振り向けば、そこに奴は、いる。


その2.



 




「クンクン・・・・・・・・サンジ、血の匂いがする。 なんかあったんだ!!」

買出しを終え、サンジと共に船に戻る途中のチョッパーが、血の匂いを敏感に感じ取って

サンジにそう告げる。

「チッ! ナミさんの不安が的中したか。 まっ、あの二人なら、問題ねえと思うが・・・・

一応、急ぐか・・・。」

サンジも、チョッパーにそう返事して、二人、船へと駆け出した。

「うわっ!!」

「・・・・・・・・・・・こりゃあ、酷えな・・・・。 甲板が血の海じゃねえか。」

甲板の惨状に、思わず顔を顰めるチョッパーとサンジ。

そこには、おびただしい血の量と人とは呼べぬ残骸の山。




・・・・・・・・おかしい。

あいつのいつもの太刀筋と違う・・・。

こんな闘い方、あいつらしくねえ・・・。




「オイ! ゾロ!!ルフィ!! 何処だ?!」

いつもと様子が違う事に気付いたサンジは、少し不安になり、そう叫んだ。

「おう! ここだ!」

そう返事して、ひょっこりとルフィがキッチンから顔を出す。

「・・・・・・・・・あいつは?」

「ああ、ゾロなら、今、シャワー浴びてる。 なんか敵に白い粉を掛けられちまってさ。

返り血と一緒に瞳も洗うからって・・・・・」

ルフィはそう言って、風呂場を指差した。

「サンジ〜、肉くれ!肉!!」

「ああ、今、作ってやる。 その前に、これ食ってちょっと待ってろ! それから、甲板、

ちゃんと片しとけよ。 ナミさん達が戻る前に・・・・・チョッパー、その荷物、倉庫に頼む

な。」

「オウ!任せとけ!」

ルフィの言葉にホッと胸を撫で下ろしたサンジは、そう言ってキッチンのシンクに立つ。

トントンとリズム良く包丁の音が鳴り、あっという間に食材が料理に変わっていく。

「サンジ!早く!! 肉くれ!肉!!」

そうブツブツと言いながら、サンジを急かせるルフィ。

「まぁ、そう慌てるな。 料理ってのは、手間と愛情を注いだ分だけ美味くなるんだ

ぜ?」

「だって、刀が・・・・・早くゾロの刀、取り返してやんねえと・・・」

「なんだって?!」

ルフィの言葉に、サンジはピタリと動きを止めた。

「だから、ゾロの刀、あいつに持って行かれちまったままなんだ。 俺、見とくように頼

まれてたのに・・・だから、早く!!」

「それを早く言え!! なんで、そんな状態であいつは呑気にシャワーなんか浴び

て!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか・・・?」

手早く調理を片付けて、サンジは風呂場に向かう。

「あっ、サンジ。 倉庫に全部仕舞っておいたぞ。」

丁度、倉庫からチョッパーが出てきた。

「チョッパー、悪いが診療道具持ってきてくれ。」

「えっ?! 怪我してるのか? わかった!」

サンジの言葉に、チョッパーも男部屋に急ぎ向かう。

「このクソ剣士、てめえ!!」

そう叫びながら、サンジが風呂場に行くと、ゾロが着替えているところだった。

「・・・・・なんだ、帰ってきたのか。」

普段と同じ声色でゾロはそう言ながらも、サンジの方を見ようともしない。




俺にわからねえとでも思っているのか、このマリモは・・・・。




「オラッ! てめえ、見せてみろ! どっか怪我してるだろ!絶対!!」

