Reward


その4






サンジは、その感触に身震いする。

ギリッと唇を噛みしめると、口の中に、血の味がした。




・・・・・クソッ。

・・・・・わかっていても・・・・・気持ち悪いぜ・・・・・

・・・・・けど、これで・・・・・・・・俺の身体で、あいつが、守れるなら・・・・・・・

・・・・・このくらいのこと・・・・・・・俺は、レディじゃねえし・・・・・

・・・・・このくらい・・・・・・・・わけねえ・・・・・・・全然・・・・・平気・・・・・だ・・・・・・・




サンジは、こみ上げてくる嫌悪感を、瞳を閉じて必死で堪えた。

幹部の男は、サンジの震えを快感からと勘違いしてか、調子づいて、唇を重ねてくる。




・・・・・・・止めろ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・・

・・・・・・・ゾロじゃねえ・・・・・・・・ゾロじゃねえ・・・・・・

・・・・・・・こんなの・・・・・・俺・・・・・・・気持ち悪くて・・・・・・耐えられねえ・・・・・・・

・・・・・・・ここで生きるぐらいなら・・・・・・・・死んだ方が、マシだ・・・・・・

・・・・・・・ゾロ・・・・・・・ゾロ・・・・・・ゾ・・・・・ロ・・・・・・・

・・・・・・・ごめんな・・・・・・・俺・・・・・・

・・・・・・・てめえと一緒に・・・・・・生きていきたかった・・・・・

・・・・・・・てめえの夢が叶うとこ・・・・・・この瞳でちゃんと、見たかった・・・・・・・

・・・・・・・けど・・・・・・それは、無理そうだ・・・・・・・

・・・・・・・ごめん・・・・・ゾロ・・・・・・・俺・・・・・・・・

・・・・・・・これくらいしか、てめえにしてあげられること・・・・・・ねえから・・・・・・・

・・・・・・・どんなことをしても、てめえは、俺が、逃がしてやる・・・・・・




サンジは、吐きそうになるのを必死で耐え、幹部の男の隙をうかがう。

これから、一生ここにいて、この男の奴隷として生きるなど、まっぴらだった。

しかし、ゾロを切り札としてこの男が、捕まえている以上、今のサンジには、何もできない。

・・・・・・・出来ることと言えば、ただじっと今を耐えて、その身に代えても、ゾロを逃がすこと。

サンジの唯一の武器である脚を封じられ、残された手段は、自分の身を挺して、隙を

作り、ポケットの中のナイフで、刺し違えることだけだった。

たとえ、ここで自分の命が消え去ろうとも、ゾロを逃がす時間だけは稼ぎたかった。

サンジは、いつも緊急用に、フルーツナイフだけは、持ち歩いていた。

そのナイフは、木の実を採ったり、その場で、クルー達に振る舞うために、サンジが愛用して

いる物・・・・・・

切れ味だけは、他の包丁にも劣らないものであった。




・・・料理人として、ナイフで、人を刺すなんて、あるまじき行為だが、仕方ねえよな・・・・・

・・・・どっちみち、もう料理人としても生きられねえんだ・・・・・

・・・・・すまねえな、ルフィ・・・・・最後まで付き合ってやれなくて・・・・

・・・・・・ごめんな、ウソップ、チョッパー・・・・・俺、てめえらといるの、楽しくて好きだった・・・

・・・・・・・ロビンさん・・・・・短いつきあいでした・・・・もっと早くお仲間になりたかったです・・・

・・・・・・・・ナミさん・・・・・最後まで、ご迷惑かけて・・・・・・済みませんでした・・・・・・

・・・・・・・・・そして・・・・・・ゾロ・・・・・・・てめえは、生きろ・・・・・・・

・・・・・・・・・・生きて・・・・絶対、世界一の大剣豪に・・・・なれよ・・・・・・・

・・・・・・・・・・・その時に、ちょっとだけ・・・・・俺のこと、思い出してくれよな・・・・・・




幹部の男が、息を荒げ、興奮気味に、サンジのベルトに手を掛けて、ズボンを下ろし、己の

モノをあてがおうとしている。

「・・・・今だ。」

サンジは、そう呟いて、ポケットの中のナイフを取り出した。

バキッバキバキッ!!

