As If...


その1.
 




・・・・・・ここは・・・・・・何処・・・?

俺は・・・・・・・・なんで、こんなところに・・・?

ゾロ・・・・・ゾロ・・・・・

・・・・・・ガー・・ガガーッ・・・・・・・・・・・・。

ゾロッテ・・・・・・・・・・・・・ダレダ・・・?

ダレカ・・・・・・・オシエテ・・・・・・?







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「・・・・・要らないってそう言っただろう。」

「でもね、貴方一人暮らしなんか出来ないじゃない。 今までだってくいなさんに任せき

りだっだじゃ・・・・・・あ、ごめん、ゾロ・・・・。」

モニターの向こうで、ナミがそう言ってバツが悪そうな顔をした。

「いや、いい。 ・・・・・・本当の事だったしな・・・。」

ゾロは、そう言って寂しそうに笑う。

くいなが、不慮の事故で亡くなってもう一月。

こんなにあっけなく人が死ぬなんて思っても、いなかった。

それも、自分の身内で・・・。

ゾロとくいなは、幼馴染でずっと親しい友人で、いつも一緒だった。

そんな二人が、互いに恋心を抱くのは当然な事と言えば当然で・・・。

そして、周りに祝福され、二人は2年前に結婚した。

それが一月前、一人の子供を車から庇い、くいなはそのまま帰らぬ人となってしまった。





「とにかく、ゾロ。 皆、あんたを心配してるのよ。 早く以前のあんたに戻って欲しい

の。 くいなさんを喪って悲嘆にくれるのはわかるけど・・・。 今日、家政婦のロボット

が届くはずだから、家の事はそのロボットに任せて・・・・・・会社ぐらい顔出しなさい。 

じゃあ、それだけ、切るわよ。」

「あ、おい! ちょっ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・切れた・・・。・・・・・相変わら

ず、おせっかいな奴。」

ナミから一方的にモニターを切られてゾロは、受話器を置いた。

「・・・・・・・そんなに簡単に吹っ切れたら、人間なんかやってないよ・・・・なっ?