サンジは、グイッとゾロの肩に手を掛け、自分の方へ身体を向けた。

「うわっ!馬鹿!止せ!!」

急に捕まれた肩にバランスを失い、ゾロは、サンジに倒れこむ。

「・・・・・・・・・・・てめえ・・・・・・・その瞳・・・・」

呆然としたサンジの声に、ゾロは慌てて瞳を閉じた。

その瞳は、血の色一色だった。

サンジはゾロの腕を取り、無言のまま、キッチンへ向かう。

「チョッパー、こいつの瞳、診てやってくれ!」

そう言って、強引にゾロをチョッパーの前に座らせた。

「・・・・んなたいそうな怪我じゃねえって。 さっき、殆ど、洗い流したんだ。 それよ

り、早く返しても貰わねえと・・・・」

ゾロはそう言い返して、覚束無い足取りでキッチンを出て行こうとする。




てめえは、またそんな独りよがりな事を・・・・




サンジは、その背中をきつい視線で見つめ、グッと拳を握り締める。

「・・・・・・・・怪我人は、大人しく治療を受ければいいんだよっ!!」

その後頭部に、サンジはスッと踵を落とした。

「グッ!!」

不意をつかれ、戦闘でも疲れていたのか、ゾロはそのまま床に倒れこむ。

「・・・・・心配するな。 てめえのは、俺がきっちり取り返してやるから・・・・。」

サンジは、気を失ったゾロの髪の毛を指でそっと撫でて、そう囁いた。

「チョッパー、こいつ、頼んだぜ。 それとルフィ、ちゃんと甲板、綺麗にしとけよ! 

俺、ちょっと野暮用が出来た。 夕方までには、戻ってくるから・・・」

そう言って、サンジは船を降りる。




・・・・ったく、本当、世話のかかるマリモ野郎だな。




サンジは、刀の情報を求めて、街へと向かった。

目指す場所は、荒くれ共が集う場末の酒場。

サンジは、カウンターで、適当に酒を注文し、周りに気を配る。

「しっかしよ・・・・今日の稼ぎは少なかったよな。 あれだけ殺られたのに、たったの刀

3本だもんなぁ・・・。」

「ああ。 けどよ、たいそう値打ちがあるってボスはそう言ってたぜ? 何でも、一本、

数千万ベリーは下らないとか・・・」

「けど、今回は失敗だ。 犠牲者が多過ぎた。 俺達、明日からどうすんだよ。 仲間

の半分以上、殺られちまってるんだぜ・・?」

「・・・・・・・そうだな。」

酒場の隅のテーブルで、そう言い合いながら酒を飲んでいる男達の声が聞こえた。

「・・・・・・ビンゴ。」

サンジはそう呟くと、席を立ち、その男達の背後に立つ。

「・・・・・・よう、探したぜ。 その刀、今、何処にある?」

ニッと口角を上げ、その二人に極自然な口調でそう告げた。

「あん? なんだ、てめえは・・・?」

「てめえ、あいつらの仲間か・・・?」

サンジの華奢な見た目に高を括ったのか、その穏やかな物腰の口調にナメて掛かったのか

男達はそう言ってゆっくりと立ち上がる。

「・・・・・・・もう一度、聞く。 刀は、何処だ?」

ふーっと煙草の煙を吹きかけて、再度、サンジがそう言った。

「「ゴホッ! ・・・・・・ナメた真似してんじゃねえぞ、こらあ・・・!!」」

サンジの行為にキレた男達はそう叫んで脇にあった剣を抜き、サンジに斬りかかる。

「ったく、しょうがねえ連中だ。」

トンと小刻みに踵を鳴らし、サンジは大げさに溜息を吐いた。

バキッ!! ドカッ!!

