POWER OF LOVE

その3






うっすらと目を開けるゾロ・・・

「良かった、ゾロ。 元に戻ったんだね。 ・・・良かった。 

本当に良かったね、サンジ。」

チョッパーはそう言うと、嬉しそうに涙を浮かべた。

この船医もまた、自分の責任というモノを感じていたのだ。

「・・・・良かった!! ゾロ!!」

サンジは、そう言うと、チョッパーがいるのもかまわず、ゾロに抱きつきた。

「う、うわ、ちょ・・・てめえ、離せ! おい、チョッパー、この男、何とかしろ!!」

ゾロは、しがみついてきたサンジを刀で制すると、隣で笑いながら見ていたチョッパーに、声

をかけた。

「「???・・・・ゾ・・・ロ????」」

サンジとチョッパーに声が、重なる。

何かが、おかしい・・・・何かが・・・・

そう、ゾロはサンジに抱きつかれて、嫌がる素振りは、絶対にしない。

それが、大衆の前だとしてもだ。

それどころか、最近は、堂々と人前でもサンジのことを抱きしめるくらい平気でやってしまう、

グランドライン一の馬鹿旦那と、他のクルーから言われているほどなのだ。

なのに・・・今は、本気で嫌がっている様、いや、驚いているようにしか見えない。

「ゾロ、どうしたんだよ・・・」

サンジは、ゾロの思わぬ反応に、とまどいを隠せない。

「・・・サンジ。 ごめん。 ちょっと、皆を呼んできて貰えるかな? 俺、今から、ゾロを

診察するから。」

チョッパーは、思うところがあって、サンジをとりあえず、キッチンから遠ざけた。

「・・・・・わかった。」

サンジは、何か言おうとしたが、チョッパーのあまりに真剣な瞳に、従うしかなかった。

チョッパーは、サンジが出ていったのを確かめると、ゾロに言った。

「ゾロ。・・・ちょっと、質問してもいい?」

「ああ。」

ゾロは、少し緊張を帯びた声で返事した。

「あのさ、まさかとは思うんだけど、・・・ここどかだか、わかる?」

「グランドライン。 でもって、メリーなんたらの船の中。」

「じゃあさ、ここにいる仲間の名前、言える?」

ゾロは、何でそんなにくだらねえ事を聞くんだという顔でチョッパーに応える。

「んなの、あたりまえだろうが。 ルフィにナミにウソップ。 それから、チョッパー

に・・・ロビン・・・」

「そ、それだけ??」

チョッパーは、念を押してみる。

・・・自分の考えていたことが、今現実に起きている。

チョッパーは、意を決して最後の質問をした。

「じゃあさ、さっき、俺と一緒にいた男の人は、誰だか、わかるか?」

(頼む・・・ちゃんと応えて。)

「・・・・・・・・」

チョッパーの祈りもむなしく、ゾロがその質問に答えることはなかった。

「バタンッ!!」

勢い良く、キッチンの扉が開いた。

サンジだ。

サンジは、ツカツカとゾロの前まで来ると、胸ぐらを掴み、大声で怒鳴った。

「ってめえ、ふざけてんじゃねーぞ!! てめえ、マジで、忘れっちまったのか! ふ

ざけてんじゃねえのか? クッ。 ・・・マ・・・ジ・・・かよ・・・・」

そういった自分に、いかにも不審な目を向けるゾロに対し、最後には、力無く項垂れてしまっ

たサンジ。

「・・・チョッパー・・・ちょっと・・・いいか?」

今にも泣き出しそうな悲痛な声で、サンジは、チョッパーとキッチンから出て、そのまま男部

屋に向かった。

「あいつ、俺のことだけ・・・忘れやがったのか・・・それは、薬のせいか?」

サンジは、チョッパーに、静かな声で聞いた。

「うん、たぶん・・・あの薬のせいで、まだ、完全には記憶が戻ってないと思うんだ。 

ゾロにとって・・・サンジは特別だから・・・・特別な想いが一杯だから・・・身体が、ま

だ、その部分を思い出せないでいるだけだと思うんだ。」

「・・・思い出すのか?」

そう言うと、サンジは震える指で、タバコに火を付けると、口に銜え、フーッと煙を吐いた。

「・・・・今は、まだ、何とも言えない・・・・いつ思い出すのか、明日か、あさって

か・・・・一年後か・・・数十年後になるか・・・・それとも、一生・・・」

そこまで言って、チョッパーは、ハッと口をつぐんだ。

「良いんだよ、チョッパー。そんなに気にしなくても。 ・・・ま、忘れられたのは、ちょっ

とショックだったけどなー。 本当、この俺様だけ、忘れるなんざ、ふざけたやろうだ

ぜ。 そう思うだろ? チョッパー。」

サンジは、わざとおどけたように笑顔でチョッパーにそう言った。

「・・・・・・サン・・ジ・・・・・・」

チョッパーは、すでに、涙目だ。

「わりい。・・・俺、夕食の準備しなきゃ・・・」

サンジは、努めて平静を装うと、男部屋を出て、食材をしまってある倉庫に向かった。

途中、甲板で、ルフィやウソップ達と仲良く談笑しているゾロの姿をとらえた。

一瞬目があったような気がしたが、ゾロは、特にこちらを気にする様でもなく、ルフィ達と笑い

あっていた。

(・・・参ったなあ・・・結構きついぜ・・・・)

