いつか、王子様が。




いつか、王子様が。



その2.



 




ん・・・・・温かい。

気持ち良いなぁ・・・・。

なんか落ち着く・・・・・・そう、ずっと昔も・・・・

こんな気持ちになった事あったような・・・・

あれは・・・・・・・・いつだったのだろうか・・・・




さらさらと頬にくすぐったさを覚えて、サンジ姫は意識を取り戻す。

そっと瞳を開けるとそこに広がったのは一面の緑。

サクサクと草を踏みしめる足音と共に揺れる自分の身体。

気が付けば、サンジ姫はゾロの背中に背負われていた。

「あっ、俺・・・・・」

「・・・・・気が付いたか? ったく、だらしねえな。 たかが蜘蛛一匹であんなに絶叫し

て気を失うなんて・・・・ まぁ、お姫様なら仕方ねえと言えば、それまでだがな。」

ゾロは、気が付いたサンジにそう声を掛ける。

「ご、ごめん。 俺・・・・・・もう降ろして良いから・・・・・」

思わぬ醜態をさらして、サンジ姫はシュンとして俯いた。

「・・・・・・・もう家が見えてきたから。 お前が歩くよか、俺がこのまま歩いた方が早

い。 も少しだけそうしてろ・・・。」

ゾロはぶっきらぼうにそう言うと、そのまま家まで歩いていく。




・・・・・・こいつ、言葉は乱暴だけど・・・・

思ってたより優しい良い奴なのかも知れねえ。

へへ・・・・・温けえな・・・。




「ん・・・・・そうする。 ありがとうな。 えっと、名前は・・・・・」

「ゾロ。 ロロノ・・・じゃなくって、ただのゾロだ。」

「俺は、サンジ。 この国のお姫様だ。 本当、ありがとうな、ゾロ。」

そう言ってサンジ姫は、ゾロの首にギュッと抱きつく。

「うわっ! そんなにしがみつくな! 息が出来ねえ!!」

「あっ、ごめん、ごめん・・・へへ・・・・。」

「・・・ったくもう・・・・・・。」

口ではブツブツ言いながらも、ゾロは自分の頬が赤くなっているのを感じた。




なんで、俺が赤くなるんだよ・・・。

大体、なんで、俺、こいつの事、放っておかなかったんだろ・・・?

