As If...


その3.



 




「・・・・・・うっ・・・。」

翌朝、ゾロは、ベッドの上で気が付いた。

何度も最後の情景が頭に浮かぶ。

「・・・サンジ・・!! サンジ!! サンジーッ!!」

それから、何度も狂ったようにサンジの名を呼び続けた。

しかし、部屋の何処からもその呼び声に応える者はいない。

ゾロは、己の不甲斐なさにグッと唇を噛み締め、その部屋を後にした。




・・・・・・・・・絶対に、廃棄処分になんかさせない。




ゾロは、ホテルを出るとその足で、警察に向かう。

「すまないが、ちょっと聞きたいことが・・・。」

「はい、なんでしょうか?」

警察署のロビーで応対してくれたコンピュータに、ゾロは、サンジの事を聞いた。

「・・・・・そのアンドロイドなら、修理工場へ回されました。 セキュリティーの強化と

記憶の消去、並びに、事故再発防止の為に人形化され単純労働地域への派遣が

決定されています。」

滑らかな口調でコンピュータは、ゾロの質問に答える。

「・・・・・・単純労働地域??」

ヒクッとゾロの眉が上がった。

「主に、歓楽街地域です。 あのアンドロイドには、そういう機能も備わっていましたか

ら。」

「・・・・・・・人形化って?」

「今まで搭載されていた最新式のA.I.を、その作業に従事する事を目的とした単純な

記憶装置に切り替えます。」

コンピュータは、ゾロとは対照的に淡々とした口調でそう答える。

その穏やかなコンピュータの口調に、ゾロの身体が、小刻みに震えた。

あまりのやるせなさと自分の不甲斐なさに、全身の震えが止まらない。

「そんなこと、させるか!!」

「これは、決定事項です。 変更はありません。」

「うるさい!!!」

ゾロは、そのコンピュータに近くの花瓶を投げつけ、ロビーを後にした。




・・・・・・・・絶対に、連れ戻す。

・・・・・・・・俺のサンジを・・・・・・・・・人形になんかさせて堪るか。




家に戻ったゾロは、片っ端から修理工場をチェックし、サンジの行方を追った。

しかし、ようとしてサンジのいる修理工場はわからず、ゾロは、不安と焦りを抱えたまま、日々

を過ごしていた。

そんなある日、ナミが心配して、ゾロの家を訪れる。

「・・・・・・ねぇ、ゾロ。 言っちゃ悪いとは思うんだけど・・・・あの家政婦アンドロイドの

事は忘れた方が良いわ。 ・・・・・回収されてるんでしょ? だったら、すでに改修され

て・・・・何処かの歓楽街に・・・・・・」

「言いたいことはそれだけか・・・? なら、帰れよ。」

ゾロは、ナミの言葉を遮ると、また修理工場の検索画面に向かう。

「あ、ちょ、ちょっと、待って! 実は、今日、貴方にお見合い話を持ってきたのよ。 

ホログラムだけでも見てくれない? 絶対に気に入ると思うんだ。」

ナミはそう言って、テーブルの上にホログラムの入った箱を開ける。

「初めまして、ロロノアさん。」

ホログラムはそう言ってゾロに挨拶した。

「・・・・・・・・く・・・・・いな・・・・?」

そのホログラムを見たゾロの口から、そう声が漏れる。

そう、そのホログラムは、くいなそっくりで・・・・・

ゾロは、半ば呆然とそのホログラムを凝視していた。

「ねっ? そっくりでしょ? 彼女、たしぎさんって言うの。 あたしも初めびっくりしちゃ

ってさ。 けど、話をしてみるとこれが、くいなさんと同じ位いい人で・・・・ゾロのこと話

したら、是非、逢ってみたいって。 どう? 逢ってみるだけでも良いから。 絶対に気

に入ると思うわよ。 記憶を消されたアンドロイド見つけてもなんにもならないわよ。 

人間は人間同士、生きていかなくちゃ。」

ナミは、そんなゾロの様子に、畳み掛けるようにそう言う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ゾロは、何も言えなかった。

確かに、ナミの言うとおり、サンジが記憶を消去された後だとしたら・・・・

ゾロのことなど微塵も覚えているわけなど無く・・・・

いくら自分が、傍に行ったところで・・・・・・ただの客として扱われるだけ・・・。

それ以前に、そういう場所でのサンジを直視できる自信も覚悟も、ゾロにはなかった。




・・・・・・・・・・この想いに嘘は無い・・・・。

しかし・・・・・・・・この想いは、一方的なだけなのかも知れない・・・。

だとしたら・・・・・・・・忘れる方が・・・・・

良いのだろうか・・・・・?




