Bitter Sweet Christmas



その3






「・・・・・じゃあ、オヤジ。 また正月にでも、帰ってくるから・・・・ラピス、ジイジにお別

れのチューしてやれ。」

サンジはそう言って、ラピスをゼフの腕に預ける。

ラピスは、サンジに言われるままに、ゼフのほっぺにチュッと唇を付けた。

「おう、ラピ、このチューはな、ジイジだけにするんだぞ。 他の奴にしちゃなんねえ。

良いか?」

ゼフは、目を細めながらも、ラピスに向かってそう言う。

「ククク・・・・・今のラピスに言っても、意味わかんねえって。 心配済んな。 あっち

では、ゾロが、目を光らせてるから・・・・クク・・・・」

サンジは、真剣にラピスに向かって言うゼフの台詞が可笑しくて、笑いながらそう答えた。

「・・・・・じゃあ、気を付けて行けよ。」

「ああ、直にまた会える。 じゃあ、行ってきます。」

サンジとラピスは、ゼフに手を振って、店を出て、国際空港に向かった。






「・・・・・あっ、ゾロか? 俺だ。 ちゃんとご飯、食べてるか? うん、今、空港に着い

たとこだ。 今から乗るとこ・・・・・そっちだと・・・・そうだな、明日の夕方頃には、着く

と思うぞ。 うん・・・・俺も、早く会いてえよ・・・・じゃあ、もう時間無えから・・・・・あと

で・・・・・」

サンジは、そう言って、ゾロへの電話を切った。

「・・・・・なんか、年末で、凄く人、混んでんな・・・・あれ? 59番ゲートって・・・・

何処だっけか・・・・・」

サンジは、空港で、ラピスを抱き抱えたまま、搭乗ゲートを探す。

空港は、年末を海外で過ごす人で、溢れかえっており、大変混雑していた。
















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「・・・・・なあ、今日だよな? サンジとラピスが戻ってくるの・・・・なあなあ、もう、

仕事切り上げて、二人を迎えにいかねえか? なあってば・・・・・」

この調子で、シャンクスは、朝からずっと、ゾロにべったりと張り付き、ゾロの行くところ付いて

回っている。

「・・・・・社長、少し黙っててください。 今、この資料に目を通しておかないと、今日

で、年末の仕事、終わらせる予定なんですから。 部長、済みませんが、社長、あっ

ちに連れていってくれませんか? 全然集中できなくて、ちっとも頭に入らなくて困っ

てるんです。」

ゾロは、社長の代わりに、取引先の挨拶に行っていたベンを見つけると、そう言って、ため息

を吐いた。

「・・・・・だそうだ。 社長は、社員の迷惑になることをしちゃいけねえってさ。 ほれ、

行くぞ。 すまねえな、ロロノア・・・・」

ベンはそう言って、シャンクスの首根っこを掴むと、ずるずると引きずるようにして、ゾロの前

からいなくなった。

「はあ・・・・やれやれ。 早く、日本に帰れよな、全く・・・・・」

ゾロは、自分のデスクに戻って、新年早々の企画の資料に目を通していく。

ふと、時計を見ると、お昼の12時をゆうに回っていた。




・・・・・・・もう昼過ぎなのか・・・・・

・・・・・・・サンジ達、今頃、飛行機の中だな。

・・・・・・・夕方には、会えるし・・・・・・

・・・・・・・よし、俺も、急いで片付けて・・・・・・

・・・・・・・家の中・・・・・・なんとかしねえと・・・・・・

・・・・・・・サンジ・・・・・・あの惨状、目の辺りにしたら・・・・

・・・・・・・やばいよ・・・・な、絶対・・・・・・




ゾロの頭の中には、散らかし放題の部屋を見て、凄い形相で睨み付けるサンジの顔が浮か

ぶ。

野郎三人で過ごした三日間は、ロロノア家を荒ませるには、造作もなかった。

ゾロは、近くの店で買ってきたサンドイッチとコーヒーを片手に、テレビを付ける。





「・・・・続いて、速報です。 日本発ロサンゼルス到着のB747ジャンボ旅客機が、

太平洋上で、いきなり、消息を絶ちました。 管制塔に入った話では、エンジントラブ

ルが起こったと言う機長の連絡を最後に、連絡が取れなくなったと言うことです。 

乗客、乗員の安否が、気遣われています。 詳しい情報が、入り次第、またご連絡を

致します。」

そう慌ただしく読み上げるアナウンサーの声が聞こえた。

ゾロの手から、コーヒーの紙コップが、カシャンと音を立てて落ちる。




・・・・・・・・今・・・・・なんて?

・・・・・・・・何て言った?

・・・・・・・・消息を絶った?

・・・・・・・・そう言わなかったか?




