彼の上機嫌、彼氏の不機嫌

その2





翌日。

早朝から、昼食用のサンジ特製海賊弁当を作ったり、倉庫の食材の在庫チェックをしたりと、

サンジはいつもにまして、クルクルと忙しく動き回っていた。

ナミによると、昼過ぎには、次の島に上陸できるらしい。

「3664、3665、3666・・・」

ゾロは、今日も変わらず、鍛錬に励む。

だが、今日は、何かしっくりとこない。

何がと聞かれても答えようもない、嫌な予感が、ゾロには感じられてならない。

(・・・嫌な予感がする・・・)

ゾロは、ウソップ特製ハンマーを床に置くと、サンジのいる倉庫へと向かった。

倉庫には、せっせと在庫チェックするサンジの姿があった。

「おい!買い出しは、いつ行くんだ?」

ゾロは、サンジに尋ねる。

「うん?! ああ、ゾロか。・・・そうだな。ナミさんが、3日間滞在するとおっしゃってた

し、食材も結構残っているから、最終日のあさってでいいや。少しでも新鮮な物を積

みたいし・・・」

サンジは、手を休めずに、ゾロに言う。

「そおいや、てめえ、刀、研ぎに出すんだろ?俺も、下見がてら、市場、見ときたいか

ら、途中まで、一緒に行くか?たまには、デートしようぜ。デート。」

サンジは、そう言って、ゾロに笑いかけた。

そう言って笑うサンジの顔は、本当に綺麗で、ゾロは、つい、抱きしめたくなる。

「・・・キスして良いか?」

ゾロは、後ろからサンジを抱きしめると、耳元で囁いた。

「ダメ!」

サンジは、素っ気なく返答すると、ゾロの腕を引き剥がしにかかった。

「何で、ダメなんだよ!」

「どうしてもだ!」

「そんなん、理由になるか!」

「何で、理由がいるんだよ!」

「理由がないなら、いいじゃねえか!」

「ダメったら、ダメなんだよ!!」

両者とも一歩も引かず、激しい攻防戦が繰り広げられた。

それでも、腕力に勝るゾロが、サンジの唇に迫ろうとした、その時、サンジから、手痛い一言

が、ゾロに発せられた。

「今、ここで、チューしたら、今晩から1週間、ゾロとはヤらねえ。」

ピタッと、ゾロが動きを止めた。

(それは、困る。非常に困る。)

ゾロは、大きくため息を吐くと、サンジを解放した。

「なんで、そうなる。」

ゾロは、恨みがましく、サンジにそう言った。

「そりゃあ、・・・てめえが、チューごときで、止まるはずねえからだ。」

サンジは、自信ありげにそう言った。

「いや、チューだけで、絶対、止める。」

ゾロは、なおも食い下がる。

「あーもう! てめえがそうでも、俺がそうできなくなるんだよ!わかったか、このエロ

マリモ!!」

サンジが、耳まで真っ赤になりながら、ゾロに言い放った。

「はあ?!」

ゾロは、間抜けな声を上げると、一瞬何を言ってるのか理解できなかったが、改めて、サンジ

の言葉を思い出すと、ニヤリと口元に笑みを浮かべて、

「・・・そうか、・・・・そうなんだ・・・」

そう言って、サンジを抱きしめ直すと、クシャクシャと金の髪を撫でた。

さっき感じた嫌な予感も、サンジの言葉で、一瞬で、どこかに吹き飛んでしまった。

「・・・だから!!さっさと出ていきやがれ!!仕事の邪魔なんだよ!!」

サンジは、そう言って、ゾロを、倉庫の外に蹴り出した。

「・・・まったく・・・恥ずかしいこと、言わせるんじゃねえよ・・・・」

サンジは、また、倉庫の在庫チェックに、精を出した。







「痛ってえ。」

ゾロは、サンジに蹴られた腹をさすりながら、甲板に戻ってきた。

そしてまた、ウソップ特製ハンマーを振り続ける。

(しかし、あいつも素直じゃねえなあ。夜はあんなに素直なのになあ。

・・・でも、可愛い事言ってくれるじゃねえか・・・チューだけで、終われねえなんて

な・・・まあ、俺もそれだけで終われるとは、全然思ってなかったけどな・・・

うっ、思いだしちまったぜ・・・)

思わず、口元が緩むゾロ・・・

(うわっ、また何か、サンジ君のことで、変なことを考えているわね。あいつ・・・)

(こ、恐エーよ、ゾロ・・・そんなもん、振り回しながら、不気味に、ニタつくんじゃね

え・・・マジ、アブねえ奴・・・)