「・・・・・・・少し時間をくれ。」

ゾロは、大きく溜息を一つ吐いて、ナミにそう返事した。

「・・・・・・わかったわ。 今日一日、ゆっくりと考えてね。 貴方は人間なのよ。 

それを忘れないで・・・。」

ナミは、そう言葉を残して、ゾロの家を出て行った。

「・・・・・・そう言えば、俺・・・。 いつの間にか、お前の事、気にしなくなってた・・・。 

ごめんな、くいな。 ・・・決して忘れてたわけじゃないんだ・・・けど・・・。」

ゾロは、モニターの上のくいなのホログラムに、そう言って詫びる。

その手には、ゴミ箱の中にあったサンジの使用済みの煙草型のエネルギーチャージャー・・。

ゾロは、ギュッとその手の中のそれを握り、天井を見上げる。

ホログラムは、相変わらず、満面の笑みでゾロを見続けるだけだった。
















++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




もう、どれくらい経ったんだろうか・・・?

ここは・・・・・・?

・・・・・・・・・・俺・・・・・・やっぱ、廃棄されんのか・・・?

・・・・・・・・・・ゾロ・・・・ちゃんと帰ったよな・・?

・・・・・・・・・・元気にしてるかな・・・?

ハハ・・・・・俺の事・・・・・もう忘れてる・・・よな・・・?