・・・・・・・・・・・・・・・そう思うだろ・・・?」

ゾロは、そう呟いてモニターの上で微笑んでいるくいなのホログラムに手を伸ばす。

「ゾロ・・・・大好きv」

ホログラムのくいなはそう言ってゾロに笑いかける。

生前のままの姿で・・・・。

「・・・・・・・・・・・くい・・・・な・・・・。」

ゾロは、ボソリとそう呟いて、心に誓う。




もう二度と、恋などしない。

もう、他の誰も愛することは出来ない。

こんなに・・・・・・・・・・・・・・・愛することなど、できない。




「毎度! ロロノアさん宅は、こちらですか? ご注文の商品、お届けにあがりまし

た!」

玄関のインターホンが、そう言って来客を告げる。

「あ、はい。 今、開けます。」

そう言ってゾロが、玄関のドアを開けると、一人の男が立っていた。

「ロロノアさん宅って、ここですか? ご注文の家政婦アンドロイドの・・・」

「ああ、ロボットね。 さっき話は聞いたから、中に運んでくれるか・・?」

ゾロは、相手の言葉を遮ってそう言うと、そそくさとリビングに戻る。




どうせ使うことなんかない。

ナミには悪いが、部屋の片隅に埃被ってるだけだ。




ゾロに促され、その男はリビングに入ってきた。

「あ? ロボットは? 箱は?」

ゾロは、男が荷物を持ってないのに気が付いて、そう尋ねる。

「だから・・・・・お客さん、ちゃんと人の話は聞いてくださいね。 俺が、その家政婦

アンドロイドなの。 大体、今、何時代だと思ってんの? ロボットなんて製造工場にぐ

らいしか残ってないぜ。 今は、A.I.標準装備のアンドロイドが主流だって言うのに・・。 

あんな単純作業しか出来ないロボットと同じにしちゃ困る。 ちなみに、A.I.ってのは、

automatic・・・っつっても、全然理解できねえって顔してるよな・・・。 まっ、そう言う

事だから、よろしく頼むぜ、新しいご主人様よ。」

その男は、唖然としているゾロにそう言うと、ごそごそとポケットから煙草を取り出した。

黒のスーツに同色のネクタイ、それに青いシャツ。

金色の髪と蒼い瞳、そして色素の薄い肌。

何処をどう見ても、20前後の男にしか見えない・・・人間の・・・。

「お、お前が、ロボット?! どっからみても人間じゃないか。 しかも・・・・煙草吸うの

か?」

煙草になんかこだわってる場合じゃないのに、そう質問するゾロの心境に余裕など全くない。

瞳の前にいる人物が人間じゃなくアンドロイドとか言うロボットだという事自体が信じられなか

ったのだ。

「あ? お客さん、アナログ人間だね・・・? まだいたんだねぇ、こんな奴。 まぁ、俺

は、最新式のアンドロイドだから、見た目は人間と全く同じに作られてるし、感触だっ

て、ほら・・・この通り、人間の肌と同じだろ・・・?」

その男はそう言うと、ゾロを正面から優しく抱きしめる。

「なっ? ・・・・・・・・人間と同じだろ・・・?」

そう言って自分の瞳を見つめるその男の表情に、ゾロは、思わず怯んだ。




この瞳は、危険・・・・・だ・・・・・。




そう何かがゾロの頭の中で告げている。

「ああ、わかったから、もう離れろよ。」

ゾロは、瞳を背けたままそう言うと、その男を押し退けた。

「あ、わりい、わりい。 ・・・・っで、他に聞きたいことは?」

その男は、そう言ってゾロから離れると徐に煙草を口に銜える。

「・・・・・お前に名前ってあるのか? それと・・・・その口調は初めからプログラミング

してあったのか?」

「ああ、名前は・・・・・サンジ。 以前のご主人が付けてくれた。 この口調は・・・・・

・・・・・・・そのご主人のとこで覚えた。 柄は悪いが、色々と教えてくれた・・・。 

そのおかげで、俺は、オールマイティーなアンドロイドになったというわけだが・・・。 

ここに来る前は・・・・・・・・ちょっと汚え家業のとこにいたからな・・・ますます口が悪く

なって・・・。 気になるなら、耳の後ろにリセットボタンが付いている。 それを押せ

ば、自分好みにできるぜ・・・? 俺は、アンドロイドだから、食事は必要ねえ。 

この煙草は、俺のエネルギーチャージという訳だ。 よく出来てるだろ?」

サンジはそう言うと、ゾロの瞳の前に煙草を突きつけた。

よくみてみると、一見煙草に見えるが、ちゃんとした器具らしい。

「・・・・・・よくわかった。 リセットなら必要ない。 お前がどんな奴でも関係ないし。 

っで、何ができるんだ?」

「あ? おいおい・・・ご主人様よ・・・俺、さっき言わなかったか? 俺は、オールマイ

ティーだって。 家事・料理全般、用心棒、その他・・・。 なんでもご要望にお応えしま

すよ、ご主人様・・?」

ゾロの言葉に、サンジはそう言ってにやりと笑う。

【ご主人様】と敬った言い方はしているが、その態度は人を小馬鹿にしたようで、ゾロは、いさ

さかムッとした。

「ご主人様って言うな。 ゾロでいい、ゾロで。 それと・・・・・来た早々で悪いが、なん

か適当に作ってくれないか? 少し、腹が空いてきた。」

ゾロはそう言うと、どかりとソファーに腰を下ろす。

「了解! ゾロ!」

サンジはそう返事して、キッチンに向かう。




そう言えば・・・・・・・最後に食べたのは、なんだっただろう・・・?