全然、俺には関係ねえのに・・・・




「ん?どうした、ゾロ?」

そう言ってサンジ姫がゾロの顔を覗き込む。

ゾロの心臓が早鐘のように鳴り響く。

それが、背中に居るサンジに伝わるような気がして、ゾロは焦った。

「あ、いや、なんでもねえ・・・・・・あんまくっつくなよ。 暑苦しい・・・」

焦る自分を隠そうと、ゾロはサンジ姫に冷たく言い放つ。

その言葉は、サンジ姫の胸にズキンと棘となって突き刺さった。

「・・・・・・・降りる!!」

急に背中に居たサンジ姫が暴れだす。

「おい!ちょっと、いきなり、なんだよ!!」

その様子にゾロは慌てた。

「だって・・・・・・・だって、迷惑なんだろ? 暑苦しいって・・・・・だから・・・・もう良

い!!」

背中越しに、すんとサンジ姫の鼻をすする音が聞こえる。




・・・・・・・・なんでこう、こいつは・・・・・・

・・・・・・・・・泣くなよ。




背中でサンジ姫が泣いている気配を感じた。

「・・・・・・悪かった。 俺の言い方が悪かった。 迷惑なんかじゃねえから。 俺もさ、

久しぶりに人と接したから・・・。 俺、人付き合いが苦手なんだ。 小さい時から、廻り

がさ、おべっか使う奴らばっかだったから・・・・だから・・・・。」

ぽつりぽつりと気まずそうにゾロがサンジにそう言った。

「じゃあ、俺、迷惑じゃねえ?」

「ああ。」

「うっし!! じゃあ、急げ!ゾロ!! ゴールはもう目の前だ!!」

さっきまで泣いていたのが嘘のように、サンジ姫の声は明るくて、ゾロは頭を抱える。

「・・・・・・・あのなぁ・・・・。」

「ん?どうした、ゾロ?」

「いや・・・・・なんでもねえ。」

にっこりと無邪気に微笑むサンジ姫にゾロは文句を言う気も失せ、二人はゾロのうちにたどり

着いた。

「こ、これが、てめえの家か・・・?」




どうみても、小屋だろ。

馬小屋でさえ、こんな貧相じゃねえぞ・・・。




崩れそうなボロ家に、サンジ姫は深い溜息とともにそう呟く。

「ああ、別に雨露が凌げりゃ、それで良かったし・・・・・一生ここで暮らすわけでもねえ

から。」

サンジの言葉に、気にも留めずにゾロは部屋の中へと入って行った。

「ちょっと待ってろ。 すぐになんか作るから・・・・」

サンジ姫をベッドに座らせ、ゾロはキッチンに立つ。

「あっ、ちょっと待てよ。 俺に作らせろよ。 俺、料理には自信あるんだ。」

そう言って、サンジもキッチンに立った。

「・・・で、オーブンは何処だ? あと、食材はどれ?」

そう言ってサンジ姫は、がさごそと自分の鞄からエプロンを取り出し身に着ける。

「オーブンなんかあるか。 鍋はこれしかねえ。 食いもんも、捕ってきた兎ぐらいしか

ねえぞ。」

サンジ姫の言葉にゾロはそう言い返して、瞳の前に汚れた鍋と兎を置いた。

「これだけかよ?! ・・・・・・・・まぁ、良い。 外に草が生えてたな・・・・・ちょっと待っ

ててな。」

サンジ姫はゾロにそう声を掛けると、家の周りに生えていた野草を取りに行く。

それから、てきぱきと調理をし始めた。

その様子は、先程までの頼りない泣き虫のお姫様とは同一人物とは到底思え無い程の変わ

りよう。

「ほら・・・・もう出来た。 兎鍋だ。 俺も食うのは初めてだけどな。 味はいいと思う

ぜ?」

サンジ姫はそう言って、テーブルの上に料理を置く。

ゾロは、恐る恐るその料理を口にして驚きの表情を見せた。

「ん? ・・・・どうだ?」

「美味い。 確かに、美味えよ。 お前が作ったとは思えねえぐらい、美味えよ。」

そう言ってマジマジとサンジ姫の顔を見つめる。

「へへへ・・・・どうだ。 だから、言っただろ? 俺、料理には自信あるってさ。」

ドンと胸を張り、サンジはゾロにそう言ってにっこりと笑った。




う゛・・・・・・・・・ちょっと可愛いかも・・・。

って、俺はなに考えてんだ。

今日逢ったばっかだぞ・・・・・・しかも、相手は、一国のお姫様だ。




「まっ、人間、誰にでも一つはとりえってもんがあるって言う事だな。」

自分の中に芽生えた感情を隠しながら、ゾロはそう言って笑い返す。




こいつの笑顔って・・・・・・・

なんだか、こっちが照れる。




自分に対して初めて笑い掛けるゾロの表情に、サンジはポカンとしてそれを見つめていた。

「チェッ。 俺のとりえは他にもあるんだからな・・・・。」

慌ててムッとした表情を取り繕ったものの、サンジ姫は顔がにやけるのを止められなかった。

「・・・っで、なんで、そのお姫様が、あんなとこにいたんだ?」

「ああ、それな。 実はさ、俺、王子様探・・・・いや、無理やり結婚させられそうになっ

たんで、城を飛び出してきたんだ。」

サンジ姫は、自分が城を出たのが王子様探しだとは言えず、そう言い直す。

「けどよ、この国の国王はそれは温厚な人柄だと聞いてるぞ。 自分の子どもに、そん

な強引に結婚話を進めるとは思えねえが・・・?」

サンジ姫の話に、ゾロは訝しげにそう反論した。

「それが、相手にもよるんだよ。 その相手というのが、隣国のクリーク王国のギン王

子なんだ。 何かとこの国は、クリーク王国には援助して貰ってるし、この辺りじゃ国力

は抜きん出てるし・・・。 そんな状況で俺が無碍に断ってみろよ。 戦争だぞ、戦争。 

下手したら、この国は滅亡しちまう。 だから、父上も、仕方なく・・・」

「なるほど・・・・・まぁ、クリーク王国って言えば、軍事大国で、あの王様は冷徹で気性

が荒いらしいからな。 敵に廻すと厄介だな、確かに。 けどよ、そのギン王子とやらと

結婚して幸せに暮らせば、世の中丸く収まるんじゃねえのか?」

「冗談じゃねえ!! 俺にも好みってもんがある! 絶対に嫌だ。 あんな顔がチュー

するなんて・・・・見ろ!この腕を!! 見事にチキン肌になってるだろ!」

サンジ姫は眉間に皺を深く寄せて袖をまくり、ゾロに腕を見せる。

サンジ姫の細くて白い腕には、見事に浮かび上がるポツポツ。

「・・・・そんなに酷いのか?その王子・・・」

「まぁ、人の好みは人それぞれだがな。 とにかく俺の好みじゃねえ。 ギン王子と結

婚するぐらいなら、てめえの方が・・・・・あわわ・・・いや、なんでもねえ・・・」

つい口を滑らせて、サンジ姫は慌てて口を噤んだ。




俺ってば、なに口走ってんだよ。

今日逢ったばっかの・・・・・しかも、王子様じゃねえんだぞ。

それなのに、俺ってば・・・・・・




サンジ姫は俯いたまま、顔が上げられない。



・・・・・・今、俺の方が、って言わなかったか?

