いつか、王子様が。



その1.



 




ずっと、ずっと、信じていた。

いつか、白馬に乗った格好良い王子様が、俺のピンチに駆けつけて・・・

俺を悪党達の手から救い出して・・・・

そして、二人は恋に落ちて・・・・・

末永く暮らす・・・・そんな夢物語。




それもこれも、物心ついたときから毎晩、子守唄代わりに聞かされた乳母の話のせいだ。

だから、俺は、ずっと信じてたんだ。

俺にも、王子様は現れるって・・・。

けど、現実はな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夢は夢なのかなぁ。




「サンジ姫・・・貴方を愛する私の気持ちに嘘はありません。 貴方の父王にも了承を

頂いているのです。 そろそろ、お返事をお聞かせ願いませんか?」

そう言って、ギン王子はにっこりと笑い、サンジ姫の手を捕る。




冗談じゃねえよ。

てめえには悪いが、俺は面食いなんだよ。

そんなにやついた顔で俺の手を握るな。

マジで、ゾッとする。

けど・・・・・・・・

こいつの国には色々と援助して貰ってるからなぁ。

一応は、同盟国だし。

無碍にしようもんなら、絶対になんかし掛けてきそうだしなぁ。

父上にも、怒らせることだけはしないようにって、そうきつく言われてるしなぁ。

・・・・・・・どうする?俺?




「・・・・・・わかりました。 もう二日だけ俺に時間を下さい。 俺にも覚悟ってもの

が・・・」

サンジ姫はそれだけ言うと、ギン王子の手をやんわりと振りほどき、微笑する。

「じゃあ!! 良いお返事を頂けるって考えても良いんですね!!」

「ええ・・・・・・・まぁ・・・・」

「わかりました! 俺、また来ます!! サンジ姫、貴方のお返事待ってますから!! 

では、サンジ姫、失礼します・・・。」

サンジ姫の言葉に気を良くしたギン王子はそう言って、意気揚々と部屋を出て行った。

「・・・・・ったく。 どうしようもねえ奴だな、あのギン王子は。 確かに近隣の国の中じ

ゃ1、2を競うほどの裕福な恵まれた国だけどよ。 あの顔がいけねえ。 どうにも俺の

好みじゃねえんだよなぁ。 俺としちゃ、もっと・・・・・・もっと・・・・・・れ? 俺の趣味っ

てどんなタイプなんだ?」

そこまで言って、サンジ姫は腕組みをして考え込む。

宮殿には、サンジ姫と年齢がつりあう様な若者は一人も居ない。

ましては、箱入りと評判のサンジ姫は、城の外に出たことも無く、外部との接触も無い。

接触あるのは、ギン王子のように王国関連の近隣の王子のみ。




はぁ・・・・・。

俺ってば、ろくに恋愛もしてねえじゃんか。

それってなんか不幸くねえ・・・?

それよりなにより、このままじゃ、あのギン王子と結婚させられちまう。

それは、嫌だ。

あの顔が近づいてきてチューされると思ったら、とてもじゃねえけど我慢できねえ。

手握られただけで、全身チキンなのによ・・・・・うっし!!

俺、決めた!!

