Bitter Sweet Christmas



その4






「遅せえ! 何してやがるんだ! クソッ! 俺は・・・・・俺は、あいつのこと、買い被

りすぎてたのか? このくらいのことで、どうこうなっちまう男だったのか! あいつ

は・・・・・」

シャンクスは、ベンと一緒に、昨晩から寝ないでずっと、ゾロの帰りを待っていた。

しかし、ゾロは、全く連絡も寄越さず、帰っても来なかった。

携帯の電源は、切られていて、シャンクスは、連絡の取れないゾロに大いに苛立っていた。

「おい、少しは落ち付けって! 愛する者をいっぺんに失っちまったんだ。 あいつの

動揺や悲しみは、俺らには、到底思いもつかねえんだよ。 ・・・・けどよ。 あいつの

ことだ。 そのうち、きっと、帰って来るって。 ロロノアは、てめえが見込んだ男だ

ろ? ・・・・・信じて待とうぜ。」

ベンはそう言って、シャンクスに声を掛ける。

「てめえまで、何言ってやがる! まだ・・・まだ、死んだって決まったわけじゃねえだ

ろ? 生存してる場合だってあるかも知れねえ。 奇跡的に二人助かってて、海の上

で、救助を待っているかも知れねえじゃねえか! 俺が、言いたいのは・・・・・

俺が言いたいのはなあ・・・・・こんな紙切れ一枚を鵜呑みにして、自分を見失い欠け

ているあいつが・・・・・・あいつの想いに・・・・腹が立って・・・・・・・腹が立って仕方

ねえんだよ・・・・・・あいつらはなあ・・・・・あいつらは・・・・こんなことで離れちゃいけ

ねえんだよ・・・・・どんなときでも・・・・・心は・・・・・信じてなきゃ・・・・いけねえんだ

よ! クソッ!」

シャンクスは、そう言って、苛立つ感情のままに、壁にグラスを投げつける。

カシャンと音を立てて、グラスは・・・・・砕け散った。

「・・・・・・なあ・・・・俺・・・・・間違ってるか?」

シャンクスが、ボソリと呟くようにベンに言う。

「・・・・・いや。 ・・・・・俺も、信じるぜ。 二人が、生きてるって、な。」

ベンはそう言って、シャンクスの肩をポンと叩いた。

ピンポ〜ン

ちょうどタイミング良く、玄関のチャイムが鳴った。




・・・・・・・ゾロだっ!




「チクショー! ゾロの奴・・・・・今頃、のこのこ戻ってきやがって・・・・・・一生こき使

ってやるからな・・・・」

シャンクスとベンは、慌てて玄関に出迎えに向かう。

「てめえな、今何時だと思ってやがる! いい加減・・・・れ? れれれ???

・・・・・・・サンジ・・・・・・・それに・・・・・・・・ラピ・・・・ス???」

シャンクスは、突然の帰宅者に、驚きの声を上げた。

玄関に現れたのは、ゾロではなく、飛行機事故に巻き込まれたと思っていたサンジとラピス

の姿だった。

「・・・・・・なんで、てめえら・・・・・ここに・・・・・・ ひょっとして・・・・・幽霊????

