「・・・・・・・良いか? チャンスは、一度・・・。 この空間が外に通じた時、一斉に突き
抜けるんだ。 他の誰が捕まっても、絶対に振り向くな。 全員、良いな・・・?」
ウソップの呼びかけで、他の理不尽な理由で捕獲されたロボットやアンドロイド達が、この逃
亡計画に加わる事となった。
逃亡の計画日は、品評会の為にこの部屋から連れ出される今日・・・。
色々な職種の会社が、それぞれ嗜好にあったロボットやアンドロイドの再販先として、見定め
にやってくるのだ。
そこで、再販先が決まったアンドロイドやロボットは、全ての記憶が消去され、新しい製品とし
て引き取られていくシステムになっていた。
スッと、音も無くドアが開き、警備ロボットが部屋の中に入ってくる。
「それ! 今だ!! 皆、成功を祈る!!」
室内に、ウソップ手製の電流逆送カプセルが撒かれ、それに触れた警備ロボットの動きが止
まる。 「走れ!! 決して止まるなよ!!」
ウソップの言葉を合図に、中にいたアンドロイドたちが一斉に飛び出し、四方八方に散らばっ
た。 「緊急事態!! 捕獲したアンドロイド達が一斉に逃亡!! 緊急事態!!」
ビービーッとけたたましい警告音と共に、場内が物々しい警備に包まれる。
逃げ惑うアンドロイドやロボット達が、次々に警備ロボットに捕獲されていく。
「サンジ!! こっちだ!! こっちに外部から来た乗り物がある!!」 「わかった!!」
ウソップとサンジは、絶妙のタイミングと呼吸で、警備を潜り抜け、品評会に来ていた会社の
乗り物に乗り込み、工場外へと脱出に成功した。
しかし、すぐ後ろには、騒ぎを聞きつけた警官隊が迫っている。
「クソッ! サンジ、お前、ここから飛び降りろ! 追っ手は俺が、撒くから!!」
ウソップはそう叫ぶと、非常脱出口を開け、サンジを促した。 「けど、お前・・・・」
「良いから!! フッ、俺は、元工作員だぜ? 専門は雑用だけどな。 あんな奴らに
捕まるようなA.I.は持ち合わせてない。 俺のA.I.は、教授仕様なんだからな・・・。
さ、行け!! 必ず、また逢おうぜ!!」
ウソップは、なかなか出ようとしないサンジの身体を強引に突き飛ばすと、そのまま乗り物を
走らせる。
警官隊は、道路から落下していくサンジに気付かないまま、猛スピードでウソップの乗った乗
り物を追いかけた。
サンジの身体は、加速して地面めがけて落ちていく。 ガッシャーーーン!!!
物凄い音響と共に、サンジが落ちた先は、廃品の山。
サンジは、ワンバウンドして地面に叩きつけられた。
「グッ! ッ・・・・・・かなりな高さから落ちたんだな・・・。 けど・・・・大丈夫、まだ動け
る・・・。」 服は多少ボロボロになったが、幸い何処も故障した箇所は見当たらず、サンジは安堵の表情
で身体についた埃を払い、歩き出す。
・・・・・・・・ゾロは・・・・どうしているだろう・・・?
考えるのは、ゾロのことばかり。
サンジは、人目を避けるように、ゾロの住む家の方角へと向かった。
ゾロに逢いたい一心で・・・。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
数時間後・・・・。
サンジは、やっと見覚えある風景にたどり着いた。
この先の角を曲がれば・・・・ゾロの家・・・。
ゾロは・・・・・・何してっかな・・・?
俺が、現れたら・・・・・驚くよな・・・?
お帰りって・・・・・・そう言って笑ってくれるかな・・・?
サンジは、ピシンと小気味良い金属音を聞きながら、その角を曲がる。
そこには、ちょうど家から出てきたばかりのゾロの姿。
あ、いた・・・・・・全然変わってねえ・・・・。
ゾロ・・・・・俺、逢いたかった・・・・。
そう駆け出そうとしていたサンジの瞳に、ゾロの後ろから出てくる人影が映った。
「ロロノアさん、ちょっと待ってください。 そんなに慌てなくても・・・・キャッ!!」
「悪い・・・おい、大丈夫か? たしぎ・・・?」
そう言って転びそうになった女性を、ゾロはサッと抱き寄せて、優しく声をかける。
「・・・・・・た・・・しぎ・・・・??」
ゾロの言葉を拾ったサンジは、そう反芻して、その女性を見つめた。
サンジの中の記憶に、ゾロの家の中にあったホログラムの映像が浮かぶ。
ゾロは、そのホログラムを見つめる時、とても悲しい瞳をしていた。
サンジには、なにも話してはくれなかったが、その表情からゾロにとってとても大事な人だとす
ぐにわかった。
あの時に芽生えた感情も、A.I.には感知できなかった。
何も無いはずの胸の部分が、苦しかったのをサンジは覚えている。
・・・・・・・また・・・・同じ・・・。
アノトキト・・・・・オナジ・・・。
・・・・・・・ゾロ・・・
オレ・・・・・・・ムネガ・・・・イテエ・・・。
ぽとりと銜えていた煙草が地面に落ちる。
サンジは、その場から動けなかった。
その代わりに、蒼い瞳からは次々に涙が溢れて、サンジの頬を雫した。
ゾロとそのたしぎと呼ばれた女性は、家の前に停まっていた車に乗り込み、何処かに行って
しまった。