ゾロの頭の中は、先程のアナウンサーの言葉がグルグルと駆けめぐる。

ドカドカともの凄い足音が近づいてきたかと思うと、ゾロは、いきなり、肩を掴まれた。

「おい! サンジとラピスを乗せた飛行機って、あれじゃねえよなっ!」

シャンクスは、ゾロを揺さぶるようにしてそう尋ねる。

「・・・・・・・あれかも・・・・・知れません・・・・・・」

ゾロは、力無くそう答える。

自分から発した声なのに、ゾロには、他人が話している言葉に感じられた。

「・・・・あれかもって・・・・・かもってことは、そうじゃねえってことも有り得るよな。 

おい、ゾロ。 なにボーッとしてやがる。 空港に行って、情報掴むぞ。 ほらっ、行く

ぞ。 ベン、車を表に回せ!」

シャンクスは、呆然として動かないゾロにそう言うと、有無を言わさず、引きずるように車に乗

り込ませ、空港へと向かう。




・・・・・・頼む・・・・・なにかの間違いだった・・・・・そう言ってくれ・・・・・・




三人の思うことは、同じであった。

ロスの空港は、先程のニュース速報で、人々が、ごった返して、パニックに陥っていた。

あるものは、情報が、間違っていないのかと、総合カウンターに詰め寄り、またあるものは、

悲観して悲しみの声を上げている。

「おい、ゾロ! 電話だ。 バラティエに連絡してみるんだ。 もしかしたら、なんか情

報が入ってるかも知れねえ。」

シャンクスの声に思い出したように、ゾロは、震える指先で、バラティエの電話番号を押し

た。

・・・・・しかし、いくら鳴らしても、バラティエに、繋がることはなかった。

「クソッ。 このままじゃ、埒があかねえ・・・・」

シャンクスは、そう言って、総合カウンターから、どこかに連絡を取っていた。

「ゾロ、ベン、行くぞ。」

シャンクスは、そう言って、ゾロとベンと連れだって、最上階の管制塔に、上がっていく。

ゾロ、シャンクス、ベンは、シャンクスのコネで、管制塔から、直接の最新情報を入手できた。



・・・・・その結果・・・・・・・・


消息を絶ったB747旅客機は、太平洋上で、エンジントラブルにより、炎上墜落、乗客、

乗員の生命は、絶望視される。

乗客の大半は、日本人で、一部赤ん坊も乗っていたらしい。

・・・・・そして、当旅客機に乗っていたと推定される人名は、以下の通りである。

ゾロは、祈るような気持ちで、その乗客名簿をチェックしていく。

ロロノア・サンジ、22歳。 ロス在住。 3歳未満の幼児同伴・・・・・・

ゾロの手から、乗客名簿の紙が、力無く落ちた。

ふらふらと、ゾロの足が、ぎこちなくその場を離れていく。

「おい!ゾロ! どうしたんだ。 なにか、見つけたのか? おい、ゾロ。 何処に行く

んだ!」

管制官の責任者と話をしていたシャンクスが、ゾロに気付いて、そう声を掛ける。

しかし、ゾロは、その声に反応することなく・・・・・パニックに陥っている空港の人混みに紛れ

て消えてしまった。










ゾロは、いつの間にか、空港を離れて、知らない川べりを一人あてもなく歩いていた。

頭に思い浮かぶのは、サンジの笑った顔・・・・ラピスのはしゃいだ顔・・・・・




・・・・・いつだって、あいつは、俺の傍にいた。

・・・・・どんなに、無理だって諦めようとしても・・・・・諦めきれなかった。

・・・・・医者に、あいつが、見放されたときも・・・・・・

・・・・・俺は・・・・・俺だけは・・・・・信じていた・・・・・

・・・・・あいつが、また笑って、俺の傍に戻ってくることを・・・・・

・・・・・奇跡が起きて、あいつの中にラピスが出来て・・・・・

・・・・・あいつの命に危険が迫ったときも・・・・・

・・・・・俺は・・・・・信じていた・・・・・・あいつが・・・・・

・・・・・あいつが、俺の傍から・・・・・いなくなるなんて、有り得ないと・・・・・

・・・・・目の前にいるあいつらが・・・・・・いなくなるはずは・・・・絶対に・・・・ないと・・・・・

・・・・・けど、それは、現実にあいつが、俺の目の前に・・・・・

・・・・・目の前にいたからこそ、信じられた・・・・・・




「・・・・・馬鹿だよな・・・・俺・・・・・絶対なんて・・・・・・絶対なんて・・・・・有り得な

い・・・のに・・・・」

ゾロは、立ち止まり、空を仰ぎ見る。

いつの間にか、太陽は姿を消し、星が、無数に瞬いていた。

「・・・・・・人間って・・・・・小せえよ、な・・・・・・・」

ゾロはそう言って、この世の儚さを噛みしめた。

何のために自分が生きているのかさえ、わからなくなった。

愛する者を奪われた悲しみは、ゾロに正常な判断をさせてはくれなかった。

その日、ゾロは、とうとう、家には、帰らなかった。










 
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<コメント>

どうしても、幸せな家族に波風を立ててしまう、ルナ。(-_-;)
ゾロは、何処に行ってしまうんでしょう・・・・・
サンジとラピスは、どうなってしまうのか・・・・・・・・
まあ、これで不幸で終わるなら、この駄文は、【NIGHT MARE】
に、飾られていることでしょう・・・・ははは・・・それはないって!
はてさて結果は??
しかし・・・シャンクスは、一体何者??
なんでそんなに顔が利くの?? う〜ん・・・謎だ・・・(笑)
でもどうしたって、ただ者じゃないよね??