振り向けば、そこに奴は、いる。



 




「また、あんたかーーっ!!」

ナミは、そう叫んでルフィに拳を振り上げる。

バコッ!!

「フンギャッ!!」

「ナミさぁ〜ん・・・・どうしましょう。 何処か近くに停泊できそうな場所ありますか?」

甲板に伸されたルフィを尻目に、サンジは申し訳なさそうにナミにそう聞いた。

・・・・・・そう。

この食欲魔人の船長は、またサンジの瞳を盗んで、倉庫内の食材を食い尽くしてしまった。

「だってよ・・・・なぁ〜んか腹減って、腹減ってよ。 俺、育ち盛りだから・・・」

ルフィは頭を擦りながら、甲板に座るとそう言い訳をする。

「だからって・・・・勝手に食って言い訳ねえだろ!!このクソゴム!! いいか? こ

の広い海原で食料がねえって事がどれだけ危険か、てめえは全くわかってねえ!! 

てめえだけじゃねえんだぞ!全員ひもじい思いをしなくちゃならなくなるんだ!! 

第一、調理してもねえ食材を食うなんざ、料理人の俺をナメてんのか?クソゴム!!」

サンジはきつい表情でルフィを睨みつけ、そう怒鳴った。

「・・・・・もういいわ、サンジ君。 予定には入れてなかったけど、近くに島があるか

ら・・・。 本当は、停泊したくは無かったけど、緊急事態だし、仕方ないわね。」

ナミは溜息を吐きながら、そうサンジに言う。

「・・・・・・なんかヤバいのか?その島・・・・」

ナミの表情に不安を持ったウソップがそう口を挟んだ。

「ええ。 噂なんだけど、あまり治安が良くないの。 だから、無用なトラブルは避けた

かったし・・・・この船には、それでなくてもトラブルメーカーがいるからね・・・」

ナミは、そう言ってルフィとその後ろの方でこの様子を傍観していたゾロを交互に見つめ、フッ

と鼻で笑う。

「あ? ちょっと待て、オイ! なんでそこで俺を見る! ルフィはともかく、俺は違うだ

ろ・・・」

ゾロはナミの視線に気がついて、そう言い返した。

「何言ってんの! 陸に上がった途端、迷子になってトラブルに巻き込まれてるのは、

誰? まともな格好で船に戻ってきた事って、あった? いっつも傷だらけじゃない!」

ナミに指を指され、そう指摘されたゾロは、何も言い返せず苦虫を潰した顔になる。

「「「・・・・・なるほど。」」」

ウソップ、サンジ、チョッパーはナミの言葉に納得した。

「オイ!そこ!! んな事で納得するんじゃねえ!!」

ゾロはそう叫んで、サンジ達を睨みつける。

その視線に、ウソップとチョッパーは、サッとサンジの後ろに身を隠した。

「いや、本当の事だし。」

すかさず、サンジがそう言い返す。

「好きで迷子になってんじゃねえ!」

「・・・・・・人間じゃねえしな。 マリモだし・・・・」

「ぁあ?! なんだともういっぺん言ってみろよ・・・」

「マリモ、マリモ、マリモ、マ・リ・モ・・・!!」

「上等だぁ・・・・・・・泣かす!!」

ヒュンとゾロの和道一文字がサンジの鼻先を掠める。

ハラリとサンジの前髪が数本宙に散った。

「てめえ、この・・・!!」

サンジも負けじと蹴りを繰り出す。

いつの間にかルフィの起こした騒動は、この二人の乱闘へと姿を変え、甲板に空気の唸る音

と張り詰めた空気が漂った。

「・・・・・・ったく、いつもいつも・・・・・・・・いい加減にしろ!!」

バキッ!!ドカッ!!