いやあぁぁ・・・・俺・・・・・その手のことは、超苦手なんだ。 成仏してくれよ・・・・・

線香上げてやるからさ・・・・・・」

シャンクスは、サンジとラピスの姿を見てそう言うと、一身に拝み始める。

「おい、シャンクス・・・・てめえ、さっき言ったことと行動が、噛み合ってねえぞ。 

すげえ良い事言ったなあって、感動してたのに・・・・これかよ。 ・・・・それに、どう見

たって、生きてるだろうが・・・・・・なあ、サンジとラピス・・・・・まあ、話は、中で・・・」

ベンはそう言って、サンジとラピスを部屋の中に招いた。

「サンジーッ!! ラピスーッ!! 俺は、信じていたぜ。 てめえらが、死ぬわけが

ねえって・・・・」

シャンクスは、そう言って、部屋に着くなり、サンジとラピスを抱き締める。

「・・・・で、どうして、ここに・・・・」

ベンは、シャンクスの姿を一瞥しただけで、サンジに話を聞くことにした。

サンジの話によると・・・・・・・・









空港に着いたサンジとラピスは、余りの人の多さに、自分達が、搭乗するゲートを見失ってし

まった。

「ん?ちょっと、待っててな、ラピス。 サーしゃん、ちょっと、案内図見るから・・・・」

サンジは、そう言って、少しの間だけ、ラピスを床に下ろし、地図に目を向ける。

「よしっ! こっちの方だ。 さあ、ラピス・・・・・・ラピ・・・・ス? えっ?! ラピス

・・・・何処だ・・・・・何処行った・・・・・・・おい! ラピス・・・・・」

サンジは、自分の側からいなくなっているラピスに気が付き、慌てて探し回る。

ロス行きの出発の最終案内を告げるアナウンスが聞こえるが、サンジは、それどころではな

い。

サンジの顔に焦りの色が濃くなっていく。




・・・・・・もし、このまま見つからなかったら・・・・・・

・・・・・・ラピスは、俺の目から見ても、可愛い・・・・・・

・・・・・・万一、誘拐されてたりしたら・・・・・・

・・・・・・ゾロ・・・・・どうしよ・・・・・・俺達のラピスが・・・・・・

・・・・・・ラピスが・・・・・・・

・・・・・・俺が・・・・・・目を離したりするから・・・・・・・

・・・・・・俺の・・・・・せいだ・・・・・・・・




サンジは、持っていた荷物もそのままに、ラピスを探し回る。

総合案内にも頼んで、探して貰うように手配した。

ついでに、バラティエにも連絡して、店のコック総出で、空港内を探し回る。

そして、やっとラピスが見つかった頃には、乗るはずの飛行機は、とっくに大空へと飛び立っ

ていた。

ついでに、放って置いた荷物と一緒に、航空券もいつの間にか消えていた。

そして、その直後、飛行機が、事故にあったという連絡を知って、慌ててゾロに連絡を取ろう

としたが、携帯に繋がらず、とにかく、自分達の無事を知らせるために、空席待ちの飛行機

に飛び乗って帰ってきた。









・・・・・・・と言うことだった。

「・・・・・ごめんな。 俺達のせいで、迷惑掛けて・・・・」

サンジはそう言って、ベンとシャンクスに頭を下げる。

「いや、てめえ達が、無事なら、それで良いんだ。 ・・・・・だが・・・・・」

シャンクスは、そう言って、にっこりと笑った。

「あれ? そう言えば、ゾロの姿が見えないんだけど・・・・・・もしかして、仕事??」

サンジは、ゾロの姿が見えないことに気が付いてそう尋ねる。

シャンクスは、フッと寂しそうに、微笑むと、サンジの肩を抱いて、こう言った。

「・・・・・・サンジ。 今から俺の言うことを良く聞いてくれ。 ゾロは・・・・・ゾロの野郎

は・・・・・もう、この世にいねえ・・・・・てめえ達が死んだと早とちりしちまってな・・・・

あの世に、旅立・・・・・」

バキッ!!

「縁起でもねえ事抜かすなっ!! てめえ!!」

ベンが、すかさず、シャンクスの頭に鉄拳をふるう。

シャンクスは、そのまま、床に倒れ込んだ。

「すまんな、こいつが言ったことは、でたらめだ。 ロロノアは、生きている・・・・・

きっと、な。」

ベンがそう言って、サンジに笑いかけた。

「・・・・・・きっと・・・・って・・・・・」

「ああ、あの馬鹿、昨日から、連絡取れねえんだよ。 家にも帰ってこねえし・・・・

携帯も電源入ってねえし・・・・・痛てえ・・・・」

サンジの言葉を遮って、シャンクスが、起きあがり頭を撫でながら、サンジにそう告げる。

「!・・・じゃあ、ゾロは・・・・・ゾロは、俺達が、事故に遭ってないって知らねえの

か・・・・・」

サンジは、そう言ったまま、口を噤んでしまった。

室内に、異様な沈黙の時間が流れる。













プルルルプルルルル・・・・・

ロロノア家の電話のベルが、鳴り響く。

サンジは、慌てて受話器を取ろうとして、シャンクスに止められる。

「・・・・・・サンジ、てめえは、出るな。 俺が、出る・・・・ ・・・・もしもし・・・・・・

ああ、ゾロか。 今、何処にいる・・・・・・何言って・・・・・馬鹿かてめえは! 

