いつか、王子様が。




いつか、王子様が。



その3.



 




ん・・・・?

腕が痺れてる・・・・・・・なんでだ?




ゾロは、自分の身体に違和感を感じてゆっくりと瞳を開ける。

と、その瞳に映ったものは、自分の腕の中で寄り添うように眠っているサンジ姫の姿。

「ぅわっ!!」

思わず上げた声に、慌ててゾロは口を塞いだ。




こいつ・・・・・・何を考えているんだ。

こんな無防備で・・・・・

余程の馬鹿か、鈍いのか・・・。

それとも俺が同じ男だと高を括ってやがるのか・・・?




サンジ姫の頬に掛かる金色の髪が、陽に透けてキラキラと輝く。

色素の薄い肌と綺麗な顔立ち。

本人に男だと言われるまで女性だと疑わなかった。

今、こうして間近で見つめていても、とても自分と同じ男だとは思えない。




・・・・・・・本当に、困った奴だ。




そんなサンジ姫の無垢な寝顔に、ゾロはフッと微笑んだ。

「・・・・・んな見も知らずの俺を信用しきって良いのかよ。 襲っちまうぞ、お姫様・・・」

そっと耳元で囁いて、頬に口付けを落とす。

サンジ姫が男だ知った直後はやはりショックを受けたが、こうして一夜明けても湧き上がる感

情は変わらない。

「・・・・・・やっぱ、惚れちまったかなぁ・・・。」

未だ自分の腕の中で眠り続けているサンジ姫に、ゾロはそう呟いて、その蒼い瞳が開くまで

ずっと飽くことなく見つめていた。

「ん・・・・・」

髪に触れる優しい指の感触に、サンジ姫はようやく目を覚ます。

「・・・・・・ようやく起きたか、お姫様。 そろそろ、出かける準備をしようぜ?」

ゾロは、サンジ姫にそう声を掛け、身体を起こした。

「うん、そうしよう。 ところで、ゾロ。 ここを出たら、何処に行くんだ?」

「とりあえず・・・・俺の国に戻って報告を済ませようかと・・・・」

持ち物を整理して身支度しながら、ゾロはサンジ姫にそう言う。

「えっ?! ゾロの国って?? そう言えば、その腰の刀・・・・てめえ、兵士かなにか

なのか?」

「・・・・・・まっ、そんなところだ。」

「へぇ〜・・・・俺は、てっきり猟師かなんかと・・・」

昨日のボロボロの服から一変して、きちんとした身なりをしたゾロをサンジ姫はそう言ってボー

ッとして見つめる。




・・・・・・・・なんかドキドキしてきた。

見ようによっちゃあ、王子様に見えねえ事もねえよな、うん。

けど、こんな王子は、見た事も聞いた事もねえし。

やっぱ、国に遣える剣士ってとこか。

惜しいなぁ、これで王子様だったら・・・・・・・




「ん・・・?どうした、お姫様? なんか俺の顔についてるか?」

自分に向けられる視線を感じ、ゾロはサンジ姫にそう聞く。

「あ、いや・・・・なんでもねえ。 さっ、早く行こうぜ?」

真っ直ぐに自分の瞳を見返されて、サンジ姫はドキドキとする胸の鼓動をごまかすようにそう

言ってドアを開けた。

ゾロも荷物を抱えると、その後に続き、小屋を後にする。

「・・・・でさぁ、てめえの国って、どっちだ?」

「・・・・・・・・・さぁ? 取り敢えず真っ直ぐ歩けば着くんじゃねえの?」

「んな?! てめえって奴は、一体今までどうやって旅をしてたんだよ?! 地図とか

コンパスとか持ってねえのか? 旅の必需品だろ?!」

「・・・・・・・・勘。」




こいつ・・・・・・・絶対に王子様じゃねえ。

いや、その前に人間としてもどうかと思うぞ。

俺、一人の方が良くねえ・・・?