サンジは、倉庫で、夕食の材料となる適当な食材を持って、キッチンに向かう。

途中、ナミに声をかけられたが、今のサンジに、その声が、届くことはなかった。

いつものように、いつもの仲間で、夕食の時間になった。

「クソゴム!!てめえ、ちゃんと、味わって食えよ!! おら、ウソップ! キノコ残す

んじゃねえ!! ナミさんvv、ロビンさんvvさあ、デザートのミカンソースのパンナコッ

タ、如何ですか〜vv」

ふだんと何ら変わらない食事風景。

いつも以上に、皆に気を配って、クルクルと忙しそうに動き回るサンジ。

誰もが、昼間の出来事が、嘘のように思えてきた、その時。

「ごっそうさん。」

ゾロの一声に、キッチンが、静まり返る。

ゾロは、そのままキッチンを出ていった。

「は、は、は。 なに、あいつ。 ・・・全く、協調性のねえ奴。 あんな奴、放っとい

て、ナミさんvv、ロビンさんvv、おかわりどうですか?」

そう言って、サンジは、この場を取り繕うと、精一杯の笑顔を向けた。

「サンジ、何か、お前の笑い方、変だぞ?」

ルフィの鋭い一言がとぶ。

「・・・・・もう良いわ。お腹一杯。 ごちそうさまvv ありがとvサンジ君。」

「・・・あたしも、もう良いわ。 ごちそうさま。」

その場にいるのがいたたまれないのか、ナミもロビンも、そう言って席を立つと、部屋に戻っ

ていった。

「お、俺も、カヤに、手紙書かなきゃ・・・」

ウソップも、こそこそとキッチンを出ていった。

「なんだ? あいつら・・・・そう言えば、サンジ・・・お前、ゾロと何かあったのか? 

お前ら、夕方から少し、変だったぞ。 喧嘩でもしたのか?」

何も事情を知らないルフィが、サンジに向かってそう言った。

「だったら、良かったんだがなあ・・・・・」

サンジは、泣きそうな笑顔で、そう言う。

「違う! ゾロは、病気なんだ。 ・・・ゾロは、薬のせいで・・・・薬のせいで、サンジを

忘れちゃったんだ。 うわーん!!」

とうとう、チョッパーは、泣き出してしまった。

「そうなのか? 何だ、忘れたのか・・・って、なっにー?!忘れたー?! 

全部か!!」

チョッパーの説明に驚いたルフィが、チョッパーを捕まえて、前後に揺すった。

「ちょ、ちょっと、ルフィ。離して・・・違うよ。 ゾロは、サンジのことだけ、忘れちゃった

んだ・・・」

チョッパーは、ルフィに揺さぶられながら、そう答えた。

「・・・なんだ、そうかあ。 全部、忘れた訳じゃねえなら、すぐ、思い出すよな。 

全く、問題ねえ!!」

「てめえの、その自信は、一体、どっからくるんだ?」

サンジは、呆れたようにルフィに言った。

「ゾロの瞳だ! 夕方、サンジを見ていたゾロの瞳が前と、全然変わってないか

ら・・・・
俺と同じ・・・だから、問題ねえ!!」

ルフィは、そう断言すると、ニカッて笑った。

「まったく、てめえは、大した奴だよ・・・」

サンジは、そう言うと、ポンポンとルフィの頭を叩いた。

(ルフィにそう言われると、そうなんだって気になってくる・・・不思議な野郎だぜ・・・)

「そ、そうだよね。 エッ、エッ、エッ。 明日には、元通りになってるよね。 エッ、エ

ッ、エッ。」

チョッパーが、涙を拭きながら、一生懸命に笑った。




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<コメント>

さて、ルフィも絡んで、どうなるんでしょうか・・・
お気づきの通り、うちのルフィ、サンジvvなのよ・・・
どうなんだ?! ゾロ!
でも、自分の乗っている船の名前ぐらい・・・
覚えていて欲しいね・・・
あと、2回!!で、終わる予定です!!
でも、約束破りだからな・・・(逃)