ゾロ・・・・・・ゾロ・・・・・・

・・・・・・・・大丈夫・・・・・まだ・・・・・ここにある・・・・。




サンジは、無機質な部屋で、そっと、胸を押さえる。

ゾロの記憶は、サンジのA.I.の中に大切にロックされていた。

決して他人に触れられない様に・・・・・・自分だけにわかるパスワードで・・・・。

「いよう、新入り! お前、なにやらかしたんだ?」

不意に暗がりから、そう声が聞こえた。

「誰だっ?!」

サンジはそう叫んで、鋭い視線をその方向に向ける。

っと同時に、蹴り出す体勢を整えた。

「お、おい!! 待てよ、待てって!! 暴力、反対!!」

慌てるようにそう叫んで、暗がりから一人の男が姿を現す。

「お、俺は、ウソップ。 べ、別に怪しい者じゃない・・・。」

ウソップはそう言いながら両手を挙げると、ガクガクと足を震わせ、サンジの傍に来た。

「・・・・・てめえも、アンドロイドなのか?」

サンジは、最後の一本になった煙草型チャージャーをを口に銜え、そう尋ねる。

「おう、俺はこれでも、元工作員だ。」

ドンと胸を張って、ウソップはそう誇らしげにそう答えた。

「ふ〜ん・・・。 スパイって言うなら、優秀なアンドロイドじゃねえか。 でも、なんでこ

んなとこに?」

「いや、スパイじゃなくて工作員。 俺は、とある科学者のご主人様の下で下働きをし

てたんだ。」

「紛らわしい言い方すんじゃねえよ!!」

飄々と言うウソップにサンジは、そう突っ込みを入れる。

「お、俺は嘘吐いてねえし・・・。 俺はな・・・そのご主人様というのが、反社会的な

研究をしてたとかで、そのあおりで、ここに送還されたって訳だ。 なんでも、俺の中に

重要な研究プログラムが記憶されてるらしくってな。 それを取り除いてから、無罪放

免になるってことだそうだ。 お前は、何をしたんだ? 俺と同じでご主人のあおりを食

らって、か?」

ウソップは、一人頷きながら、そう言った。

その様子があまりにも、今の環境に似つかわしくなくて、サンジはフッと鼻で笑った。

「・・・・・・殺人。」

「さ、殺人?! 殺人って人を殺す、あの殺人か?!」

「・・・・・たぶん・・・。」

サンジはそう答えて、苦笑する。

「たぶんって・・・・お前なあ、本当にそうだったら、廃棄処分じゃないか!」

「・・・・・だろうな。」

「お、お前、怖くないのか? 動けなくなるんだぞ!! お前、A.I.搭載してない

のか?!」

他人事のように答えるサンジに、ウソップは怪訝そうにそう言った。

「・・・・・・わかってるよ、十分に・・・。 一応な、最新型のアンドロイドだぜ?俺

は・・・。」

「なら!! 最新式ならセキュリティーは万全の筈! 人間に絶対に暴力振るう事なん

か出来ないはずだろ!!」

「・・・・・普通は、な・・・。」

「なら・・・!!」

「ククク・・・・・それがさ・・・。 俺、変なんだよな・・・。 制御.が利かねえんだ、たま

に・・・。 ピシンピシン、身体の中で音がしてさ・・・・・ここが、苦しくなるんだ。」

サンジは、ウソップの言葉にそう言って、胸に手を置く。

「胸が、か? ・・・・・・・・なあ、それって、昔からか?」

「・・・・・・いや? ゾロに・・・・あ、ゾロってのは、今の俺のご主人様だ。 ゾロに逢っ

てからだ。 ゾロはな、変わった奴で、自分のこと名前で呼べって言って・・・・俺の服

なんか買おうとしてくれたり、俺の事、好きだって・・・・・・・・・あれ?? 参ったなぁ

・・・・・・また、オイル漏れか・・・?」

サンジはそう言って、蒼い瞳から流れる液体を拭った。

「・・・・・擬似マインド・・・・・」

ウソップは、真っ青になってボソリとそう呟く。

「んあ? どうした?顔色悪いぜ?」

「・・・・いや、さっき、俺の中に重要なプログラミングが保管してあるといったよな・・・。 

それが・・・・・擬似マインド・・・。 つまり、A.I.を更に進化させたものなんだ。 人間の

ように自分で考え行動する・・・・単に命令だけではなく、自分の感情を踏まえたうえ

で・・・。 確かに、そうすれば、いざという時、命令を受けなくても、自分で最善の処理

が出来るわけだけど・・・。 俺のご主人様は、それは危険だとも言っていた。 感情を

コンピュータで制御など出来ないと・・・。 だから、作った擬似マインドプログラミングを

俺の中に埋め込んで、政府に渡さなかった。 それが、反社会主義と烙印を押される

結果になってしまった。 ・・・・・・・俺だけか、と思ってたんだがな・・・擬似マインドを

持つアンドロイドは・・・。 へへ・・、その瞳から流れる液体は、オイル漏れなんかじゃ

ない。 涙、と言われるものだ。 感情が制御できない時にそれを表すよう流れ出る。 

嬉しい時・・・悲しい時・・・そして・・・辛い時・・・それは、A.I.じゃ感知できない感情を

抱いた時・・・・」

ウソップはそう説明して、サンジを見つめた。

「・・・・・・・ゾロは、それを愛だと言ってた。 『愛してる』と・・・。 俺は・・・・・人間じゃ

ねえのに・・・・・それでも、ゾロは、愛してるって言ってくれた。 俺は、それで十分。 

このまま廃棄されても、俺の中のゾロはいなくならねえ。 絶対に・・・誰にもわからね

えようにしてあるんだ。」

サンジはそう言って、幸せそうに微笑んだ。

その笑顔を見て、ウソップは、ある決心をする。




アンドロイドだって・・・・・・幸せになって、何が悪い・・・。

こいつには・・・・・ちゃんと相手がいるんだ。

・・・・・・・そうだよな・・・教授・・・。




「・・・・・サンジ。 お前、ここにいちゃいけない。 ここは・・・・・修理工場。 廃棄工場

なんかじゃない。 言ってる意味、わかるか? お前、このままここにいたら・・・・・・そ

の擬似マインドまで取り上げられてただのアンドロイドになっちまう。 その幸せな記憶

さえ、取り上げられてしまうんだ!」

ウソップの言葉が、サンジに突き刺さる。




ゾロが・・・・・・消える・・・?

俺の中から・・・・・・ゾロが・・・・消える・・・。




そう思うだけで、身体中がショートしそうになる。

ピシンピシンと金属音が・・・・・・・・止まない。

「!・・・・・嘘・・・!! ・・・・・・嫌だ。 それだけは・・・・そんなことなら、廃棄された

方がマシだ!! けど・・・・・・・・・・今更、どうしようもねえ・・・よ・・・。」

ウソップの言葉に、サンジはそう言ってがっくりと膝を崩した。

「チッチッ・・。 諦めるのは、まだ早い。 少し、いや、かなりヤバいけど、逃げられる

可能性はある。 お前が、その気なら、俺が手引きしてやる。」

ウソップは、腕組をしてサンジに明るくそう伝える。

「ウソップ・・・・てめえ、なんでそこまで俺に・・・?」

「ばぁか、俺の擬似マインドが俺にそうしろと言ってるんだ。 理由なんかそれで十分。 

だてに、教授の下で工作員してたわけじゃない。 さっ、どうするんだ?」

「・・・・・・よろしく、頼む・・・。」

サンジはそう言って、ウソップに手を差し伸べた。

「じ、実は、俺も、改修されるのは、真っ平だったんだ。 俺、今の自分結構気に入って

るし・・・・・教授の事は、忘れたくないから・・・。 だから・・・・・必ず逃げ切るぞ!サン

ジ。」

ウソップは、照れくさそうにそう言って、サンジの手を握り返す。

「クク・・・。大丈夫か?てめえ・・・膝、震えてるぜ・・?」

「う、うるせーっ!! 初めてこんな大それた事するんだ。 ビビるのは当然だろ!! 

俺は、小心者なんだ!!」

苦笑するサンジの横で、ウソップは、ガクガクとする膝を押さえながら、そう言って笑った。








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<コメント>

ご、ごめんなさい〜!!
まだ終われない・・。(泣)
タイトルの『As If...』は、『まるで、...みたいに』って言う意味。
A.I.にかけてみました。 最後までタイトルに悩んだんだよね・・・。(^_^;)
ウソップ、良い人でしょ??
もう少し・・・・次でなんとか、終わらせ・・・たい。(蹴)
脱兎!