その時、もの凄い音と共に、ドアが、木っ端微塵に砕破した。

幹部の男とサンジは、一瞬のことに驚いて、そのドアの方を見る。

・・・・・・そこには、バンダナを巻き、3本の刀を構え、鮮血を滴り落としながら二人を見据える

鋭い瞳のゾロが、いた。

「・・・・・てめえ・・・・・なに・・・・してやがる・・・・・・」

ゾロは、抑揚のない低い声でそう呟いて、幹部の男の側に来る。

ゾロが、近づくと同時に、サンジの脚の添えられていた幹部の腕が、肩口から消えた。

その腕は、ベッドの脇にぼとりと落ちた。

「うぎゃあぁぁ・・・・ああ・・・・・ぁ・・あ・あ・・・・」

幹部の男は、斬られた肩口を押さえ、慌ててゾロから逃げる。

「・・・・・なんで、お前がここに・・・・・・あの男は・・・・・牢屋に入っているはず・・・・・

ロロノア・ゾロは・・・・・・・牢屋に・・・・・・入っている・・・・・はず・・・・・なのに・・・・・

その3本の刀・・・・・・お前が・・・・本物なのか・・・・・・」

幹部の男は、息も絶え絶えにそう言って、片手で、机に仕舞っているはずの拳銃を探す。

「・・・・・本物も何も、ロロノア・ゾロは、俺一人だ。 ・・・・・・てめえは、すぐには、殺

さねえ・・・・・・どれだけのことをしでかしたのか、てめえの身体で、じっくりと味わう

が良い。 ・・・・・・・・・・邪魔だな、その腕・・・・・」

ヒュンと空を切る音と共に、机を探っていた幹部の男のもう片方の腕が、その場に、落ちる。

「うわああ・・・・あああ・・・・いっいやああ・・・・・もう・・・・・勘弁してくれ・・・・・

頼む・・・・・・この通りだ・・・・・・」

幹部の男は、完全に戦意を喪失し、ゾロの目の前で、泣き叫び、懇願した。

「・・・・・・無理だな。 俺は・・・・・てめえの飛び散る血が見てえんだ・・・・・最後の

血の一滴まで、な。 ・・・・・・瞬殺された方がマシだったと思うか・・・・・・」

ゾロはそう言って、ニヤリと冷酷な笑いを返した。

「う・・・・あ・・・・・・あ・・・・・・」

幹部の男の顔は、恐怖に引きつり、叫び声さえまともに出てこない。

「ゾロッ! もう良い・・・・・・もう、良いから・・・・・・止めてくれ・・・・・・ゾロ・・・・・ 

俺だ・・・・・わかるか? サンジだ・・・・・ゾロ・・・・・俺だ・・・・・・もう止めてくれ・・・」

サンジは、手錠を掛けられた手足で、ゾロの側まで来ると、ゾロの前に立つ。

「・・・・・止めるな、サンジ・・・・・・俺は・・・・・こいつを・・・・・こいつが許せねえ・・・・

こいつは、てめえに何をしていた・・・・・・なんで、てめえが、こいつを庇う・・・・・・」

ゾロは、サンジに向かってそう言うと、もう一度きつい瞳で、幹部の男を睨み付けた。

「ヒッ・・・・あ・・・・あ・・・・・」

幹部の男は、その場にがっくりと崩れ落ちる。

「・・・・・ば〜か・・・・・俺は、こいつなんか庇っちゃいねえ・・・・ ・・・・・こいつは、

てめえの刀で斬られるほど、上等の奴じゃねえから・・・・・ 俺は、てめえの刀が、

泣くようなこと、させたくねえんだ。 てめえの剣は、こんな野郎を斬り刻む為のもの

じゃねえだろ? ・・・・・てめえは、血に飢えた魔獣なんかじゃねえんだから・・・・・

・・・・・だから、俺のためを思うんなら、もう止めろ・・・・・」

サンジはそう言って、手錠の掛かった腕をゾロの首に廻す。

その瞬間、異常なまでに張りつめていた殺気が、ゾロの周りから消えた。

「・・・・・わかった。 てめえがそう言うなら、ここで止めとく。 ・・・・てめえ、口元、

切れてるゾ・・・・こいつが、やったのか・・・・・」