ナミとウソップが、心の中で、叫んでいた。









ナミの予測通り、昼頃、上陸したクルー達。

ルフィは、サンジ特製海賊弁当をもって、真っ先に飛び出していった。

(船長が、真っ先にいなくなって・・・どうする・・・)

ナミは、ため息を吐くと、皆を甲板に集めた。

「ログが貯まるのは、3日後。 それまでは、各自、自由行動にしましょ。 

それと、夜は、船番決めて、宿に泊まりましょう。 サンジ君v 今日、船番お願いし

て良いかしらvv それと、明日は、ウソップとチョッパーにお願いするわ。 じゃあ、

皆、決して無駄遣いはしないように! それと、返済は、もちろん、3倍返しねvv」

ナミは、そう言うと、各自に、お金を手渡した。

「ナミさ〜んv 俺、市場にちょっと、下見に行きたいんだけど、良いかな?」

サンジは、ナミにお伺いを立てた。

「あっ、そう・・・じゃあ、ゾロ・・・」

「俺も、刀、研ぎに出かける。」

ナミの話を遮って、ゾロがそう言った。

「ふ〜ん。 じゃあ、ウソップ。 サンジ君が戻ってくる間、留守番、よろしくね。」

結局、ナミは、ウソップに頼むことにした。

「えっ?! 俺一人でか?」

ウソップは、心配そうに、声を上げた。

「もう、だらしないわね・・・チョッパー、そう言うことだから、ウソップと一緒に、残って

てもらえる?」

「おう。 俺は、全然、かまわないぞ。」

ナミに頼まれたのが、よほど嬉しかったのか、チョッパーは、大喜びで、そう言った。

「じゃあ、解散!!」

ナミの一声で、クルー達は、各自、行動を開始した。

ナミとロビンが先に船を下り、暫くしてから、サンジとゾロが船を下りていった。

寄り添うように、くっついて歩く男二人に、チョッパーが、不思議そうに、ウソップに訊ねた。

「ゾロとサンジって、本当は、仲良しなのに、どうしていつも、喧嘩ばかりしてるのか

な? いつも、今みたいなら、良いのにね。」

「チョッパー。・・・世の中には、理解できねえ事が、まだまだ、たくさん有るんだ。

特に、あの二人・・・二人には、あまり、係わらない方が、身のためだぞ。

そのことは、俺が、実証済だ。」

ウソップは、ため息と共に、チョッパーに諭した。

「・・・そう・・・なのか??」

チョッパーの疑問は、消えることはなかった。








「ゾロ、じゃあ、ここで。 刀鍛冶の店は、この先真っ直ぐに行ったところだそうだ。

終わったら、先に帰ってていいぜ。俺も一回りしたら、すぐ、船に戻るから。」

「てめえ一人で、大丈夫か?」

ゾロは、また妙な胸騒ぎがして、サンジに言った。

「あん? てめえ、誰に向かって言ってんだ?てめえこそ、また迷子になって、夕飯の

時間に遅れんなよ。じゃあな。」

そう言うと、ひらひらと手を動かして、ゾロと違う通りに向かった。

「気を付けて行けよ。」

ゾロは、もう一度念を押すように、サンジに向かって叫んだ。

「うるせえ!! てめえ、しつけえぞ!!」

サンジの怒声が、辺りに響いた。







「くっそー。おもしろくねえ。一体なんだって言うんだ。ゾロの奴、俺が、街中に一人で

出るってのは、今に始まったことじゃねえだろが。 全く、子供扱いしやがって・・・

てめえは、俺のオヤジかっつうの!」

サンジは、ブツブツと独り言を言いながら、街中を歩き回る。





「きゃあ、止めて下さい!! お願い、離して!!」

どこからか、女性の叫ぶ声が聞こえた。

すわ!!レディの一大事とばかりに、サンジが、その声がする方向へと駆け出していった。

少し影になった路地裏で、4、5人の男達が、若い女性を囲んで、下劣な笑いを浮かべてい
た。

「へっ、へっ、へっ。 何もとって食おうって、言ってる訳じゃねえんだ。

ちょっと、俺達と、お茶しねえかって言ってるだけじゃねえか。

良いだろ?少しぐれえ。」

そう言って、女性の腕を掴む。

「止めて下さい! 離して!!」

女性は、今にも泣きそうな声で、そう言った。





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<コメント>

やっと、やっと事件勃発・・・
でも、まだ肝心のあの人が、出てない・・・
それにしても、うちのゾロ・・・ガキ過ぎ??
かっこいいゾロが好きな人・・・諦めましょう・・・
では、逃げる!!
しかし、これも、無駄に長い・・・