ナミの言葉と共に容赦ない拳が、ゾロとサンジを襲う。

「あんた達、本当に進歩が無いわね・・・。 ほら、そろそろ港に着くんだから、上陸準

備をして! サンジ君、買出しが済んだら、即、出航したいから今のうちにリストを作っ

といて。 それと・・・・・トラブルメーカーのルフィとゾロは、上陸中、船から一歩も出ち

ゃダメよ。」

「はぁ〜いvvナミすわんv 了解しましたぁ〜vv」

ナミの言葉に、サンジはいそいそと倉庫に向かった。

「ヘイヘイ・・・・・後で、覚えてろよ、ラブコック・・・」

ゾロも、サンジの後姿を睨みつけながら、ウソップ達と共に上陸準備に取り掛かる。

「えーっ!! 俺、腹減って・・・・・・食べに行っちゃあダメなのかぁ??」

「ダメ!! あんたは、絶対に船から出たらダメ! ・・・・・ロビン、ルフィをそのマスト

に括り付けといて・・・。」

ルフィの言葉に、不安を覚えたナミは、先手を打ってロビンにそう頼んだ。

「フフ・・・・了解、航海士さん。」

ロビンは、嫌がるルフィをハナハナの実の能力でロープでぐるぐる巻きにしてマストに括り付け

る。

「オイ!ナミ!!ロビン!! 離せ!! くそう、腹減って力出ねえ・・・・。」

「クス・・・・ごめんなさいね、船長さん。」

「ハイハイ、サンジ君が戻ってきたら、離してあげるわよ。」

ルフィの言葉にロビンとナミはそう言ってにっこりと笑った。

それから程なく船は港に着き、ルフィとゾロを除いたクルー達は、街に買い物に出かけた。



















「4989、4990、4991、4992・・・・・」

静かになった甲板では、ゾロがトレーニングに励んでいる。

「あ〜・・・・・腹減ったぁ。 サンジ、早く帰って来ねえかなぁ・・・。」

未だ、マストに括り付けられたままのルフィは、暇を持て余し気味にそう呟いた。

「あ?大体、てめえが悪いんだろが。 これに懲りたら、もう食料に手出しすんなよな。 

俺にまでとばっちりだ。」

「だってだって、だってよぅ・・・・ふと夜中、目が覚めて、気が付いたら、自分の欲しい

もんが瞳の前に、あって・・・・・・」

ルフィは、昨夜の自分の事をゾロに話し始める。




まぁな、俺だって、欲しいもんは瞳の前にあれば・・・・・




ゾロは、ルフィの言葉に、トレーニングを中断し、頭の中でサンジを思い描く。

「それでよ・・・・その食いもんが、俺に食えってそう言ったように聞こえたんだよぅ・・。」

ルフィの言葉は、そのまま、夜、お強請りするサンジの表情まで連想させて・・・・・

『んっ・・・・ゾォロ・・・・』

と、いる筈の無いサンジの甘えた声までもが聞こえてきて、思わず、ゾロの頬が緩んだ。




そりゃあ、誘われりゃあ・・・・・・・食うわな、うん、食う。

食わねえ道理がねえ。




などと、妙にルフィの言葉に納得したゾロ。

しかし、ここで同調するのも妙な話なので、ゾロはサンジの受け売りをそのままルフィに言う。

「ルフィ、お前の気持ちはよっくわかる。 が、だ。 人間、理性ってもんを持ってねえ

と、ただの獣と同じだ。」

「さっすが、ゾロ、良い事言うなぁ。」

「ま、まぁな・・・・・・。 俺、シャワー浴びてくっから、少しの間だけ、刀見ててくれ

よ。」

「オウ!」

素直に自分に尊敬の眼差しを送るルフィに、ゾロはちょっぴり後ろめたくなり、そう言って風呂

場に向かった。

「・・・・・・頭じゃわかってんだけどな。 けどよ、あれは・・・・・あの顔は反則だろ・・・」

そうブツブツなにやら言い訳がましいことを口にしながら、ゾロはシャワーを浴びる。

「ゾローーーーーーーッ!!」

不意に、甲板からルフィの声が聞こえた。




そう言やぁ、ナミの奴がここはガラが悪いって言ってたな・・・?




