As If...


その2.



 




「・・・・・・なぁ、ゾロ。 この人って・・・・さっき言ってた、くいなさんって人か・・?」

食事も済んで、サンジがモニターの上のホログラムに気付き、そうゾロに尋ねる。

「あ、ああ・・・・・そうだ。 俺の・・・・嫁さん・・・。」

ゾロはそう言って、ホログラムを手に取った。

とても大事そうに、優しい瞳でそれを見つめるゾロの視線に、サンジの中で、またピシンと金

属音がした。

「嫁さん? じゃあ、どうして俺を・・・?」

「ん・・・・・死んだんだ。 ・・・・・・一月前に、事故で・・・・。」

ゾロはそう言うと、ホログラムを元に戻して、寂しそうに笑う。

「あ・・・・・わりい。 俺、変な事聞いて・・・・・。 ごめんな、ゾロ・・・。」

サンジはそう言って、気まずそうな顔をした。

「・・・・もう良いんだ。 どうやっても、時間は戻らないし・・・。 こいつが還ってくる訳で

もないから。 ・・・・・気にするな。」

ゾロは、ポンとサンジの頭を軽く叩き、MDをONにする。

聞いたことの無い音楽がサンジの耳に届いた。

「・・・・・いい歌だな。 けど・・・・・聞いたことの無い歌だ・・・。」

「ああ、これは・・・・ずっと昔の歌だ。 20世紀の頃の・・・・。 俺、この歌詞が好き

で・・・・ずっと聞いてた。」

ゾロはそう言ってフレーズを口ずさむ。



いつかいなくなるような そんな気がしてたけど・・・・

時代がまわり また君を見つけるだろう・・・・・

・・・・・・・・・・・・今 君に 逢いたい・・・・・



ゾロの歌った歌は、なんだかとても寂しくて、サンジは、好きになれなかった。

「俺、聞くなら、もっと明るい歌が良いな。 もっと明るい歌にしようぜ?」

サンジはそう言うと、ポップなサウンドに変えてしまう。

「ククク・・・、そうだな。 お前には、似合わないな、あの歌は・・・。」

ゾロは、そう言ってサンジを見て苦笑した。











それから暫くして、ゾロは、会社に行く様になった。

毎週、これでもかと言うほどの買い物をするサンジがいる為に、必然的にそうなったのだ。

金は天下の回り物・・・決して一所には留まらず、である。

くいなを喪ってから、外出するのも億劫だったゾロは、自分の心境の変わり方に驚く。

サンジが来てからというもの、どうにもサンジのペースで生活している自分がいる。

これでは、どちらがご主人様かわかったものではない。

しかし、それはそれでなんとも離しがたい居心地のよさを感じているのも事実だった。

そして、なにより、くいなを喪った喪失感が、ゾロの心から薄れ始めていた。

その小気味良い動きと同様、サンジは、ゾロの心の空白をいつの間にか埋め始めていた。

「・・・・・なぁ。 お前、ここに来てからずっと同じ服だろ。 今日、給料日だし、会社終

わった後にでも買いに行くか?」

いつもの様に朝食を食べながら、ゾロはサンジにそう言った。

「えっ?! あ、でも、俺、アンドロイドだし・・・・・それに・・・・。」

サンジは一瞬、きょとんとした顔をして、そう言って俯く。

「なんだ、要らないのか?」

「要らないとは言ってねえだろ! でも、なんだ、その・・・・・俺は、アンドロイドで・・・

そんな気を使って貰うほどの・・・・」

「なに遠慮してんだよ。 毎週あれだけ食材を買い込む癖に、自分の事となると殊勝だ

な、お前って・・・。」

ゾロは、そんなサンジの態度に、こみあげる笑いを噛み殺しながらそう言う。

日頃は生意気で横柄な口ばかりなのに、いざ、自分の事となると途端に消極的になる。

してやる分には良いらしいのだが、アンドロイド故に自分が何かをされる側になると人工知能

も戸惑いを隠せないらしい。

「だって・・・・・・俺の服装にまで気を使った奴・・・・今までいなかったし・・・・。 俺の

対処データには、そんなの載ってない・・・から・・・・・。」

頬をやや上気させ、そう言って口を尖らせるサンジに、ゾロは笑顔でこう言った。