物凄い音と共に、テーブルの上に二人の男が重なる。

その音に、酒場中がシンと静まり返る。

「コックに、刃物を振りかざすなんざ、100万年早いんだよ。 っで、刀は、何処だ?」

「ボ、ボスが持ってるらしいんでさ・・・。」

「・・・・・・じゃあ、そこへ俺を案内しろ。」

「あ、あ、いや・・・・・・・・・・・ハイ、喜んで・・・・。」

かろうじて意識のある男の胸倉を掴み、サンジはそう言って、その酒場を後にした。










「こ、ここです・・・。」

「ハイ、案内ご苦労だったな。 これはその礼だ。」

ある屋敷の前に着いたサンジは、そう言って振り向いた男の頭上に足を振り上げた。

それから門を飛び越え、真っ直ぐに玄関を目指す。

「誰だ?!てめえ!!」

「敵襲だーーーっ!! 皆、来てくれ!!」

サンジの姿を見とめた男達が口々にそう叫んで、仲間を呼んだ。

「チッ!! 雑魚には用はねえんだよ! てめえらのボスは何処だ?」

サンジは向かってくる敵を一蹴しながら、屋敷の中を探し回る。

しかし、男達は後から後から湧いてくるように、サンジの前に立ちはだかった。

さすがのサンジも、あまりの敵の数にだんだんと動きが鈍くなる。

「・・・・ったく、酒場の鼠でもこう湧いてでねえゾ・・・。」

あらかたの男達を伸して、サンジは一番奥の部屋のドアを蹴破った。

「・・・・誰だ? お前・・・?」

ボスらしき男が、テーブルの向こうで迷惑そうにサンジを睨みつける。

さすがに、これだけの人数を仕切っているボスだけあって、不意に飛び込んできたサンジにも

悠然と構えていた。

傍にいたブロンドの美しい女性がその男に身を任せ、サンジの方を見て、クスッと笑う。

「・・・・・刀、返して貰おうか?」

サンジは煙草に火をつけ、ふぅーっと息を大きく吐いてそう伝えた。

「・・・・刀? ああ、これの事かな? なんだ、お前、この刀を奪い返しに来たのか?」

後ろにいた屈強な男に顎で指図して、ゾロの刀をテーブルの上に無造作に置かせる。

キッとサンジがその男を睨みつけた。

「おいおい、たかが刀の3本じゃねえか。 そんな怖い顔するなよ。 それよか、お前、

うちの組織に入らねえか? ここまで一人で来れたってことは、相当の実力と見た。 

あんなちんけな海賊船よか、余程良い目みさせてやるぜ? なんなら、この刀もあい

つらに返してやっても良い・・・。」

ボスらしき男は、そんなサンジに苦笑しながらそう話す。

「・・・・・確かに、ちんけな海賊船だけどな・・。 ここよかは、ずっとマシだ。 俺は、

人間なんでな、小物の鼠に仕える趣味はねえ。 うだうだ言ってねえで、さっさと返し

やがれ!」

そう叫ぶや否や、サンジはボスの男に駆け寄った。

「キャッ!!」

ドンと、男が傍にいた女性をサンジに突き飛ばす。

「チッ!!」

自分の方へよろめいた女性をサンジは、優しく抱きとめた。

「・・・・・大丈夫ですか?レディ?」

いつものように、にっこりと女性専用の笑顔を向けてそう言うサンジ。

「・・・・本当にありがとう。 貴方って、いい男(ひと)ね・・・。」

その女性は、にっこりと笑みを湛えて、サンジの背中に腕を廻した。

女性の手のひらに隠し持っていた拳銃がそっとサンジの後頭部に当たる。

「クスクス・・・ごめんなさいね。 あたしも、この組織の幹部なの。 どう? もう一度考

えない? 殺すのは惜しいわ・・・・公私共に・・・。」

銃身をサンジの後頭部からぴくりとも動かさず、その女性はサンジの耳元でそう囁いた。

その仕草から、拳銃に関しては相当の手馴れだと容易に感じ取れる。

「・・・・・・・とても魅惑的な申し出だな。 俺も貴方のお相手は是非お願いしたい。 

だが・・・・俺にもプライドがあるから。 それに・・・・・・約束は守らないと、うるせえ奴

がいるんだ。」

笑顔を寸分も崩さず、サンジはそう言って女性を見つめる。



・・・・・・まずったな、完全に。

あいつ、怒るよな、絶対・・・・。

せめて、あいつの刀だけでも・・・・・・取り返したかったな。




「・・・・・・・そう? それは、残念だわ。」

背後でカチリとなるトリガー音に、サンジはハァッと溜息を吐いた。










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<コメント>

・・・・・・・・なんとでも言って!
サンジはサ・・・・やっぱ、サンジなのよ。 男なのv
っつうか、やっと核心に迫った?!(笑)

では☆

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