俺は旅に出て、自分で王子様を見つけて来るんだ。

いや、この際、王子様で無くとも、お姫様でも良いな。

そうと決まったら・・・・・




サンジ姫は、クローゼットの中からお気に入りの服を数着、鞄に詰め込み身支度を整える。

それから、出窓にカーテンで作ったロープを垂らし、部屋から脱出した。

途中、数人の衛兵とばったりと出逢ったが、持ち前の脚力でなんなく伸し、自力で城の脱出

に成功する。

ただ、最悪だったのは、サンジ姫に土地勘が全くなかった事。

サンジ姫が出て行った西門は、国境にある鬱蒼とした森の入り口でもあった。

「・・・・・・やっばいなぁ。 ここ、何処だ? なんで街が見えねえんだ・・・? あー、疲

れたぜ。 どっか一休みできるとこねえかな・・・?」

そう呟いて、キョロキョロと辺りを見渡しても、辺りは薄暗い森の中。

日頃、絨毯の上しか歩いたことの無いサンジ姫の足は、すぐに疲れてしまい、足はまめだら

け。

歩く事もななまらなくなってきた。

「・・・・・足痛え。 ・・・・・こんなことなら、ちゃんと下調べしてから出るんだった。 

俺、てっきり、街ってすぐに出るもんだってそう思ってた。  よっこらせっと・・・」

サンジ姫は大きな樹の根元にドカリと腰を下ろすと、フーッと深い溜息を吐く。

城に帰ろうにも、その帰り道すらわからない。

途方に暮れるサンジ姫。

ボトッ!!

そのサンジ姫の肩に樹から何かが落ちてきた。

「ん? ボトッて・・・?」

じっと自分の肩を見つめる。

「う゛・・・・・・・ギャアァァァァーーーーーッ!!」

蜘蛛を見たこと無かったサンジ姫は、そのあまりのグロテスクさに気を失ってしまった。









「な、なんだ??今の不気味な悲鳴は・・・? しっかし・・・・・何処まで続いているん

だ、この森は・・・。 あー、腹減った。 早く家に戻って飯にしてえのに、これじゃあ、

また野宿かよ・・・。」

道無き道を掻き分けて、ゾロは自分の家を目指す。

「ん・・・? なんだ、ありゃ??」

樹の根元にキラリと光るものを見つけたゾロは、急いでその方向へと駆け出した。

そこには、気を失ったサンジ姫の姿があった。

樹の葉の合間から差し込む夕日に照らされ、キラキラと輝く金色の髪。

透き通るような白い肌と整った顔立ち。

豪華な衣装を身に纏い、その姿は、如何にもお姫様そのもので・・・

とてもこの状景には似つかわしくない。

「・・・・・・おい! お前、こんなとこで何してんだ?」

放っておくわけにもいかず、ゾロはそう声をかけ、肩を揺すった。

「ん・・・・・・なに・・・?」

ゾロに揺り動かされて、ゆっくりと、サンジ姫がその瞳を開ける。

たくさんの蒼を散りばめた宝石のような瞳。

光彩の加減で色々な蒼に変化した。

ゾロは、黙ったままその瞳をじっと見つめる。

何故だか、その瞳から瞳が離せなかった。

「・・・・・・王子・・・・・様・・・?」

やや焦点の合っていない瞳で微笑して、サンジ姫はそう言うとゾロの首に腕を廻しギュッと抱

き締める。

ふわっとゾロの身体が、柔らかな感触と穏やかな香りに包まれた。




・・・・・いい匂いだ・・・。

人とは、こんなに温かいものだったんだな。

すっかり、忘れてた・・・・・・・って、それどころじゃねえだろ!

しっかりしろよ、俺・・・。




「あ、いや、俺は・・・・・」

慌てて、ゾロはサンジ姫を引き剥がす。

ゾロの心臓がバクバクとうるさく響いた。

瞳の前のサンジ姫の姿に、ドギマギとしてどうしたら良いのか、思考が働かない。

「ん・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!俺、ごめん!!」

ゾロに腕を捕まれ、サンジ姫はその感触で我に返った。

「・・・・・大丈夫か? ・・・・・こんなところで何をしている? ここは、お前のような身分

の良い奴が来るところじゃねえぞ。」

「あ、いや、俺さ・・・・・街に出るつもりで・・・・・・・」

ゾロからそう聞かれ、サンジ姫は気まずそうにそう答える。

「なんだ、お前も迷子なのか?」

「だって、俺・・・・・城から出たことなんかなくて・・・・・・っつうか、『お前も』って、『も』

って事は、てめえも迷子なのかよ?!」

「おう!」

サンジ姫の言葉に、ゾロはあっけらかんとそう答えた。




・・・・・・・こいつは・・・・・馬鹿なのか?

