロの視線はサンジから客へと移った。




・・・・・・・笑った。

アイツが・・・・・・笑った・・・・・




初めて見たゾロの表情に驚きと共に、胸の奥でこみ上げてくる笑い。

「ククク・・・・」

「んん?? サンジ君、どうしたの? なんか面白い事でもあった?」

いきなりほくそ笑んだサンジにナミはキョトンとしてそう声を掛ける。

「いえ・・・何も・・・なんでもありません、ナミさん。 あ、そうだ。デザートでも如何ですか? 

とっておきの、用意してあるんですよ? 今、取ってきますね?」

サンジは、そう返事すると、デザートを取りに席を外した。

 

「お待たせしましたv ナミすわんvv」

意気揚揚にデザートをトレーに持ち、ナミの席に戻ったサンジの瞳に映ったのは、楽しそうに

話すナミとその隣に居座るゾロ。

「フフ・・・・じゃあ、閉店後、ね?」

「ああ。」

「な、なんでてめえがナミさんの席に?!」

「・・・・別に。」

噛み付かんばかりに発したサンジの声に、ゾロはそう言うと、また元の席に戻っていく。

「閉店後って? ナミさん?! アイツ、ナミさんと逢うんですか? なんで?! アイツ、アフ

ター断ってるって、さっき・・・・」

ナミの隣に座るや否や、サンジはナミにそう切り出す。

「クスクス・・・ヤだ、サンジ君、気になる?」

悪戯っぽい口調で自分を覗き込むナミにサンジは、焦った。

「や、やだな。 そんなアイツが気になる訳・・・・いや、やっぱ、気になりますよ? 俺のナミさ

んにちょっかい出す野郎ですからね。 アイツじゃなくたって、誰でも・・・・」

サンジはそう返事すると、笑顔で取り繕う。

「本当かなぁ・・・? クス・・・・まっ、良いわ。 そう、あたしが一番に彼のアフターの約束取り

付けちゃったの。 これって・・・」

「ナミすわん・・・」

にこにこと笑顔で話すナミとは逆に、サンジの表情は冴えなかった。

「さてと、今日も楽しかったわ。 やっぱり、サンジ君は最高ねv はい、これ、今日の分。」

ナミはいつものように席にお金を置いて席を立つ。

「あ、じゃあ、タクシーまでお見送りしますよ、ナミさん。」

「ううん、今日は大丈夫よ? 彼が居るし? じゃあねvサンジ君。 ゾロ、エスコートよろしくv」

ナミはサンジに笑顔でそう返事すると、当然のようにゾロの腕を取った。

きゅうっとサンジの胸が軋む。




お、俺のナミさんが・・・・ナミさんがコイツと・・・コイツに・・・・




キッと抗議の意を込めてサンジはゾロを睨み付けた。

スッとゾロが瞳を伏せる。




なっ・・・・・・・な・・・・に・・・・・?

アイツが・・・・・アイツが・・・・視線逸らし・・た・・・・・・




ナミの事など吹き飛んでいた。

呆然とするサンジを気にする事もなく、ナミとゾロは店を出て行く。

「サンジさん、じゃあそろそろ店仕舞いして・・・」

「っるっさい!!」

「サ、サンジさん?!」

「あ・・・・悪い。 おう、よろしく頼むわ。 俺、アフターあるから、先に上がるわ。 んじゃ、また

明日な?」

声を荒げたサンジに驚く従業員に、サンジは慌てて微笑を添え取り繕うとそそくさとその場か

ら逃げるように店を出る。




なんだよ・・・・なんだって・・・・・どうかしてる・・・・・

俺は、アイツにナミさんを取られたのが悔しくてムカついて・・・・なのに・・・・

その筈なのに・・・・・




「なんでアイツから視線逸らされた時の方が・・・・・こんなに痛ェんだろ・・・・・」




ナミさんだからだ。

そうに決まってる・・・・・ナミさんが好きだから・・・・・ナミさんだから・・・・




頭でそう思うようにしようにも、胸の痛みは増すばかりでサンジは困惑する。

恋愛には長けてる方だと思っていた。

店に来る女性は、皆チャーミングで可愛くて、甘くウキウキする気持ちは常にあった。

楽しくて夢中になって・・・・それが恋愛だと・・・恋だと、サンジはそう思っていた。




なんで、俺は・・・・・・・




人気の無い公園で、サンジは独り、夜空を見上げた。







<next>



 

 


<コメント>

本当に久々の駄文は、ぱぶろ様からのリクエストで
【ホストなゾロサン】(笑)
うはぁ・・・久々で書き方忘れた。(げふっ)

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