どこまでもあっけらかんとして答えるゾロに、サンジ姫の顔は引き攣った。

「ほら、さっさとこの森抜けようぜ? 今日当たり、城じゃ大騒ぎになってんじゃねえ

の? 必死になって、お姫様探し回ってると思うぞ。 きっと、ここにも直に捜しに来

る筈だ。 戻りたくねえんだろ?」

「当ったり前だ! 愛の無い政略結婚だなんて真っ平ごめんだ。 とにかく行けるとこ

まで行ってやるんだからな、俺は・・・!!」

サンジ姫は、ゾロの言葉にそう言い返して、我先にと歩き出す。

「ククク・・・・その威勢の良さががずっと続きゃあ良いけどな・・・。」

ころころとよく表情を変えるサンジ姫にゾロはそう言って苦笑した。









「・・・・・・・なぁ・・・ゾロ、喉渇いたぁ。 足疲れたよ・・・なぁ、ゾロォ〜・・・・」

暫く歩き続けていると、やはり、サンジ姫がそう言ってしゃがみこんだ。

「ったく、我侭お姫様だな・・・。 まだお昼にもなってねえぞ。」

「だってさ、俺・・・・・・・こんなに歩いた事なんて生まれて一度もねえんだもん・・・。」

そう呟いて俯いたサンジの耳に、微かに水の流れる音が聞こえる。

「ゾロ! 水だ!!水の音がする!!」

サンジ姫がゾロに嬉しそうにそう叫んで、その音の方へ駆け出した。

「・・・・・・本当だ。 近くに沢があるんだな。 お、おい・・・・・ちょっと待てよ! クク

ク・・・・現金な奴。」

ゾロはそう言って苦笑すると、サンジの後をゆっくりと歩いていった。

「うわっ! 冷てえ! けど・・・・気持ち良い・・・」

バシャバシャと水しぶきを上げながら、サンジ姫は、沢に入ってはしゃぐ。

城の中では絶対に経験できなかった事。

それだけで、サンジ姫は嬉しくて楽しくて仕方が無い。

自分の身体が濡れるのも構わず、湧き出る水を汲み上げ自分の身にかけた。

「サンジ姫!! やはりこの森に!!」

不意にサンジ姫の背後からそう声がした。

それは、サンジ姫が一番会いたくない人物。

「ギ、ギン王子?! なんで、ここに?!」

そう叫んで、サンジ姫は思わず後ずさりした。

「何でって・・・・それは、こちらがお聞きしたい。 何故、貴方がここにいるのですか? 

さぁ、こちらへ。 父王も心配しておられましたよ。 さぁ、私と共に戻るのです。」

ギン王子はそう言って、サンジ姫の腕を捕る。

「あ、あのな・・・・ギン王子。 実は、俺・・・・」

「言い訳なら、城に着いてからじっくりと伺います。 それと・・・・・婚礼の日取りも決ま

りました。 一週間後、貴方を私の国へ花嫁としてお連れします。 衛兵!!」

ギン王子はサンジ姫の言葉を遮ると、そう言って衛兵達を呼び集め、サンジ姫を自分の馬に

乗せようとした。

ずらりと数十名の屈強な近衛兵が、ギン王子とサンジ姫を取り囲む。

「ちょ、ちょっと待って!! 俺、王子と結婚するって言ってない!! その話は、丁重

にお断りする!! だから、離せ!!」

サンジ姫はそう叫んで慌てて身を捩って抵抗した。

「無駄です、サンジ姫。 今日、私の父が正式に貴方の父上に貴方との婚姻を申し込

みました。 それを断るということが、どのような事を招くか、聡明な貴方ならおわかり

でしょう?」

ギン王子はそう言ってにっこりとサンジ姫に微笑む。




国力の差からして、父上がクリーク王の申し出を断れるわけなど無い。

それを見越して、圧力を掛けるなんて・・・・・




「クッ・・・・・卑怯な・・・・。」

サンジ姫は、その言葉に抵抗するのを止め、キッとギン王子を睨みつけた。

「ふっ・・・・所謂、政略結婚という形をとりましたが、私の愛は真実です。 例え、貴方

が私のことを嫌っていたとしても、貴方は私のものになるしか道はない・・・。」

ギン王子はグイッとサンジ姫の腰を抱き、その顎に手を掛ける。




うげっ!!

嫌だ!!

止めろ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゾロッ!!




ギュッと歯を食いしばり、サンジ姫はゾロの名前を心の中で叫んだ。

「・・・・・・・・・・キスされるのは、嫌じゃなかったのか、お姫様?」

「誰だ!お前は?」

だんだんと近づくその声に、ギン王子とサンジ姫はその方向へと視線を向ける。

「ゾロ!!」

サッと飛び降りてゾロの方へ駆け寄ろうとしたサンジ姫を、ギンが強引に引き寄せた。

「離せ!離せよ!!ギン!!」

そう叫んで、ゾロに腕を伸ばすサンジ姫に、ギンは冷ややかにこう囁く。

「ククク・・・サンジ姫、私と言うものがありながら、こういう身分も知れぬ輩と逃避行で

すか? さぞや、私を出し抜いたとそう思っておいでだったんでしょうね。 悪い方だ、

貴方は・・・・。 けど、私も貴方への想いの為なら、この身を鬼にでも変えてみせまし

ょう。 衛兵!! そいつを始末しろ。 その首を私に差し出せば、褒章は思いのまま

だ。 いけ!!」

その冷徹な微笑にサンジ姫はゾッとした。

一人対数十人。

しかも、相手は世に知れ渡る屈強なクリーク王国の選りすぐりの近衛兵達。

しがない剣士のゾロには到底勝ち目はない。

「ゾロ!!逃げるんだ!! 俺のことは放っておいていいから!! てめえは関係ね

えんだから・・・・・・逃げろ!!ゾロ!!」

サンジ姫は、ギン王子の腕の中で必死にゾロに向かってそう叫んだ。

「関係ねえだと?! ざけんなよ!! だから、我侭な姫様は嫌なんだ。 そいつよ

か、俺の方が良いんだろ? だったら、それだけで充分関係あるだろ!!」

ゾロは、飛び掛ってくる近衛兵を剣でなぎ払いながら、サンジ姫に近づいてくる。

一人、また一人とゾロの剣の前に近衛兵が地面に倒れた。

「チッ。 サンジ姫、死にたくなければ、しっかりと捕まっていなさい。」

ギン王子は、ゾロが兵士達をなぎ払う様子を見て、慌てて馬を走らせる。

「嫌だ!! ゾローッ!!」

「待て!ギン王子!! サンジ姫ーっ!!」

互いに呼び合う声も空しく、サンジ姫はギン王子と共に森の中へ消えていった。












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<コメント>

ほら、邪魔が入ったでしょ?!(笑)
せっかくの物語風なので、とことんそう言うモードでいきましょう♪(ハイ?)
さて、次ね、次・・・・(笑)

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