Bitter Sweet Christmas



その2






「・・・・・はあ、久々に、くたびれたぜ。 一月、厨房から離れてると、結構きついよ

な。 オヤジも、あまり無茶するな。 もう年なんだから・・・・・」

サンジは、店が終わり、久々の実家のリビングで、そう言ってソファに身体を休める。

小さなラピスは、すでに就寝中・・・・・

ウソップ特製のベッドで、すやすやと寝息を立てていた。

「・・・馬鹿言っちゃいけねえ。 俺が死ぬときは、厨房の中だ。 まだまだ先の話だ

がな。 人を老いぼれ呼ばわりするな。 てめえのほうこそ、足腰弱ってんじゃねえ

か? あんくらいでへばるようじゃ、とても店なんて持てねえぞ。 日々、精進・・・・・

これを忘れるな。 ・・・・・ロロノアは、元気でやってるか? まあ、てめえの幸せそう

な面見てたら、どういう生活してるのか、一目瞭然だがな・・・・・・あっちには、ロロノ

ア以外に、頼れる奴は、いねえんだ。 ・・・・・どうにも助けが必要なときは、いつでも

良いから、連絡しろ。 すぐに、飛んでいってやるから・・・・」

ゼフはそう言って、サンジの横に腰掛けると、頭をポンと優しく叩いた。

「・・・・サンキュー、オヤジ。 ・・・・・でも、オヤジ、飛行機、苦手なんだろ? 