「・・・・・・・・・ゾロ・・・。 良かった・・・・元気なんだな・・・。 そう・・・・・・良かった。」
サンジは、そう呟いて、そのまま踵を返し、その場を後にした。
「やっと見つけた!!」 ゾロは、たしぎを助手席に乗せ、猛スピードで車を走らせる。
ナミの紹介で見合いはしたものの、どちらにも結婚の意志はなく、たしぎは、ただ単純に自分
が好意を寄せた男性の手がかりをゾロに聞きたかったに過ぎなかったといった。
先の剣術大会で、ゾロと決勝戦を闘ったスモーカーとか言う青年についての・・・。
ゾロの方も、それを理解し、スモーカーに連絡を取り、はれてたしぎは、スモーカーと付き合う
事になり、今朝、それを、ご丁寧にゾロに報告&礼に来たというわけだ。
そして、たしぎは、自分の父親の会社が、今日修理工場の品評会に行くので、ゾロにも、
今回のお礼として家政婦ロボットをと、そのパンフレットを持参していた。
そのパンフレットには、今回の目玉商品として、とあるアンドロイドが記載されていた。
黒ずくめのスーツに、金色の髪。
最新式の高性能のオールマイティーアンドロイド。
中古ですが、引渡しの際には、全てリセットされた状態でのお渡し。
そのパンフレットには、そう謳われていた。
忘れもしない、サンジの姿・・・・。
ゾロは、そのパンフを手に掴むと、そのまま、外に飛び出したのだ。
あれだけ探し回ったのに、行方が知れなかったサンジの消息。
ゾロは、この偶然に感謝した。 「たしぎ、本当に、こいつを貰えるんだな・・?」
ゾロは、車を走らせながら、何度も、たしぎにそう尋ねる。
「あ、ハイ。 ロロノアさんには、大変お世話になりましたし、新製品は高すぎて、手が
出ないですけど、このアンドロイドは、何かいわく付きとかで、父の会社に引き取りの
打診が来てたんです。 父は、そんないわくありの物なら、歓楽街で使おうと言ってま
したが、前歴が家政婦アンドロイドと聞いて、私が使いたいと父に頼んだんです。
私・・・アンドロイドとはいえ、歓楽街って・・・好きじゃないんです。 だから・・・・。
まさか、話に聞いていたロロノアさんのお探しのアンドロイドだなんて、知りませんでし
たわ。 けど、良かったですね。 これで、ロロノアさんも幸せになれますね。」
たしぎはそう言って、にっこりと笑った。
「ああ、こっちこそ、どんなに感謝しても足りない位だ。 やっと、あいつに逢える・・。
本当に、ありがとうな、たしぎ・・。」
ゾロもまたサンジに逢える嬉しさに、そう言って満面の笑みを浮かべる。
しかし、工場のすぐ近くまで来て、事態は急変した。
今回の品評会に出品予定のアンドロイドが集団脱走を企てた事。
その中で、まだ二体が、回収されていないとの事。
工場は、事態の収拾にやっきとなり、騒然としている。
ゾロは、たしぎと一緒に、工場内に入り、責任者から詳しい事情を聞いた。
「大変申し訳ありません。 こちらの不手際で、お探しのアンドロイドは、まだ回収され
ておりません。 前歴が前歴ですので、人間に危害を加える可能性もあり、見つけ次
第処分の形を取らせていただく事になりました。 本当に申し訳ありませんが、今回
は、別のアンドロイドで・・・・」 責任者の男性は、そう言ってゾロ達に頭を下げる。
「冗談じゃない!! サンジは、人間になんか危害を加えるような奴じゃない!!
前の事件だって、相手が、どうしようもない下衆な奴だったからだろ!! サンジは、
処分させない!! 頼むから、その命令は、取り下げてくれ!! 俺が責任持つか
ら!!」 ゾロは、責任者の襟首を掴んで、そう叫ぶ。
「お、お客様・・!! そんな事言われましても・・・・政、政府の方針でして・・。 私の
一存では、どうしようも・・・。 前の事件で殺人を犯したのは事実ですし・・・。」
「ロロノアさん! 止めてください!! 父に頼んで、処分されないように手を打ってみ
ますから・・・!!」
たしぎは、責任者の男とゾロの間に割り込んで、そう言って必死でゾロを宥めた。
「頼む・・・・。 たしぎ・・・・あいつは、サンジはそんな悪い奴じゃないんだ・・・。
頼む・・・・あいつを・・・・・・・助けてくれ・・。」
ゾロは、責任者の襟首を離すとそう言って、たしぎに頭を下げた。
「わかっています。 ロロノアさんが、そこまで大切に思っている方ですもの。 サンジ
さんが悪い方のはずがありません。 今から、父に連絡を取りますから・・・。」
たしぎは、にっこり笑ってそう言うと、父親に連絡を取る。
「・・・・・ロロノアさん、大丈夫。 父が何とかしてくれます。」
「ありがとう・・・たしぎ・・・」
「さ、とりあえず、家に戻りましょう。 もしかしたら、ロロノアさんのところに戻ってくる
かも・・・。 いえ、きっとそうよ、さあ、早く帰りましょう・・・!!」
たしぎは、意気消沈したゾロにそう声をかけた。
「!そうか・・・!! そうだよな、サンジは、俺のとこに戻って来る筈だ。 急がない
と!!」 ゾロもそう思い直して、たしぎと共に自宅に急いだ。
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