久しぶりの空腹感に、ゾロはふと、キッチンを見た。

そこには、冷蔵庫の中を覗き込んで首を傾げるアンドロイド・・・・サンジの姿。

こうやってじっと見ていても、その仕草といい、表情といい、生きている人間となんら変わりを

見出せない。

そして・・・・・・・抱きしめられた時のあの感触と体温は、人間のそれと全く同じで・・・・。

息遣いでさえ、区別がつかなかった。

ゾロが怯んだのは、あの瞳だけのせいじゃない。

あまりにもリアルな人肌のぬくもりに・・・・・触れたせいでもあった。




・・・・・・・・・一月ぶりに・・・・・・・触れた・・・・・・・人の・・・・・・・・感触・・・・・・・




ゾロは、じっとサンジの姿を瞳で追っていた。

その視線に気が付いたのか、サンジは、不意にゾロの方を見る。

ゾロは慌てて、視線をテレビのモニターに移した。

「なぁ、ゾロ・・・。 てめえ、人間だよな・・?」

サンジは、怪訝そうな顔つきでゾロにそう聞く。

「ああ、当然だろ。 なんで、だ?」

「だってよ・・・・・・・食いもんが何処にも見当たらねえんだけど・・・。」

ゾロの言葉にそう返事したサンジは、手を広げ、お手上げのアクションを起こした。




あ・・・・・・・・・・・そう言えば、そうだった。




「あ、悪い。 買い物、最近全然してなかった。 あ、いいよ、なんか頼むから。」

ゾロはそう言って、受話器を握る。

「あ、もしもし・・・」

ゾロがそう言い掛けた時、スッとサンジが電波を遮断してゾロから受話器を取り上げた。

「・・・・・ゾロ。 俺は、一体何の為にここにいるんだ? なけりゃ、買いに行けば良い

だろが! ほら、わかったら、さっさと出掛けるぞ。 ついでに一週間分、な。」

サンジは、受話器を置くと、そう言ってゾロの腕を掴み玄関に向かう。

「お、おい! ちょ、ちょっと・・・・!!」

「いいから、いいから・・・・。」

慌てて制しようとしたゾロをサンジは気にも留めず、近くのスーパーに入っていった。

久しぶりのスーパーは、活気に満ち溢れていた。

ゾロの心に一月前までの幸せな情景が浮かび上がる。

くいなと共にいた・・・・・・・・幸せな・・・・・日々・・・。

休みの度に、このスーパーに来ては、一週間分の食材と日用品を抱えきれないぐらい両手に

持って・・・その左腕には、温かなぬくもり。

くいなの笑顔と・・・・・・温かなぬくもりが、そこにはあった。

・・・・・・・・・・一月前までは・・・・・確かに。

ズキンと心臓が痛み出す。

頭が、殴られたように痛い。

ゾロは思わず、そこにしゃがみこんでしまう。




・・・・・・・・・息が・・・・・・できない・・・・・・。




もう平気だと思っていた。

もう乗り越えたはずだと・・・・・ゾロは思っていた。

大切な人を失ったショックは、もう乗り越えていると・・・・。

だが、現実にそのことを思い知らされると、自分は息さえも満足に出来ないほど、身体と心は

悲鳴をあげていた事に、ゾロは愕然とする。

何とか逃れようと必死でもがくゾロをあざ笑うかのように息苦しさは強くなっていく。

瞳の前の景色でさえ薄れ始めて・・・・・・・・

「ゾロ!!」

不意に自分の名前を呼び声が聞こえた。

「ゾロ!! おい!大丈夫か?」

左腕に、温かな感触がする。

「・・・・・・・もう大丈夫だから・・・・。」

ふわっと頭に温かな手の感触を感じた。

自分を抱きしめる懐かしい温かさに、ゾロはやっと息を整える事が出来た。

「・・・・くいな・・・・ありがとう・・・。」

無意識にそう言葉を掛けて立ち上がる。

それから、その人物に瞳を移した。

「・・・・・・残念だったな、くいなって人じゃなくて・・。 けど、ゾロ、大丈夫か? 

なんなら、家に戻ってるか? てめえ用の食事だから、てめえの好きな食材をと思って

連れてきたんだが・・・・顔色悪そうだし。 適当で良いなら、俺一人で買い物するか

ら。」

サンジはそう言って、ゾロから身体を離す。

ゾロの左腕からぬくもりが消えた。

「・・・・・・いや、もう、大丈夫だ。 お前が俺を支えてくれてたのか? ありがとう・・。」

ゾロはそう言って頭を下げる。

「あ? いや、いいって! 俺は優秀なアンドロイドだから、ちゃんとご主人様のピンチ

には駆けつける機能が備わってるんだ・・・。 だから・・・・・礼なんて・・・・いらない。」

人から感謝される事に慣れてないのか、サンジは慌てて視線を逸らした。

ほんのりと上気した頬は、まるで人間の照れた表情と同じで、ゾロは、思わず苦笑する。

「な、なんだよ! 普通は、アンドロイドに頭を下げるご主人様なんかいねえんだぞ! 

