As If...


その5.



 




「・・・・・・・はぁ・・・・・なんかもう・・・・・・・疲れた。」

サンジは、そう呟いて、壁に寄りかかり腰を下ろす。

ゾロの家から、何処をどうやって歩いてきたのかさえ、サンジは覚えていなかった。

ただ、もう、そこが・・・ゾロの家が自分の居場所じゃなくなったのを感じて、あてもなくふらふら

と歩き続けていたのだ。




・・・・・・・・・・おかしい。

アンドロイドの俺が、疲れるなんて・・・・。

ああ、そうか・・・・・。

エネルギー・・・・・切れ掛かってんだな・・・。




サンジは、そっと胸ポケットに手を伸ばす。

しかし、ポケットの中には、使用済みのが一つ。

「チッ・・・。 なんだ、チャージ切れか。 ククク・・・・せっかく、逃げてきたのに、これじ

ゃあ、何にもならねえな。」

サンジはそう呟いて、使用済みのそれを口に銜える。

エネルギー補給には役に立たないが、そうやってるだけで、穏やかな気分になっていく。

不意に、以前、ゾロが聞かせてくれた歌を思い出した。



空を見上げれば・・・・ ひとり・・・・

がむしゃらな 情熱が 笑うよ・・・

You're gone いつまでも 歌い続ける声は・・・・・

どこまで届くだろう・・・・・

・・・・・・・君に 逢いたい・・・・



あの時聞いたときは、寂しくて、好きになれなかった。

それは・・・・・・・ゾロが、くいなを想って歌っていたのがわかったから・・・。

「・・・・・・今なら・・・・わかるな。 てめえがなんでこの歌詞が好きなのか・・・。」

サンジはそう苦笑して、その歌詞を口ずさむ。

はらはらと、涙が、止まらなかった。

「まっ、記憶を消されてこき使われるより・・・・このまま、終わる方が幸せだよな・・・? 

ゾロにも、逢えたし・・・・・なっ?ゾロ・・・。 俺、ずっと覚えててやるからな・・・。」

サンジは、片膝を立て、小さな声で歌い続ける。

ゾロが好きだと言ったその歌を・・・・。









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家に戻ってきたゾロは、サンジの帰りを待ちわびて、なかなか落ち着かない。

「俺、ちょっと外見てくる!」

ゾロは、たしぎにそう言うと、家の周りをうろついた。

そんな中、ふと、道端の隅にあるものを見つける。

それは、煙草型のエネルギーチャージャー。

まだ、使い切っていないそれは、夕日に反射してゾロの瞳に留まったのだ。

「・・・・・サンジが、来てた・・・・。 ここまで、サンジが来ていた。・・・!!」

ゾロは、それを掴むと大急ぎで家に戻った。

「俺、探してくるから・・・!!」

ゾロはそれだけたしぎに伝えると、また家を飛び出していった。

「・・・・・・・本当に、凄い行動力ですね、ロロノアさんって。 けど、そこまで想われる

のって・・・・羨ましい気がしますね・・・くいなさん・・・。」

たしぎは、ゾロの素早さに呆気に取られながらも、モニターの上のくいなのホログラムにそう言

って微笑んだ。










・・・・・・・・サンジ・・・・サンジ・・・・・。

何処だ・・・・・何故、俺の傍に戻って来ない・・・?

俺・・・・・ずっと・・・

ずっと・・・・探してたのに・・・・

探して・・・・探し回って・・・・・見つからなくて・・・・・・

それでも・・・・・・・諦めきれずに・・・・・

サンジ・・・・・・何処にいる・・・?