「敵襲か?!ルフィ!!」

濡れた身体を拭うのもそこそこに、ゾロは着替えを済ませ甲板に走った。

「へへへ・・・・もう一人居やがったのか。 しかも、丸腰かよ。」

そこには、ざっと数十名の男達。

しかも、船の外には、百人は下らない数の男達が周りを取り囲んでいた。

「ゾロ!! 早く、縄を!!」

ルフィがもどかしげにそう叫ぶ。

「ああ、待ってろ、すぐだ!」

ゾロは、近づいてきた男達の合間を縫うように走って、男達の剣を奪い、ルフィの傍に向かっ

た。

ルフィはその間、頭と足だけを使い、敵を蹴散らしていた。

「お待たせ、船長。」

スッ、ルフィの前に立ち、その身を拘束していた縄を持っていた剣で斬る。

「そうはさせるかーーっ!!」

その直後、何かがゾロ達の方へ投げつけられた。

「チッ! うるせえ小物が・・・!!」

そう呟いて、ゾロは飛んできたものを避けようともせず、瞳の前で刀を振るう。

それは、刀で斬られた瞬間、ぱっと裂けて中から白い粉が辺りに飛び散った。

「クッ! ルフィ!!」

一瞬の出来事に、ゾロはかろうじてその身を盾にルフィをその粉から守る。

「ゾロ!! 大丈夫か?」

縄から抜け出たルフィが、そう心配そうにゾロに声を掛けた。

「ああ、問題ねえ。 ちっと粉を浴びただけだ。 そうだ、ルフィ、刀は?」

「あそこ! あいつが持ってる!!」

ルフィはそう言って、男達の後ろに構えているボスらしき男を指差す。

「・・・・・ほう、この刀は、お前のだったのか。 だが、こいつは滅多に手に入らない貴

重な代物だ。 お前のような若輩者には勿体無い。 俺が貰ってやるよ。 

あははは・・・・・・・やっておけ!」

その男は、周りの男達にそう命じて、自分はさっさと船を降り始めた。

「ふざけるな!! 俺の刀に触れるな!! 返して貰おうか・・・・・」

ゾロは、そう言うなり、周りの男達をなぎ払いながらその男に近づく。

その時、ズキンと両目に焼け付くような痛みが走った。

「グッ・・・!!」

そう呻いて、ゾロの歩みがピタリと止まる。

「ゾロッ?!」

ルフィは、ゾロの異変に気が付いて、慌てて駆け寄った。



くそう・・・・瞳が痛え・・・。

目ん玉が、溶けていくみてえだ・・・。

開けていられねえなら、いっそ・・・・




ゾロは、左腕からバンダナを取ると目隠しをする。

「だ、大丈夫だ、ルフィ・・・それより、早く、こいつらを・・・・・」

ゾロは、ルフィにそういいながら、目が見えてないとは思えない反射神経で次々と襲い掛かっ

てきた敵をなぎ払った。

「よし、わかった!!」

ルフィはその様子を見て、また敵を一掃し始める。

それから、数十分後、船には、ルフィとゾロ以外いなくなった。

しかし、肝心のゾロの刀は、あの男と共に、消えてしまった。

「ッ・・・・!!」

グラリとゾロがバランスを崩す。

瞳が見えない状態での戦闘は、予想以上にゾロに疲労をもたらしていた。

「ッ・・・・・ルフィ、すまねえが風呂場まで連れて行ってくれるか?」

「ああ、本当、ゾロ、大丈夫か?」

ゾロの言葉に、ルフィはそう言ってゾロに肩を貸す。

「ああ、粉が瞳に入っただけだ。 洗い流せば、直に元に戻る・・・・。」

ゾロは、ルフィにそう返事して、シャワーを浴びに浴室に入った。




クソッ!

迂闊だった。

早く取り戻さねえと・・・・・・・行方がわからなくなる前に・・・・・

あいつの・・・・・・くいなの刀だけは・・・・・




ゾロは、全身に飛び散った血をその身に浴びた粉と共に洗い流した。











<next>



 

 


<コメント>

こちらは、きゅうはむ様のリクエストで、
『サンジの窮地を救いにくるゾロ』の話なのですが・・・・・・・
これって・・・?
いやいや、お待ちください!
絶対に今回は外しませんから! だって・・・・だって、ルナ・・・
戦闘モノ、好きなのv(意味無☆)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・脱兎。

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