「じゃあ、問題ないな。 今日の夕食は外で済まそう。 お前、少しなら人間の食事も

出来るってそう言ってたよな・・?」

「・・・・・・・・・・あ、ああ・・・・・食べれる・・・・・・大丈夫・・・。」

ピンッとまた何処かで金属の弾ける音が、サンジには聞こえた。

















「・・・・・・ゾロ、遅えよ。 一体いつになったら来るんだよ。 ったく・・・。」

サンジは、待ち合わせの場所で時計を見ながら、あたりを見渡す。

しかし、ゾロの姿は一向に現れない。

「・・・・・もしかしたら、何かあったのかもしれねえ。 連絡してみるか・・・・。」

サンジはそう呟いて、近くの公衆モニターまで歩き始めた。

「あれぇ〜・・・? ありゃりゃ? お前、サミーじゃないのか? BBにいたサミーだろ、

お前・・・?」

サンジは、その言葉にぎくりとなって、声の方を振り向く。

その声の主は、以前の風俗で働いていた頃の客の一人・・・。

消去したくても消せないデータの一つ。

「あ〜、やっぱし、サミーだ。 こんなとこでなにしてんだ、お前・・・? お前がうろつい

ていい場所じゃないだろ、ここは。」

その男は卑下た笑いをしながら、そう言ってサンジに近づいて来た。

「・・・・・人違いだ。 俺は、サミーという名前じゃねえ。」

サンジは、その男を一瞥するとそう言ってまたモニターに歩き出す。

「なに知らんぷりしてんだよ。 俺が、お前をわからないわけないだろ・・?まっ、いい。 

ヘッ、俺さ、お前の身体が忘れられなくてさ・・・相手してくれると嬉しいんだけど

な・・・。」

その男はそう言って、サンジの肩に手を置いた。

ざわざわと、身体中が嫌悪感で満ちてくる。

A.I.が・・・・・・感知できない。

サンジの中で、また金属が弾ける音がする。

ぽとりと、地面に水滴が落ちた。

「俺に触るな!!」

サンジはそう言うと、男の顔面めがけて蹴りを放つ。

グシャッと何かがひしゃげた音と共に、男の身体が、宙に舞った。

地面に叩きつけられた男は、頭から血を流し、ぴくりとも動かない。

突然起こった暴力事件に、周りが騒然と騒ぎ出す。

遥か後方にサイレンの鳴る音が聞こえる。

サンジは、自分が何をしたのかさえわからずに、ただ呆然とその場に立ち竦んでいた。

「おい! 何してんだよ! 行くぞ!!」

急にサンジは背中を押され、その声の主を見る。

「ゾロ・・・・。 俺・・・・・俺・・・・・。」

「言いたい事は後で聞く! それよりも、早くここから去るんだ。」

ゾロは、うろたえるサンジの腕を掴んで、その場から急いで立ち去った。

「とりあえず、どっか落ち着ける場所に・・・。」

ゾロはそう言って適当にホテルをとり、サンジと共に、部屋に入った。

「・・・・・一体何があったんだ?」

ゾロは、部屋に鍵をかけ、サンジのほうを向き直してそう尋ねる。

「ゾロ・・・・・俺・・・・・・人・・・・・蹴った。 人・・・・・殺した・・・・。」

サンジは、虚ろな表情のまま、ゾロにそう告げる。

「なんで? お前は理由もなくそんな事する奴じゃない! 何があったんだ?」

再度、ゾロはサンジの腕をとってそう聞くが、サンジは、俯いたまま首を横に振るだけだった。

「お前、わかってんのか?! アンドロイドが人間を殺したら・・・・・廃棄処分されんだ

ぞ!!」

頑なにその理由を話そうとしないサンジに、いらただしげにそう言って壁を叩く。




・・・・・・ゾロにだけは・・・・知られたくねえ・・・。




ピシンとサンジの中でまた金属音がした。

「・・・・・ごめん、ゾロ・・・・。 俺、警察に行く。 もう逢えなくなるけど・・・・・少しの間

だったけど・・・・・・楽しかったぜ。 俺、初めてで・・・・・こんなに優しくしてもらったの

初めてで・・・・・・ありがとう、ゾロ。 最後のご主人様がゾロで・・・・良かっ・・」

「馬鹿! なに言ってんだよ!! 俺は、お前のご主人様だなんて一度も思ったことな

い! お前がいたから・・・・・俺・・・。 今の俺があるのは、お前のおかげなんだ! 