だから・・・」

そう言い訳をするサンジの顔は、ますます赤くなっていって・・・。

ゾロは、久しぶりに心が軽くなったような気がした。

「俺、お前で良かった。 家政婦ロボットと聞いて、変な女形のロボットを想像してたん

だけどな・・・。 お前となら、やっていけそうだ。」

ゾロは、久しぶりに心から笑顔で、そう言った。

ピシッと何処かで弾ける金属音がした。

「あ、ああ。 それは、ご主人様に気に入られてなにより・・・。 なら、とっとと買い物を

済ませて、俺の自慢の料理でもご賞味あれ・・。」

サンジは、口角を上げてそう言うと、恭しくお辞儀をする。

「・・・・・・ご主人様って・・・・・お前が言うと嫌味に聞こえるから止めろよな。」

「ハイハイ、ご主人様・・・。」

「おまえなぁ・・・!!」

ゾロはそう言って、もう一度笑った。






「なぁ、ゾロ・・・。 てめえ、肉と魚ってどっちが好き?」

「・・・・・・魚。」

「んじゃあ、こっちだな・・・。」

「野菜とかで好き嫌いはあるか?」

「特にはないけど・・・・・・セロリは苦手だ。」

「ふ〜ん・・・。 じゃあ、これ、な・・・。」

「ウゲッ!! お前、人の話を聞いてたか? 苦手だってそう言っただろうが!

たった今!!」

「いいから。 絶対に俺が食わせてやるよ。 結構食えるようになるって! 任せとけ、

俺が保証する!」

「根拠のない保証かよ・・・。」

「あ? なんか言いましたか・・? ご主人様? ちなみにワタクシ、蹴道5段の腕前を

誇っております・・・が?」

「・・・・・なんでもありません・・・。」

ゾロとサンジはそんな風に、見た目には友人のような親しさで買い物を済ませていく。

実のところ、ご主人様と家政婦アンドロイドの主従関係なのだが、当の本人のゾロでさえ、

サンジが、アンドロイドだって事を忘れてしまう。

ポンポンと小気味良いリズムで動き回るサンジに、いつの間にか、ゾロの方が引きずられて

いく。

サンジの持つ篭はすでに満載で、ゾロの牽くカートにも乗り切れないほどに食品等が溢れて

いた。

「まっ、こんなもんだろ・・・。」

「絶対に、買い過ぎだと、俺は思う・・・。 一体何人家族なんだ、俺は・・・。」

意気揚々とレジを済ませ、袋にしまうサンジに、ゾロは、レジで貰ったレシートに溜息をついて

そう呟く。

「まぁ、良いじゃねえか。 俺も少しなら人間の食事できるし・・・、なっ?」

そう言ってにっこりと笑うサンジに、ゾロは、ドキリとした。

あまりにも鮮やかに笑うサンジの顔が・・・・・・・くいなのそれとダブってしまったから。

「ん?どうした、ゾロ?」

「いや・・・・・なんでもない・・・。 早く戻ろうぜ。」

ゾロはそう答えて、サンジと共に家路に着いた。
 








<next>


 


 


<コメント>

こちらは、ももぬい様のリクエストで、
『A.I.のゾロサンバージョン』という事でお届けしています。
はぁ・・・・・難しいなぁ、スピル●ーグの世界。(笑)
って、何処が、AI?って言う突っ込みお待ちしております。(爆)
ゾロくいな・・・・・う〜・・ん・・・ゾロくいな・・・。
ゾロにとっての特別な人ってやっぱり【くいな】しか浮かばなかった。
それも亡くなってるし・・・・・どうなるんだろ?(お前が言うな!)
あー・・・・・シリアスだよ、シリアス・・・。(笑)