「サンジーーーッ!! 何処だーーーッ!!」

ゾロは、必死でサンジを捜し回り、路地裏の治安の悪い地区に足を踏み入れた。

滅多に外界から人の来ないその地区の住人は、物珍しそうに、ゾロを遠巻きに見つめてい

る。

隙あらば、身包み剥ごうかと目論んだ表情のぎらついた視線。

しかし、ゾロはそんなことに構う余裕もなく、サンジを捜し歩いた。

「・・・・よう、そこの兄ちゃん。 すまねえが、俺達になんか恵んでくれよ。」

ぎらぎらした視線同様、刃物をちらつかせ、数人の男達が、そう言いながらゾロに近づいてく

る。

「悪いが、他を当たってくれ。 俺は、今、忙しいんだ・・・。」

ゾロは、そう言い返して、その脇をすり抜けようとした。

「ちょっと、待てよ、兄ちゃん。 そりゃ、つれないぜ・・・?」

そう言って、周りにいた連中が、ゾロを取り囲む。

「・・・・・怪我したくなかったら、そこを退け!!」

ゾロは、周りの連中をそう一喝した。

「う、うるせえ!! やっちまおうぜ!!」

男達は、ゾロの迫力に気圧され一瞬怯んだが、所詮一人と高をくくり、ゾロに襲い掛かってき

た。

「チッ・・・。」

ゾロは、軽く舌打ちををして、掛かってきた連中をなぎ払っていく。

ゾロの強さに、男達に焦りと緊張が走る。

「GV・・・・出番だ。」

不意に、野太い声がしたかと思った次の瞬間、ゾロの前にアンドロイドが現れた。

そのアンドロイドは、プロトタイプと言われる一見して軍事用とみられるものだった。

「・・・・・・やれ・・。」

その一帯を治めているボスらしき男が、そうアンドロイドに命令を下す。

アンドロイドは、目にも留まらない素早さで、ゾロを壁に追い込んだ。

生身のゾロでは、如何せん軍事用のアンドロイドに敵う訳がない。




・・・・・・クソッ・・・。

絶対に、この近くにサンジはいるはずなのに・・・・

サンジ・・・・・サンジ・・・・・・

俺、お前に逢えないのか・・・・・サンジ・・・・




ゾロが、圧倒的な力の前になすすべもなく膝を地面につけた時、聞き覚えのある歌が聞こえ

てきた。

それは、サンジが、こっちの方が明るくて好きだと言った曲・・・。




シンパイナイモンダイナイ・・・・・ザッツライフイッツオーライ・・・




「・・・・・なにしてんだよ、こんなとこで。 なんかA.I.がやたら、反応するから来てみた

ら・・・俺のご主人様は、大ピンチじゃねえか。 しょうがねえご主人様だな・・・?」

その声の主は、そう言ってゾロの前に立つ。

「・・・・・サンジ・・・・?」

「・・・・・・アンドロイドの相手は、同じアンドロイドの俺じゃなくちゃつりあわねえよな、

やっぱ。 おい、ゾロ。 てめえ動けるなら、そっちのご主人様のお相手してやったらど

うだ?」

感動の再会どころか、サンジはそう言ってにやりと笑った。




・・・・・・・そう。

これが・・・・・・サンジだ。

やっと、戻ってきた・・・・・・・・俺の・・・・・サンジ・・・。




「・・・・そうだな。 やられっぱなしじゃ、洒落にならないし・・・。 それより早く片付け

てお前と家に帰りたいしな・・・。」

ゾロは、苦笑して立ち上がると、近くにあった手ごろな棒を手に取り、ボスの方に歩いていく。

「何をしている!!GV!! さっさとこいつを片付けちまえ!!」

その男に命令され、アンドロイドは、ゾロに照準をあわせ飛びかかろうとする。

「てめえの相手は、俺なんだよ!!」

サンジは、そう叫んで、そのアンドロイドの首に渾身の蹴りを見舞った。

グシャッ!! バチバチッ!!!

回路の千切れる音と共に、アンドロイドの身体が、地面に伏す。

「ぐわあぁ・・・!!」

ほぼ同時に、ゾロの剣技がボスらしき男の腹に決まった。

「「うっし!! 終わり!!」」

サンジとゾロは、そう言って互いに歩み寄る。

「・・・・・・サンジ・・・」

「・・・・・・ゾロ・・・」

そうにこやかにお互いの名を呼び合い抱き合おうとしたその時、サンジの膝が地面に崩れ

た。

「サンジーッ!!」

ゾロは慌てて、倒れたサンジの身体を抱き寄せる。

「・・・・・わりい、ゾロ・・・。 俺・・・・もう、限界過ぎてんだ・・・。 せっかく逢えたの

に・・・・ごめんな・・・。」

ストンと、ゾロの頬に伸ばされていたサンジの腕が地面に落ちた。

さっきまで開いていた蒼い瞳がゆっくりと閉じていく。

「おい!! サンジ!! サンジ!!嘘だろ!! おい!!瞳開けろよ!! 

なあ!! おいって!! お前まで逝くなよ!! アンドロイドだろ?お前!! 

なあ、瞳開けろよ!! ご主人様が命令してんだぞ!! 起きろ!!」

ゾロはそう叫んで、激しくサンジの身体を揺さぶった。

しかし、サンジは、何の反応も示さない。

「・・・・・・・サンジ、ほら、家に・・・・・帰るぞ・・・。」

ゾロは、何の反応もないサンジの身体を抱えると、家に向かって歩き出した。






・・・・・・ここは・・・・・・何処・・・?