サラさんが、そう言ってたぜ。」

サンジは、そう言ってニヤリと笑う。

『サラ』・・・・そう、サンジが一番始めに仲良くなったあのアパートに品のいい老婦人の名だ。

「! ・・・なんで、てめえが、サラを知ってやがる。」

ゼフは、サンジの口からサラの名前が飛び出してそう驚く。

「ふ・・・・世間は、広いようで、狭いよな。 初めに、ゾロが住んでいたアパートの

大家さんが、そのサラさんって人だ。 気さくな人で、よくよく話をしてみれば、オヤジ

の料理人仲間だというじゃねえか。 それからな、いろいろと親父の若い頃の話と

か、聞かせて貰ってたんだ。 ・・・・オヤジ、飛行機に乗ってヨーロッパに修行に行く

とき、サラさん達の前で、『なんで、鉄のかたまりが、空を飛べるんだ。 絶対に、落

ちるに決まってる。』って、空港まで来て、ジタバタ醜態を晒したって言うじゃねえか。

俺は、その話を聞いて、可笑しくてさあ、それを考えたら、この前、俺とゾロが、ピエ

ールのところに行ったのも、実は、オヤジ、飛行機に乗りたくなくて、俺達を行かせた

んじゃねえかって・・・ククク・・・」

サンジは、ゼフの弱点が、意外なところにあったのを知って、笑いながらそう話した。

「・・・・・・・。」

ゼフは、黙ったまま苦虫を潰したような顔をした。

「・・・ククク・・・・どうやら、図星のようだな。 ・・・・けど、あっちにも、サラさんが居る

し、色々周りの皆は、親切にしてくれる。 オヤジが、飛行機に乗らねえでも良いよう

に、用があるときは、俺達が、こっちに戻ってくるから・・・・・オヤジは、いつまでも、

元気でここにいてくれ。 ・・・・ここが、俺達の、帰るべきところだから・・・・・・・・ 

オヤジは、ずっと元気で、ここで俺達を出迎えてくれ。 なっ。」

サンジは、そう言って、立ち上げると、ワインセラーから、一本のワインを取り出し、グラスを

二つテーブルに置いた。

「久しぶりだ。 飲もうぜ、オヤジ。」

「本当に、いつのまにか、いっぱしの口利きやがって・・・・・ あっ、てめえ、それは、

ピエールんとこからこの間贈ってきたばかりの、シャトーロワイル・・・・・一般には、

出回らねえ、限定100本のビンテージもんだぞ。 正月にこっそり飲もうと奥の方に

入れといたのに・・・・・てめえって奴は・・・・・・」

ゼフは、サンジの抜け目の無さにそう言って呆れる。

「良いじゃんか。 良いワインは、人を選ぶって・・・・・一人で飲むよりかは、こうやっ

て飲んでやったほうが、こいつも喜ぶって言うもんだぜ。」

サンジは、ゼフの言葉にそう言ってニヤリと笑うと、ワインの栓を開け、グラスに注いだ。

「ああ、良いワインだな。 さすが、ピエールが贈ってきただけのことはある。」

「・・・・だな。 当たり前だろ、あのピエールが、自分で選んで俺に寄越したもんだ。 

価格にしたら、どえらい数字だろうさ、これは・・・・・」

サンジとゼフは、そう言って、久しぶりの親子水入らずの夜を過ごした。 

















++++++++++++++++++++



・・・・・・ところは変わって、こちらは、アメリカ、ロスの・・・・・ロロノア家・・・・・。

「なあなあ、なんで、サンジとラピスが、いねえんだよ。 ・・・・俺、会うの楽しみにし

て、重役会議もすっぽかして、サンジとラピスと一緒に、クリスマスパーティーしようと

思ってきたのに・・・・・二人がいねえと、俺の来た意味全然ねえじゃん。 

よしっ! 社長命令だ。 ゾロ、てめえ、今から、あの二人を連れ戻しに日本に行

け。」

「・・・・・社長・・・・いい加減にして下さいよ。 なんで、俺が、いちいちあんたの命令

で、あさってには帰ってくる二人を、連れ戻しに行かないといけないんですか。 

あと、2日、待てば良いだけの話じゃないですか。 ・・・・・全く、仕事の話でこっちに

来たのかと思えば、そんなくだないことで・・・・・・」

「くだらなくなんてねえ! 俺はなあ・・・・俺が、どれだけラピスとサンジと一緒に、

クリスマスを祝おうって、そう思ってこの日に望んだか、わかってんのか? 

そのために、この衣装、わざわざ買って着てきたんだぞ。 ラピスを喜ばせてやろう

と・・・・・それなのに、なんで当の本人達が、いねえんだよ! 理不尽だろうが、

そいつはよう・・・・・」

そう言ってゾロに文句をぶつけるのは、ゾロの会社の社長、シャンクス。

ご丁寧に、サンタクロースの格好をして、袋の中には、たくさんのプレゼントを抱え、部長の

ベンと一緒に、先程、このロロノア家に、飛び込んできたのだ。

・・・・しかし、いるはずのないサンジとラピスが、大喜びで迎えてくれるはずもなく、そこに

は、半ば呆れ顔で出迎えたゾロの姿しかなかった。

「・・・・すまねえな、ロロノア。 こいつは、一度言い出したら、聞かないもんでな。

まっ、俺に免じて勘弁してやってくれ・・・・・」

そう言ってベンが、ポンとゾロの肩を叩く。

「・・・・・・・部長。 お言葉ですが・・・・・その格好のままそう言われても、全然説得

力に欠けるっす・・・・・」

ゾロは、ベンの方を振り向いて、まじまじとその格好を見た。

全身茶色の毛むくじゃら・・・・・

頭には、二本の鹿の角・・・・・

極めつけは、鼻に付けられた電飾入り赤鼻・・・・・

部長のベンは、シャンクスに付き合わされて、赤鼻のトナカイの格好をさせられていた。

チカチカと、点滅する赤い鼻が、なんとも、中間管理職の悲哀を物語る・・・・

「・・・・・・部長も、苦労してるんですね。 その胸中、お察しします・・・・・」

ゾロは、こみ上げてくる笑いを必死でかみ殺して、ベンにそう告げた。

「・・・フッ・・・・・あいつと付き合い始めたのが、運の尽き・・・・・これも、試練だ・・・」

ベンは、暗い表情のままそう言って笑う。

「・・・・・けど、嫌なんですね? その格好は・・・・」

ゾロから即座に突っ込まれて、ベンは、力無く頷いた。




・・・・・・この人達の思考は・・・・・・シャンクスの思考は・・・・・一体どうなってんだ?

・・・・・・重役会議って・・・・・社長と部長なしでもできるのか?