いや、聞き違いだろ、きっと・・・・

今日逢ったばっかのお姫様が、そんな事思う訳ねえよな。

けど・・・・・・・・




ゾロの方も、なんとなくサンジ姫に言葉を掛け辛い。

互いに妙に意識しあって黙り込んだまま、食事の時間が過ぎていった。

「・・・・ごちそうさん。 美味かった。」

テーブルの上の鍋の中身がすっかり無くなって、ゾロはそう言って皿を片付ける。

「あ、ああ。 ご馳走様でした。」

サンジ姫も、ゾロの声に慌てて皿を片付け始めた。

「・・・・・・なぁ、これから、姫は、どうするんだ?」

皿を洗いながら、ゾロはサンジ姫にそう尋ねる。

「へっ? ・・・・・・別に何処に行くと言う宛はねえんだけど・・・・・暫く、ギン王子が諦

めるまでは身を隠そうかと・・・・」

サンジ姫はそう答えて、渡された皿を布で拭いた。

「・・・・・・・・・・・・・・一緒に来るか?」

ボソリとゾロがサンジ姫にそう言う。

「えっ?!」

ガシャンとサンジの手から皿が落ちた。

「あ、いや、嫌なら良いんだ。 別に俺も急ぎの旅をしてる訳じゃねえから・・・・

その・・・・・お前ってさ、なんか危なっかしいっつうか・・・・嫌なら、良いんだ。」

ガシガシと泡のついた手で頭を掻きながら、ゾロは照れた様にそう呟く。

「・・・・・・行っても良いのか? 俺、てめえと旅しても良いのか?」

「ああ、お前さえ、それで良ければな。」

「行く!! 一緒に行くよ!俺!!」

サンジ姫はあまりの嬉しさに我を忘れて、ギュッとゾロにしがみついた。

ふわっと、またサンジから柔らかな香りがゾロの鼻を擽る。

その香りに、思わずゾロはサンジ姫を抱き締めたい衝動に駆られた。




この体勢は、まずいだろ、やっぱ。

相手は、この国のお姫様だぞ。

落ち着け、俺・・・・。




「あ、あのさ・・・・わかったから、離れてくれよ。 そ、その・・・なんだ・・・・俺も・・・・

男だからさ・・・・」

これ以上はまずいと、ゾロはもぐもぐと口ごもりながらサンジ姫にそう告げる。

「あ、ごめん・・・・。 けどさ、俺も男だから。 大丈夫だ、ゾロ。」

「へっ?!」

何がどう大丈夫なのか、全然わかってない風のサンジと、それ以上に自分が男だと告げたそ

の言葉に、ゾロは唖然とした。

「だから、俺、男なんだ。 姫なんだけどよ・・・・」

その言葉がどれだけの衝撃をゾロに与えているかも知らず、サンジ姫はにっこりと笑う。




男?!

男だと?!

男は普通、王子だろうが!!

何を考えているんだ、この国は・・・・

しかし・・・・・・・・どう見ても・・・・・

反則だろ、その容姿と格好は、よ。

ダメだ。

俺・・・・・・・・・ショックで立ち直れそうにねえ。




「ゾロ??」

「・・・・・・悪い、俺・・・・・・・もう寝るわ・・・。」

キョトンとしているサンジ姫に、ゾロはそれだけ言うとフラフラとベッドに倒れこんだ。

二日ぶりのベッドの柔らかな感触と受けたショックは、ゾロをそのまま眠りにつかせる。

「変なの、ゾロってば。 まっ、良いか。 俺も今日は疲れたから、もう寝ようっと。 

ベッドはと・・・・・狭いけど、一つしかないから、仕方ないよな。」

サンジ姫は深く物事を考えずそう呟いて、ゾロの隣りに潜りこんだ。











<next>      <back>





 

<コメント>

繰り返し言いますが、
『連れ去られたお姫様サンジを助けにいく王子ゾロ』が、リクエスト・・・。ハハハ・・・
ハイ、これからです! これからきっと・・・・(;一_一)

<kiririku−top>