俺は・・・・・・・・なんで、こんなところに・・・?

ゾロ・・・・・ゾロ・・・・・

・・・・・・ガー・・ガガーッ・・・・・・・・・・・・。

ゾロッテ・・・・・・・・・・・・・ダレダ・・・?

ダレカ・・・・・・・オシエテ・・・・・・?







『サンジ・・・・サンジ・・・・俺はここだ。 サンジ・・・・愛してる。』

・・・・・そう・・・・・ゾロ・・・だ。

ゾロ・・・・・ゾロ・・・・・俺も・・・・

・・・・・・・・・・愛してる。

忘れねえ・・・・絶対に・・・・

たとえ、壊れても・・・・・・忘れねえ・・・。




サンジは、手に触れる温かさにフッと瞳を開ける。

「サンジ!! 気が付いたのか? 良かった・・・本当に・・・もうダメなのかと・・・。」

そこには、今にも泣きそうなゾロの姿・・・。




確かに、あの時、俺のエネルギーはとっくに切れていて・・・

ストックも全然なくて・・・・動けなかった。

それでも、ゾロの声が聞こえたから・・・・

ゾロが俺の名を呼ぶのが聞こえたから・・・・

そしたら・・・・・身体が動いた。

動くようなエネルギーはもう無かったのに・・・・

それでも、俺は、助けたかった・・・・。

ゾロが・・・・・俺を呼んでたから・・・・。




「・・・・・・ゾロ・・・? 俺・・・・・」

サンジは身体をベッドから起こすと、自分の手をしっかりと握って離さないゾロの手を見つめ、

首をかしげた。

「本当に、初め、びっくりしたのよ。 ロロノアさんが、『サンジが死んだ。』なんて言っ

て部屋に運び込んできたから・・・。 私、サンジさんがアンドロイドだって聞いてたか

ら、本当、壊れちゃったのかってそう思って、専門家呼んで修理して貰おうっと思った

ら・・・・・なんだ、ただのエネルギー切れなんだもの。 貰い泣きして損した気分。」

たしぎがゾロの隣りでそう言って笑う。

「・・・・そう言ってもなぁ・・・。 全然無反応だったし・・・全身傷だらけで、ボロボロだっ

たし・・・。 俺の中では、サンジはアンドロイドじゃなくて・・・・てっきり俺・・・・。」

ゾロは、ばつが悪そうにそう言って頭を掻いた。

「ばぁか・・・。 俺は、最新式のアンドロイドだぜ? そう簡単に壊れて堪るかよ。 

それに、見たかよ? あのプロトタイプのアーミーアンドロイドを一撃だぞ、一撃。 

あ・・・・・・・そう言えば、俺・・・・・殺人・・・・」

サンジは、前の事件を思い出して、そう言って言葉を詰まらせる。

「あ、あれね・・。 あれは、殺人じゃないわよ。 あれも、アンドロイドだったから。」

「けど、血が!! それに骨の砕ける音も・・・」

「あれはね・・・・アンドロイド隠しなのよ。 違法なやり方よ。 自分がアンドロイドだと

ばれないように人工的に人間の様に見せかけた奴。 今現在、アンドロイドには、色々

な制約が設けられているでしょ? それを嫌ってね・・・・裏で人間に成りすまして悪事

を働く奴がいるらしいの。 あまり世間には知られてないらしいけど。」

悲痛な表情を浮かべるサンジに、たしぎはそう説明をした。

サンジの表情に安堵の色が浮かぶ。

しかし、すぐにまたサンジは暗い表情をした。

「・・・・・そう。 けど、俺が脱走した事実は消えない・・・。」

「あら?どうして? 罪が無いのにあんなところに送る警察の方が悪いのよ。 いくら

アンドロイドだからって、ろくに調べもしないで送致するなんて・・・父に頼んで厳重に

抗議してやったわ。 それに・・・・・貴方の後見は、ロロノアさんが、引き受けてるし。 

ねぇ、知ってた? 今度の連邦会議で、アンドロイドにも人間と同じ市民権が与えられ

るそうよ。 但し、A.I.装備で、一生後見してくれる人がついてなきゃダメだそうだけ

ど・・・。 ウフフ・・・。 サンジさん、この分じゃ、その市民権与えられる最初の一人に

なりそうね。」

たしぎはそう言って、満面の笑みでサンジを見る。

そこに、たしぎの持つ携帯から、声が聞こえた。

「たしぎ! 何処にいるんだよ!! 今、何時だと思ってる!!」

「ヒャッ!! あっ、スモーカーさん・・・。 いけない!! わたし、待ち合わせしてたん

だ!! ごめんなさい!! すぐに行きますから!! ロロノアさん、じゃあそういうこ