・・・・・・いや、出来ねえだろ、普通は・・・・・・

・・・・・・重役会議より、パーティーの方が重要なのかよ・・・・・

・・・・・・俺・・・・・後で、揉め事なんて、絶対に嫌だからな・・・・・

・・・・・・はあ・・・・・・なんで、俺、こんな会社に勤めてんだろ・・・・・・




ゾロは、人知れず、深いため息を吐く。

「・・・・社長・・・・いい加減、その衣装、脱ぎませんか? 部長も嫌がってることだ

し・・・・あさっての夜にもう一度着ればいいでしょう? このまま着ていて、汚れたり

したら、ラピス達が、戻ってきたときに着れなくなりますよ。 その赤いトナカイの鼻の

電池だって、切れちゃいますって。 ・・・・・それまで、ここで、俺と一緒に、サンジと

ラピスが戻ってくるの待ちましょう。 酒だったら、俺、付き合いますから・・・・・・」

ゾロは、シャンクスにそう言うと、グラスと酒を用意して、酒を勧める。

「おっ、酒か? もちろん、サンジが選んだもんなんだろうな。 ・・・・だったら、飲んで

やる・・・・おい、つまみ出せ、つまみ・・・・・・サンジが作った残りもんで良いから

な。」

目の前に、美味そうな酒を注がれて、シャンクスは、衣装を脱いで、ゾロの普段着を借りて着

替えると、そう言って、席に座り、酒を飲み始めた。

「・・・・かはあっ・・・・美味え・・・・・さすが、サンジの選んだ酒は、美味えよな。 

この料理も、最高だし・・・・・ おい、ゾロ。 てめえ、サンジを俺の秘書として働かせ

てみねえか? 給料、はずむぜ。」

シャンクスは、そう言ってニヤリと笑う。

「・・・・その件は、ありがたく、お断りします。 秘書だったら、ちゃんと二人も美人の

才女が、いるじゃないですか。 マキノさんとロビンさんに、悪いです、そんなこと。

・・・・それに、秘書と称して、なんか企んでるでしょう? その顔は・・・・・」

ゾロは、ありありと不信そうな顔で、シャンクスを睨む。

「いや、別に俺は・・・・・そう、会社が、明るくなるかなあっとそう思っただけだ。 

別に、毎日サンジに昼食を作って貰おうとか、夜、打ち合わせと称して一緒に飲みに

誘おうとか・・・・そんなこと、全然考えてないから。」

ゾロの表情から、自分を見透かされそうになったシャンクスは、慌てて、弁明する。

「「・・・・・・それが狙いか。って、自分で、言ってんじゃねーかーっ!!」」

即座に、ゾロとベンが、シャンクスにツッコミを入れた。

「・・・・・全く、この人には・・・・呆れる。 ロロノア、本当に、すまんな。」

ベンはそう言って、もう一度ゾロに謝った。

「・・・・・いや、良いっす。 ・・・・・それよりも、部長、いい加減、着替えたらどうです

か。 その格好、どう見ても妖しすぎです。」

ゾロは、そういって、ベンに着替えを手渡した。

ベンは、ばつが悪そうにそれを受け取ると、急いで着替える。

「さあ、サンジとラピスが、帰ってくるまで、飲んで飲んで、飲み明かすぞーっ!」

「社長! 俺、明日、仕事ですよ!」

「なんだ? 俺と飲んだぐらいで、仕事が出来ねえ能なしか、てめえは・・・・」

「シャンクス、てめえも、明日、ミホーク社長のとこ、挨拶に行くんだからな・・・・」

「えっ?! マジ?? やだな、あのオヤジ、センス悪くってさあ・・・・・・暗いし・・・・

あっ、そうそう、ゾロ。 てめえ知ってるか? あのミホーク社長の服、最近、【ミセス

志緒】ブランドに代えたらしいぞ。 なんでも、ミホーク社長直々に、デザインを頼んだ

らしい。 ・・・・・知ってたか?」

「いや、そんなの、初耳っす。 お袋、仕事の話は、一切しない人なんで・・・・」

「そうかあ・・・・・まあ、【ミセス志緒】と言えば、一流のデザイナーブランドだからな。

良いところの社長なら、着ていて当たり前のステイタスだからな、今じゃ・・・・・・・

かくいう、俺も、【ミセス志緒】ブランドだ。 高級な男には高級な服が、似合うから

な。 まっ、俺ほど、着こなせる奴は、他には、いねえ。 そういやあ、今年から、すげ

え新人の経理スタッフが入ったとかで、【ミセス志緒】も、凄え利益挙げたらしいな。 

ファッション界で過去最高の利益率だとよ。 凄えよな。 うちの会社にも、欲しいな、

そう言う奴。」

「あっ、そいつなら、俺、知ってますよ。 ナミって言うんです。 学生の頃からの友人

で、本当に、あいつは、経済に関しちゃ、かなり優秀ですからね・・・・・お袋が、学生

の頃から、目を付けてましたから。」

「なんだ? じゃあ、その新人って言うのは、てめえと同じ年の女の子か? おい!

ちょっと、紹介しろよ。 どんな子だ? 美人か? 可愛いのか? スタイルは?」

「ちょっ、ちょっと待って下さいよ、社長。 あいつは、ナミには、ちゃんと、この冬、

結婚する奴が、いるんですよ。 ・・・・・いい加減、その癖止めないと、いつか、破滅

しちゃいますよ・・・・」

「・・・・・なんだ、彼氏持ちか。 破滅しちゃっても結構よんvv 一度限りの人生だ。 

やりたいときにやりたいことをやる。 それが、俺の人生だ!」

「・・・・・それが、出来りゃ、人間、苦労しねえんだよ、普通・・・・」

「ん?何か言ったか??」

「・・・・別に、なんでもありません。 さっ、部長も、飲みましょう・・・・」

ロロノア家の夜は、こうして過ぎていった。








 
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<コメント>

うにゅ・・・・引っ張りますね・・・・・なかなか本題に入っていかない・・・(汗)
だってさ、書いてて楽しいんだもん、こんなやりとり・・・・
けど、読んでる人には、迷惑かも。 全然事件起きてないし・・・(笑)
さて、そろそろ、本編に入らないと・・・・・って、これが前置きかーっ!
お怒りは、ごもっとも。(-_-;)
けどねえ、こんなゼフとシャンクスとベンが、大好きなんだよvv
出てくるキャラには、愛着があるから、些細なことまで、書きたくなるんだよねvv
「迷惑と、わかっていても、止められない。」(五七五調で)