サンジの口元にこびり付いた血を見つけ、ゾロは、また殺気を放つ。

「おい、早まんな。 こいつは・・・・俺が、歯、食いしばりすぎて・・・・切っちまったん

だよ。 なあ、それより、コレ、斬ってくれねえか。 動きづらくてたまんねえよ・・・・」

サンジは、そう言って、自分を封じている手錠をゾロに見せる。

ゾロは、手を足に填められていた手錠を簡単に断ち斬った。

「ふぅ・・・・やれやれだぜ。 さてっと・・・・・・」

サンジはそう言って大きく息を吐くと、しゃがみ込んで動けない海軍幹部の前に立つ。

「・・・・・残念だったな、最後まで相手してやれなくて・・・・・これは、その詫びだ・・・・

受け取れ・・・・・・」

サンジは、にっこりと笑ってそう言うと、海軍幹部の頭上に、脚を振り上げた。

凄まじい音と共に、海軍幹部の意識は、そこから途絶える。

「さあ、何ぼやぼやしてやがる。 こんなとこ、さっさと出ていこうぜ。 ナミさんや

ルフィー達が、待ってる・・・・・・」

サンジは、そう言って、無言で突っ立っているゾロに、そう声を掛けると、部屋の外に飛び出

す。

「・・・・・・・・。」

ゾロは、横目でちらりと、床にめり込んで、気を失っている幹部の男を見て、慌ててサンジの

後を追いかけた。






「うひゃあ、これまた、めちゃくちゃにやっちまったな・・・・・・・・こりゃ、人の仕業じゃ

ねえな・・・・・まさに、魔獣の仕業だな・・・・・・」

部屋を飛び出したサンジは、あちこちで、うずくまるように倒れている海軍の連中の上を走り

ながら、そう言って、ゾロの方を振り返る。

「・・・・・こいつらが、俺の邪魔ばかりするからだ。 自業自得って奴だな。 ブツブツ

言わねえで、港にでるぞ。 ナミが、そっちに船を動かしているはずだ。」

ゾロはそう言って、走るスピードを上げると、サンジと共に、港に向かう。

「ゾローッ! こっちよ! 急いで!! サンジ君も、早く・・・・・」

ナミが、ゴーイングメリー号の甲板の上から、叫んでいる。

「ナミさ〜んvv ご心配をお掛けしました〜vv 今、そっちに行きますから〜vv」

サンジは、そう言って、手をブンブンと振って合図する。

「「1、2のそれっ!!」」

ゾロとサンジは、掛け声と共に、ゴーイングメリー号の甲板めがけてジャンプした。

「さあ、ウソップ! 全速で逃げるわよ。 こんなにでたらめに海軍基地をぶっ潰した

んだもの。 近くの海軍が、黙ってる訳ないわ・・・・・・・早く、追っ手が来ないうちに

逃げるのよ。」

ナミは、素早く風を読むと、追い風に乗って、船を走らせる。

海軍の追っ手の船が、来る様子は見えない。

「・・・・・どうやら、逃げ切ったみたいね。 ・・・・サンジ君、その格好・・・・早く、着替

えてきたら・・・・・ それと、ゾロ。 その血の匂い、なんとかして。」

ナミは、それだけ言うと、テラスに戻る。

ゾロとサンジは、ナミに言われて、それぞれ風呂場と部屋に戻り、身を清め、服装を整える。

「・・・・・ナミさん・・・・どうもすみません。 俺が、勝手に捕まったから・・・・・ご迷惑

をお掛けすることになって・・・・・」

着替えを済ましたサンジは、テラスにいるナミに、そう言って謝る。

「本当よ・・・・・・ゾロったら、街に着くなり、サンジ君のこと凄い形相で、街の人に聞

きまくって・・・・・・おかげで、目立つこと、目立つこと・・・・ 挙げ句に、サンジ君が、

海軍に連行されたと聞くや、あたしの言うことも聞かずに、片っ端から、海軍基地を人

ごとブッ壊して進んで行くし・・・・・あたし、慌てて船に戻って、こっちに来たんだか

ら・・・・・ もう絶対に、あの街には、近づけないわね。 でも・・・・・良かったわ、サン