とで・・・さようなら、サンジさん。 またお邪魔させて頂きますから・・・・。」

たしぎはそう言うと、慌てて家を飛び出していく。

「色々とありがとう、たしぎさん。 後でちゃんとお礼をしに伺いますから・・・。」

サンジはそう言って、たしぎの後姿に頭を下げた。

「はぁ・・・・やれやれだな。 けど・・・・・良かった。 サンジ・・・・・お帰り・・・。」

ゾロはそう言って、サンジの身体を抱きしめる。




ゾロが・・・・・お帰りって・・・・・

お帰りって・・・・・・言ってくれた・・・。




「・・・・・ただいま、ゾロ・・・。 俺、ここにいても・・・・・良いんだな・・・。」

サンジもそう返事して、ゾロを抱きしめ返した。

「当然だろ・・・? ずっと捜したんだからな・・・ずっと・・・。 ところで、サンジ。 安心

したら、腹減ってきた。 起きたばっかで悪いんだけど、飯作ってくれないか?」

「あん? また飯か? てめえ、俺が初めてここに来た時もそう言って・・・・しゃーねー

な。 今、作ってやるよ、ご主人様。」

サンジは、そう言って笑うと、キッチンに立ち、冷蔵庫を開ける。

「・・・・・・・・ゾロ。 てめえ、やっぱ、人間じゃねえだろ・・・。」

「あ? ・・・・・あ、そうだ、いけね・・。 買い物・・・全然してなかった。」

サンジの呆れたような視線に、ゾロはそう言って頭を掻いた。

「本当に、てめえって・・・・・・うっし!! ほら、行くぞ、スーパー!! 久しぶりだか

ら、とことん買いまくるぜ!」

「ハイハイ・・・程々にしてくれよ。 俺、破産するぞ、マジで・・・。」

サンジの嬉しそうな声に、ゾロはそう返事して手を繋ぐ。

グッと握り締められた指の力強さに、サンジの頬に赤みが差した。

「あ、買い物ついでによ・・・・・・俺の服・・・・・買っても良いか・・?」

サンジは、小さな声でゾロにそう呟いてみる。

ゾロは一瞬、ボーっとして、それから優しく微笑んだ。

「ああ、じゃあ、この前の続きから、仕切り直しだ。 買い物は、その後だな。」

ゾロはそう返事して、サンジの手を引っ張って、街に向かった。







「なぁ、ゾロ・・・。 俺さ、ゾロには黙ってたけど・・・・出来んだ・・・アレ・・・。」

サンジが、こっそりとそうゾロに耳打ちしたのは、その日の夜。

意味がわからずきょとんとしてサンジを見つめるゾロに、サンジは、あるものを差し出した。

「コレ・・・。 つ、つけねえと、錆びるからな!!」

真っ赤な顔でそう言って俯いたサンジに、ゾロは、やっと理解する。

「・・・・なに、にやついてんだよ!! しねえならしなくていいんだからな!」

「いや、聞いたら、もう無理。」

ゾロは、その箱を手に取ると、もう片方の手でサンジの身体を引き寄せる。

「・・・・・お前で、本当に良かった・・・。」

「・・・・・俺も・・・。」

そう言って、倒れこむようにベッドに横たわる二人・・・。

それから・・・・・・・箱の中身は、そのまま、その日のうちに使われることになった。








半年後・・・。

ゾロの家では、ささやかなパーティーが開かれた。

記念すべき市民権獲得第一号のお祝いと称して・・・。

「お、俺だって・・・・市民権、お前と一緒に貰ったんだからな!! 俺も祝ってく

れ!!」

半年振りに再会したウソップがそう言って、乾杯の音頭を取る。

そこには・・・・・・・・・・もうアンドロイドと人間という区別はない。

互いに信頼と友情と気心の知れた仲間だけの・・・

温かな笑い声が、いつまでも聞こえていた。




We were born to fall in love...







<END>



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<コメント>

・・・・・・・こちらは、『A.I.ゾロサンバージョン』のはず・・・。(笑)
やっと終わったのですが・・・なんとなく終わり方が・・・。(泣)
もっと話を掘り下げようかとも思ったんだけど、これ以上長いのは、ね・・・。(;一_一)
ごめんね〜、ももぬいさん。
本当はね、もっと違うのも考えてたんだけど・・・。
ああ、玉砕☆
尻尾巻いてとっとと退場しますです・・・。