行くなよ! 俺、お前がいないとダメなんだ!!」

ゾロはサンジの言葉を遮り、そう叫ぶ。




・・・・・・・・そう。

いつの間にかそれが日常になっていた。

くいなの事を思い出す事も・・・・・

モニターの上のくいなのホログラムに触れることもなく・・・

ただ、サンジと過ごした・・・・・・・・小気味よい時間・・・居心地良い空間。

それを失くす事なんか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺には出来ない。




「・・・・・・行くな。 俺と一緒に逃げよう。」

ゾロは、決意と共にサンジの身体を抱きしめる。

パシンっとサンジの中で鈍い金属音がした。

「なにを・・・? ゾロ、何を言って・・・ん・・・だ? 俺は、ただのアンドロイド。 人間に

使われるロボットだぜ・・? 俺の代わりならいくらでもあるさ。 てめえは、俺に情を移

しただけだ。 なに、次のアンドロイドがくれば、俺のことなんかすぐ忘れるって。」

サンジはそう言って、にこやかに笑う。

「忘れるわけないだろ! 忘れられるなら・・・・・なんで俺は、また・・・こんな感情を抱

いてるんだ・・・? もう絶対にこんな想いに囚われるとこはないと・・・・・そう思ってい

たのに。 くいな以外に、こんな気持ちになれるなんて・・・・。 ・・・・・・愛している。 

お前がアンドロイドだろうと、同じ感情を抱く事がなかろうと、そんな事はどうだってい

い!! 俺は、お前が傍にいれば、それだけでいいんだ。」

ゾロはそう言って、抱きしめる腕に力を増した。

ポトリとゾロの頬に何かが雫す。

「えっ?! な、なんだ? 俺・・・・。」

サンジは、そう言って自分の頬に触れる。

泣く機能は無い筈の蒼い瞳から、透明な雫が次々と湧き出てくる。

「・・・・・・・お前、泣いて・・・?」

「・・・・・はは、ゾロ・・・。 俺、やっぱり、どこかおかしいみたいだ。 ゾロのとこに来て

から・・・・・・・ずっと、変なんだ。 A.I.で感知できねえもんが俺の中で、どんどん膨ら

んでいって・・・・・どんどん制御できなくなってて・・・・・俺、アンドロイドなのに・・・・・

ゾロの事が気になって、気になって・・・。 ・・・・・わりい、俺、壊れちゃってんだ。 

こんなにも、ゾロの言葉が嬉しくて・・・・・俺も・・・・・離れたくないって・・・・そう思い始

めてる・・・。 ご主人様をトラブルに巻き込んじゃいけねえのに・・・。」

サンジは呟くようにそう言うと、そっとゾロの背中に腕を回した。

「・・・・・サンジ・・・・愛してる・・・。」

「ゾロ・・・・・・これが・・・・・そういう事なのか・・・?」

「ああ、それが、愛してるという事・・・。 ちゃんとインプットしとけよ。 俺専用のデータ

としてな。」

ゾロは、サンジにそう囁いて、そっとその唇に口付ける。

サイレンの音がだんだんと近づいてきて・・・暫くして、トントンとドアをノックする音がした。

「すみません、警察の者ですが・・・・」

その声に、ビクッとサンジの身体が震える。

「大丈夫。 絶対に警察なんかにお前を連れて行かせない。 例え、俺がどうなって

も・・・。」

ゾロは、優しくサンジの髪を掻きあげるとそっとサンジから離れてドアの方へ向かう。




タトエ、オレガ、ドウナッテモ・・・・・・。




サンジの中でゾロの言葉が何度もリピートされる。

「ゾロ! ダメだ!!」

サンジは、そう叫ぶと同時に、ゾロの首筋に手刀を当てた。

「ッ・・・・サ・・・・ンジ・・・?」

意外そうにサンジを見つめて、それからゆっくりと床に倒れこむゾロ。

サンジは、そんなゾロをベッドまで優しく運ぶと、そっと口付ける。

「・・・・・ありがとう、ゾロ。 やっぱ、俺、アンドロイドなんだ。 ご主人様を危険には巻

き込めねえよ・・・。」

そう呟いて、サンジは、警察が待つドアに向かっていった。




・・・・・・・・ゾロ、バイバイ・・・・・・

・・・・・・・・オレモ・・・・アイシテル・・・・

・・・・・・・・ワスレナイ・・・・・・・ゼッタイニ・・・・・

・・・・・・・・ドンナニナッテモ・・・・・・ワスレナイ・・・・

・・・・・・・・アイシテル・・・・・・ゾロダケ・・・・・・

・・・・・・・・ココニ・・・・・・・・オイテイク・・・・・








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<コメント>

歌・・・・歌・・・・ゾロが口ずさんだ歌は、ルナが大好きな歌ですvv
わかる方は、わかるね・・・・だいぶ端折ってるけどね。(笑)
その曲名を初め、タイトルにしようかとも思ったんだけど、
それじゃあ、なんか寂しいので、止めました。
ああ、アンドロイドに心が芽生えるのを表現し切れてないね。(;一_一)
・・・・・仕方ないです、これがルナの限界。(笑)
というわけで・・・・・まだまだ続きます。