おうおう、勝手に何処にでもいっちまえ! あんな紙切れ一枚を信じてサンジの事信

じねえ奴なんか、俺の知ったことじゃねえ! てめえが、死んだと思ったら、そこで

サンジは、てめえの中で本当に死んじまうだろ! それをわかってそういってやがる

のか? 冷静に考えろ、ロロノア。 悲しみに捕らわれず、しっかりと、自分を見つめ

直せ。 ・・・・・そして、それが出来たら、戻ってこい・・・・この家に・・・・・」

シャンクスは、そう言ってゾロからの電話を切る。

サンジは、その様子を心配そうにじっと見つめていた。

「なに、あいつは、きっと戻ってくるさ。 俺の目が、狂ったことは、一度もねえから

な。 さっ、片づけねえと、な・・・・・」

シャンクスは、そう言ってサンジにウィンクする。

「・・・・・わかった、信じるよ。 ・・・・・しかし、すげえ散らかし放題・・・・・・あっ、

これ・・・・・お気に入りのグラス・・・・・高かったんだぞ、これ・・・・・・シャンクス、

てめえだろ、これ割ったの・・・・・」

サンジは、シャンクスを睨み付けながらも、シャンクスの言葉とゾロの強さを信じて待つことに

した。

「はてさて・・・・・何の事やら、さっぱりわかんねえな・・・・・なあ、ベン?」

シャンクスにそう言葉を振られ、ベンは、無言で、首を横に振った。

「あっ、ベン、てめえ、裏切りやがって・・・・汚ねえ・・・・」

「決まりだな。 おい、シャンクス、てめえ、自分の金で、今日の夕御飯の食材とグラ

ス、買ってこいよ。 ついでに、飲んだ分の酒も買ってこいよな。 部屋は、俺が、

片付けておくから・・・・・ほらっ、飯食いたけりゃ、さっさと買いに行けよな・・・・」

サンジは、そう言ってシャンクスとベンを部屋から追い出した。

「・・・・・やっぱり、秘書は、止めといた方が良いかもな・・・・・・」

「・・・・・そのようだな。」

シャンクスとベンは、ボソリとサンジに聞こえないように呟いた。












「さてっと・・・・・これで、片づいた。 本当に、あいつらってば・・・・好き勝手に散らか

しやがって・・・・・ ・・・・・・・・ゾロ、ちゃんと・・・・・・戻ってくる・・・かな・・・・・」

サンジは、綺麗に掃除した室内で、そっと呟くようにそう言った。

ピンポ〜ン・・・・・

玄関のチャイムの音が、した。




!・・・・・・ゾロだっ!