それとも、限りなく大物なのか?

なんで、俺、こいつのこと、王子様だなんて・・・・

この汚え身なりで、王子様はねえよな。

しかも、全然、品がねえ。

絶対に違うな。

まっ、とにかく、ここに居ても将がねえし、足も痛え・・・。

ここは一つ、こいつを利用して・・・・・・




「と、とにかくさぁ、俺、足が痛くて痛くて・・・・・お願いがあるんだけどな?」

コクンと小首を傾げ上目遣いで、サンジ姫はそうゾロに言う。

このおねだりで今まで城内でその願いを断られたことなど無い。

サンジは今までの経験上、それを熟知していた。

ゾロのこめかみが、一瞬だけ引き攣る。




おっし! 後一押しだ!




「あのさ・・・・俺、もう歩けねえの。 だから・・・・・」

最後の一押しとばかりに、その蒼い瞳を潤ませてゾロを見つめた。

「・・・・・・・馬鹿だろ、お前・・・・・そんな甘っちょろい考えでどうすんだ? 俺は、自分

の事で精一杯なんだよ。 丸二日歩き続けてへとへとなんだ。 なんで赤の他人のお

前の面倒まで見なきゃらなねえんだよ。 歩けねえなら、そこにずっと居ろ。」

ゾロはムッとした表情で、サンジ姫を見るとそう言ってその場から歩き出す。

その態度に呆然としたのは、サンジ姫。

まさか、自分が突き放されるとは思っても見ないことで・・・・

蝶よ花よと、誉めそやされ、甘やかされて育ったサンジ姫のショックは計り知れなかった。

「うっ・・・・・うわぁぁ〜〜ん・・・!! 酷いよぅ〜ヒック・・・・・うぇっ・・・・うえぇぇ〜〜

ん!!」

サンジ姫は、その場で泣き伏して号泣する。

その泣き声は、凄まじく大きく、歩いていたゾロの耳にもすぐに届いた。

ゾロの胸がチクンと痛んだ。

「・・・・・・・あー・・・・ったく、もう・・・・」

ゾロは苦りきった表情をして、踵を返すとサンジ姫の元に戻る。

サンジ姫は相変わらず、その場で泣き伏していた。

「・・・・・どら、足を見せてみろ。」

ゾロはそう言って、サンジ姫の前にしゃがみこむ。

それから、まめが裂け血が滲んでいるその足に、自分の服を破いて巻いてやった。

「ったく・・・こんな靴で歩くからだ。 ほらよ、これで少しは楽になる。 ここに居る気が

ねえなら、俺と一緒に来いよ。」

ポンとサンジ姫の頭に手を乗せ、ゾロはそう言って溜息を吐く。

「うっく・・・・・あり・・・・・ありがと・・・・・・・」

「あーぁ・・・こんなにぐしょぐしょになって・・・・ほら、これで拭けよ。 綺麗な顔が台無

しだぞ。」

「うん・・・・・・。」

サンジ姫は、ゾロから差し出されたバンダナでゴシゴシと涙を拭った。

「ん・・・? お前、肩に何つけてんだ?」

ふと、サンジ姫の肩に黒いものが乗っているのに気が付いたゾロは、そう言ってその物体を指

でつまみあげる。

ぶらんぶらんとサンジ姫の瞳の前で揺れる蜘蛛・・・・

「うっぎゃあぁぁぁぁ〜〜〜・・・・・!!!」

この日二度目の絶叫と共に、サンジ姫の意識はそこで途絶えた。






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<コメント>

こちらは、みじゅき様のリクエストで、
『連れ去られたお姫様サンジを助けにいく王子ゾロ』
イメージ的には、『天空の城 ラピュタ』でvv
なんですけど、もしもし??(ビクッ)
何処がラピュタやねん?!(ビクビクッ)
いや、最低限、サンジ姫を助け出すシーンがあれば、良いって・・・(汗)
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
じ、じゃあ・・・・(逃走)

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