ジ君。 貴方が、無事でいてくれて・・・・・」

ナミはそう言って、にっこりと笑った。

「・・・・ありがとう、ナミさん。 じゃあ、俺、メシの用意してきます。」

サンジは、そう言って、にっこり笑うとキッチンに向かっていった。

入れ違いのように、風呂から出てきたゾロが、ナミの前を通り過ぎる。

「・・・・・・ちょっと、あんた。 この状況で、あたしになんか言うこと無いの? 

あんたねえ、もう少し、自分の感情を抑えることを覚えないと・・・・・大人になりなさ

い、ゾロ。 ・・・・・特に、サンジ君に関しては・・・・異常よ・・・・・」

ナミは、そう言って、ゾロを窘めた。

「・・・・・すまねえな、ナミ。 てめえにも、色々と世話を掛けて・・・・ けど・・・・あい

つは・・・・サンジは・・・・・絶対に、俺の傍にいねえとダメなんだ。 ・・・・あいつがい

るから、俺は、俺でいられる・・・・・ ・・・・・失ったら、俺は・・・・・・ただの殺戮者に

なっちまう・・・・・あいつが・・・・・あいつだけが、俺を、この太陽の下でも生かしてく

れるんだ。 ・・・・・とにかく、今回の件は、俺のせいだ。 済まなかった、ナミ。」

ゾロはそう言って、ナミに頭を下げる。

素直に自分に頭を下げて謝るゾロに、ナミは、驚いた。

「わ、わかればいいのよ、わかれば・・・・・な、なによ。 そう素直に謝られちゃった

ら、気持ち悪いわよ。 ・・・・でも、良かったじゃない、サンジ君、無事で戻って・・・・・

サンジ君、キッチンに戻ってるわよ。 ・・・・行ってあげたら?」

ナミは、ゾロにそう言ってウィンクする。

「・・・・・いや、今は・・・・良い。」

ゾロはそう言って、船尾のいつものところに向かった。

「?・・・・・何か、変よね・・・・」

ナミは、ゾロの様子に首を傾げる。

遅い夕食も無事済んで、クルー達は、それぞれ部屋に戻り、思い思いの時間を過ごす。

キッチンには、黙っていつものように酒を煽るゾロと、明日の仕込みをするサンジの二人・・・・

お互い何も喋らない沈黙の時間が流れる。

「「・・・・・なあ・・・・」」

ゾロとサンジは、それを嫌がるように、二人同時に声を発した。

「ん?なんだ?」

「いや、てめえこそ、何か言いたいことが有るんじゃねえのか・・・・・」

サンジは、ゾロの視線に何かを感じてそう尋ねる。

ゾロは、コップに注いだ酒を一息で飲み干すと、サンジに鋭い瞳を向ける。

「・・・・てめえは・・・・・なんで、海軍に自分から、捕まった? 街の人の話だと、自分

から進んで捕まったと言っていた・・・・・・それは、何故だ・・・・・」

「そ、そりゃあ・・・・・・」

「・・・・・・俺が、捕まったと思ってか? ・・・・・俺を助けようとしてわざと、あんな連

中の言いなりになろうとしたのか・・・・・」

ゾロは、淡々とそう話して、サンジの側に来る。

「はっ、自惚れるな。 そんなんじゃねえ・・・・・そんなんじゃ・・・・」

サンジは、そう言って、タバコに火を点けようとする。

「・・・・・じゃあ、何故だ。」

ゾロは、その腕を掴んで、再度、サンジを睨み付けた。






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<コメント>

やはり、助けに来るのは、こいつしかいないよねvv
・・・けど、荒っぽいというか、そこまでやるかと言うくらい
奴は・・・・魔獣・・・・・・ゴジラか、お前は・・・・・・(笑)
・・・・けど、一番強いのは、サンジかも知れない。
うちのサンジは・・・・・本当に、乙女じゃないなあ・・・・・はあ・・・(-_-;)