サンジは、直感的にそう思った。

サンジは、ラピスを抱いて、玄関に急ぐ。

ガチャリと鍵の開く音がして・・・・・・・サンジは、自分の直感が外れてないことを知った。

「・・・・・お帰りなさい、ゾロ・・・・・・・」

サンジは、ゾロの姿の変わりように、胸が詰まって、それだけ言うのがやっとだった。

ゾロは・・・・・声の主がサンジだとまだ完全に理解していないようだった。




だらしなく着崩したスーツ・・・・・

快活な精悍な面影は、どこか影を引きずっていて・・・・・・

今まで一度だって見たことの無い・・・・・・世界の終わりを見たような顔・・・・・

それが、全部自分を失ったと思いこんだ・・・・・から・・・・・・・




サンジは、ラピスを床に下ろすと、包み込むように、ゾロを抱き締める。

「・・・・・お帰り、ゾロ。 俺は・・・・俺は、ゾロの傍から、いなくなったりしねえよ。

・・・・・ずっと・・・・・・ずっと。 ・・・・・俺を信じろよ・・・・なあ、ゾロ。」

サンジは、そう言って、無理ににっこりと笑った。

溢れる涙が、目尻から頬を伝って流れていく。

「・・・・・・サ・・・・ン・・・・ジ? ・・・・・サンジ・・・・サンジ・・・・サンジ・・・・・・」

ゾロは、何度も確かめるようにサンジの名を呼び、その痩躯をきつく抱き締める。

「・・・・本当に、サンジなのか? お化けじゃねええよな? いいや、お化けでもなん

でも・・・・・サンジがここにいるなら・・・・・・夢なら・・・・・・夢なら醒めるな・・・・・

醒めないでくれ・・・・・」

「ゾロ・・・・・俺は、ちゃんと生きているよ。 生きて、ここにいる。 たとえ、身体が無

くなったって、ゾロが俺を信じてる限り、俺は、ずっとゾロのココにいるから・・・・」

サンジは、そう言って、ゾロの胸に手を置いた。

「ゾロが、俺を信じていてくれる限り・・・・俺は、絶対に、ココから消えたりはしない。」

「・・・・・サンジ。 ああ・・・・・信じる・・・・・信じてる・・・・・絶対に、俺達は、離れな

い。 ・・・・たとえ、身体がこの世から消え失せても・・・・俺は、サンジを信じる・・・・」

そう言って、ゾロとサンジは、抱き合ったまま口付けを交わす。

久々の抱擁は、二人の感情を否応なしに高ぶらせる。

「・・・・・なあ・・・・・もっと、確認したい。 お前がここにいることを・・・・・俺の傍にい

ることを・・・・」

ゾロはそう言って、耳元で囁く。

「・・・・俺も・・・って言いたいとこだけど、ゾロ。 ラピスのこと、忘れてるだろ? 

そろそろ、皆が、戻って来るぞ。 それよりも、風呂入って、ちゃんと身支度しろよ。

・・・・今日は、クリスマスだから、な。 ・・・・この奇跡の夜に、皆で、お祝いしよう。

・・・・・二人のお祝いは、その後で、なっ。」

サンジは、そう言って、ゾロの身体から、サッと離れた。

「ふぅ〜・・・・・やっと入れるぜ。 ・・・・全く、玄関では、ラブシーンは禁止だ。 

入ろうにも入れねえだろうが・・・・・」

いつからそこに隠れていたのか、シャンクスが、そう言ってドアから顔を出した。

「・・・・・・社長・・・・いつから、そこに? ・・・・・・社長・・・・電話・・・・俺のこと、

騙しましたね。」

ゾロはそう言って、シャンクスを睨み付ける。

「騙しただなんて・・・・・人聞きの悪い・・・・・てめえだって、聞かなかったじゃねえ

か。 俺は、聞かれなかったから、答えなかっただけなのさ・・・・さあ・・・・サンちゃ

〜んvv 頼まれモノ、買ってきたからねvv あっ、そうそう、ご婦人達も来てたんだ。 

サラにジョー、もう入っても良いぜ。 ラピちゅvvおじさまと一緒に、部屋に戻ろうね

vv」

シャンクスは、平然とゾロに向かってそう言うと、ラピスを抱き抱え、車に待たせていたサラと

ジョーを部屋に招き入れた。

「なっ。 この子達の教育上、ああ言うシーンは、好ましくない。 以後、玄関では、

絶対にしないように・・・・」

シャンクスは、ゾロの横を通り過ぎる際に、そう言って、軽くウィンクした。

「・・・・・まったく、あの人にゃ、敵わねえよ・・・・・・」

ゾロがため息を吐いてそう言う。

「・・・・・そうだな。 じゃ、俺達も、入るか・・・・」

「おう!」

サンジとゾロは、仲良く手を繋いで、部屋に向かった。






それから、ロロノア家のクリスマスは、サラとサンジの豪華な料理と、サンタと赤鼻のトナカイ

に変装したシャンクスとベン、そして、ラピスとジョーという可愛い子供達と賑やかに楽しく行

われた。









  
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<コメント>

なんか、シャンクスばかりが、全面にたっているような・・・・(-_-;)
まあ、今回は、シャンクスが、サンタだから、仕方ないよねvv
個人的にシャンクスのキャラ・・・・大好きですvv
お馬鹿なようで、その実、ビシッとしてると言うか、
いつもはちゃらんぽらんしていても、押さえるべきは押さえてる、
そんな愛すべき人物なのです。
・・・・・けど、お茶目すぎるのが、玉に瑕・・・・(笑)
では、次で、ラストです・・・・・・